サービスブランドを「維持」するための仕組みづくり──基準の定義からレビュー体制の構築まで
皆さん、グッドパッチでプロジェクトマネージャーをしている服部と申します。
これまでこの連載では「サービスブランディング」の解説や実践方法などを取り上げてきましたが、今回は取り組みを「維持」するための方法に触れたいと思います。
第2回の記事で、サービスブランディングには「一貫性」が重要ということを解説しましたが、ブランドの一貫性を保つというのは簡単なことではありません。
なぜなら、プロダクトやサービスが成長するにつれ組織も拡大し、マーケ、PR、営業、カスタマーサクセスなど、さまざまなステークホルダーが存在する中でそれぞれの部署で目標やKPIが分化していき、各所の取り組みに齟齬が生じたり、一貫性を保つことが困難になったりするケースも少なくないためです。
目的に沿った良い施策を続けていくには?良い施策ができているかをチェックするためには──。この記事では、施策の良し悪しを「品質」と定義し、基準を作り、それをレビューに使う仕組みづくりまでの流れを解説します。
目次
サービスブランディングの「品質」とは?
改めて、サービスブランディングにおける「品質」とは、
サービスやプロダクトの戦略に基づき、一貫性と独自性を持ちながら、ターゲット顧客に響く表現を実現できているかどうか
という点で、施策の良し悪しを判断する基準と捉えると良いでしょう。具体的には、以下の要素が絡み合っているかと思われます。
しかし、先に挙げた理由などによって、多くの企業でこの「品質」を保つことに苦心しています。特に経験の浅いデザイナーやサービス事業担当者にとっては、具体的に何をすべきかが分からない方も少なくないはず。ここからは品質維持のアプローチを1つずつ詳しく紹介していきます。
顧客視点に立ったデザイン
この連載では何度も触れていますが、サービスブランディングの品質を保つ上で最も重要な基盤となるのが、「顧客視点に立ったデザイン」です。
顧客の深層心理や行動パターンを洗い出し、さまざまなタッチポイントを考慮し、サービス全体を通じて一貫した体験を提供することが大切です。
顧客の行動、課題の深い理解と一貫性のある顧客体験の設計
実践のポイント
- ユーザーインタビューを定期的に実施する
- カスタマージャーニーマップを作成し、各タッチポイントの役割を明確化する
- サービス利用のログデータを分析し、実際の使用パターンを把握する
- カスタマーサポートチームと密に連携し、顧客の声を直接聞く
- 部門横断的なワークショップを開催し、一貫したメッセージングを確立する
優れたサービスブランディングは、顧客を本当に理解することから始まります。ここで言う「理解」とは、表面的なデモグラフィック情報を超えた、深い洞察を指します。詳しくは第2回の記事をご覧いただければと思います。
デザイン基準の明確化と共有
次に取り組むべきは、顧客の視点を具体的なデザインとして表現するための基準を設けることです。デザイン基準の明確化と共有は、一貫性のあるサービスブランディングを実現する上で不可欠なステップです。
品質基準の定義
デザインの品質基準とは、単にビジュアルスタイルガイドを作ることではなく、ブランドの価値観やユーザー体験の原則なども含む、包括的なガイドラインになるのが理想です。
実践のポイント
- ブランドの核心的を提供価値を3〜5個(数は場合による)に絞り込む
- 各価値観に対応する具体的なデザイン原則を策定する
- ビジュアル要素(色、タイポグラフィ、アイコンなど)の使用規則を定める
- UXライティングのトーンや表現方法を明確にする
など、これらは一部でしかありませんが、提供価値をベースにチームメンバーがイメージしやすいような言葉で言語化していきます。
チーム全体での基準共有
定義された基準は、デザインチームだけでなく、サービスに関わる全てのチームに共有していきましょう。デザイン基準を効果的に明確化し、共有するためのポイントは以下のようなものが挙げられます。
実践のポイント
- 定期的なワークショップを開催し、基準やルールの理解と適用を促進する(デザイン、開発、マーケティングなど、多様な視点を取り入れることも必要です)
- 基準の適用事例や成功事例を社内で共有する
- 定期的な基準のレビューと更新:市場動向や技術の進化に合わせて柔軟に対応する
- 新しいプロジェクトの開始時に、必ずデザイン基準の確認セッションを設ける
- 新入社員のオンボーディングにデザイン基準の学習を組み込む
- デザインシステムを構築し、全社で利用可能にする
デザインシステムを構築するデザインツールなどは、日々進化しデザイナー以外のメンバーにとっては、理解が難しいものになるケースもあります。デザイナーの役割としては、こうしたメンバーに対しても、同じ情報を理解してもらうために使い方や補足資料や勉強会などを通じて相互理解を深めていくことも必要です。
これらの実践により、チーム全体が一貫したデザイン基準を理解し、適用することが可能になります。
提供価値の明確化と反映
デザイン基準とほぼ同時に進むことになる場合も多いと思いますが、次に重要なのは、そのデザインの根幹となるサービスの価値を明確にし、それをサービスの隅々にまで反映させることです。
ここで言う価値とは、単なるキャッチフレーズや美しいロゴに留まるものではありません。顧客に提供する本質的な提供価値やサービスの存在意義となります。
サービスのブランドメッセージとアイデンティティの明文化
ブランド価値を明確にするには、以下のステップを踏む必要があります。
実践のポイント
- ブランドの存在意義(例えばパーパスなど)を言語化する
- ブランドの個性(ブランドパーソナリティ)を定義する
- ブランドが顧客に約束する価値(ブランドプロミス)を具体化する
- これらの要素を簡潔なブランドステートメントにまとめる
例えば、あるフィットネスアプリのブランドでは、以下のように定義をすることもできるでしょう。
サービスのブランド価値をデザインに反映させる仕組み
定義、明文化されたブランド価値を、実際のサービスのデザインに反映させるには、以下のアプローチが考えられます。
実践のポイント
- ブランド価値に基づいたデザイン原則を策定する
- 各デザイン要素(色、形、タイポグラフィ、イラストなど)がどのようにブランド価値を表現するかを明確にする
- ユーザーインターフェースの各要素(ボタン、フォーム、ナビゲーションなど)にブランド価値を反映させる方法を検討し具体化する
- ブランド価値に基づいたUXライティングガイドラインを作成する
部門間連携の重要性
サービスやプロダクトのブランド価値の反映は、デザイン部門だけの仕事ではありません。サービスに関わる全ての部門が協力して取り組む必要があります。
実践のポイント
- 部門間の定期的な連携ミーティングを設定する
- 顧客接点ごとにブランド価値をどう表現するかを可視化する
- 開発部門とも密に連携し、技術的な制約の中でもブランド価値を表現する方法を探る
- カスタマーサポート部門と協力し、顧客とのやり取りにもブランド価値を反映させる
- マーケティング部門と連携し、プロモーション活動の一貫性を保つ
これらの実践により、ブランド価値がサービスの隅々にまで行き渡り、顧客に一貫した体験を提供することができます。結果として、ブランドの記憶性と差別化が高まり、顧客ロイヤルティの向上につながる可能性もあります。
デザインレビューの仕組み化
最後に、これまでに構築してきたデザイン基準やブランド価値の反映が適切に行われているかを確認する「デザインレビューの仕組み化」について紹介していきます。品質を保証し、継続的な改善を行うための具体的な方法を探っていきましょう。
効果的なレビュープロセスの構築
デザインレビューを形骸化させず、真に価値あるプロセスとするには、下記のようなポイントが挙げられます。
実践のポイント
- レビューの目的と評価基準を明確に定義する
- 複数のレビューステージを設定し、段階的に品質を向上させる
- レビューアーの役割と責任を明確にする
- レビュー結果の記録と共有の仕組みを整える
例えば、以下のような3段階のレビュープロセスを導入してみるというのも一つの方法かもしれません。
フィードバックの方法と改善サイクル
レビューで得られたフィードバックは、継続的な改善につなげることが重要です。デザインレビューを効果的に仕組み化するための具体的なステップ例を示してみました。
上記のように、レビューが一過性のもので終わらないように仕組み化することがまずは大事です。
また、フィードバックの仕方については、世の中に様々な情報があるので詳しくは割愛しますが、例えば「サンドイッチ法」や「PNP法」と呼ばれるフィードバック手法があります。
これは、ポジティブな点、改善点、そして再度ポジティブな点を述べる方式で、建設的な議論を促進し、デザイナーのモチベーションを維持という点でも効果的かもしれません。
フィードバックするときの観点
- 建設的で具体的なフィードバックを心がける
- フィードバックを「何が」「なぜ」「どのように」の3要素で構成するなど明確に
- フィードバックの優先順位付けと対応計画の作成
- 改善結果の検証と次のイテレーションへの反映
これらの実践により、デザインレビューが単なるチェック作業ではなく、チーム全体の学びと成長の機会、新しいアイデアや革新的なアプローチを生み出す場となり、結果として、アウトプットの品質が継続的に向上し、顧客満足度の向上につながる可能性があります。
まとめ:品質を保つための統合的アプローチ
ここまで、サービスブランディングの品質を保つための実践的アプローチについて紹介してきましたが、一連のプロセスは、独立して機能するものではなく、相互に関連し合い、補完し合うものです。統合的に活用し、持続可能な品質管理システムを構築していきましょう。最後におさらいとして、プロセスの概略を再掲します。
主なアプローチ例
- 顧客視点に立ったデザイン:全てのアプローチの基盤となり、他の要素に指針を与えます
- デザイン基準の明確化と共有:顧客視点を具体的なガイドラインに落とし込みます
- 提供価値の明確化と反映:デザイン基準に魂を吹き込み、一貫性のある体験を創出します
- デザインレビューの仕組み化:上記3つの要素が適切に実践されているかを検証し、継続的な改善を促します
これらのアプローチを有機的に連携させることで、サービスブランディングの品質を総合的に高めることができます。
また、下記のステップで自社のサービスでもサービスブランディングに関するアクションをしてみてください。
主なステップ例
- 現状分析:自社のサービスブランディングの現状を、紹介したアプローチの観点から評価してみる。
- 優先順位付け:最も改善が必要な領域を特定し、取り組むべき課題の優先順位をつける
- パイロットプロジェクト:小規模なプロジェクトで、これらのアプローチを試験的に導入してみる
- チーム内共有:学んだ内容をチームメンバーと共有し、組織全体でサービスブランディングの品質向上に取り組む機運、素地を作る
- 継続的学習:サービスブランディングの分野は常に進化しています。業界のトレンドや最新のベストプラクティスに常にアンテナを張り、学び続ける
サービスブランディングの品質を保つことは、一朝一夕にはできません。しかし、本記事で紹介したアプローチなどを参考に地道に実践していくことで、顧客に寄り添い、ブランドの本質を体現し、チーム全体で品質向上に取り組むことで、競争力のあるサービスを生み出し続けていきましょう。
グッドパッチには、サービスブランディングプロジェクトを推進した経験と実績のあるデザイナーが在籍しています。サービスブランディングに関する課題をお持ちの方や、まずは相談してみたいという方は、こちらからぜひ、お問い合わせください。
関連リンク
グッドパッチデザインパートナーシップ – サービスブランディング紹介ページ
https://design-partnership.goodpatch.com/solutions/service_branding
差別化とユーザー増のカギになるサービスブランディングとは? メリットと進める上での注意点
https://goodpatch.com/blog/2024-07-servicebranding01
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