ファンを増やして成果につなぐ、グッドパッチ7年目の私が思う「デザイン哲学」
「最近、あなたの心を揺さぶったものは何ですか?」
こんにちは。グッドパッチでクリエイティブディレクターをしている栃尾です。
デザイナーとして働いていると、締切や要件に追われて「デザインがただの作業になってしまっているかも」と感じる瞬間がありませんか?そんなとき、ふと立ち止まって問いかけるんです。
「最後に心が揺さぶられた瞬間はいつだったかな?」と。
この問いは、私にとってデザインに向き合う姿勢そのものをリセットさせてくれる魔法のような言葉です。「何のためにデザインをしているのか」「自分はデザインを通じて何を伝えたかったのか」といった本質的な部分に立ち返るきっかけをくれます。
先日登壇した「Spectrum Tokyo Festival 2024」でも、自分の「ワクワク」を大切にしながら、デザインと向き合うためにどんなことをやっているかを少しだけお話しさせてもらいました。
この記事では、講演で話したことを中心に「ファン」と「共感」を軸にした自分なりのデザインへの向き合い方をご紹介します。
デザインの進め方や、アプローチは人それぞれだと思いますが、誰かの悩みや迷いに少しでも参考になれば嬉しいです。ぜひ、ゆっくりとコーヒーでも飲みながら、気軽に読んでいただけたらと思います!
目次
せっかく「デザイン」するんだ、ファンを増やしたい!
グッドパッチのクライアントワークでは、さまざまなサービスやプロダクトの立ち上げ、エンハンス(改善)に関わるのですが、プロジェクトの目的は、売上向上やコスト削減などさまざまです。
ただ、私は個人として、究極の目的や成果は「デザインした対象のファンが増えること」だと考えています。
ここでいう「ファン」とは、企業やブランド、サービスの価値・コンセプトに共感し、心から応援してくれる人たちのことです。彼らはサービスを継続的に利用するだけでなく、周囲の人に「これ、本当にいいよ!」と自然に広めてくれることがあります。この口コミ効果は、広告に頼るよりもはるかに強力です。
一方、ファンではないユーザーは、価格や利便性で選ぶことが多いので、より安価で便利なサービスが現れると乗り換えてしまいます。だからこそ、ファンを増やすことはサービスやブランド、ひいては企業の成長や安定的な運営にとって極めて重要だと考えています。
例えば、皆さんが愛用しているブランドやサービスを思い浮かべてみてください。それを選ぶ理由は、単なる価格や機能の良さだけではなく「このブランドの価値観に共感できるな」とか「使っている自分が好き」といった感情が少なからずあるはずなんです。
ファンを生み出す「愛されブランド・プロダクト」をデザインする
では、どうすればファンを増やすことができるのでしょうか。「ファンを増やす」という目的に対して、デザイナーとしてどんな貢献ができるのか。
私がこれまでの経験から導き出した答えは、利用者に「選んでもらう」理由を作ってあげることです。その際に重要なのが、「私たち」「社会」「ユーザー」という3つの視点を掛け合わせてデザインする、という考え方です。
これら3つの視点を掛け合わせることで、サービス(ブランド、企業)が「何のために存在するのか」を明確にしやすくなります。そして、その価値や目的をユーザーに正しく伝えることで、彼らが共感するポイントが生まれます。つまり「このブランドが好きだな」とか「自分のためにあるんだな」と感じてもらいやすくなるのです。
共感を通じてファンを増やし、ユーザーに愛されるブランドやプロダクトにしていく──概念だけでは分かりにくいので、具体的な方法については、コープデリ宅配アプリでのプロセスを例にご紹介できればと思います。
愛されるブランド(プロダクト)を作るためのプロセス
コープデリのプロジェクトに限らず、どの案件でも「共感」を生むために意識しているプロセスがあります。登壇では4つお話ししたのですが、この記事ではダイジェストとして特に重要な2つに絞ってご紹介します。
まずは理想を描く
私はいつもプロジェクトの最初に、既存のやり方や制約にとらわれない形で理想とするデザインを描きます。
ビジネスにはどうしても制約が伴いますが、最初からその枠に収めてしまうと可能性が狭まってしまう気がして面白くありません。だからこそ、私はまずは“理想”を出発点にします。
先ほど、「私たち」「社会」「ユーザー」の3つの視点を掛け合わせるという話をしましたが、要するに3つが重なる部分を見出すということです。私の場合は、そこから「一言で表せる」コンセプトに落とし込むことが多いです。
もちろん、単にキレイな言葉を作るだけではありません。コンセプトを体現する体験やUIデザインを考える際の指針になる、ユニークなコンセプトを設定することを意識しています。
コープデリ宅配アプリの場合は、「日常の買い物を『楽しいショッピング』に」というコンセプトを立てました。というのも宅配サービスは、特に買い物自体のプロセスが単調になりがちです。
便利であることはもちろん重要ですが、それだけで利用の頻度や満足度を向上させるには限界があります。だからこそ、サービスを成長させるためには、ただ「買い物をしてもらう」だけではなく、利用者に「買い物を楽しんでもらう」ことが不可欠だと考えたからです。
例えば、一般的なオンラインストアの多くは、カートに追加した商品を確認するには専用のページに移動する必要があります。ですがコープデリの場合、アプリを起動してすぐカートの中身が確認できるデザインを採用し、さらには注文ボタンを押したあとにインタラクションも加えました。
これは「カートに入れる体験が楽しければ、さらなる購買につながる」という仮説の下、初期段階から「絶対に実現させたい」と決めていたもののひとつです。思わず商品を追加したくなる、そんなデザインができたらいいなと思ったからです。
また、上記と並行してクライアントには見せないのですが、デザインを形にする前の段階で、理想のランディングページ(LP)を勝手に書いてみるというアプローチも取り入れたりしています。
LPを書くことで、ユーザーに対して何が刺さるのか?どんなビジュアルが心を動かすのか?使い心地や機能面でどんな工夫が必要か?を具体的に考えるきっかけになります。
実際にLPを作ってみると、プロジェクト全体を俯瞰できるだけでなく、「この画面では魅力的に見えないかも」「このメッセージは伝わりづらいかも」といった発見が、デザイン面や機能面の改善に直接つながったりもします。
コープデリの場合もラフと最終デザインを比較すると、細かい点がいろいろと変わっています。ですが、この段階ではまだスタート地点に過ぎません。コンセプトが本当にユーザーに響くものなのか、考えたUIが本当に使いやすいものなのか、それを確かめるためにコンセプトテストやユーザビリティテストを繰り返し行い、精緻化していくプロセスを踏んでいきます。
こちらについては、Goodpatch Blogにあるインタビュー記事でプロセスなどをよくご紹介しているので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
クライアントの想いを引き出し、反映する
デザインの本質は、単に見た目を整えることだけではありません。クライアントやユーザーの漠然とした思いを「こういうことじゃないですか?」と、視覚的に具現化できること──これこそがデザイナーだけが発揮できる価値だと私は考えています。
本からの引用になりますが、人間が受け取る情報の約65%は視覚から、25%が聴覚から、と言われています。つまり、目はどんな器官よりも最も早く・多くのものをコミュニケーションできるということです。だからこそビジュアライズも大事だと思っています。とはいえ、すぐに手を動かすわけでもありません。
私の場合、まず既存のブランドガイドラインを再解釈することから始めます。ブランドガイドラインには企業やサービスのコアとなる、ビジョンや価値観が込められてていることがほとんどですが、よくよく見返してみると思いがデザインに十分に反映されていないこともあります。
そこで、クライアントワークでジョインするからこそ見えてくる「このブランドが本当に伝えたいことは何か?」を自分なりに問い直し、深く理解することに努めています。
例えば、コープデリには「食べるしあわせ、自分らしい暮らし、「ともに」の力で、笑顔の明日を」というビジョンがあります。しかし、このビジョンを文章だけで伝えてしまうと、人によって解釈がバラバラになりがちです。
そこで、DO/DON’Tの具体例やイラストやアイコンのデザインルールなど、ブランドのアイデンティティを支える要素を一つひとつ整理して、ガイドラインを再定義していきました。これにより、ブランドとしての一貫性を高め、ユーザーとの信頼関係を育みやすくします。
コープデリのプロジェクトでは、LP、チラシ、告知動画といった周辺タッチポイントまでも手掛けましたが、新たなガイドラインに合わせ、ブランドとしての一貫性を保つように作っています。各種クリエイティブの詳細やこだわりはぜひ、こちらをご覧ください!
このような考えの下、昨年から「サービスブランディング」という領域を推進しています。
グッドパッチのUIデザイナーが手がけるのは、アプリやウェブだけではありません。ユーザーが触れるすべてのタッチポイントがデザインの対象だと思っています。
ブランドの基礎となる部分を言語化し、他のタッチポイントへと繋げていく。そうすることで、ユーザーがどのタッチポイントに触れたとしても、デザインを通じて「共感」や「信頼感」を感じられるようになると信じているからです。
ハートを揺さぶるデザインを生むために、自分が一番の「ファン」であれ
なお、このコープデリ宅配アプリのプロジェクトでは、「共感」を基軸にした取り組みを通じて、以下の成果を出すことができました。
- アプリ利用率が前年比28%向上
- 客単価・購入点数が30%以上向上
- 離脱率が大幅に低下
リニューアル後のアンケートからも、ユーザーから「使いやすさが飛躍的に向上した」「買い物が楽しくなった」といったポジティブな声をいただいています。開発面の課題(読み込み速度やエラー)は一部残っているのですが、それを補うほどユーザー体験の改善が達成されたのは、本当にうれしかったです。
そんな声を聞きながら「自分は、このサービスが大好きなんだな」と再確認ができました。このプロジェクトは他の案件に比べてとても付き合いが長く、もう2年ほど続いていますが、「もっと良くしたい」と毎日心から思えるのは、きっと私自身がこのサービスのファンになったからなのだと思います。
振り返れば、私が7年間グッドパッチでデザインを続けてこられた理由も、この会社のビジョンに共感しているからです。
「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」
この言葉が、これまで何度も私の背中を押してくれました。この言葉があるからこそ、デザインは単なる見た目や操作性を整える作業ではなく、体験を通じて人の心を動かし、共感を生むための手段だと信じ続けられています。
「今作っているデザインは、心から気に入ってるの?胸を張って『好き!』って言える?そうじゃないなら、まずは自分のハートが揺さぶられるデザインを作ってみようよ」
チームのメンバーにもよくこんな話をします。自分が感動できないデザインで、他人の心を動かすことなんてできません。だからこそ、まずは自分自身がそのデザインの一番のファンになることが重要だと感じています。どんなに機能的で完成度が高いプロダクトでも、これは変わりません。
あなたにとって「ハートを揺さぶるデザイン」とは?
「ハートを揺さぶるデザイン」とは、決して派手な装飾や目を引くビジュアルだけではありません。むしろ、私が思う「ハートを揺さぶるデザイン」は、使う人がふと「これいいな」と感じたり、日常の中でさりげなく心地よさを与えてくれたりするようなデザインです。
ユーザーの心を揺さぶるデザインには、必ずと言っていいほど、作り手であるデザイナーの思いが込められています。フォントの選び方、ボタンの形やアニメーション、配色の一つひとつに、「こうしたらきっと使う人が喜ぶんじゃないか」という感情が込められているはずです。
そんな小さなこだわりの積み重ねが、デザインを「機能」から「体験」へと変える力を持っていると私は考えています。そして、この「使う人を思う気持ち」こそが、デザインにおける「共感」だと私は捉えています。
「共感」とは、単にユーザーのニーズを満たすだけではなく、その背景にある感情や価値観に寄り添うこと。それがあるからこそ、私たちはデザインを一過性の道具ではなく、心に残る体験として人々に届けることができるわけです。
そして、人に気持ちを届けるためにも、まずは自分自身が「これが好きだ」と胸を張って言えるものを作ることが大切だと感じています。もし、今手がけているデザインで迷いがあるなら、一度立ち止まって問いかけてみてください。
「そのデザインを心から好きって言える?」と。
この記事が、あなたにとっての「ハートを揺さぶるデザイン」を改めて考えるきっかけになれば嬉しいです。記事を書きながらもっといろんな人の想いも聞きたいので、#ハトゆさデザイン で、ぜひ感想やご意見をシェアしてもらえたらうれしいです!
お知らせ:2024年アドベントカレンダー開催中🎄
この記事は、Goodpatch Design Advent Calendar 2024 Day13の記事です。他の記事もぜひどうぞ。
また、エンジニアも参加しているGoodpatch Advent Calendar 2024も開催中!そちらも併せてご覧ください!