MVP(Minimum Viable Product)開発とは、新規事業のアイデアの質を検証する際に有効な手法のひとつです。仮説に基づいた最小限の機能を低コスト・短期間で実装し、ユーザーからフィードバックを得ることで、低リスクかつ早い段階での修正・改良を可能にします。リスクを抑えつつ成功確度を高めたい場合におすすめです。

Goodpatchでは、あるクライアントの新規事業のMVP開発(iOS/Androidアプリ)を、デザインからリリースまで6ヶ月で実施しました。(ヘルスケア系サービスで法制約の調整なども含めた期間です。)

リリース後のユーザーの評価は高く、アイディアの確度が高いことが確証できたので、現在はブラッシュアップバージョンの開発を進めています。
この記事では、MVP開発を進めていくポイントを紹介します。

ポイント①仮説に基づいたコンセプト・コア価値をしっかり設計する

初期段階ではまずユーザー調査を行い、明らかになった課題やニーズを元に、提供したい価値を発散し理想状態を検討することから始めました。その中で、本当にこのソリューションがユーザーの課題やニーズに適しているのかをよく考え、コアの価値や体験に絞り込んでいく作業を行います。

具体的な作業として、プロジェクトでは以下のフローで進めました。

  1. 課題の重要度とアイディアの整理
  2. 価値マップを整理
  3. サービスが提供する理想状態を検討
  4. 価値に紐づく体験の整理とユースケースの作成

価値マップとは
ユーザーがサービスを使用することで得られる複数の価値の関係性を示したものです。サービスが提供するコア価値を中心に価値同士のつながりや得られる順番などを整理します。

ユースケースとは
ユーザーが実際にどのようにサービスを使用するかを示したものです。「ユーザーがプロフィール情報を入力する」など、誰が・なにを・どうするかを端的にまとめて整理します。

このフェーズで重要なのは、ユーザーにとって重要なコアな価値に絞り込んで体験を考えることです。ユーザー調査で明らかになった課題やニーズの重要度を見極め、それを解決する価値は何かをきちんと定めることで、サービスの軸となるブレないコンセプトやコア価値を作ることができます。

もちろん、できる限りユーザーの課題を解決したい気持ちもありますが、最初から全ての課題に取り組むのではなく、本当に重要な部分に注力した理想状態の体験を設計することで、チームがサービスとして達成すべきことの共通認識が作られます。また、小さく早く検証を回し改善をしていく土台とするためにも、広げすぎないで考えることが大事になります。

MVP開発をさらにスムーズにするため、ユースケースをベースとした仕様書を作ることもおすすめです。詳しくは以下の記事をご覧ください。

ポイント②優先度をつけて必須機能を絞り込む

①で整理したコンセプト・コア価値を元に、簡易的なモックアップをUIデザイナーが作成し、ユーザーインタビューを行いました。そのインタビューの分析結果を元に、コア機能を絞り込んでいきます。

このプロジェクトでは、ユースケースを用いて「必須」「不要」「Tobe(今は必要ないが将来的には必要かもしれない)」で分別していきました。分別基準としては、理想の状態・届けたい価値にどれくらい寄与しているかどうかです。ダイレクトに関わるものを「必須」と判断し、プロダクトの将来的な拡張視点でほしい機能は「TOBE」、ユーザーニーズが低いものは「不要」と判断し整理しました。

このフェーズで重要なのは、機能過多を防ぐことです。より良くしようと思いすぎるとあれこれ機能が増え始めてしまうので、コア価値を届けるのに絶対必要な機能をまずは考えます。もしかしたら今回インタビューしてない人で欲しいと答える人もいるかも….という考えは一旦端に置いておき、自分たちの届けたい価値を基準に、時には大胆に切り捨てていくことが大事です。

もし、このタイミングで機能が削ぎ落とせずにどれも「必須機能」になってしまった場合は、①で設計したコンセプト・コア価値に問題があるかもしれないです。コンセプトが明確ではないことによって、判断しきれなくなっている可能性が高いからです。本当にいいコンセプトであれば、あれもこれも機能はいらないはずです。逆にあれこれ付け足したくなったら危険サインくらいの認識をチームで持っておいてもいいのかもしれません。

ポイント③MVPリリース後検証に必要な機能・品質を定義する

②で絞り込んだ必須機能が紐づくユースケースを元に、MVPのUIデザインを作成していきます。今回のプロジェクトはネイティブアプリ(iOS/Android)であったため、なるべくHuman Interface GuidelinesやMaterial Designで指定されている標準的なコンポーネントを使用し、開発コストを下げる方向で進めました。そこからある程度UIデザインができてきたら、早い段階でエンジニアと共に開発コストを検討していきます。

このフェーズで重要なことは、MVPリリース後に検証したいことをベースに、どこまで開発コストをかけたほうがよいか見極めていくことです。そうしないと、機能を最小限にしても、詳細な仕様でどんどんとコストが膨らんでいってしまいます。
もちろんデザイナーとして細部までこだわって理想を届けたいですが、プロジェクトである以上限られた予算・時間・人員でどこに注力すべきかを間違わずに決めて進めていくことが重要です。

例えば、間違いなくユーザーニーズがあり検証の必要のない項目は、開発優先度を下げてリリース後に追加実装する判断もありかもしれません。
実際にプロジェクトでも、ユーザーニーズが高くコア価値にも直結する機能ですが、コンセプト検証時点で評価されることが分かったので、検証では必要はないため後発でいいと判断し、初期リリースからは機能をまるごと削ぎ落としました。こうして、開発側のコストも最小限になるように、調整していきました。

ポイント④注力すべき部分を絞って品質を上げる

ここまではとにかくスピードを優先するためのポイントを記載してきましたが、とはいえ簡素なプロダクトで出すとユーザーの気持ちに寄り添いが足りなかったり、ワクワク感がほぼなくなってしまいます。ですので、例えばユーザーが一番目にする画面はビジュアルデザインやアニメーションにコストをかけたりするなど、注力するポイントを押さえて作り込むことも重要かと思います。

プロジェクトでも、比較的開発コストの低い画像差し込みのイラストレーション表現にコストをかけたり、ホーム画面のデザインが時間によって変わるなど、プロダクトに愛着をもってもらえる仕掛けをいくつか組み込みました。

ただ、作っていくともっと注力したいと思う部分やアイディアはたくさん出てくるのですが、いきなり全てを作りきらないという意識はやはり大事です。開発されたものを見たり検証をした上でブラッシュアップをしたほうがコスパもよく本質的な改善ができるので、アイディアはしっかりログ化して残しておきましょう。

一番大切なのは小さく早くリリースをすること

アイデアの筋が良いか見極めをするフェーズの場合、ユーザーにとってのサービスの価値の良し悪しは、実際に使ってもらわないと本当のところは分からないと思います。
リニューアルプロジェクトの場合は既にプロダクトがあるため、フルリニューアルとして作り込むにもある程度根拠がある状態でできます。しかし、新規事業の場合は世に出ていないので、確実なことはわかりません。

なので、小さく早くリリースするということを、チームで強く意識することが重要だと思います。(自戒も込めて)

作り込みすぎないことによって、確度が低かった場合にピボットする身軽さが生まれますし、プロダクトに固執することもなくなります。確度が高ければ次のステップとして根拠に基づいた作り込みをしていけます。その認識をプロジェクトチームで持ち、MVP開発に取り組むとよいのではないかと思います。

まとめ

今回は、実際のプロジェクトを元に、MVP開発のポイントをご紹介しました。必要最小限の状態でリリースすることで、時間とコストをかけずに価値検証ができる手法ですので、ぜひ新規事業を検討中の方はご活用ください。

また、GoodpatchではこれらのMVP開発をスピーディーに実施できるメンバーがおり、アイデア創出から開発まで一貫して支援していきます。Goodpatchとの共創に興味を持たれた方は、ぜひ以下のお問い合わせからご連絡いただき、より詳しくお話しできればと思っています。「お問い合わせ内容」の欄に、こちらのブログ記事を読んで興味をもった趣旨を書いていただけますとよりスムーズかと思います。詳細のまだやることが決まっていない段階でのディスカッションなども大歓迎です!

執筆者

UX Designer: Aya Kodama
Ul Designer: Yuki Yamashita