今回は、GoodpatchのUXデザイナーに、UXデザインを理解するためのおすすめ本を教えてもらいました。これからUXデザインを学んでいく初心者の人や、ユーザー中心の視点でプロジェクトを進めたい人に向けて、目的別に6つのカテゴリに分けてご紹介します。2021年最新版のブックリストです。

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1. UXデザインを基礎から理解する

初心者向けに、まずは「ユーザー体験(UX)」という捉えにくい概念について理解するための教科書のような本をご紹介します。

UXデザインの教科書

UXデザインを「知る・理解する・実践するための教科書」といえるでしょう。本書ではUXデザインをひとつの学問領域として捉えており、歴史的背景から理論、プロセス、手法までを体系的に学ぶことができます。

教科書という名の通り、体系的でボリュームがある内容なので、基礎的なプロセスを理解している中級者レベルの人だとスムーズに読み進められそうです。

基礎知識は身についたけれど、UXって結局なんだろう?と感じたら、この本で「ユーザーのもっとうれしい体験のために」という原点に戻ることができそうだと感じました。

 

UX原論 -ユーザビリティからUXへ-

著者の黒須正明さんは、まず冒頭でこう指摘します。「UXという言葉が生まれてから、もう20 年ほどになり、いまでは典型的な“バズワード”の一つとなっている。すなわち、世間で広く使われるようにはなったものの、定義が曖昧な流行語ということである。」

そのため本書は、UXの概念を改めて整理し、そのうえでUXに関連した活動が活性化することを目的として書かれています。

ユーザビリティ分野の第一人者である黒須氏によって、UXという言葉が生まれる前のムーブメントから今日の状況までが克明に描かれており、まさに「原論」を読むことのできる一冊です。

 

2. サービスデザインの考え方や手法を知る

「サービスデザイン」とは一言でいうと、ユーザーを考慮して事業を作ることです。日本でも民間企業はもちろん、行政までもがサービスデザインに注目し、様々な実践が試みられています。

This is Sservice Design Thinking. Basics – Tools – Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計

サービスデザイン思考を用いた、”顧客中心時代”における新しいビジネスモデル構築について体系的に解説されています。

サービスデザインの基礎概念となる5原則や、企画・リサーチ・分析・設計・テスト・再設計・実施の手法などを学ぶことができます。

たくさん図版と共に丁寧に解説されており、サービスデザインの入門書と言えるでしょう。

 

This is Service Design Doing サービスデザインの実践

上記の『This is Service Design Thinking』の著者らによる続刊です。サービスデザイン思考が世界中で一般化していったことに伴い、原則のみにとらわれることなく、より「実践(Doing)」を意識した内容に刷新されました。

約600ページにも及ぶボリュームで、サービスデザインを実践するためのすべてを詳細に解説した完全ガイドです。

 

アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る

著者の藤井保文さんは、「来るべき未来を考えたとき、すべてがオンラインになる」と主張します。

例えば、ここ数年で「購買はほとんどモバイル決済でするようになった」という人も多いのではないでしょうか?このように、人のあらゆる行動がオンラインデータ化し、オフラインの存在しなくなった世界を「アフターデジタル」と筆者は呼びます。

こうした時代において、オンラインを前提にしたサービスデザインについて述べられた本書。デジタル担当者はもちろんのこと、未来を拓くすべてのビジネスパーソンに読んで欲しい1冊です。

 

3. UXデザインを組織に浸透させる

ユーザー体験の重要性に気づき改善を試みても、組織内でいきなりUXデザインを実践し始めることは難しいと思います。そんなとき、どう実践していけばいいのか、異なる部署をどう巻き込んでいけばいいのかなど、UXデザインを組織に浸透させるのに役立つ本をご紹介します。

一人から始めるユーザーエクスペリエンス

タイトルにもあるように、一人でも取り組めるUXの指南書のような本です。

前半は導入編として、「UXとは?」という全体像の解説から始まり、専門的なサポートがない環境でどうUXを推進していくかについて学べます。

後半は実践編で、27のメソッドを所要時間・使いどころ・進め方に沿って解説しています。27の手法はとても厳選されている印象だったので、すぐに取り入れることもできると思います。

著者のLeah Buley氏は、所属するコンサルティングファームAdaptive Pathにおいて、チームが成果を出せる理由を学びました。その経験から、組織にUXを導入したいけれどサポートを得られない人に、どうノウハウを伝えればよいのか考えるようになったそうです。

「プロジェクトでUXデザインをもっと浸透させたい」と考える、プロジェクトマネージャーの人に特におすすめです。

 

UX戦略―ユーザー体験から考えるプロダクト作り

UX戦略とは、企業戦略としてユーザーの体験を向上させることで、プロダクトを成功に導くという考え方です。この考え方に基づいて、潜在的顧客、競合他社製品、提供価値の創造などを紐解き、革新的なプロダクトを生み出す方法を学ぶことができます。

UXデザインの考え方は、デザイナーだけのものではありません。サービス・製品づくりをする人、つまりビジネスに関わる人全員が持つべき考え方ではないでしょうか。著者の経験ベースで実例を用いた解説が多いので、デザイナー以外の職種の人にも「なぜUXが重要視されているのか」を考える機会を持つために、是非読んでいただきたいです。

また本書には、弊社代表の土屋が前書きと帯にコメントを寄せています。

この本ではUX戦略だけではなく、具体的な戦略に当たる手法やメソッドまで細かく書いてあり、この種の本の中でも戦略を題材にここまでまとめた本は今までなかったのではないだろうか。スタートアップの起業家、企業の経営陣はもちろん、デザイナー、エンジニアを率いるリーダーやマーケッターなど多くの人に読んでもらいたい一冊である。

(「日本語版まえがき」より)

 

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン

リーン思考とは、チーム内の齟齬や思い込みなど無駄な要素を削ぎ落とし、プロジェクトを迅速に進めようとする思考法です。

本書では、リーン思考に基づいた構築・計測・学習のループをUXデザインに応用することによって、最適なデザインに最短で到達する方法が解説されています。

つまり、タイトルにある「リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン」とは、

製品のUXを高めるためにスピーディーにユーザーへ製品を届ける。

分析や計測を行い、徐々に製品の完成度を高めていく。

この姿勢のことであり、本質的なユーザー視点でのものづくりに取り組む手法であると言えます。

なぜスピード感がUX向上のために求められるのか、チームに広める時にも役立ちそうな本ですね!

 

4. UXデザインの具体的な実践プロセス

UXデザインの概論や歴史、組織への組み込み方などを理解した上で、それでは具体的にどのようなプロセスで実践していけばいいのかを教えてくれる3冊をご紹介します。

ユーザビリティエンジニアリング(第2版)―ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法

「ユーザー中心設計の流れが網羅されている本」としてUXデザイナーが紹介してくれました。

ペルソナ、カスタマージャーニー、プロトタイピングなどの基本的な手法の解説から、ユーザー視点での製品開発を知ることができます。ユーザー視点で製品開発をすることで、作り手の都合や思い込みでユーザー体験を損ねる可能性がなくなるので、今一度しっかり向き合いたい内容です。

初心者でも理解しやすい丁寧な文体で書かれており、UXデザイナーを志望している学生の人にもおすすめ。UXの重要性に気付いているけれど、実践の方法が分からないと悩んでいるなら、一度読んでみてはいかがでしょうか。

 

Subject To Changeー予測不可能な世界で最高の製品とサービスを作る

米国でユーザーエクスペリエンスをテーマに活動するコンサルティングファーム、Adaptive Pathの主要メンバーが書き下ろした1冊。

Adaptive Pathは優れたUXのために、戦略と設計の2つの観点からアプローチをとることで有名です。2014年にアメリカ金融大手のキャピタル・ワンに買収されたことも記憶に新しく、FinTech業界をUXデザインによって先導していく存在になりつつあると言えます。

そんなAdaptive Pathの製品・サービス開発におけるノウハウが詰まった本書は、社内のメンバーから「徹底的なユーザー目線でのものづくりを始めるマインドセットになる」とコメントがありました。

変化の激しい市場環境で優れた製品・サービスを生み出す方法についてしっかり学べるので、自らが関わる製品のUXデザインに活かすこともできると思います。

 

IA/UXプラクティス モバイル情報アーキテクチャとUXデザイン

「初心者でも読みやすいし、実務にも活かせる」と社内のプロジェクトマネージャーが推薦してくれました。IA/UXデザイナーの坂本貴史さんによる、モバイルを中心としたUX設計についての本です。

著者は本職において、大規模Webサイトのマルチデバイス対応を経験。その中で培った知見を元に、初心者が実践に結びつけてイメージするのが難しい点を、Q&A方式で解説しています。

優れたUXを実現するためには、手法だけではなくきちんと情報設計されていることが大切だと気づかされる1冊。まずはモバイルという身近なテーマから、UXデザインを学んでみませんか?

 

5. ユーザー起点の体験設計

ビジネスを成功させる上で、「どうすれば人の心を捉えられるのか?」「より多くの人に興味を持ってもらうには」というポイントを知りたい人のために、ユーザーの目線を徹底的に紐解いている3冊です。

Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール

Facebook、Twitter、Instagram…人気サービスに「なぜ人はハマるのか?」これが本書のテーマです。

これまでは暗黙知であった「ヒットするための法則」を理論立て、「習慣化」をキーワードに解明していく1冊。筆者が提唱した「フック・モデル」に従って、新サービスをどのようにユーザーへと浸透させ、継続的に使ってもらうかが解説されています。

フックモデルは4つのプロセスから成ります。

「フック・モデル」の4つのステップ

①トリガー(きっかけをもたらす)
②アクション(行動を促す)
③リワード(報酬を与える)
④インベストメント(投資させる)

(本書より)

ユーザーを「ハマらせる」、言い換えればユーザーに「習慣を提供する」方法が具体的に書かれていて、商品企画などを実践する人はもちろん、読み物としても面白い1冊だなと思いました。

 

ストーリーマッピングをはじめよう

ウェブサイトやアプリ、サービスなどのプロダクトには、映画と共通した部分があると本書では語られています。その共通点とは、オーディエンス(ユーザー)の心を掴み、エンゲージメントを得るためには、土台にしっかりしたストーリーが必要だという点です。

つまり本書の主題は、「サービスや商品を作る時は、ユーザーのストーリーをデザインするという考え方でUXに向き合おう」ということ。

「UXデザイン」という言葉は、抽象的で難しそうに感じてしまうかもしれませんが、「ストーリーのデザイン」という表現は初心者でも理解しやすいので、入門にぴったりなのではないでしょうか。

ストーリーを用いたサービスのデザインについて、弊社のプロジェクトマネージャーが実践方法などをまとめた以下の記事も参考にしてみてください!

【アイデアの可視化】ストーリーを使ったサービスをデザインする方法

 

機会発見ー生活者起点で市場をつくる

UXを構成する要素として欠かせないユーザー調査について、社会学の手法に基づいて「観察」を軸に進めていく手法が書かれています。

著者の岩嵜博論氏は、博報堂のイノベーションデザインディレクターとして、生活者の発想という起点で事業を作る活動をされています。その中で「今までにないものを作るためには」という課題について試行錯誤を重ね、「機会発見」というアプローチにたどり着いたそうです。

この機会発見というアプローチは、著者が日常的に接しているマーケティングの世界で培った経験に加えて、「社会学」と「デザインシンキング」がベースとなっている。(中略)みなさんにとって本書が、これまでの価値観やルールから一旦離れるきっかけとなり、「いままでにないもの」を生み出す手助けになることを願っている。

(まえがきより)

ユーザーにとって「いまよりいいもの」ではなく「いままでにないもの」をつくる、という本書の視点は、商品企画や新規事業に新たな突破口を与えてくれるかもしれません。

 

6. ユーザー中心「だけではない」デザイン

ここまでユーザーの事情や気持ちを考慮したUXデザインの書籍について紹介してきましたが、それとは対照的に、サービス提供者がユーザーに「贈りたい・使って欲しい」という想いから生まれるサービスもあります。

デザインの次に来るもの

デザインについてもっと勉強したいなら、と薦められたこの本。

本書では、ユーザーの問題解決を図る「デザイン思考」だけでは今後も選ばれ続ける製品は生み出せないという主張がされており、新しい手段として「意味のイノベーション」という経営戦略が紹介されています。

ろうそくが今でも売れ続ける理由は、「ただの灯りとしての存在」から「あたたかみを演出するアイテム」にそもそもの価値が変わったためだと分析していて、ビジネスとデザインについて俯瞰的に書かれているところなど、読んでいて非常に興味深く、職種を問わず楽しみながら読める内容だと思います。

 

突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる

こちらも同じく「意味のイノベーション」がテーマになっています。

世界で100社以上のイノベーションプロセスとその課題を調査してきた著者が主張するのは、「人々に愛されるモノゴトを創造したければ、問題解決からは離れるべきだ」ということです。

意味の創造においては、あなたの価値観や、あなたが信じているもの、世界に対するあなたのビジョンがとても重要な起点となる。例えるなら、それは贈り物のようなものだ。

(本書「はじめに 読者への贈り物」より)

イタリアのミラノ工科大学で教鞭を執るロベルト・ベルガンティ教授のときに詩的な口調が楽しく、あっという間に読んでしまう1冊です。

 

今回紹介した書籍一覧

  1. UXデザインを基礎から理解する
  1. サービスデザインの考え方や手法を知る
  1. UXデザインを組織に浸透させる
  1. UXデザインの具体的な実践プロセス
  1. ユーザー起点の体験設計
  1. ユーザー中心「だけではない」デザイン

 

さいごに

いかがでしたか?今回は6つのカテゴリに分けて本をご紹介しました。

インタビューをしたメンバーが「本から基本的な手法を知ることも、現場での実践もどちらも大切!」と話していたことが印象的でした。本を読むことでインプットを重ね、現場でのトレンドもキャッチアップして実践することが、デザイナーにとってベストといえるのではないでしょうか。

実務経験がまだ少ない人にも、まずは今回のおすすめ本でUXデザインについて学んでいこうと思っていただければ幸いです!

 

最後になりますが、Goodpatch Blogでは、社内で話題になったアプリ、サービス、デザインのまとめ記事も発信しています。

新しいもの好きなメンバーによる今までのまとめは、こちらからご覧ください!

「基礎」から学べる!デザイン記事特集。記事一覧を見る