2021年2月3日、東京都副知事の宮坂学さんがデジタルに関する知識のブラッシュアップのため自らオンライン形式で実施し、任意で希望する職員も聴講している勉強会において、弊社CEOの土屋が「世界のデジタル行政のユーザー体験を調べてわかった今、行政にデザインが必要な理由」と題して講演を行いました。
今回の勉強会には、宮坂学さんの他、約40名の職員の方々も聴講し、「ユーザー中心で考えることの重要性、それが組織体制として・文化として根付くことの重要性もよく理解できました。」「先進的な国の取組事例だけでなく、実際の利用されている国民の意見もサーベイして下さって大変参考になりました。」といった声をいただきました。
このレポートでは、当日の勉強会の様子と講演を受けた参加者の方々のコメントをお伝えします。
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- 更新予定:代表土屋のnote記事
講演ハイライト
①行政サービスにおけるユーザー体験
講演でははじめに、日本のデジタルサービスを例に行政サービスを設計する際に気をつけなければならないユーザー体験について解説しました。
政府発信の資料をもとに、日本の行政においてどのようなことが課題として認識されているのか、また行政でDXを進めていく上でどのような方針が定められているのかをまとめました。
参考資料(一部):
世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画
デジタル・ガバメント推進方針
デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザイン
内閣法制局デジタル・ガバメント中長期計画
政府発信の資料から日本政府の方針を探ると、大きな柱の一つとして「ユーザー体験志向のサービス」が取り上げられていることがわかりました。
民間企業でのサービス/デジタルプロダクトの開発におけるUI/UXデザインの重要性の認識は高まっていますが、行政においてもその認識が確実に高まりつつあります。
そのような中で、サービスのユーザー体験を向上させるためには具体的にどのような取り組みが必要になるのでしょうか。
UXデザインを行う際には、幅広い時間軸でユーザー体験を行うことが重要になります。サービスの利用という一時的なユーザー体験だけでなく、中期的な視点でサービスを改善しユーザーの体験を向上させ続けることが重要です。
②海外行政サービスのリサーチ
次に、Goodpatchが行った、海外の行政サービスのリサーチを紹介しました。
電子政府として成功している5カ国の行政サービスについて独自でリサーチした内容を紹介しました。各国政府の発信するレポートなどの資料を元にしたデスクリサーチと、それぞれの国の国民へのインタビューの2種類のリサーチを実施しました。
講演でご紹介したリサーチの詳細は、後日Goodpatch Blogで発信します。ぜひそちらもご覧ください。
③国民との信頼関係を築くために
各国の国民へのインタビューから、電子政府として成功している国々は質の高いユーザー体験をデザインすることで、行政と国民の間に信頼関係が築けており、国民はサービスに好意的であることがわかりました。
講演の最後には、リサーチした国々のような優れたユーザー体験を実現し国民との信頼関係を構築するために、ユーザー中心の思想を行政の戦略や組織づくりの段階から取り入れていく重要性をお伝えしました。
Q&Aセッション
講演中には様々な質問が寄せられました。質問と回答の一部を抜粋してご紹介します。
Q1.「UIとUXの違いは?」
土屋:
UI(ユーザーインターフェース)はソフトウェアにおける人間と機械の接点の役割をする概念です。人間にとってどれだけ分かりやすいか、などが重要な指針となります。一方、UX(ユーザーエクスペリエンス)は、アプリ使用時だけでなく、サービス使用の前後においてもどう体験されるかを設計するという違いがあります。
Q2.「各行政機関が外部のデザイン会社に発注すると、そのデザイン会社の方針に依存してしまうと思うが、いかにして全体ガバナンスを固めていけばよいか?」
土屋:
まずは行政機関内部において、ディレクションが取れる人をチームとして組成する必要があると思います。
内部でクオリティ・マネジメントを整備しつつ、まかないきれない部分をデザイン会社のようなパートナーと組んで長期で作り上げていくことが重要だと思います。
参加者からの声
宮坂さんからのコメント
講演後、勉強会を主催した宮坂さんからコメントをいただきました。
宮坂さん:
私達も以前にロンドン、ニューヨーク、パリなどで行政サービスに関するサーベイをしていました。そこでもやはり満足度や期待値は高く、日本とのギャップを体感しました。まだまだやらなくてはならないことが非常に多く、今日の講演は本当にヒントになりました。
都庁職員の皆様からの反応
講演終了後、参加いただいた職員の方々にアンケートに回答していただきました。その一部を抜粋してご紹介します。
デザイン/ユーザー体験志向について
- ユーザー中心の思想で作り、ユーザーからのフィードバックを受け改善を加えていくループにより、より良いものを作り出していくことがとても大事だ、という点にとても共感を得た。
- これまで、デザインは装飾(見た目を整える)と思っていましたが、計画や設計も含まれるなどとても重要な役割を持っているということを知り、とても感銘を受けました。
- DXだけでなく経営分野等多方面 で「デザイン」が必要とされており、 当庁においてもデザインを担当する人材の育成や登用の必要性を感じた。
- ユーザーの要望を速やかに対応する視点は、もっと意識を高くしていく必要を改めて感じたため。
各国のリサーチについて
- 先進的な国の取組事例だけでなく、実際の利用されている国民の意見もサーベイして下さって大変参考になりました。
国民との信頼関係を築くためのポイントについて
- ご紹介いただいた各国事例と、日本の行政サービスのUXにおける差が大きいことを認識しました。また、ユーザー中心で考えることの重要性および、それが組織体制として・文化として根付くことの重要性もよく理解できました。
- 自治体における「デザイン」の重要性は低い風土があるので、組織化することで、その重要性を組織としても上げていくことはぜひ実現できるとよい。
最後に
講演では各国のリサーチを元に、優れたユーザー体験を実現し、国民との信頼関係を構築するためには思想や組織づくりからはじめ、継続してサービスを改善し続ける必要があることをお話しました。
参加した都庁職員の方々からは、ユーザー体験に基づくデザインやそれを実現するための組織づくりの重要性を感じた、普段のマネジメントのあり方やコミュニケーションに取り入れたいといった声をいただきました。
対応が迫られる行政や自治体のDXにおいて、ユーザー体験を中心に考えたサービス設計の重要性を知っていただくきっかけとなればと思います。