日本のスタートアップにおいて、最高デザイン責任者=CDO(Chief Design Officer)を置く動きが活発になっていることは、これまでにもGoodpatch Blogでご紹介してきました。
現在はCDO/CCOの他に、CXO(Chief Experience Officer)というポジションを用意するスタートアップも増え始めていることはご存知でしょうか。

2018年2月9日に、「スタートアップにCXOが必要な理由 – CXO Night #2」が開催されました。CXO(Chief Experience Officer)とは、ユーザーとプロダクトが関わるすべての瞬間をデザインするべく統括を担うポジションです。

今回はCXO Nightで展開されたトーク内容から、CXOの役割と具体的な仕事内容、そしてスタートアップにCXOが必要な理由を紐解きます。

CXOの役割と仕事内容

CXO Nightを主催する坪田 朋氏は、プロダクトの質を上げるためには企業の意思決定プロセスを変える必要があると主張しています。部門ごとに異なる目的を持ち、意思決定が都度調整されるのではなく、プロダクトのユーザーストーリーに沿ってCxOポジションの人物が裁量や予算を監修、決定できることが重要になるということです。

僕がCXO Nightを開催する理由 – tsubotax.com

CXOの役割は、プロダクトから経営まで非常に横断的です。具体的には、以下のような役割が挙げられます。

上流工程のデザインで売上を作る

事業会社の多くは、売上を優先した意思決定プロセスを踏んでいて、ユーザーストーリーやUIは、戦略と切り離されて考えられがちです。そのため、ユーザーに必要のない機能や不親切なUIを、デザイナーが納得感を持てないまま作るといった状況に発展しています。しかし、情緒的価値に重きをおくユーザーが増えた現在、体験がデザインされていないプロダクトは生き残ることが難しくなります。上流からCXOが入ることによって、一つひとつのUIから戦略までが横軸で繋がるのです。
ビジュアルやUIだけではなく、サービスの意図や戦略などの上流工程から関わることによって、体験を元に意思決定ができるようになります。意識的にデザインでユーザー体験を突き詰めることがプロダクトの質を向上させ、数字として成果に繋がるのでしょう。CXOは経営層が持つビジョンを正しく理解し、現場のKPIに落とすことが大事なのですね。

人事、採用の仕組みを作る

CXOに裁量を移譲することで、社内のデザイナーのリソース管理や採用、育成計画を立てることができるようになります。求めるスキルや人物像を、プロダクトの目指す未来から逆算して考えなければなりません。

ピースオブケイク CXOの深津氏は、KPIをTODOリストに落とし込んでデザイナーにインプットする他、採用面にも携わっているそうです。ピースオブケイク代表の加藤氏は、過去には採用に苦労し、具体的な理由として「デザイナーにどのくらいのスキルがあればいいかが分からなかった」と話しています。CXOを迎えた現在は、採用面接に同席してもらうこともあるそうで、「どんなデザイナーが必要か」という問いに深津氏は「ユーザーのことを考えられて、デザイナー以外ともコミュニケーションができる」ことを挙げていました。

デザインを啓蒙する

企業の意思決定プロセスを変え、プロダクトの要となるデザイン的な考え方を広めるためには、社内へデザインをインストールしていくことが不可欠です。CXOが経営者の近くで地道にインプットを重ね、啓蒙していくことで、デザインの重要性を広めることができ、結果としてデザインへの投資額を上げることができます。
影響力を持って啓蒙活動をするためにも、CXOというポジションが組織にいること自体がもたらす効果は大きいと考えられます。

CXOに向いている人物像

必要性は理解しているが、CXOが見つからず雇うことができない。そう考えているスタートアップ経営者も多いのではないでしょうか。
CXOが見つからない要因は、その横断的な業務内容にあります。上記でご紹介したように、CXOはプロダクトに向き合うと同時に経営にコミットするため、その役割はプロダクトマネージャー、人事、広報、マーケティングなど非常に横断的で、こうした働き方をしている人材そのものが少ないことが現状なのです。
CDO Night #1に登壇した株式会社CAMPFIRE CXOの小久保 浩大郎氏は、プロダクト以外にも幅広い部分のエクスペリエンスに責任を持つという認識でCXOのポジションを選んだと語っています。詳しいトークの内容は以下をご覧ください。

では、CXOに向いているのはどのような人物像なのでしょうか。CXO Nightのセッションでは次のような意見が出ました。
深津氏は、CXOに向いているのは「自分で物を売った経験がある人」だと語ります。デザインから生産、売り込みまでを一通り経験している人は、横断的な業務を担うCXOに素養がマッチしやすいのだそうです。これを受けて坪田氏は、デザイナーのポートフォリオは紙が多いが、それ以上にどんなサービスを提供したかという経験が大事になってくると答えています。サービスを作りユーザーの声に耳を傾けながら、限られた予算やリソースをどう割り振るか自ら考えると、デザイン経営に必要な感覚が身につきます。

スタートアップにCXOが必要な理由

ビジネスにおいては成果を残すことが必須ですが、売上や数字とは、プロダクトの質すなわちユーザー体験に直結しています。そのためプロダクトに関する意思決定をユーザー体験の軸で行われるよう変えていく必要があり、その監修をするポジションCXOが必要になるのです。これは経営層へのメッセージでもありますが、デザイナーへの呼びかけでもあります。

ビジネスシーンにこうした意識をインプットしていくためには、デザイナー自身も変わる時が来ているのです。経営層にデザインをインプットしていくことと同様に、これからのデザイナーはより横断的な挑戦を続け、広い視野を持つことが重要になるでしょう。