「DX×デザイン」でタッグを組んだ2社、提携で目指すパートナーシップの姿とは【グッドパッチ×サイバーエージェント対談】
2023年4月に業務提携を発表したグッドパッチとサイバーエージェント。
サイバーエージェントのDX支援事業において、グッドパッチのデザイナーが参画し、共に顧客の課題解決にあたるほか、両社のノウハウを生かしたデジタルサービスの開発を目指す──。
社内外からさまざまな反響があった発表から、さらに準備が進み、今まさに共同でのプロジェクトが始まろうとしています。
今回はグッドパッチCEOの土屋、そしてサイバーエージェントの常務執行役員、内藤貴仁さんの2人に改めて、提携に至った背景や今後の展望、そしてデジタルビジネスにおける「デザイン」の重要性について語ってもらいました。
目次
グッドパッチがサイバーエージェントに提携を打診、舞台裏のやりとりを聞いた
──本日はよろしくお願いします。業務提携の発表に驚いた方もいたと思いますが、まずはその背景を改めて教えていただけないでしょうか。
土屋:今後、グッドパッチのビジネスをさらに広げていくための手段として、昨秋から他社との業務提携を検討していました。当時のグッドパッチの状況やマーケットの様子を見ながら、どこと提携すれば、自社と相手の成長に貢献できるかという観点で考えていたわけです。
──サイバーエージェントも提携先として考えていたのでしょうか。
土屋:もちろんです。僕自身がサイバーエージェントを好きだというのもあるのですが(笑)、「DXダイレクトビジネスセンター」を立ち上げてDX事業に参入したのも存じ上げていましたし、グッドパッチの取引先に提案をしている話も営業から聞いていました。
ある種の競合関係ではあるのですが、DX領域で協力できる可能性があるとも考えていました。正面からぶつかるより、手を組んだほうがいいですから。
──有力な候補として考えていたわけですね。
土屋:ただ、サイバーエージェントさんは、上場企業に対して資本を絡めた提携をしない会社だと思っており、可能性は低いと思っていました。でも、検討を進める中でどうしても一度話をしてみたいという気持ちが強くなって。
ライバルもいる中でDX事業を拡大するには、エンジニアだけでなく多くのデザイナーも必要になるはず。その点でサイバーエージェント側にもニーズがあるのではないかと考え、CHOの曽山さんに相談を持ちかけました。
内藤:ニーズについては、まさに土屋さんが睨んだ通りのところがありまして、曽山から話を聞いたときはとてもいい話だと思いました。実際、DX事業が始まって約1年が経ち、組織も100人規模になってきたタイミングで、人材確保がネックになりかけていたので。
もちろん、サイバーエージェントにもUI/UX領域に秀でたデザイナーはいますが、DX事業を拡大するにはまだまだ足りません。エンジニア人材は大学と提携するなどして声をかけてきましたが、DXに取り組むUI/UXデザイン人材はどう確保すればいいのか。2022年後半からさまざまな方法を考えていましたが、決定打が見つからない状況でして。そんなタイミングだったので、運命的なものを感じました(笑)。
サイバーエージェントは「デザイナーにも」共感される企業に生まれ変わった
──内藤さんは、もともとグッドパッチを知っていたんですか?
内藤:はい。過去に一緒に仕事した経験もあったので。提携の提案をいただいた際、社内のメンバーにもグッドパッチについてヒアリングしたのですが、「一緒に仕事をできてよかった」「やっぱり力がありますね」という声が多かったです。
自分たちがやりたいパートナーシップの規模を考えると、提携するならグッドパッチしか選択肢はない、くらいに思っていたので、曽山から話を聞いたときは「僕の考えが外に漏れているのか」と疑ったくらいですよ(笑)。確かにサイバーエージェントとしては前例の少ない提携ですが、藤田に話した際も「ぜひ一緒に組んだ方がいい」という反応で。実現できてよかったです。
──提携の発表に対して、社内からはどんな反響があったのでしょう。
内藤:特にこの事業に携わるメンバーには、サイバーエージェントがこの領域に力を入れていくんだ、と感じてもらえたと思っています。
「DXと言ってもどこまで本気でやるのか」と思うメンバーもいたと思いますが、会社でも前例がほぼない、上場企業との提携を行ったことで、注力する姿勢を示せたのではないかなと。また、力のあるパートナーと組むということで「やれるんじゃないか」と可能性を感じたはずです。
土屋:グッドパッチでも多くのメンバーからポジティブな反応がありました。SlackでDMをくれる人もいたくらいです。この反応は、サイバーエージェントがデザイナーにも共感される存在になっている証拠だと思っています。
私が20代の頃のサイバーエージェントは「営業の会社」というイメージでしたが、特にここ10年は「デザイナーやエンジニアといったクリエイティブ人材が生き生きと働ける会社」というブランドイメージを築いた印象があります。営業の強さは変わらず持ちながら、クリエイティブの力もある──社内のメンバーからもそう見えているんだろうなと。
クリエイティブに入れる文言まで確認する藤田社長、デザインにこだわる理由とは?
──なるほど。内藤さんから見て、サイバーエージェントがクリエイティブに注力していると感じる点はどんなところですか?
内藤:これまでUXやデザインで勝ってきたというのは、会社全体が自負している点ですね。分かりやすいところで言うと、藤田を含めた経営陣がデザインに対して深くコミットしています。自社サービスについて、グラフィックももちろんですが、入れる文言一つとっても責任持って確認していますよ。
──そうなんですか!? 非常に忙しい印象があるので、デザインの確認に割く時間を作っていることが驚きでした。
内藤:それだけデザインに対するプライオリティが高いということだと思います。現場のメンバーも役員などに提案する際は、モックを持っていって、触ってもらうようにしています。
土屋:藤田さんはもともと営業の方ですが、どんな事業でもキャッチアップして、専門家になっていくイメージです。本当に努力家なのだと思います。スマホ事業へ移行する際に、社内でアプリを200個ほど作らせ、藤田さんが制作した全チームと話してレビューしているという映像を見たことがあります。
誰よりもさまざまな領域のアプリを使い、体験する。これは非常に重要なことですが、できていない人が多いでしょう。この経験だけをとっても、普通のデザイナーよりも圧倒的なプロフェッショナル。この規模の会社の代表がそれを行っているというのはとても刺激になります。
グッドパッチを認知いただいていたというのも、デザイン領域についてしっかりキャッチアップされているということですし、デジタルサービスを作る会社の代表として模範的な姿だと思います。
──それがサイバーエージェントにおけるデザインの強さの源泉というわけですね。
内藤:源泉というと、当初外注で運用していた「アメーバブログ」を内製に切り替えたところから始まったと思います。自分たち自身でサービスを頑張って磨き上げないといけないんだ、という姿勢に変わりました。
土屋:内製化に舵を切って、そこからさらにデザインに本腰を入れることになったきっかけはありますか?
内藤:それは「ABEMA」が大きいですね。先ほど200個アプリを作ったという話がありましたが「その中のいくつかが成功すれば良い」という話とは違い、ABEMAは成否に社運がかかっていますから。それまでは、エンジニアリングを重視していましたが「クリエイティブやデザインの面でも、最高のモノを作らなくてはならない」というこだわりが強まったと思います。
土屋:ABEMAのUI/UXは完成度が非常に高いと思っています。スマートフォンならではの体験をUIに落とし込んでいて、とてもなめらかな体験設計ができている。ユーザーに「TVよりいいじゃん」とまで思わせるレベルに仕上がっているのは、サイバーエージェントさんのこだわりのなせる技だと思いますね。これだけの力があるのだから、いろいろなサービスが成功しているのも当然のことだと感じます。
「デザインに注力しない企業は、ビジネスを放棄しているに等しい」
──今回の業務提携にあたって、改めてDXにデザインの力が求められる理由を教えていただけますか。
土屋:DXというと話が大げさになりがちですが、「デジタルの特性を生かして、ユーザーに良いサービスを提供すること」が基本的な姿勢だと考えています。
iPhoneが出てから10年以上が経ち、人々がソフトウェアに関わる頻度が増え続けています。ソフトウェアが生活に入り込み、常時接触している状態です。そのソフトウェアを含めた体験を設計するのがUI/UXデザインの力ですから、重要度も高まり続けています。
かつてはソフトウェアが「動けばいい」という時代もありましたが、今はそうではありません。ユーザーの期待通りに動かないソフトウェアは、それだけでネガティブなイメージを企業やサービスに与えてしまいますし、信頼を回復するには時間がかかる。デザインに注力しないというのは、はっきり言ってビジネスを放棄しているに等しいです。
先ほどABEMAの話をしましたが、逆にユーザーの心象が良くなるような良いソフトウェアを提供できれば、サービスだけでなく会社のブランドの印象も良くなっていくというわけです。
内藤:優れたWebサービスを出している会社は、どこも命懸けでデザインやユーザー体験の向上に取り組んでいると思いますよ。類似のサービスが次々と出てくる中、ほんの少しの差でユーザーに選んでもらえるかどうかが決まってしまうので。
一方で、こうしたサービスは「作って終わり」でもないと考えています。私はよく、サービスにおけるサイバーエージェントの強みは「運用力」だと話しています。毎日数字を見て、改善していく。広告もゲームも同じですね。サービスを出すまでも全力でやるが、そこからが勝負の始まりです。いいサービスを作っても、使われなくては意味がないので。グロースまで含めてデザインするのが、DXにおいては大切です。
両社が手を組んで、クライアントと共にDXの正解を探していく
──最後に今後の展開について少し聞かせてください。提携を通じて期待する点を教えていただけますか。
土屋:グッドパッチとしては、サイバーエージェントと協働することで、より多くの顧客にアプローチできると考えています。われわれもこれまでさまざまな企業とプロジェクトを行ってきましたが、小売や流通、金融業界などの顧客は実は被っていません。
サイバーエージェントさんは、広告事業で多くの企業と関係ができており、その中でモノづくりに関われる。これはグッドパッチのデザイナーにとっても良い機会になると考えています。「toCビジネスのプロジェクトに関わりたい」など、さまざまなニーズに対応しやすくなりますから。
内藤:今回の提携では、共同提案をしていくというのがポイントですね。営業については僕たちが担い、デザインについては当社のDXデザインチームと共にグッドパッチさんに力を発揮してもらうという形が基本になるでしょう。土屋さんのおっしゃる通り、ターゲットリストは非常に多いです。
土屋:加えて技術力もですね。サイバーエージェントはAIを含め、確かな技術を研究し、実践してきた会社です。今回の提携において、われわれはデザイン領域を強みとして協働していきますが、サービスを作り上げるには技術力もとても大事です。その点では非常に心強いですし、グッドパッチとしても学ぶところが多いと思っています。
──内藤さんはどうでしょう。
内藤:私たちとしては、グッドパッチのデザイナーの皆さんが持っている「イメージを可視化していく能力」に期待しています。それができる人がチームに1人いるだけで、探索できる量や正解を探す力が大きく変わる、重要な能力。これが強い会社と組めることは大きなメリットだと感じています。
土屋:今はクライアントにとっても、正解が分からない時代になっていますからね。一昔前であれば、コンサルタント側が正解を持っていたり、クライアントが成功の道筋のイメージを持っていたりするケースも多かったですが、もうそういう時代ではありません。
発注主と請負という関係では、良いものが作れないと思うんですよ。クライアント側も一緒に考えてくれるパートナーを求めているし、依頼を受ける側も自分たちの意志を入れたモノづくりを望んでいる。どちらが上ということではなく、パートナーとして一緒に汗をかくことでいい仕事ができるのではないかと。
内藤:本当にそうですね。だから仕事の受け方にも気を使いたいです。単純な受託ではなく、自主的な改善ができる関係性やチームをお客さまと作っていくことを大切にしたいですね。これはいいサービスを提供する上で必要な環境なので、責任を持ってやっていきます。
土屋:「一緒に正解を探していく」ということですよね。サイバーエージェントの根底にそういう価値観があると思うので、デザイナーとも相性が良いはず。共同提案を通じて、クライアントの変革に関わるプロジェクトをどんどん増やしていきたいです。