本記事は、2019年12月4日に開催された「デザイン会社経営のリアル CXO Night #7」のイベントレポートです。
第一部では、株式会社カラス代表/エードット取締役副社長の牧野さん、 株式会社CINRA代表の杉浦さん、BIRDMAN代表の築地さんにご登壇いただき、代表土屋モデレートのもと「これからの時代のデザイン・クリエイティブ会社の成長戦略」についてお話しいただきました。この時代にデザイン・クリエイティブ会社を経営する難しさと楽しさ、今後の成長可能性がどこにあるのか、お話しした内容はTwitterモーメントよりご覧いただけます。
本記事では、第二部となる「未来のデザイン会社の姿」での代表土屋とBasecamp CEO/dely CXOの坪田さんによるトークセッションの様子をお届けします。最近のデザイン・クリエイティブ業界の変化や会社のあり方、今後のデザイナーがどんなスキルを身につけるべきかなど、Goodpatchの事例もまじえてお話しさせていただきました。こちらもTwitterモーメントで臨場感を味わえるので、ぜひご覧ください。
二人の出会いとUIデザイン市場の変革
土屋
坪田さんとの出会いは2014年ごろですよね。UI Crunchの立ち上げで声をかけてもらったのが始まりでした。それからは定期的に会って近況をキャッチアップしている仲です。UI Crunchはどんな流れで始まったんでしたっけ?
坪田
僕がDeNAにいた頃、新規事業立ち上げのデザイン業務をGoodpatchさんに依頼したことがきっかけでした。実は一回断られていたのですが、二回目に会いに行ったら土屋さんが南場さん(現DeNA会長)をめっちゃ好きで影響を受けたという話から意気投合して、UIデザイン業界を一緒に盛り上げようということで始まりましたね。
参考:当時のイベントレポート
“UIデザイナーバブル”到来の予兆!?|UICrunch #2
土屋
ちなみにUI Crunchという名前を作ったのは僕です(笑)。
坪田
そうでしたね。懐かしい。当時UIデザイナーは今のように市民権を得られていなかったのですが、ガラケーからスマホにシフトする中で、UIデザインの重要度を啓蒙していかなければという気持ちで始まったデザインコミュニティでした。僕はもう運営には関わらなくなりましたが、今までずっと続けていて、年々盛り上がっていますね。
土屋
はい。ここ最近、デザイナーの価値は上がり続けていると思います。UI Crunchの他にもDesignshipやDesign Scrambleなど1000人規模のイベントがあることは6年前からすると考えられないですね。
坪田
そうですね。また、当時僕はCDOやCXOと呼ばれる役職のデザイナーがほとんどいないことを課題に感じていたので、2017年からCXO Nightを始めました。当時はCDO Nightという名前でしたね。
第一回目のオープニングで坪田さんがお話しした内容:
スタートアップにCDOが必要な理由 CDO Night #1レポート【オープニングトーク編】
土屋
でも、確か坪田さんは以前CxOと役職をつける前は、COOになりますと話していましたよね。僕がそれに対して「違う!」と言って(笑)。
坪田
はい、そうでした(笑)。当時、育児系のデジタルプロダクトを中国で作ろうとしていたんですが、CDOやCCOは他のCxO職と比べて知名度がまだ低いので、大手企業の方には理解されないと思ったんですよね。そんな時に土屋さんから僕の人生にアドバイスをいただいて。
土屋
デザイナーの価値が上がらないのは、経営層に入っていかないからであり、坪田さんが先陣切ってCDOかCCOを名乗ってほしいですと伝えましたよね。
坪田
今の僕があるのは土屋さんのおかげですね。。UIデザインと事業設計は依存関係にあるので、ウォータフォールではなく、上流から設計できるように、CDO,CCO,CXOとして経営層に入り、認知を高めながらこの状況を変えていこうと思えました。
プロダクトと組織は両輪
坪田
グッドパッチさんもUIデザインの市場改革を進めていると思いますが、この数年でどんな変化を感じていますか?
土屋
UIデザイン会社として起業した2011年当時から「UX」という言葉はあったんですが、当時のマーケットでは机上の空論のような言葉だったと思います。自分たちでサービスを作ったことがないアカデミック領域の方が集まり、言葉の定義の話をしている状況に危機感を覚えました。ユーザーの手に渡るまでの具体的なアウトプットに落とせなくては価値がないと思ったので、UIデザインの会社だけど、上流の企画設計から関われない仕事は受けないスタンスを通していました。
マーケットでUIの認知を広め、価値をあげるために創業初期からオウンドメディア「Goodpatch Blog」で情報発信をし続けていましたね。自分たちが仕事を取りに行くのだけではなく、UIデザインという領域を社会に認知してもらって、価値を底上げしようとしてきました。幸い、この数年はどこの企業でもデジタル領域のデザイナーがかなり不足してきており、年収も上がってきていると思います。
坪田
そうですね。今だとサービスをリードできるUIデザイナーであれば700~800万円くらいまで上がってきたかなと思います。それくらいマーケットのニーズが増えており、多くの企業で2018年から2019年にかけてキャッシュが増え続けていることから、デザイナーはインハウスもクライアントワークも単価が徐々に上がってきている印象です。最近はさらに、プレイヤーからCxO職についたり、独立したりなど経営者になる人が増えてきた気がしますね。
土屋
グッドパッチのデザイナーも単価が上がり続けていますが、将来的には平均年収を1000万円以上にはしたいと思っています。今でこそ僕は社長業に専念していて、現場の業務には直接関わっていないのですが、プロジェクトが終わった後にクライアント先へインタビューに行くのは僕なんです。このインタビューでグッドパッチに依頼した背景や、どういう期待があったか、アウトプットで衝撃を受けたことは何だったかなどをヒアリングするのですが、その際にクライアントが一番の価値に感じてくれていることは、メンバーのコミット感です。クライアントの事業について、その企業の社員を超えるくらい愛する、深く考えることに価値を感じてもらえているようです。
土屋がクライアントワークへのこだわりを綴ったブログ:
Goodpatchがクライアントワークを続ける理由
ひとつ感じている変化が、今は僕らの提供価値がものを作るだけの会社ではなくなっているんですよね。重要なのは良いものを作り続けられる「文化」なんです。プロジェクトの後、僕らの手が離れても良いものを作り続けられる土壌を築くために、文化をインストールしていく。そのため、最近ではプロダクトだけではなく組織自体の支援をするお仕事も増えてきました。
さらに、デザイナーのキャリア支援サービス「ReDesigner」を通してデザイナーをマッチングし、内製化のお手伝いもする。一見自分たちの首を絞めているようですが(笑)、社会にデザインの力を証明するために、どんどん企業にデザインの文化をインストールして自走できる組織を増やしていきたいんです。
坪田
外部のパートナーの立場で文化醸成までコミットできる会社はすごく少ないし、付加価値が高いと思います。僕は0→1職人として色々な会社の新規事業立ち上げをしていたんですが、今delyに強くコミットしてる理由は、サービス立ち上げ後にしっかりグロースさせるにはチームや文化を作っていく必要があり、デザインとチームビルドどちらも重要で、デザインだけだと成果に繋がりにくい事を実感したのも理由の一つです。
土屋
グッドパッチでよく話しているのが、プロダクトと組織は両輪なんです。組織の根底にある文化が変わらないと、デザインの価値は発揮できない。だから結局、組織の文化を変えていくことが本質的な課題解決なのだと思います。
社員が成長し続ける会社を目指して
土屋
VUCAと言われる不確実性が高い社会で、デザイン会社の資産は人です。
僕にとってのやりがいは人が育っていくことなんです。人が成長し続けられる会社、成長のための機会を生み出せる会社であり続けたいと思っています。
坪田
でも、どうやって育ているんですか?デザイナーの方で成長に悩んでいる方は多いです。グッドパッチの成長テクニックを教えて欲しいです。
土屋
そもそも自分で成長していく意思があるかどうかが重要で、教えてもらって成長する人のスピードはあまり速くないです。僕は優秀な人=成長する意思のある人だと思っているので、教えてもらいに来ました、というスタンスはNG。向上心と成長意欲がある人というのが採用における大前提ですね。
成長意欲の表れとして、グッドパッチには自発的にナレッジをシェアする文化があります。今、具体的なプロセスや失敗談、成功事例などナレッジが約3万件溜まっています。さらに半期に一回はナレッジを体系立てて各プロジェクトメンバーがプレゼンするイベント「ナレッジパッチ」を開催し、社員の成長を促進しています。
坪田
良い会社ですね!成長したいデザイナーはみんなグッドパッチに行くという選択になってしまいますね(笑)。
「総合格闘技」が求められる時代
坪田
これからのデザイナーがより成長するために、どんなことを準備しておくべきだと思いますか?
土屋
これからは総合格闘技ができるようにならなければなりません。事業難易度も上がっているし、デザイナーの領域だけで結果が出せる時代はもう既に終わっていると思います。デザイナーには、横断的な知識を求められる時代に突入しているんです。その中で専門性を磨いていかなければなりません。今や誰もが何かを生み出せる時代になってきていて、ツールをうまく使えるかどうかだけでは能力の差別化ができず、あらゆる領域を超えた知識や経験を掛け合わせられる総合的な能力がある人材が生き残ることができると思います。
坪田
総合格闘技。僕は結構それが得意な方で、突破系人材の自覚があるんですが、それがかえって器用貧乏になってしまうことってありませんか?
土屋
あると思います。でも、それなら器用貧乏界のトップになれば良いんですよ。何かに秀でた能力ももちろん重要ですし、みんな憧れると思いますが、一方でバランス感覚はとても重要です。どんな人とでも一緒に仕事ができ、調整力や翻訳力で仲間を巻き込んでチームでアウトプットが出せることは、ビジネス面でかなり大きな価値になります。
「イノベーションは新参者から生まれる」という言葉をご存知ですか?山口周さんの「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」という本の中にも出てくるのですが、世の中で「イノベーション」とされていることは、その分野とは全く関係ない人が起こすことが多いという話があります。
ちなみに僕もデザイナーとして働いたことがなく、ファーストキャリアは営業、ディレクターです。デザイン領域では全くの新参者でしたが、前提知識なく入ったことで、マーケットのバイアスを逆手にとって主流とは真逆のことを実行できたのだと思います。スタートアップがサンフランシスコに集まっている中、誰も何も言ってないのにベルリンに拠点を出すとか(笑)。
坪田
確かにあの時って、イギリスやサンフランシスコのようなアメリカ西海岸に行く風潮がありましたよね。その中で、地価が下がっていてライフコストがすごく低くなっているベルリンへアンテナを張れていたことがすごい。知ってたんですか?
土屋
もちろん、知ってましたよ(笑)。
本当のところは、僕が好きだったアプリ「Soundcloud」「Wunderlist」などがベルリン発だったことがきっかけです。それでベルリンの会社をいろいろ調べていたところ、ベルリンのスタートアップがセコイア・キャピタルから約30億の出資を受けていることなどがわかり、スタートアップシーンでベルリンが盛り上がっていることを感じました。そんなタイミングで現在のGoodpatch Europe代表のボリスとの出会いがあり、ベルリンに拠点を出すことができています。
当時の土屋のブログ:
ベルリンにオフィスを出した理由
デザイン会社グッドパッチの成長戦略
坪田
最後に、土屋さんの夢を聞いて終わろうかなと思います。
土屋
今回、うちの話ばっかりですが大丈夫ですか(笑)。
僕の夢は当然、グッドパッチの夢とリンクしています。今この仕事をしているのは、iPhoneが出てきた時に「これは間違いなく世界を変える」と衝撃を受けたことを今でも覚えていて、あのインパクトを世の中に起こしたいと思っているからです。Appleのようにデザインによってインパクトを起こす会社が出てくると、世の中でデザインの価値が上がります。このような事例を国内からももっと出す必要があり、デザインの社会的価値の向上を一時的な波で終わらせたくないんです。
そのためにグッドパッチがどうするかというと、世の中にインパクトを起こすために1000人〜2,000人規模の会社にならなきゃいけないと思っています。数を増やすことを目的にはしたくないんですが、デザイナーとして楽しく働けていないと感じている人たちを、こっち側に呼び寄せてあげたいんです。そして、企業の本質的な価値とユーザーの本質的なニーズを繋げる仕事を、もっと多くの人ができる状況にしたいと思います。そういう仕事をしている人って、究極的には世の中を良くしたいと思っているじゃないですか。そうしやすい環境を作り、デザインに関わる人の年収をもっと上げていきたいです。社会にデザインの価値を提供して、同時にデザイナーの価値も高める、その先導を走る会社に慣れたらと思っています。
以上、CXO Night #7「未来のデザイン会社の姿」のイベントレポートをお届けしました、2014年頃からデザイン業界を見てきた二人が語る変化、今後求められる闘い方のお話などは、会場の多くの方がメモを取ったり、ツイートしてくれている様子が見受けられました。デザインへの追い風が吹いていますが、Goodpatchは今後もデザインの社会的価値を向上させ続けるために走り続けます!Goodpatch Blogでもその取り組みをお届けしていきますので、今後もどうぞお楽しみに。
ご参加いただいた皆さんのレポートもぜひご覧ください!
経営者視点で見るデザインのその先 – CXO Night #7
Event Report – CXO Night #7 デザイン会社経営のリアル
CXO Night #7 デザイン会社経営のリアル参加レポート