健康のための「行動変容デザイン」を考える──CureAppとのコラボ勉強会レポート
Goodpatchのクライアントワーク事業を行っている組織では、自分たちの興味領域のデザイン研究や深掘りを行うワーキンググループという取り組みがあります。
「ヘルスケアデザイン」を研究テーマとしたワーキンググループでは、他社とコラボレーションをする形で勉強会を行っています。先日、CureApp社と「行動変容デザイン」をテーマに勉強会を行いました。この記事では、その内容のダイジェストを紹介していきます。
CureApp社は、医学的エビデンスに基づいた医療機器プログラム『治療アプリ』を開発している企業です。別の回の勉強会レポートもCureApp社側で掲載していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CureApp×Goodpatch ヘルスケア勉強会 「インクルーシブデザインとアクセシビリティ」
ヘルスケア領域における「行動変容デザイン」の重要性
ヘルスケアのアプリやサービスにおいては、多くの場合、ユーザーまたは患者の健康課題に関して解決やサポートを行うことが求められます。
アプリやサービスは「点」での体験提供ではなく、日常的に利用する継続的な体験を提供する必要があります。そこで重要になるのは、今までなかなか継続できなかった習慣がアプリ、サービスを使うことで「行動変容」を促し、健康課題に継続的に取り組むことができる体験や習慣化できる仕組みとなります。
そういった背景があり、ヘルスケアの領域において「行動変容」というのは重要なテーマなのです。
勉強会では、まずCureApp社のデザイナーである小林 啓さんから「健康のための行動変容デザイン」というタイトルでナレッジシェアを実施していただきました。
健康のための行動変容デザイン
健康のための行動変容を考えていくにあたり、まず「健康」とは何かという定義が重要になります。
WHOの定義では
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)
とされています。
また、日常生活の中でさまざまな行動の選択の連続により、生活は形成されていきます。その選択の中で特定の行動を長期間繰り返すことで、目指す健康が得られると考えられます。
ただ、長期間特定の行動を繰り返すことはなかなか難しく、「三日坊主」という言葉があるように、途中でやめてしまった経験は誰にでもあると思います。
続かない理由は多くある中で、どうしたら行動変容を起こし、継続的な行動に繋げられるのでしょうか?
発表では、「ENGAGED: Designing for Behavior Change」の書籍の内容をもとに「COM-Bモデル」と「Ability Blocker」について紹介していただきました。
COM-Bモデルとは、行動(Behavior)を起こすためには、十分な能力(Capability)、機会(Opportunity)、モチベーション(Motivation)が必要であるというものです。
ただ、その能力、機械、モチベーションには常にAbility Blockerが行動の邪魔をします。例としては下記が挙げられます。
行動変容デザインにおいては、この障害をどのように克服し、継続的な健康行動につなげるかが求められます。
勉強会の後半では、事前アンケートでとった「続かなかった健康行動とその理由」に対して、どうしたら続けられるようになるか、参加者でアイディエーションワークを実施しました。
「Ability Blocker」を克服し続けられるアイディエーションワーク
アイディエーションでは、「子供がついてくるため外出が難しく、ジョギングできなくなった」のような、健康習慣を諦めてしまった理由に対して、それを解決するアイデアを幅広く出していきました。
解決するアイデアは、心理的ハードルを下げるものや物理的なハードルを取り除くもの、強制的な環境を作るものなどなどいくつかの視点のアイデアを参加者で自由に出しシェアしていきました。
どの理由にもアイデアは複数書き出され、できないでやめてしまった自分の行動も、実はこういったアイデアを自分で思考したり、サポートするサービスがあれば続いたかもしれない…とアイデア全体を眺めていると思わざるを得ません。
健康習慣などをサポートするサービスの場合は、このようにユーザーのできない理由(Ability Blocker)をユーザーインタビューなどから紐解き、それを克服する視点をもって機能やサービスの仕組みに取り組むことが、サービス設計するにあたって有効な方法になるとも考えられます。
ちなみに、アイディエーションと出したアイデアのシェアを終えた後に、「ENGAGED」が提案しているAbility Blockerの解決策として下記の9つの視点がシェアされました。
自社だけでなく他社との勉強会を行う意義
今回のCureApp社との勉強会では、ヘルスケア領域で重要となる知識を共に深められたというのもありますが、社内に閉じず、より広いコミュニティで行うことは、共通言語や共通認識、ある種の社内のバイアスに因われない環境となり、広い視点で学べる機会になったと感じました。
また、CureApp社側で参加いただいた方々はデザイナーやPdMだけでなく、マーケター、コンテンツプランナー、薬事戦略に携わる方など、幅広い職種の方々も参加していただき、デザイナーだけでない視点でディスカッションできたことはとても新鮮な時間でした。
今回の勉強会のようにGoodpatchでは、業務だけでなくより広い視点でデザインを深めていく環境や仲間が多くいます。ご興味がある方はぜひカジュアルにお話しできればと思います。