サービスブランディングに不可欠な「前工程」 顧客ニーズの本質をつかむリサーチ術
こんにちは。グッドパッチでプロジェクトマネージャーをしている服部と申します。
今年も残すところあと僅か。本当にあっという間の1年でしたね。
「サービスブランディング」を解説する連載も5回目になりました。今回は少し趣向を変えて、サービスブランディングに取り掛かる前の準備にあたる「リサーチ」に焦点を当ててお話ししたいと思います。
タッチポイントごとのコミュニケーション設計など、定性的なアプローチを中心に解説してきた連載で「突然リサーチ?」と疑問に思われた方もいるかもしれません。
サービスが市場から支持されるためには、ユーザーの真のニーズを捉え、独自の価値を提供し続ける必要があります。そのためには、自社サービスの強みや競合状況、顧客特性、業界動向などについてのリサーチが不可欠。分析を通じて得られる顧客のインサイトが、サービスのブランド力を高め、持続的な競争優位を生み出す源泉になるためです。
新たなサービスを立ち上げたり、既存のブランドを再構築したりする際、プロジェクトのカギにもなり得るリサーチですが、専門性を要する領域でもあり、うまく活用できないなどの課題にも直面しがちです。
今回は、リサーチにおけるありがちな課題を挙げながら、具体的な進め方を深掘りしていきたいと思います。
目次
新規サービス開発時のリサーチ・分析の課題
例えば、新規事業(新サービス)を立ち上げる際は、必ずと言っていいほどリサーチや分析を行うことになるでしょう。しかし、以下のような課題に直面することが多いのが実情です。
膨大なデータの収集と分析に時間とコストがかかる
- 自社の強みと弱み、競合動向、ターゲットユーザー、市場ニーズなど、多角的な情報を集めるのは容易ではない
- 収集したデータを効果的に分析し、インサイトを導き出すノウハウも必要
分析結果をサービス設計に活かすことが難しい
- 分析結果とブランド構築の具体的な連携が不明確
- 今後のプロセスに分析の成果を反映させる方法が不足している
このように、リサーチや分析の実施そのものが負荷となり、成果を活用できないという課題に直面することも少なくありません。
リサーチ・分析の具体的な方法とステップ
リサーチや分析の方法はいろいろありますが、具体的な進め方の一例を紹介していきます。
1. 自社サービスの強み・弱みを把握する
当然と言えば当然ですが、まずは以下のような形で、事業の状況を整理するところから始まります。
- 事業目標の設定:サービス立ち上げの目的や事業ゴール、成長戦略などの明確化
- ブランド構築リソースの把握:ブランド開発に投入できる人員、予算、デザインリソースなどの確認
- 経営層とのアライメント:事業目標や計画、サービスの強み(弱み)について、経営陣との共通理解を深める
サービスの強みと弱みを分析・整理することで、後々のブランドコンセプトの策定や具体的なブランドアイデンティティ設計へとつなげます。
2. 競合動向のリサーチ(ブランド戦略を理解し、差別化ポイントを見出す)
サービスの状況整理が終わったら、次は競合に目を向けましょう。同業他社がどのようなブランドイメージや価値訴求を行っているのかを把握し、自社のサービスがどのように差別化できるかを検討する材料とします。
具体的な分析ポイント例は、以下の通りです。これらの分析を通して、競合他社のブランド構築の特徴や強みを把握します。
- 競合サービスのブランドストーリー
- マーケティング戦略
- 顧客フィードバック
3. 理想の顧客像を明確にする
次は価値を届ける「ユーザー」を決めるためのリサーチです。サービス設計の土台を決めるために理想の顧客像を明確化します。分析するポイントは、以下のような点になります。
- 顧客の属性:年齢、性別、職業、収入などの基本属性
- 顧客の課題や需要:サービスを必要とする顧客の潜在的なペインやゲイン、ニーズ
- 顧客のライフスタイル:顧客の日常的な行動パターンや価値観
- 顧客の情報接触:どのようなチャネルを通じて情報を得ているか
リサーチ手法としては、Webアンケートや定性インタビューなどを組み合わせることが効果的です。仮説ベースで顧客理解を深めるために、ペルソナやカスタマージャーニーマップを作成しても良いでしょう。
4. 自社のポジショニングを検討し、ブランドの方向性を検証する
最後はマーケットの調査とサービスブランドの方向性決めです。
事業ポジショニングと同じような感覚で、マーケットの現状を分析し、自社のブランドポジショニングを検討します。競合他社やユーザーの動向をより広い視点から把握し、自社ブランドの差別化につなげることが重要です。
ポジショニングマップの作成も有効です。例えば、価格帯と機能性、デザイン性などを軸に設定し、そのマトリックス上に自社ブランドと主要な競合ブランドをプロットします。
こうしたリサーチと並行して、ブランドコンセプトの検討も行いましょう。サービスのコンセプトだけでなく、ロゴやWEBやUIデザインなどの視覚的表現も示し、リサーチを実施します。これによって、ブランドコンセプトとイメージの整合性を事前に検証できるのです。
リサーチ・分析におけるポイントと注意点
分析の粒度とスコープの設定
分析においては、適切な情報量と深度のバランスを見極めることが重要です。必要以上に細かい分析に時間とコストを費やしてしまうと効率が悪くなります。
逆に表面的な分析では、ブランド構築に生かせる重要な洞察を見逃してしまう可能性があるため、目的・ゴールから逆算して設定していくことが望ましいです。
分析結果の活用方法
特にブランド構築の観点からは、競合他社との差別化につながるブランドコンセプトの設定や、一貫したブランドアイデンティティの表現にも、分析結果を活用することが望ましいでしょう。いくつかの具体的な活用方法をまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
1次データと2次データを組み合わせる
リサーチを通じて、より深い理解や示唆を得るには、自社で行う顧客や未顧客などのユーザーリサーチの「1次データ」と、既存の統計データや業界レポートなどの「2次データ」を組み合わせて分析することが重要です。ブランド構築に必要な洞察を導き出せる可能性が高まるでしょう。
ただし、データ収集やその活用に当たっては、個人情報保護をはじめとした倫理的な配慮も忘れてはいけません。ユーザーのプライバシーを侵害することのないよう、適切な情報管理体制を構築する必要があります。
リサーチ・分析フェーズにおける実行体制
自社に専門の部署やチームがある場合は、インハウスでリサーチや分析に取り組めると思いますが、リソースやノウハウがない場合は、パートナー企業などの力を借りて進めていくのも一案です。特にスピード感を持って実行したい場合は、積極的に検討しても良いでしょう。
グッドパッチがご支援する場合は、以下のような役割を持ったメンバーの体制でプロジェクトに当たることが多いです。あくまで一例ですが、参考になれば幸いです。
- デザインストラテジスト
役割:戦略定義やステークホルダーリサーチ、各種プロジェクトの実施、言語化、プロジェクトリードなど
- リサーチャー
役割:リサーチ、分析の目的やゴールに合わせた具体的なリサーチ設計、実調査、調査分析、レポーティングなど - BX(ブランドエクスペリエンス)デザイナー
役割:ストラテジストやリサーチャーに伴走し、新規サービス開発におけるブランド構築視点でリサーチ、分析の実行をサポートなど - 外部リサーチ会社
役割:目的にあった定性、定量リサーチなどのインタビュイーのスクリーニング、手配や定量Webアンケートの企画・実施など
まとめ:リサーチを成功させるためのポイント
ここまで、サービスブランディングの中でも新規サービス開発時のリサーチ・分析について各段階におけるポイントをいくつか挙げました。リサーチを成功させるコツを端的にまとめると、以下のようになります。
- 明確な目的:何のためにリサーチ・分析を行うのか、目的を明確に
- 適切な手法:目的に応じて、アンケート調査、インタビュー調査、データ分析など、最適な手法を選択
- 多様なデータ:1次、2次データや定量データと定性データを組み合わせることで、より深い分析が可能に
- 客観的な視点:先入観にとらわれず、客観的な視点で分析を
- 実行と改善:リサーチ・分析は、一度行ったら終わりではなく、状況に応じて継続的に行い、改善していくことが重要
サービスブランディングにおいて、リサーチや分析は不可欠なステップです。その成果をうまく活用することで、ブランドの本質を体現し、チーム全体で、競争力のあるサービスを生み出していきましょう。
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この記事は、Goodpatch Design Advent Calendar 2024 Day12の記事です。他の記事もぜひどうぞ。
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