日本のスタートアップでは経営を担うデザイナーの需要が増え、CDO(Chief Design Officer)やCXO(Chief Experience Officer)が活躍しています。2018年6月15日、TECH PLAY渋谷でデザインを越境せよ – CXO Night #3が開催され、領域を超えて活躍するデザイナーたちがCXOの重要性や課題、実用的なノウハウを語り合いました。
若手デザイナー社長トークへ編に続く今回は、Goodpatchでキャリアデザイナーとして働く佐宗 純、Studio Opt kakeru編集長 三川 夏代さんのLT内容を書き起こしでレポートします!
当日の資料は以下をご参照ください。
Twitterでは「#cxonight」のハッシュタグで当日の雰囲気を味わえます!Togetterのつぶやきのまとめも一緒にご覧ください。
目次
デザイナーをリデザインする – 佐宗 純 / 株式会社グッドパッチ キャリアデザイナー
Goodpatchの佐宗と申します。本日は少しお時間をいただいて、先日リリースした「ReDesigner」の話をできればと思っています。
1.「ReDesigner」とは?
「ReDesigner」とは、デザイナーと企業の間を翻訳者として繋いで、デザイナーのキャリア支援をしていくサービスです。Goodpatchが先月末にリリースしました。
私はGoodpatchで3年半働いてきた中で、CXO Nightを主催する坪田さんと「UI Crunch UNDER25」などを一緒に企画運営していたり、広野くんの「Designship」というカンファレンスのスタッフをしていたり、色々なデザイナーの方々にお世話になっております。noteもやっておりますので、そちらも是非ご覧ください。
「ReDesigner」は、デザイン会社によるデザイナー向けのキャリア支援サービスです。サービスの詳細をご紹介する前に、この14%という数字が、デザインの文脈で何を指すのか分かる方いらっしゃいますか?もちろん、CXO Nightの倍率じゃないですよ。
これは、フォーチュン100のうち、企業がデザインエグゼクティブを設置している割合です。弊社の土屋も委員として参加している経産省の第4次産業革命クリエイティブ委員会からデータが出ているんですけれども、ユニコーン企業と呼ばれる時価総額1,000億円以上の企業では、デザインエグゼクティブは21%の企業が設置しているそうです。日本はどうかと言うと、まだデータが出ていないと思うので、是非このCXO Nightを今後も続けていく中で、こういったところも日本から発信できないかなと個人的に思っていたりします。
さて、この「デザインエグゼクティブ」と言えば、みなさんはどなたを思い浮かべますか?
代表的なのは、日産自動車の中村史郎さんではないでしょうか。日産自動車の初代CCOで、日本の自動車業界で初のCCOと言われていますね。カルロスゴーンさんが社長になってから、一番最初に行なったことは、いすゞ自動車にいらっしゃった中村さんを引き抜いて、 日産自動車のデザイン戦略を全部任せるところから始まっています。
ありがたいことに、先日中村さんには社内で講演をしていただきまして、色々とお話を伺わせていただきました。カルロスゴーンさんが中村さんに「デザイナーのトップに必要なものは何か?」と質問した時に、中村さんは「アントレプレナーシップとリーダーシップ」だと答えたそうです。
先ほどの若手デザイナーの経営者の方々にも共通しているのですが、デザイナーのトップはどこまで自分で手を動かして、どこから組織としてデザインをしていくのかが難しい領域だと思います。それに伴って、求められる役割とキャリアは決まっていくのかなと考えています。さまざまな役割の中で、経営・事業戦略・組織戦略・プロダクトの方向性を決めるのが、いわゆるCCO/CXO/CDOの方々だと考えています。
2. 「ReDesigner」の3つのサービス内容
本日この後、「デザイン経営」宣言に委員として携わられた田川さんもご登壇されます。「デザイン×経営」という視点で、こうした報告書を出されたと思うのですが、この中で「ReDesigner」が目指す世界観と類似していると思った点があります。それは、デザイン組織を企業の競争優位性として活用していくことです。しかし、デザイン組織を立ち上げる方法や、デザイン組織運営のノウハウ、またどのようなスキルセットの人たちを採用していくべきかなど採用・教育面において難しい課題がたくさんあると思います。
世の中ではデザイナーとは、ビジュアルの美しさだけに関わる役割の人として認識されていることが一般的だと思います。そのため「UXデザイナーとして入社したのに体験設計に取りかかれない」とか「経営者とデザイナーの距離が遠く、下請け的な働き方になり、デザイナーの給料が低くなっている」ということは、どうしてもまだあると思います。
これらを解決するのが「ReDesigner」です。
ビジョンは「デザイナーがパフォーマンスを最大限発揮できる社会を作る」というものです。
「ReDesigner」では、Goodpatchがデザイナーと、デザイナーを採用したい企業の間に入って、適切なマッチングを実施していきます。
ちょうど5月末にリリースさせていただいて、1週間で多くのデザイナー・企業にご登録いただいています。
リリース時は、サービスページやインタビュー記事を、坪田さんはじめ多くの方にシェアしていただきました。Twitterでは「デザイナー特化型のキャリア支援サービス」というキーワードがトレンド入りもしていて、「こんな長くて読みにくいものがトレンドに入るのか!」とちょっと面白かったです(笑)。
一部ですが、こういった会社さんにもご契約いただいております。
ReDseginerはデザイナーに特化したエージェントですが、エージェントモデルにしている理由は3点あります。
- デザイナーと企業の間に、Goodpatchが入って翻訳者になることで、企業とデザイナーがそれぞれ求めている期待・スキルセットが違うなどのミスマッチが防げると思っています。
- デザイナーが知りたい情報を、我々が作ったデザイナー向けのオリジナル求人表を元に、企業の代わりにヒアリングをすることで質の高い情報をお渡しできると考えています。
- デザイナーのキャリア形成はとても難しいですし、例も少ないです。そこで、Goodpatchのノウハウを活かして、キャリア形成に関しての壁打ちも行うことができます。
企業さんによっては、例えば「どんなデザイン組織を作っていくべきか」、「どうやってデザイナーを採用育成していくのか」、「どうやってデザイン組織を運営していくのか」など、組織コンサルティングも個別にやらせていただいております。
2. 「ReDesigner」の3つの特徴
最後に「ReDesigner」の特徴についてご紹介します。
特徴の1つ目が、デザイナーに特化したオリジナルの求人票です。
求人票に「見にくいし情報が表面的にしか記載されていない」という印象ってありませんか?そこでReDesignerチームでは、求人票そのものをデザインし直しました。
例えば、自分がキャリアアップして次の企業に入った時に、どういったデザインチームの中で、どういうバックグラウンドのPOと働くのか。その中で自分はどういう立ち位置にいるのか。その評価制度がどうなっていて、今いるデザイナーはどう考えているのか。そういうところを我々が代わりにヒアリングしています。
2つ目に、デザインを理解したエージェントによる面談という特徴があります。
自分も前職が某通信会社で、UXデザインをしていました。実は、この会場にいらっしゃるデザイナーとも働いていた経験があります。もちろん自分だけではないですが、デザインのバックグラウンドや理解を持つ人間が、デザイナーと面談をすることが特徴だと思っています。
例えば、キャリアの壁打ちの一例として、デザインマネージャーとしてピープルマネジメントの方向性にいきたいのか、それともプレイヤーとしてスペシャリストの方向性にいくのか、大きく2つに分かれると思います。しかし、やはりスペシャリスト側のキャリアパスは多くの企業ではまだ整備されてないと思うんです。
Goodpatchでは、そこの役割を定義しています。例えば、デザイナーに求められている要素を横軸で分解して、縦に役職を引いて考えています。その中で「この役割のデザイナーにはこんなスキルが求められる」というものを定義しています。詳細は伏せますが、体験設計ができるデザイナーだとしたら、キャリアアップの観点ではプロジェクトをリードして、ファシリテーションするスキルを求められます。シニアデザイナーだと、自分がコミットする案件以外も幅広く見ていかないといけない。そこから、リードデザイナー、デザインディレクターとキャリアアップしていきます。
このようにデザイナーのキャリアをより詳しく理解するために、我々はデザイナーに特化したオンラインアンケートを作りました。これが3つ目の特徴です。
例えば、「あなたが思い描く5年後のデザイナーとしてのキャリアとは?」という質問には、「デザイン技術を極めたい」、「メンバーをリードしたい」、「ビジネスを作りたい」、「組織をまとめたい」、「経営に携わりたい」という回答が並んでいます。これも、約1ヶ月半のユーザーリサーチを重ねて、発散と収束を繰り返した結果、この質問にたどり着いてます。
これらの効果もあってか、5月末のリリース以来、ほぼ毎日デザイナーさんと面談させていただいております。「キャリアを考えるきっかけになった」、「なかなか聞けないデザイン組織に関する情報を聞けた」「ハードルが高そうなサービスだと思ったけど、話しやすかった」などの声をいただいています。
世のデザイナーの捉えられ方を変えていく
エージェントモデルに対して「登録したらデザイナーをひたすら企業に応募させるんじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ReDesignerは、「デザイナーがパフォーマンスを最大化発揮できる社会を作る」ことを目指して事業運営をしているのでマッチングを重視します。
そして、デザイナーの価値を社会的に向上させることは、今日この場にいらっしゃるみなさんなら、重要だと思っているはずです。それをデザイナーの1コミュニティでやっていくより、このCXO Nightというコミュニティを活かして、世の中のデザイナーやデザインという概念の捉えられ方を変えていく。そういったことを一緒に実現していきたいです。
最後に、ReDesignerはみなさんのご登録をお待ちしております。
メディア編集とデザイン – 三川 夏代 / Studio Opt kakeru 編集長
みなさん、こんばんは。
私はStudio Opt(スタジオオプト)で、「kakeru(かける)」(以下「kakeru」)というメディアの編集長をやらせてもらっています。普段は、SNSマーケターとして企業のスーツを着た方々の前でお話しすることが多いので、今はとても新鮮で緊張しています。
簡単に自己紹介をさせて頂きますと、2012年に株式会社オプトという広告代理店に入社いたしまして、それ以降、ソーシャルメディア事業部でSNSコンサルタントをしています。企業のSNSをサポートしたり、「マスと連動して何かやりたい」という要望に対して、「一緒に手伝うのでこういうことしましょう!」という提案をしています。
こちらは堅い肩書きなのですが、いつもPinterestボードも出しています。私は、すごく興味の軸が多くて、何にでも挑戦したり、覗きたくなります。工事現場を裸足で散歩するなど、色々なことに挑戦しています。
1.「kakeru」とは?
そもそも「kakeru」は何かと言いますと、2015年の5月に立ち上げました。もう3年程経つのですが、SNSの情報に特化したWebメディアです。
立ち上げの背景は3つあります。
「オプト」には、SNSコンサルタントが複数人います。そのコンサルタントのブランディングの為と、生活者、特に、女子高校生を中心にした未成年の方々のインサイトを探る為。最後に、SNS市場におけるねじれを解消したいという風に考えて立ち上げました。読み手としては、私たちは代理店ですので、企業のSNS担当者や、Twitter Japanですとか、Facebook、Instagramのような媒体社向けに書いています。
この「kakeru」を通して何がしたかったのかというと、「kakeru」を通して弊社にお問い合わせをいただいたり、競合との差別化をしたかったというところ。最後に、弊社のSNSコンサルタントの個人の力をさらに強めたいなという風に思いまして立ち上げました。
2. 事業立ち上げの3つの背景
オプトの専門性を発揮できる場所を作りたい
オプトのSNSコンサルタントってあまり知られていないと思います。でも、個人個人を見ると、結構強いんですよ。もう、個性の塊でしかないんです。みんなSNS大好きなので、基本的に、みなさんTwitterを開きながら仕事をしたりですとか、多分もう寝る以外、ずーっとスマホを触ってたりとかして、社内の飲み会の時は、みんな喋らずずっとTwitterで会話するみたいな感じでやっています。
メンバーそれぞれに好きなことがあります。SNS以外にも、強烈な「好き」を持っていてみなさん喋りだすと止まらないくらい、すごく変態性のある方々が多いです(笑)。この変態性をうまく発信できる場所をつくりたいなと思ってkakeruをつくりました。
なので、写真が大好きな子は「褒められるスマホ撮影術」という記事を書いて自分のノウハウを発信してもらったり、韓国が大好きな子は「なんでSNSトレンドって韓国からやってくるの?」という記事で自分の考えを発信したり。私はTwitterが大好きなので、Twitterを企業の方々に使ってほしいなと思って、細かい機能の説明をしたりしています。このように、自分たちの「好き」と仕事をつなぐ場所として発信してもらっています。
そうすると何が起きたのかというと、先ほどの写真が大好きな子は、「スマホ撮影テクニックを解説してほしい」とテレビ番組から依頼が来ました。これもつい先日なんですが、韓国好きな子が、著名人のイベントに呼ばれまして、「韓国のK-popについて話してほしい」という風になりました。私自身も、Twitter Japanさんからお声かけいただきまして、一緒にtwitter動画に関する番組を作ったりしました。このようになっていくと、どんどん「オプトソーシャルってすごいよね」という話になっていって、「オプト」と仕事がしたいというよりも、そのメンバーと一緒に仕事がしたいという風にお話をいただくようになりました。この「仕事をしたい」っていうのがどんどん幅が広がりまして、実は、4冊ほど本を出しています。
・生活者のインサイトを探る為
生活者のSNSインサイト・インプットというところなのですが、私たち会社員は、会社からインターネットを使って女子高生やスマホユーザーの情報をとろうと思ってもなかなかできないんですよね。なので、「自分たちの足で街に繰り出してリアルを拾おう」というところで、企業さんのアポの帰りにちょっと配属によって「女子高生100人に声をかける」などして、自分たちの足を使って情報を集めるということもしています。
・SNS市場におけるねじれを解消したい
話題の人に直接取材をしたりもしていて、例えば「前略プロフィール」ってみなさんご存知ですか? 数年前にクローズしたんですが、その開発者の方にインタビューをしたことがあります。ほかにも、数年前に話題になったのですが、巨大ライングループを司る16才の子がいまして、その子に直接インタビューしたりと、開発者の方がなぜそういうことをしたのかを紐解くようなことをやりました。
このようになぜ生活者のSNSインサイトを紐解きたいと思ったのかというと、SNS市場で「ねじれ」が発生しているんです。何かと言うと、企業の担当者の方々は、ずっと会社にいらっしゃって、あまりスマホも使われてない方々も少なからずいらっしゃるなか、「インフルエンサーってこういうことなんでしょ」と考えているんです。でも、その「こういうこと」というのが現状と結構違ってたりとかするんです。このような企業の思い込みに対して、生活者の実態を私たちがちゃんと発信していって、「実はそうじゃないんだ」と思い込みを解きたいというところがあります。あとは普段、SNSコンサルタントとして、企業と接しているので、その中で顕著になってきた課題をアンサーとして記事に書くということをやりました。
最終的に目指したいのが、「健全なSNS市場を築いていきたい」というところです。私たちはSNSがすごく大好きなので、このSNSの世界をもっともっと幸せに、みんなが楽しめるような世界を作っていきたいというところでこの「kakeru」をやっています。
今の話をまとめますと、「kakeru」の編集部は、SNSコンサルタント、弊社のSNSコンサルタントで成り立っています。自分達の本業で得た知識を「kakeru」で書いていたり、わからないことは「足」を使って紐解いています。
「kakeru」の特徴は、3つあります。
完全なオリジナルのコンテンツを発信していること。企業の方々といつも接しているので、読み手のニーズをしっかりと捉えていること。この2つを通して再現性のあるノウハウを発信していることです。
3. 今後の展望
最後に、今後は仕事の拡張をさらに図っていきたく、SNSコンサルタントの「個の強み」をより仕事に繋げながら事業拡大をしていきたいです。
kakeruのメディアコンテンツ制作以外にも実は今、クリエイターと向き合うことにに挑戦しようとしてます。クリエイターの方々は、自分達からなかなか「今、手が空いてるんですよねー。企業の方々の手伝いできますよ」という風に言えない状況だと思うんです。現状は企業の方々が「誰かいない?」というように声をかけて、クリエイターをアサインするというのが通常だと思います。私たちはその逆をやりたくて、クリエイターが企業を募集するような新しいサービスを開発したいというのと、クリエイター同士のマッチングサービスにも挑戦したいとも思っています。例えば、エンジニアの方と、イラストレーターの方をアサインするようなマッチングサービスです。あとは、クリエイターの方々はフリーランスの方が多いので、その方々に対してマーケティングのスキルアップのような支援もやっていきたいと思っています。
しかし、足りないパーツがあるんです。それは、「kakeru」をデザインで表現できる人が今圧倒的に足りないんです。現状としては、最初にお伝えした通り、「kakeru」の編集部は、SNSコンサルタントで成り立っているので、例えば「kakeru」の「読みやすさ」や「読む楽しさ」という点をさらに追求したいなとか、「kakeru」らしさをもっともっと出したいとか。先ほどお伝えした「サービス開発を手伝ってほしい」となっても、手伝ってくださる方がすぐそばにいません。弊社の場合、違う部署にデザイナーがいるのですが、どのように連携したらいいのか、また、外部の方に頼みたくても、なかなか頼める方がいないんです。この会場にいるみなさんのような方々と繋がる手段がなくて、どう連携したらいいんだろうっていうところで本当に大変な状態です。そこから誕生したのが「Studio Opt(スタジオオプト)」です。
・「Studio Opt」とは
「Studio Opt」とは、スキル特化人材が出会う「ルイーダの酒場」のような場所で、雇用ステータス関係なくお互いを高め合うためのスタジオです。社内外合わせて立場関係なく個人個人のスキルをマッチングさせるようなスタジオにしたいと思っています。より物作りに集中できるような場所にしていって、最終的には、モチベーションを高めるパーティーをさらに作っていきたいという思いから、坪田さんにジョインいただいています。ですので、もしこれがさらに活発に動くと、何が起こるのか。今まで「kakeru」の編集部は「オプト」のメンバーだけだったんです。これからは例えば、マッチングサービスを作りたい場合に、会社の中だけではなく、会社の外のプロダクトマネージャーやエンジニア、デザイナーをどんどんアサインして、プロジェクト単位で参加できるような場所を作っていきたいという風に思っています。
今の話を聞いて、「Studio Opt」や、「kakeru」にご興味を持っていただいた方は、お声がけいただければと思います。
以上になります。ありがとうございました。
次回は、このCXO Night #3 「デザインを越境せよ」の第3部(最終回)の内容をお届けします!