いま様々な分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が叫ばれています。新型コロナウイルスの影響によりリモートワークの導入が加速し、システムやサービスのDX化における課題が表層化した企業もあるのではないでしょうか。

以前からもメディアでは特集が組まれ、企業によってはDXを推進する事業部が新設されるなど日々の業務でも耳にするシーンが多くなってきたワードかと思います。

DXにもいくつかの段階があり、業務改善レベルのものから業界の常識を変革するイノベーションまで様々な事例があります。例えば、Netflixの台頭によりかつて栄華を極めたビデオ・DVDのレンタルチェーンのブロックバスター社が競争力を失う、といった破壊的イノベーションもDXの事例のひとつです。

DXの必要性はなんとなく理解していながらも「具体的に自社でDXを導入するイメージができない」「そもそもDXとは何なのか」と思っている方も多いと思います。

なぜ今DXが企業に必要なのか。今回は、DXの基礎知識を改めて知りたい人向けに、DXが企業をどう変革させるのか、国内外の事例を踏まえてご紹介します。

そもそもDXとは

海外と日本では、DXの捉え方が異なる場合があります。まずはそれぞれのDXの定義を紹介します。

DXの発祥は、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授がその概念を提唱したことに由来します。彼は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」とDXを定義しています。

日本におけるDXは、2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を発表したことが契機になりました。このガイドラインで紹介されているDXの定義は次の通りです。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

ここで記されているのは、事業成長や企業の競争力強化を目的にITを活用するということです。経済産業省出典の資料を参考にしているため、日本における定義は企業が主語になっていることがわかります。

なぜDTではなくDXと略す?

少し話が逸れてしまいますが、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略がなぜDTではなくDXなのか気になりませんか。

英語圏では「越えて」「横切って」などを意味する接頭辞「Trans-」を省略するときに「X」と表記することが多いそうです。「Transformation」を「Xformation」と表記できるようになるため「Digital Transformation」は「DX」と略します。

誰が、誰のためのDXなのか?

そもそもDXは何のために、誰が、何を対象に行うものなのでしょうか。

DXの2つの構成

「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」によるとDXは2つの構成に分けることができます。

1.DX 推進のための経営のあり方、仕組み
2.DX を実現する上で基盤となるITシステムの構築

この分類をもとに2つのシーンでDXの目的、担当者、対象を整理してみましょう。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」より引用

1.企業の競争優位性を高めるために経営トップが行うDX

ひとつ目の「DX 推進のための経営のあり方、仕組み」のDXの対象は企業経営そのものです。自社の競争力強化を目的に、ITを活用してイノベーションを起こす挑戦をするということもできます。
新しい事業を生み出すことを目指すのか?既存事業のコスト削減を目指すのか?そのためにどのようなビジネスモデルを構築すべきなのか?など経営戦略およびビジョンを、明確に提示しなくてはいけません。

変革に伴う社内外の反対勢力に対しても毅然と立ち向かいDXを推進するためには、経営トップの覚悟と強いコミットメントが重要になります。

目的:自社の競争力強化のための新規事業創出、既存事業のコスト削減など
担当者:経営トップ
対象:経営戦略、ビジョン、ビジネスモデル、事業など

2.システムのブラックボックス化を排除するためにDX推進担当者が行うDX

ふたつ目の「DX を実現する上で基盤となるITシステムの構築」の対象はブラックボックス化してしまったITシステム基盤です。

日本企業では、事業会社ではなくベンダー企業にITエンジニアが多く所属しています。事業会社は自社のシステム開発をベンダー企業に依頼する場面が多く、その際各事業の個別最適を優先し開発を進める場面もありました。
その結果、システムが複雑化し、企業全体での情報管理・データ管理が困難になってしまっています。これが日本企業のDXを妨げる大きな課題となっているのです。

この課題解決のために資金と人材を投資する際に気をつけたいのは、ITシステムを刷新すること自体がDXの目的ではなく、ビジネス環境の変化に素早く対応し、ビジネスモデルを迅速に変革できるようなシステム環境を実現することが目的であるということです。

全社最適のIT基盤を構築することができるビジネスとデジタルのスキルを併せ持ったDX推進人材が、システムのブラックボックス化を排除することを目指します。

目的:ビジネス環境の変化に素早く対応し、ビジネスモデルを迅速に変革できるようなシステム環境の実現
担当者:ビジネスとデジタルのスキルを併せ持つDX推進担当者
対象:ブラックボックス化したITシステム基盤

国内外のDX事例4選

実際の成功事例に触れてDXを具体的にイメージしてみましょう。

1.メガバンクの顧客データを可視化するDX

三大メガバンクの一角を占める三井住友銀行では、顧客の声を「見える化」するDXに取り組んでいます。

顧客の声を分析する際も、データをまとめる時間と人件費がかかります。三井住友銀行では年間35,000件にもおよぶ多くの顧客の声が寄せられ、毎営業日、全件に目を通し全容を掴むことが課題となっていました。

そこで、膨大なテキストデータを分析し高精度に要約・分類できるソリューションを活用し、内容別にグループ分けを行えるシステムを導入。

その結果、高度化された分析により業務効率化はもちろん、寄せられた意見がどう変化しているのかを時系列を遡って推移を確認できるようになったり、早急に対応すべき事項が判断できるようになったとのことです。

三井住友銀行には、HCD-Net認定 人間中心設計専門家認定を受けたUXデザインのプロが所属するデザイン組織があります。ユーザー視点でのCS向上を強化することにもつながるDX事例です。
参考:https://jpn.nec.com/case/smbc/index.html

Goodpatchが運営するデザイナーのキャリア支援『ReDesigner』は三井住友銀行のデザイナー採用支援を行っています。三井住友銀行1人目のUI/UXデザイナー、デザインコンサルタント 金澤さんのインタビューはこちら

2.宿泊業界のビジネスモデルを変革したDX

Airbnbは、サンフランシスコに本社を置く民泊シェアリングサービス企業です。

一連の手続きは全てWEBサービス上で行われるため紙で予約を確認したり、電話でやりとりを行うこともありません。ホテルや旅館と比べて費用も安く抑えることができ、また現地の生活者の暮らしに近い宿泊体験を提供することにより、差別化を実現しました。

「他人の家に泊まりたい人がいるはずがない」という概念を覆し、これまでにない新しいビジネスモデルを構築。
その結果、世界192カ国の33,000の都市で宿を提供するまでの民泊最大手企業として成長しました。

ちなみに、Airbnbの創業者3人のうち2人、ジョー・ゲビアとブライアン・チェスキーは、アメリカ最高の美大と位置付けられているロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(Rhode Island School of Design, 通称RISD)を卒業した生粋のデザイナーです。デザイン思考が彼らのビジネスに大きな影響を与えていると言えるでしょう。
引用:代表土屋が創業者にデザイナーがいる企業が伸びている理由をまとめた寄稿記事はこちら

3.飲食店舗のCX向上と人権費削減を両立させたDX

Shake Shackは、「現代のバーガースタンド」をコンセプトに、2000年にニューヨークの公園内でハンバーガーを売っていた屋台が起源の世界中に展開するファストカジュアルレストランです。2015年から日本に進出し、2020年3月時点で店舗を13店舗に増やしました。

Shake Shackの課題は、これまで培ったブランドとしての魅力やサービスクオリティの追及でした。

そこで、店頭で合理的に注文できる分かりやすいキオスク端末を開発、設置。注文からカウンターまで顧客がどのような体験をするのか分析し、ストレスを感じる瞬間や待ち時間を短縮できる業務の流れ、注文時の混乱の排除に繋げました。

その結果、モデルケースとして導入した店舗では、実際に顧客単価が15%増加しただけでなく、人件費の削減にも成功したそうです。

ITプロダクトを開発し既存業務の効率化を実現。CX(カスタマーエクスペリエンス)も向上させながらビジネスを前進させたDX事例です。
参考:https://monstar-lab.com/projects/shake-shack/#

4.事業ポートフォリオの多角化に成功したDX

リンクアンドモチベーションは、東京都中央区に本社を置く2000年設立の経営コンサルティング会社です。

2016年、リンクアンドモチベーションは3,300社、79万人のデータや組織人事コンサルティングのノウハウをもとに開発した組織の改善サイクルを加速させるサービス「モチベーションクラウド」を公開しました。

この新規事業である「モチベーションクラウド」は、労働集約型のコンサルティング事業だったところHRTech市場に参入したSaaS事業への第一歩となりました。モチベーションクラウドリリース後、リンクアンドモチベーションの株価は一時10倍にも跳ね上がり、現在では5950社、142万人の実績を持つ事業に成長しています。

グッドデザイン賞グッドデザインベスト100も受賞しているモチベーションクラウドはGooodpatchがデザインパートナーとして併走させていただきました。プロジェクトの軌跡はこちら

DXの成功に必要なマインドセット

いかがでしたでしょうか?国内外の4社それぞれが事業や業務のDXを成功させています。
事業の多角化、新しいビジネスモデルの構築、業務効率化によるCX改善などDXの対象や効果は様々です。

アナログ業務をデジタルに置き換えるという業務改善からビジョンミッションの変革も伴う事業転換まで、DXが成功している企業に共通しているのは「DXが自社に必要である」というマインドセットが組織にインストールされていることなのではないでしょうか。

Goodpatchではソフトバンクさま、NECさまなど大手企業や、松江高専といった教育機関にも導入いただいているデザインワークショップを実施しています。ユーザー視点からサービス/プロダクトをつくりあげる新しいマインドセットを組織にインストールするサポートをします。

さまざまな企業様とデザイン思考やUI/UXの考え方に基づいたワークショップを実施し、UI/UXに欠かせないユーザーを中心とした課題抽出、アイデア創出、検証などから実践するための気づきや手法をご提供しています。
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