本記事は、2018年6月15日に開催された「デザインを越境せよ CXO Night #3」のイベントレポートです。若手デザイナー社長編LT編も合わせてご覧ください。

当日の資料はこちらからどうぞ!

Twitterでは「#cxonight」のハッシュタグで当日の雰囲気を味わえます。Togetterも一緒にご覧ください。

パネルディスカッション シニア編

登壇者プロフィール

田川 欣哉 / Takram 代表
デザイン・テクノロジー・ビジネスを駆使するデザイン・イノベーションと呼ばれるプロジェクトを多く手がけるデザインエンジニア。プロダクト・サービスの設計とデザインに精通する。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授・名誉フェロー。

田仲 薫 / IDEO Tokyo デザイン・ディレクター
ユーザー・エクスペリエンス、ブランディング、マーケティング、デザイン・リサーチ、サービス・デザイン等の幅広い実績を活かし、クライアントやチームの戦略・実行を支援するデザイン・ディレクター。近年ではdigital transformation などクライアント組織全体の変革をサポートしている。また、サンフランシスコ・オフィスではideoで食にまつわるデザインコンサルティングをする専門ユニットであるFood Studioでも活動。

深津 貴之 / ピースオブケイク CXO / THE GUILD 代表
インタラクション・デザイナー。株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。
2009年の独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、株式会社Art&Mobile、クリエイティブユニットTHE GUILDを設立。日経新聞電子版アプリの基礎設計のコンサルティングや、メディアプラットフォームnoteを運営するピースオブケイクCXOなどを務める。執筆、講演などでも精力的に活動。

モデレート / 塩谷 舞 milieu編集長
milieu編集長。東京とニューヨークの二拠点生活中。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学 美術学部 総合芸術学科卒業。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。2012年CINRA入社、Webディレクター・PRを経て2015年からフリーランス。執筆・司会業などを行う。THE BAKE MAGAZINE編集長、DemoDay.Tokyoオーガナイザーなども兼任。

デザインと経営、ビジネスとクリエイティブ

塩谷 ここからは、塩谷がモデレーターを務めさせていただきます。先ほど控え室で「予定調和な会話はやめよう」というお話をしていたので、僭越ながら、バシバシ色々と切り込んでいこうかなと思います。よろしくお願いします!

第一部は若手の経営者であり、クリエイターでもある方のトークでしたが、皆さんはクリエイター側から経営サイドに入ってこられていますよね。その流れで伺いたいのが「経営層に話を聞いてもらえず、デザインがダメになった」という話は色んなデザイナーさんのブログでよく見かけますが、一方で「クリエイターがやらかして予算がダメになった」という経営者側からの話はあまり見かけない。深津さんはこのあたりをどうお考えですか?

深津 デザインがビジネスをブーストさせる逆の例もあると思います。ビジネスがクリエイティブに食い殺される事例です。本来は、ビジネスを成功させるためのツールとしてデザインが呼ばれているはずなのに、「俺はこれが作りたい」という謎のクリエイティビティが発揮されてしまい、事業がそのまま犠牲になる美しいデザインのようなものがあったとき、「それはデザインとして機能しているのか」という問いは自分の中で大きなテーマになっているなと思います。

塩谷 CXO Nightのようなデザイナー系のイベントだと「経営者はもっとデザインをわかってほしい」という声から始まることが多いですが、深津さんは逆ですよね。「デザイナーもっと経営理解しようよ」と。

深津 逆ですね。コミュニケーションデザインを仕事にしていて、コミュニケーションに失敗しているようなものだと思うので、デザイナー側からインセンティブ設計をちゃんとやらなきゃいけないのかなとは思います。

「デザインを越境する」とは

塩谷 今回のテーマは「デザインを越境せよ」ですが、なんの境界を越えようとしてるのでしょうか?先ほど深津さんがおっしゃっていた「デザイナーが経営を理解する」ということに繋がるのでしょうか。

田川 そもそも企業は、物事を細かく部門ごとに分解して進める性質があります。そうすると、細切れで進めた物事を、ガチャンと一体化したときに、ユーザーにとっては全く使い物にならないものが出来上がってしまう状況が往々にして発生します。
僕は、デザイナーはユーザーに対して責任を持つ人だと思うんです。ユーザーが楽しんだり体験することを、企業の中にいながらも、ユーザーのように感じ、プロダクトのクオリティを作っていく人。企業が持つ部門の境界を飛び超えて、一つの統合されたものとしてユーザーに届けるのがデザイナーの役割なんです。だから「デザインの越境」は言葉として少しおかしくて、正しくは「デザインは越境をするためのメソッド(マインドセット)」なんです。そして、それが企業にとってとても大事っていう話なんだと思います。

塩谷 でもそれは、デザイナーに任される範囲が大きくないと越境しようがない、とも思うのですが。

田川 デザイナーの役割が、ある限定的な部分のみに対して「あなたはデザイナーなので、これを綺麗にしてね」と渡されるのは、そもそも役割の定義が間違っているんだと思います。

深津 デザイナーが越境するのではなく、越境している人が「デザイナー」と呼ばれる構造が正しいと思います。本来的には定義されていない問題をフレームとして可視化するか、あるいは定義されている問題の解答とか解決するための仕組みを設計すること全体がデザインであるはずですが、すごい分業化されて比較的スタイリング寄りの部分にデザイナーが閉じ込められているのが日本の現状だと思います。

塩谷 お三方はかなり経営側に入り込んでいますが、もともとそうだったんですか?

田仲 解決したい課題があったときの手段としてデザインをとった人たちがいて、それが古来はプロダクトとか建築とか、媒体が決まっていたんですよね。越境という意味では、なんのためにデザインをしようとしているのかというよりも、個人として何を持って課題解決や価値創造をしたいのか?それを実現するツールとしてデザインというスタンスが合っていたんです。

「デザイン経営」宣言について

塩谷 そのような経営側の話は、現状多くの美大や専門学校で学ぶのは難しいと言われています。どうしても技術の習得や、作品としての完成度が優先されてしまい……。美大教育の課題なども、先日発表された「デザイン経営」宣言に関わってくるのでしょうか?

田川 「デザイン経営」宣言の中にはいくつかの要素が含まれていますが、ひとつ目は、「デザインが経営層のテーマになるよ」ということを示していくときに、経営層のドライな「なぜ?」に対して明快にエビデンス付きで答えたいということでした。それをブランドとイノベーションの2軸で整理しています。

ふたつ目は、広義のデザイン・狭義のデザインだったり、Big D(DESIGN)・Small d(design)のように二分法で語られるデザインの分類学を一度リセットすることです。「色や形をきれいにつくることは、今の時代においてあまり重要ではない」という言説もありますが、実際には現在もそれはとても重要です。色形とUXの話は、「OR」ではなく「AND」で話すべきだと思います。等身大のユーザーには、広義のデザインか狭義のデザインかという分類は全く関心事ではないですよね。それよりも、結果としてのブランドとイノベーションを、どうデザインを活用して作り上げるのかという方がよっぽど大切だと。

参考リンク:「デザイン経営」宣言

CXOがコミットする先

塩谷  主に美大で学べるようなデザインと、社会に求められているUXを二項対立させるのではなく、尊重し合う関係性ですね。深津さんは最先端でCXOを体現していますが、どういうところが大変ですか?

深津 相手の言葉で喋ったり、相手の価値観で伝わるようにするのが大事なので、経営者と話すときは、ビジネスの言葉でデザインの価値を伝えることが前提条件。数字で証明することをしつつ、いいものを作ることが必要なんです。数字にコミットしないのに「ここが素晴らしいんです」では採用してもらえないんですよね。

塩谷 なるほど。共通言語は大切ですよね。田仲さんは経営者の方をどのように説得しますか?

田仲 デザインを取り入れた時のKPIを設定して、コミットしていくのが大事ですね。経営者としては、デザインがどのように組織に変化をもたらしていくのかわからず不安なので、最近IDEOではクライアント用にアセスメントツールを作りました。クリエイティビティがうまく組織に運用できているか、僕らなりにクライアントを分析してレベルを出すことで、デザインが根付く土壌として今できること、できないことがわかります。組織を変えるって結構な努力が必要なので、クライアントの社内でも尺度ができるツールは必要です。

田川 深津くんのnoteでの仕事がすごく参考になるんですよ。プロダクトチームのクリエイティブディレクターとCXOの深津くんは別なんです。

深津 僕はnoteのトンマナだったり、ビジュアルにはほぼ口出ししないですね。どちらかというと「ビジュアルを作っている人たちのやってることが大人の事情でねじ曲がらないように」とか、大事さが社長に届くように高速道路を作っているような感じですね。自分がコアとして担う役割は「どうすれば数字をあげながらよくできるのか」というところです。

「ここの良さは確かにいいんだけど、成長にはドライブしないから余裕のあるときにやろう」というように、綺麗にすることの中にも、効果や意味があるものと自分たちの満足だけで終わってしまうものがあるので、それを切り分けて考えています。

田川 僕がよく目撃する例だと、超有能なフルスタックデザイナーがファウンダーで入っているスタートアップのプロダクトがあります。最初はバンッと伸びるんですけど、スケールして2年ぐらい経ったころにプロダクトが崩れることがあるんです。これはそのデザイナーがCXO的な役割をこなしていなくて、PMっぽい仕事しかしてないことが原因だったりします。

塩谷 人が増えてきて崩れてしまうということですか?

田川 そうです。そういう人は「できない人が増えすぎてうちのプロダクトをダメにしてる!」って言いがちなんだけど、それってマネジメントの問題で、事前に組織をしっかりしておけば、クリアできるはずなんですよ。

塩谷 最初にいる立ち上げのクリエイターは、会社が大きくなったらマネジメントに関わらないといけないってことですか?

田川 必ずしも、その人がマネージャーにならなければならないということではないんですが、そうしたケースが発生することに自覚的であるべきってことですね。

田仲 あとはマネジメント層が“マネジメント=管理”することにとらわれすぎているのもあります。ビジョンを提示できるとか、ビジョンを持っているデザイナーを見つけるとか育てるとか、どちらかというと経営のマインドセットを持ってないといけなくて、“マネージング=管理”よりは”リーディング=導く、サポートする側”にシフトしていかないといけないと思います。

田川 さっきのプロダクトが崩れる話はデザイナーだけの問題ではなくて、エンジニアも関係しているんですよ。
最初のスタートアップの4、5人っていうのはプロダクトフォーカスの人が多いから、比較的クオリティが保ちやすいんですが、エンジニアが100人とかになってくるといろんなスタンスの人が増えてきて、プロダクトのクオリティが保ちにくくなってくるんです。
そして組織の規模が大きくなると、経営者も最初はプロダクトのことを愛しているんですが、そのうち、ファイナンスとか組織運営に頭がいっぱいになってくると、プロダクトへのフォーカスが落ちてくる。そういうときにCXOがいないと、ユーザーは増えているのに愛されないプロダクトになってしまうことがあります。

深津 そういうときよく僕は内輪ネタで赤い彗星のシャアの例を出します。

塩谷 私ガンダムの知識ないんですけど…(笑)

深津 大丈夫です、わかりやすく説明します(笑)。最前線ですべての敵を撃墜させる凄腕のパイロットがいて、出世して艦隊の1軍の長になるんですけど、最後の決戦で艦隊戦も1軍の指揮も放り出して、自分が一騎打ちにいってしまって戦争に負けちゃうんです。

田川 スターウォーズのジェダイも同じですよね。なんで一人で戦うのって(笑)

塩谷 主人公が最前線で戦い続けるのは、ストーリー的にドラマチックだけど効率は悪いんですね。

深津 じゃあ指揮官だけやればいいのかっていうとそうではなくて、本当にやらないといけないのは戦闘機から戦艦みたいに戦う武器を変えながら戦うってことなんですよ。

田川 よくわかるようでわからない(笑)

プロダクトへの帰属意識

塩谷 スタートアップが大きくなると、給料や待遇が良くなり、自分よりも優秀なクリエイターが後から入ってくることも多いと思います。そういう場合、自分が育てたっていうプライドは捨てて、どんどん引導を渡していくべきなんでしょうか。

田川 会社のネイチャーによるんですが、デザイナーがプロダクトを掴みすぎるとクオリティが下がるんですよね。もちろん、自分ごと化できている度合いが低いとプロダクトのクオリティは下がります。自分ごと化ができてくるとクオリティは上がってくるが、強すぎるとプロダクトのクオリティはまた下がってくるっていう逆スマイルカーブみたいなものがあって、このことにデザイナーは自覚的でないと、グロースを阻害してしまいます。そのときに例えばTakramでは「アタッチメント」と「デタッチメント」という手法を使ったりします。「アタッチメント」は自分のものじゃないものを自分のものにすることです。「デタッチメント」は自分が持っているものを手放すことです。これは作法ですね。

深津 それって中毒みたいな感じで、最終的にプロダクト=自分になるのはかなり危険な兆候なんですよね。

塩谷 寝ても覚めてもサービスのことばっかり考えている、みたいなことですか?我が子みたいな。

深津 我が子というか、子離れできない親みたいになるとよくないですね。

田仲 デザインが複雑になってくると、一人で全部できるようになると思うのは間違いで。いちデザイナーからCXO的な立場になる人は、自分自身を冷静に見つめられる能力が必要だと思います。

田川 普通の会社はボードメンバーでそういう話をしないから、プロダクトから魂が抜けてしまうみたいなことは起こりがちです。普通マーケターとかテクノロジストが議論を主導して、長期のブランドの話とかエンゲージメントの話をするんですが、それを比較的数字で説明できるデザイナーがいるとプロダクトが長く続きます。

田仲 デザイン経営がうまくいくには、冷静に弱みも強みも言い合えるチームの土壌が必要です。それはあって当たり前のことかもしれないけど、当たり前ではない人からすると立場としてのCXOをつくるだけでいいと思ってしまうこともあって、それは間違いなんです。

深津 僕が工夫していることとして、サービスへの帰属意識を分散させるようには注意しています。
チーム全体で「これは誰々の作品です」にならないようにしていて、チームのみんなが「自分がプロダクトを育てた」って思える人をどれだけ増やせるかを考えています。noteではデザインチームだけではなくて編集部とか、読者や書いてるクリエイターも「俺が育てた」といえるようになることを目指しています。

田川 この帰属意識の話には教育の弊害もあって、美大出身の人は「作品=自分」という教育をされるんですよね。だからCXOクラスがやらなくてはいけないことは「I」と「we」の定義をチーム内ではっきりさせることなんです。デザインしたい人は幾ばくか自己表現をしたい人が多いので、全部「we」にしてマニュアルになってて機械のように繰り返す仕事だけだと「俺何やってんだろ」ってなってクリエイティブが死んじゃうんですよね。

塩谷 「こんなに頑張ってるのに、僕のクレジットはいつまでたっても出てこない…」みたいなことですよね。

田川 そうですね。「俺なにやってんだろここで…」と思うデザイナーにいい仕事はできないので「俺はこれをやってるんだ」と思ってもらいつつ、共通のガイドライン、ビジョン、ミッション、コアバリューみたいなところで所属意識を持って、共有物と個々人のクリエイティビティの発揮のさせどころを、いかに誇りがもてる形にするかがCXOの腕の見せ所です。これはエンジニアリング組織にはないんです。

塩谷 え、エンジニアの人はデザイナーに比べて承認欲求が高くないってことですか?

深津 エンジニアリング組織は、みんなでコードを書いているから「俺がやってる」って部分がわかりやすいんですよね。

田川 エンジニアリングとビジネスはモジュール化しやすいから、分解と統合がしやすいんです。デザインはそれがしにくいからアタッチメントが起こりやすい。それはある意味ユーザーがいるときにはいいんですけど、それが起こりすぎると阻害になることもあります。組織が大きて、エンジニアリング的な組織運営(分解型)でやろうとしちゃうと、つまらないものしかできないんです。
IDEOでも個人のクリエイティビティと、デザイン思考のような共有プロセスのバランスにはデリケートじゃないですか?

田仲 デザイン思考の根底にあるのは、いろんなバックグラウンドでいろんなこだわりを持った人たちが一緒にものをつくっていくためのコラボレーションツールってことだと思います。せめてプロセスはアラインしようよってことですね。モヤモヤした中から何かが生まれてくる魅力を知ると面白いので、またやってみたくなる。曖昧でいろいろな要素を加味できるのがデザインだからおもしろいと思うんですよね。

塩谷 デザインのフィードバックはデザイナーだけでやらないほうがいいって話もありますよね。

田仲 よくIDEOはホワイトボードとポストイットを使いますけど、みんなが同じ方向を向いているのがいいんですよね。お寿司屋さんのカウンターとか運転してるときの方が悩みを共有しやすいんです。一つのボードをみんなで見ているとそこにポストイットを貼ることで自分のアイディアをデタッチできるんです。そうするとそのトピックについて集中しましょうよっていう体の態度として形成されるので僕はおすすめします。

深津 僕は頭の中にベン図をイメージしてます。デザイン上いけてるものだけだと広すぎるのでデザイン上、エンジニア上、ビジネス上の複数の視点からいけてるものを重ねていくことで、すごく狭い範囲に全部が集約された「当たり」のスポットが見えてくるんです。そこを目指すような視点をみんなが持てるといいですよね。
綺麗だけどエンジニアに文句を言われて機嫌悪くなるよりは、「綺麗パートは押さえたから次はエンジニアパートの重なる場所を取りにいこう」っていう考え方ができるといいですね。

田仲 IDEOってみんながすごく仲良くしていると思われるんですけど、実は健全なテンションが重要でその中で静かな争いがあるんですよ。でもそんなテンションがあってこそいいものが生まれると思っています。

デザイナーの強みとは

塩谷 よく制作会社で数字をとりたい営業マンと、美意識を高めたいデザイナーが喧嘩しがち……というお悩みがあると思うんですけど、そういう場合はどうやって歩み寄ればいいんですかね?

田川・深津 それは解散したほうがいいですね(笑)!逃げるのが一番コスト低いです。

塩谷 なるほど(笑)。じゃあ、逃げた後にはどんな会社がおすすめですか?

田川 ReDesignerを使って3つぐらいの会社に就職してみて、いいところを選んでください(笑)。

深津 まずは営業とデザイナー、エンジニアが一緒に客先に出ていって、話を聞くところから始めればいいんじゃないですかね。

塩谷 客先に行くことを許されないデザイナーもいると思うんですけど、どうすればいいですか?

田川・田仲・深津 それは会社を辞めたほうがいいですね。(笑)

田川 デザイナーの究極の価値はユーザーと向き合うことなんです。CXOは半分デザイナーで半分経営者なので、ユーザーとほぼ同じマインドセットでプロダクトを見ながら、経営層にそれを直接インプットすることができるんですよね。これはCTOやCMOの役割とは違ってて、ひとつの価値です。

経営に向き合えるクリエイターになるために

塩谷 最後になりますが、本日はCXO Nightということで、どうすれば経営に向き合えるクリエイターになれるんでしょうか?

深津 小さくても雑でもいいからプロダクトを一人で作って売るっていう経験をするべきですね。自分で一度作って売ってみるとデザイン、設計、マーケティング、リサーチ全部を1度で経験できるし、自腹でお金をかけることの痛みや資金が回収できるかできないかがわかるんですよね。結果的にいろいろな立場の言葉で話せるようになるし「おしゃれだけどお金が消滅していくだけだな」とかもわかってくると思います。

塩谷 あぁ…私も自分のWebメディアを立ち上げてからは、ローディングが1秒長くなることと、表現性、収益性の折り合いなどを考えるようになりましたね……。では、田仲さんはどうですか?

田仲 デザイナーは主張に慣れているんですけど、受け入れることができると役立つんですよね。経営者の方は意外と悩みとか答えを言ってたりするし、聞き役に徹したときに初めて彼らの翻訳家になれるんです。「デザインやんなきゃダメですよ!」みたいに押すよりは、まずはしっかり聞いて引き出してからはじめて自分たちのスキルが役に立つと思います。

塩谷 クリエイターが作品を作ると、世の中に出す前に誰かに見て意見を聞きたい……と思いますが、経営者の方も一緒ですよね。クリエイターであり、経営者の相談相手にもなる、と。最後に田川さんお願いします。

田川 CXOになるためには、まず「なろう!」と思うことが重要ですね(笑)。
CXOが全員に向いている職業かは分かりませんが、自分に向いているって思う人は目標を立てて目指せばいいと思います。CXOはPMよりも少し上のレイヤーなので、デザイナーをどうやって採用・育成するかとか、組織化をしながら数字の話とユーザーのことを直結させる必要があります。よくみんな組織設計とか数字がよく分からないってなりますが、知識がごっそり抜けてると思うんです。でもそれはテキストとして共有されているので、インプットして装備しておくことがおすすめです。無知は罪だと思います。
あとは、経営者は忙しいので、経営者が聞きやすい方法を自分のなかでいくつか持っておくべきですね。例えば、エレベーターピッチみたいなものです。CXOになるために重要な能力は、構造化能力です。ぐちゃぐちゃした内容をシンプルに2、3センテンスで伝える技術を持っていることが必要です。CMOやCTOという、今までデザインのことを考えたことがない人に重要性を伝えるので、伝える技術を学ぶことは重要ですね。

最後に

以上、CXO Night #3 のイベントレポートをお届けしました!

ユーザーに愛されるプロダクトを作りながらも、ビジネスとして成功するためのCXOというポジションの重要性、役割がよくわかった夜になったのではないでしょうか。めまぐるしく変化していく業界だからこそ、必要に応じて新たなポジションが生まれていくのもおもしろいところです。デザイナーは、自らに与えられた仕事だけに捉われず、何が必要なのかを考えることで自分の枠を越えた価値を生み出すことができるのでしょう。

Goodpatch Blogでは、今後もデザインにまつわる情報をたくさんお届けしていきます。CXO Nightの今後の展開と、ReDesingerにもどうぞご期待ください!

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