2018年5月23日、経済産業省・特許庁により「デザイン経営」宣言が発表されました。日本では、経営層がデザインを経営に有効な手段として認識していないことが多く、海外との競争力が弱いと懸念されています。この背景から、デザインで企業ブランド価値の向上と強化、イノベーションを起こす力の向上を実現し、企業の競争力を高める効果を生むことを目指すという内容です。

日本のスタートアップでは経営を担うデザイナーの需要が増え、CDO(Chief Design Officer)やCXO(Chief Experience Officer)が活躍しています。実際にCDOやCXOとして働く人は、組織でどのような役割を果たしているのでしょうか?
2018年6月15日、TECH PLAY渋谷でデザインを越境せよ – CXO Night #3が開催され、領域を超えて活躍するデザイナーたちがCXOの重要性や課題、実用的なノウハウを語り合いました。本記事では前編の「若手デザイナー社長トーク」を書き起こし形式でお届けします!

当日の資料は以下をご参照ください。

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パネルディスカッション 若手デザイナートーク編

若手編では、スタートアップのデザイナー社長3名が登壇しました。デザイナーであり社長でもある彼らの社内での役割や、若者向けサービスならではの開発について語りました。

登壇者プロフィール

山口 翔誠 | 株式会社picon 代表取締役 デザイナー @shosemaru
1996年生まれ。大学を中退し、エンジニアやデザイナーとして広くインターンを経験する。株式会社piconを創業し『Talkroom(トークルーム)』、『BATON』をリリース。

若月 佑樹 | 株式会社UNDEFINED 代表取締役 デザイナー @yukiwakatsuki
1998年生まれ。高校卒業後、バックパッカー、ドローンのスタートアップで企画、開発に従事。その後渡米し、留学するも3日で自主退学。帰国後、株式会社UNDEFINED共同設立。

広野 萌|株式会社FOLIO 共同創業 CDO @hajipion
1992年生まれ。ヤフー株式会社へ入社後、新規事業・全社戦略の企画やアプリのUX推進に携わる。2015年、国内株式を取り扱う10年ぶりのオンライン証券サービス『FOLIO』を共同創業し、CDOに就任。

Q1. デザイナー経営者を志したきっかけは?

若月 佑樹さん(以下、若月):
UNDEFINEDは3人で創業し、他の2人と一緒ならできそうと思い起業しました。デザイナーになったきっかけは「デザイナー」という響きがかっこよかったことと、他にやる人がいなかったからです。ちなみに、社内で一番絵が下手です(笑)。

山口 翔誠さん(以下、しょせまる):
僕はデザイナーや経営者になりたかったわけではなく、とにかく自分で新しいプロダクトを作りたかったんです。企業でインターンを経験しましたが、ちゃんと会社に出社して働くということができなかったので、自分で会社を立ち上げました。共同創業したメンバーが論理派なのでエンジニア、僕は感覚派だったのでデザイナーといった形で分担を決めました。

広野 萌さん (以下、広野):
お二人ともエンジニアリングもしているんですか?

しょせまる :
僕はWebサービスとクライアントアプリのフロントは一通り書けますね。共同創業者のメンバーは、インフラからWebサービスの構築まで一通りできます。

若月 :
アプリ開発は一通りできます。自分ひとりで書いていた時期もありますが、最近は優秀なエンジニアメンバーに恵まれ、彼らにほとんど任せています。

広野 :
それでは、デザインの勉強はされていましたか?

若月 :
デザインを体系的に学んだことはなくて、ユーザーインタビューから表現する体験設計を大事にしてます。周りに薦められてトレースはしていました。あと良いアプリを使い倒していましたね。

しょせまる :
僕は今までデザイナーの上司がいなかったこともあり、ダサいデザインのサービスをリリースしては、ユーザーの反応を見て改善しながら学んできました。そのプロセスの中で学んだことが、今の自分のデザインポリシーとなっています。

広野 :
お二人ともほとんど独学だったんですね。ぜひお二人にはAirbnbのように、デザイナー×経営者として世の中を席巻するデザインイノベーションを起こしてほしいです。

Q2. 「若者向けの今風」のデザインやPRをするうえで、心がけている事は?

若月 :
匿名チャットアプリの『NYAGO』リリース時、僕は大学一年生だったので、周りの友人や後輩がちょうどターゲット層でした。彼らにデザインの画面を送り、フィードバックをもらっていましたね。彼らが感じる「なんとなくダサい」や「なんとなく良い」という言語化できない部分を、僕たちがデザインに起こしてプロダクトに反映させることを心がけています。僕自身、ターゲットのユーザーと同じ年代なので、彼らの正直な声を聞きやすいです。
メンバーにもZeplinでフィードバックをしてもらい、ひたすらその改善をしています。

しょせまる :
若者向けのアプリを開発するときに、アプリの世界観と空気感をきちんとユーザーに伝えることを大切にしています。『Talkroom』のデザインも、まずは「どうしたらアプリの世界観を伝えられるか」を考えて創りました。

その時参考にしていたのがディズニーランドです。『Talkroom』の2つ前のバージョンのテーマが「宇宙」だったので、トイストーリーのバズ・ライトイヤーが出てくるシーンを参考に、アプリのUIに落とし込みました。そして次のテーマは「トゥーンタウン」です。アップデートのリデザインに向けて、新しくジョインしたデザイナーと一緒にディズニーランドに行き、世界観を視察しに行きました。

街中で若者にユーザーヒアリングを行う際、普段着だとナンパと間違われるため、中性的で無害なペンギンの服を着ています(笑)。よくYoutuberや「ビジネスペンギン」と間違われますが、毎日7着、違うペンギンの服を着ているんですよ。

広野 :
若者向けだからこその、戦略的なPRはありますか?

若月 :
『NYAGO』では、PRとプロダクトのチームが完全に分かれています。そのため、プロダクトチームであるデザイナーの僕はPRには関わっていません。デザイナーとしての戦略としては、OGPを派手にし、ユーザーに分かりやすい親切なシェア導線を心がけています。UNDEFINEDはVR動画の制作もしているのですが、『NYAGO』のLP動画は全て社内にいるサウンドエンジニアの妹さんの声を録音して制作しています(笑)。クリエイティブに力を入れていますね。

しょせまる :
「界隈でバズる」と「若者に届く」は全く違うことだと思います。『Talkroom』と『BATON』をそれぞれリリースした時のツイートは、10万インプレッションに到達しましたが、その割合が全く違いました。『Talkroom』のインプレッションの多くは「界隈」の人たちでしたが、『BATON』はそうではなくて、ちゃんとターゲットの若者に届いた肌感覚があります。

若者へのプロモーションは僕たちもまだまだ大きな課題です。『Talkroom』はターゲットとしている若者にまだ届いておらず、TwitterやInstagramの広告も改善していきたいと思っています。今後はインフルエンサーを起用した広告も検討しています。

広野 :
僕が初めて『Talkroom』を使ったとき、UIを全く理解できませんでした(笑)。
しかし若者向けのアプリケーションは、この「意味がわからない」ことこそ大事だと思います。デジタルネイティブではない世代の方は、アプリの使い方が分からないと諦めてしまう傾向がありますが、若者はInstagramやSnapchatのように初めは理解できないUIでも、学んで使いこなそうとします。その心理をついている『Talkroom』は見事だと思いました。

Q3. デザイナーかつCEOの業務範囲、スケジュール管理方法は?

若月 :
今はプロダクトの世界観をデザインに落とし込むフェーズなので、1日の80%はデザイン、残りの20%は技術選定をしています。睡眠時間は6、7時間くらいですね。
僕たちのチームはPMとデザイナーは完全に分かれています。UXデザイン、仕様のディレクション、ユーザーフロー、プロモーションなどはPMの仕事です。プロダクトを作るのはデザイナーの僕と、エンジニアのメンバーがやっています。PMから渡されたユーザーフローを元に、ディスカッションをして僕がSketchでUIに落とし込みます。そしてそれをZeplinにあげてフィードバックをもらい改善していますね。僕はアイコンやUIなど平面のデザインのみ担当しています。

しょせまる :
piconは先週まで、僕と共同創業者の2人でやっていたため、開発以外の全ての業務が僕の業務範囲でした。スタートアップの特に初期のフェーズでは、業務範囲という概念はなく、会社の中で最も優先度の高いタスクから順に得意なメンバーが消化していくイメージです。

Q4. デザイナー社長ならではのメリット、デメリットはなんですか?

広野:
それでは、まずデメリット、次にメリットを聞いてみましょうか!

しょせまる :
デメリットは、特定のデザイン領域を極めていくのが難しいことです。僕自身クリエイター気質なので、UIやCIの領域で一番を取れるようなプレイヤーになるまで極めたいと思っています。しかし、会社経営をしていく中でどうしても自分が携わらなければいけない仕事が多々あり、常に現場の最前線で特定の領域のトップを目指すことは難しいと感じています。

メリットはデザイナードリブンの組織を創れることです。もし自分がプレイヤーのいちデザイナーだったら、自分のアウトプットの100%がキャパとなります。しかしCEOとして、自分が裁量権を持って組織を作っていけるので、piconに集まるデザイナーの掛け算で大きなアウトプットを作ることができると考えています。なので僕はデザイナー社長として、よりデザイナーにとって働きやすい組織を作ることや、より成果の出しやすい会社のカルチャーを作るところに徹していきたいなと考えております。

若月 :
僕も同じように、一つの仕事だけにフォーカスできない点がデメリットですね。社長業を兼務するとデザイン以外の仕事もあるため、作業を中断してしまうことがあります。デザインが進まないと開発ができない、開発が進まないとプロダクトをリリースできないという悪循環になり作業が後ろ倒しになってしまいます。デザイナー社長は脳を素早く切り替えられ、マルチタスクを処理できることが求められます。

メリットは、社内でのデザインのプライオリティが上がることです。
デザイナーが社長だと、デザインのプライオリティーが上がり、イケてる会社になると思います。これから新しく入社する人も、自分にとって働きやすくイケてる会社に入りたいと考えるでしょう。では、どうしたらイケてる会社を表現できるか。それは、プロダクトのセンスや会社のLP、オフィスに反映されていると思います。イケてる会社を創り上げるためにも、デザイナードリブンなデザイナー社長がいることは大きなメリットだと思います。

広野 :
デザイナー兼社長としてコミュニケーションサービスを開発しているのは、お二人に共通していますね。コミュニケーションサービスにおいて、社長がデザインの決定権を持つことは、サービスの成功の一因だと思います。

Q5. 今後目指しているキャリアと学生に伝えたいことはなんですか?

若月 :
かっこいい会社にしたいです。例えば、AppleやAirbnbで働いたらカッコイイと思うように、UNDEFINEDで働いていたらかっこいいと思われるようなプロダクトを作りたいです。僕たちのカルチャーである「イケてるものを創る」のように、一番イケてるプロダクトを創るかっこいい会社を目指しています。

しょせまる :
Piconは、会社ではなく発明研究所のようなラボを目指しています。プロダクトを創っている時が一番楽しいので、信頼できるメンバーと一緒に、みんなが信じられるプロダクトを創り続けることができる組織にしたいです。

広野 :
本日会場にも何名か学生がいらっしゃいます。彼らに何か伝えたいことはありますか?

若月 :
「これをやっている自分が好き」という状態を見つけてください。自分に酔って、それに満足することが継続につながり、成果が出ると思います。僕はアメリカの大学に3日だけ通っていましたが、中退しました。理由は学費を自分で払えなかったことと、日本にいるメンバーと開発をしたいと思ったからです。学生の皆さんも、自分が信じられるものを見つけてください。

しょせまる :
僕はもっと学生としてリア充をしたかったので、皆さん今を思いっきり楽しんでください。制服ディズニーや合コン、リムジン、海外に長期留学、Youtuberになる、など僕自身もっとキラキラしたことに挑戦したかったです。僕たちが創るサービスも「学生だけが味わえるリア充」なエモさが大事になるので、自分自身でももっと経験しておけばよかったと思っています。

会場からのQ&A

Q. 『NYAGO』が停止するに至ったプロセスは?

若月:
そもそもリリース時、『NYAGO』は実験的なサービスになる、と想定していました。『NYAGO』はリテンションを取るのが難しいプロダクトなので、ひとまず見切り発車でリリースしました。しかしPMとプロダクト制作側が完全に分離していたため、リリース後のバグ報告や追加機能の要望に、僕たちの開発力が追いつけませんでした。ユーザーの要望に追いつけないと、『NYAGO』のブランド力やブームが落ちてしまうので、社内で「この現状はイケてない」と判断し停止しました。

コミュニケーションサービスがリテンションを獲得するためには、ユーザーにとってサービスが「ツール」になるだけでなく、「プラットフォーム」としてユーザーが複合的に楽しむことが大切です。『NYAGO』でこれを実現するために、今年の夏を目標に再開発を行なっています。

Q. デザインガイドラインはありますか?また、Human Interface Guidelineをどのように活用していますか?

しょせまる:
デザイナーが二人になったので、ちょうど作り始めたところです。Human Interface Guidelineはそれぞれのプラットフォームに最適化されているので、それを読み込み、オリジナリティを表現しています。

若月:
僕が一人でデザインをしているので、デザインガイドラインはありません。Human Interface Guidelineは一度も読んだことがありません。僕は、若者が使いやすいモノは若者だけが知っていると思っています。その答えはガイドラインのどこにも書いてありません。

Q. ペンギンの着ぐるみ、真夏はどうしますか?

しょせまる:
ペンギンで夏を越すのは今年初めてなので、今考えているところです(笑)。服の中に扇風機を入れて過ごすか、別のキャラにチェンジします。

Q. 憧れのデザイナーさんはいますか?

若月:
CIを起点としているタカヤ オオタさんです。ポートフォリオがとてもカッコよく、一度お会いした時もフィードバックをたくさんいただき、僕の憧れです。

しょせまる:
僕も同じくタカヤ オオタさんです。


CXO Nightレポート前編では、デザインと経営の越境を実践する若手デザイナー社長のトークをお届けしました!

登壇者のお二方は、自身が若手であることを活かしてサービスをユーザー目線で開発、インサイトを引き出しているように感じました。熱量の高いトークに、会場も惹きこまれていました。

CXO Night #3のイベントレポートはまだまだ続きます!明日6/26はLT編、6/27にはパネルディスカッションシニア編を公開予定です!ぜひお楽しみに。