高齢化・労働人口の減少、医療費の増大、健康寿命の延伸、ユーザーニーズの変化や予防意識の高まり、テクノロジーの進展、さらにはコロナ禍を背景に、日本においてもデジタルヘルスが注目され、成長は加速しています。
オンライン診療や医療機関の予約、治療アプリ、モニタリング、予防・ウェルネス関連サービス、ヘルスケアデータ利活用をはじめ、様々な領域でデジタルヘルスのサービスが普及しています。

ヘルスケア×デザイン vol.1では、グッドパッチメンバーが注目したデジタルヘルス領域のニュース3選とグッドパッチが支援したヘルスケア領域の事例をご紹介したいと思います。

デジタルヘルスケアトピック3選

今後のヘルスケア業界、デジタルヘルスを語る上で、多くのトレンドやキーワードが挙げられますが、とりわけデザイン会社の観点から、グッドパッチは「患者中心(Patient-Centric)」というキーワードに注目し、実際にそれを基づいたデザインを展開しています。患者中心とは、患者にフォーカスした医療対応を行い、最終的に患者本人の人間性や判断を尊重するという考え方で、患者中心の後には、治療・ケア・主義等のワードが続くことが一般的です。また、患者の治療にあたる医療従事者に限らず、製薬会社や医療機器メーカーにおいても、治験をはじめ患者の声を反映した開発等、取り組みが進められています。当然、患者だけではなく、例えば、ウェルネス領域のプロダクトやサービスのように、健常者も含めた幅広いユーザーが対象です。

今回ピックアップした3つのトピックは、それぞれ領域やテーマは異なりますが、患者・ユーザーを中心に置いたプロダクト・サービス、体験設計を意識していると言えるでしょう。

トピック1 オムロン・JMDCの資本業務提携

  • ポイント1:ヘルスケアデータとデバイスの融合による新たな予防ソリューション開発
  • ポイント2:バイタルデータとレセプトデータによるヘルスケアデータ基盤の強化
  • ポイント3:1,000億円超のディールサイズ

引用元:https://www.jmdc.co.jp/wp-content/uploads/2022/02/news20220224.pdf

2022年2月に 、オムロンがJMDCと資本業務提携し、JMDCの33%の株式取得(1,118億円)が発表(詳細はこちら)されました。
オムロンは、オムロンヘルスケアを中核に、血圧計や体組成計、ネブライザー等の医療機器を展開し、脳・心血管疾患の発症リスクを予測し未然に防ぐためのゼロイベント(詳細はこちら)にも積極的に取り組んでいます。
一方、JMDCは、保険者から取得したレセプトデータを基に、主に製薬企業向けのヘルスケアデータ関連事業や予防事業を展開する、リアルワードデータ領域におけるリーディングカンパニーです。
将来的には、オムロンが取得可能なユーザーの血圧やバイタル・活動データと、JMDCが取得可能なレセプトや健診データをヘルスケアデータを統合し、ヘルスケアデータプラットフォームを強化することで、疾患のリスク分析や因果関係の予測の精度向上を企図していると推察されます。
また、デバイスとデータを組み合わせ、ユーザーの早期の行動変容を促進させる新たな予防ソリューションの開発を目指していると言えるでしょう。
患者はもちろん、健常者も含めたユーザーに対して、デバイス・データ・サービスがシームレスに統合された体験を通じて、一時予防や早期の行動変容、受診促進、予後管理の更なる促進が期待できます。

トピック2 治療アプリCureappの保険適用

  • ポイント1:国内では2つ目となる保険適用がされた治療アプリ
  • ポイント2:アプリを通じた患者さんの行動変容の促進、治療効果の向上
  • ポイント3:米PEファンド カーライルによる70億円の出資

引用元:https://cureapp.co.jp/productsite/ht/

医療系スタートアップのCureAppが開発した「CureApp HT高血圧治療補助アプリ」(詳細はこちら)が、2022年9月に保険適用されました。国内での保険適用は同じくCureAppが開発した禁煙アプリに続く2例目で、ソフトウェア単体では初となります。なお、高血圧症疾患領域における治療アプリの保険適用は世界初。
本アプリでは、キャラクターや動画を用いた知識習得のサポート、個々の患者さんに合わせた行動の提示、日々の血圧の推移を実践した行動と結びつけて
可視化することで患者さんの自己効力感を高めるような設計を採用しています。このように、アプリ上で喫煙や高血圧など生活習慣の修正に向けた行動変容の促進も重要です。
また、CureAppは2022年8月、米投資会社のカーライルから出資(約70億円)を発表し、経営体制・ファイナンスの面からも更なる強化が想定されます。
近年、欧米を含め治療用アプリの開発は活発化し、糖尿病や認知症など様々な領域で進められています。国内でも、サスメドが不眠症の治療アプリの製造販売承認を厚生労働省に申請中です。
今後は、糖尿病や精神疾患、アルコール依存症など診療時間以外の日常生活で治療が可能なものに対する治療アプリの開発や社会実装が一層進むものと見られます。一方で、治療アプリの社会実装のハードルはまだまだ高いのが現状です。例えば、臨床試験による有効性の検証は長期間を要すること、薬事法の対応の体制構築の煩雑さ、医療機器プログラムとしての認定基準や診療報酬の点数など様々なハードルがあります。今後は、法整備も含め、国内のスタートアップやエンタープライズでこのような治療アプリの開発がより活発化することでしょう。

トピック3 アマゾン薬局の日本参入

  • ポイント1:診療、服薬指導、薬の配送のオンラインサービスの統合
  • ポイント2:大手調剤チェーンの店舗主軸のビジネスモデルからの脱却 

引用元:https://pharmacy.amazon.com/

最後のトピックは、アマゾンの公式なプレスリリースではなく、あくまで憶測の域を出ない話ではありますが、アマゾンが国内の中小薬局と組み、患者がオンラインで服薬指導を受ける新たなプラットフォームをつくると報じられました(日本経済新聞の9/5の記事の詳細はこちら)。
患者は、オンライン診療や医療機関での対面診療を受けた後、電子処方箋を発行してもらい、薬局に立ち寄らずに、アマゾンのサイト上で薬局に申し込み、薬の自宅配送まで完結できるという仕組みです。電子処方箋の運用が始まる2023年からサービス提供が開始されるのではと推測されています。
すでに、米アマゾンは処方箋デリバリーサービスを展開するPillpack社を買収し、オンライン薬局「Amazon Pharmacy」を立ち上げています。国内でも既に一般用医薬品を取り扱い、圧倒的な物流網と顧客データを有する、アマゾンが本格的に処方箋ネット販売領域に進出する可能性があります。今後は、他の大手調剤チェーンも店舗での対面服薬指導を主軸とした従来のビジネスモデルからの転換が加速するでしょう。
患者・利用者の体験や利便性の観点からみた場合、診療から服薬指導、薬の配送までオンライン上で、シームレスなサービスを受けられる点は、非常にメリットも大きいと思われます。国内でもドコモとメドレーが、オンライン薬局等のサービスを展開するミナカラの子会社を昨年発表しました(詳細はこちら)が、今後もこうしたオンライン診療から薬の配送まで、サービス統合の流れは加速するものと推察されます。
一方、医療費の多くが高齢者に使用されていることからもわかる通り、全ての患者が、こうしたオンラインプラットフォームをすぐに利用するとは考えにくく、かかりつけ薬局・薬剤師という視点で見た場合、患者への情報提供や継続的なケアの面の観点からも、一定の懸念の声もあるはずです。まだ憶測の域を出ないトピックですので、引き続き動向を注視していきたいと思います。

 

他にも今年は、

  • DeNAによるデジタルヘルスのスタートアップのアルムの子会社化(詳細はこちら
  • 訪問看護ステーション向けSaaS型業務支援ツールを展開するeWeLLの上場(詳細はこちら

等、気になるトピックは他にもたくさんありましたが、また今後機会があれば、触れていきたいと思います!

グッドパッチ×ヘルスケア 事例紹介

グッドパッチでも、デジタルヘルス領域のサービス・プロダクトの立ち上げやUI/UXのリデザイン、アプリ開発、ユーザーインサイトリサーチ等、ご相談を多くいただいています。
デジタルヘルスのプロダクト・サービスの開発においては、以下がポイントになります。

  • ユーザーの年代、ライフスタイル、疾患レベル、モチベーション等が異なる中、誰でも使いやすい高いユーザビリティ
  • ユーザーに継続的に続けてもらうためのユーザー体験、仕組みの設計
  • 特にウェルネス領域においては、インセンティブも含めたリテンション施策や設計

また、患者やユーザーに限らず、医師、看護師、薬剤師をはじめとした医療従事者、プロダクト・サービスによっては、事務職、ヘルパー等、幅広いステークホルダーが利用する場合も多く、業務や役割への深い理解が求められます。さらには、機密性が高い情報やデータを扱うため、セキュリティも含め各種ガイドラインに則ったプロダクト・サービス開発が必要となります。

実際に、ヘルスケア業界から異業種、さらに、エンタープライズからスタートアップまで幅広いクライアントからご相談があり、実績を公開しているプロジェクトのみですが、以下のようなご支援をさせていただいています。

メドレー オンライン診療アプリCLINICSのUIリニューアル

コロナ渦において服薬指導などの機能も加わったCLINICSアプリのデザインリニューアルを支援。CLINICSアプリの将来あるべき姿を可視化し、拡張性を担保しながら既存アプリのUIをリニューアルしていくまでのプロセスを定め、UIデザインと開発支援を実施。

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サントリー食品インターナルナショナル 健康行動習慣化アプリSUNTORY+開発

従業員の健康行動習慣化をサポートするヘルスケアサービスアプリの0→1のアイデア創出、UX/UIデザイン、開発、グロースまで支援。また、ブランドの思想を言語化したVision・Mission・Valueを基に、iOS/Androidアプリ、サービスサイト、プロモーションツール等、ユーザーとのあらゆる接点で統一感のある体験をデザイン。

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セルソース 医療現場におけるインサイトリサーチ

血液由来加工受託サービスの認知に向けたインサイトリサーチ並びに施策の方向性づけ、アクションの落とし込みと優先順位づけを支援。認知向上に繋がるインサイトを多角的な調査から獲得し提案した施策は、現在では営業戦略の中心的な施策の一つとなっている。

新規事業創出やサービス改善などに向けた「人」起点のリサーチおよびサービスデザイン領域に知見を持つグッドパッチのインサイトリサーチチームがプロジェクトを担当。

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おわりに

次回のブログでは、デジタルヘルスとウェアラブルデバイスについてデザインの視点からまとめてみたいと思います。
また、今後はBlog以外での発信も検討しており、ヘルスケアやデジタルヘルスにあまり馴染みがない方も、ぜひ楽しみにしてください!

執筆者紹介

今回Blogを書いたグッドパッチの酒井です。グッドパッチでは、デザインストラテジストとして、新規事業やブランディング、組織デザイン等のプロジェクトを担当しています。前職ではヘルスケア業界に特化したコンサルファームで、デジタルヘルスサービス立ち上げ支援や事業性評価等のプロジェクト等も支援してきました。
改めて、この場を借りて、前職でお世話になったパートナーやメンバーには感謝の意を述べたいと思っております!

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同じくグッドパッチの児玉です。グッドパッチではUXデザイナーとして、探索的ユーザーリサーチ・コンセプトやプロダクトのユーザテストや数値分析の実施、リサーチ結果に基づいた体験設計、プロダクト開発の並走をしています。大学時代から介護や医療に興味があり、現在は医療系サービス開発のプロジェクトに参画しています。

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