事業の価値と方向性をデザインで可視化し、DXを推進。Build.Lunch Session Vol.1 『不確実なDXを解き明かす鍵「デザインの力」』
2020年12月17日にオンラインイベント Build.Lunch Session『不確実なDXを解き明かす鍵「デザインの力」』を伊藤忠テクノソリューションズ株式会社と共同開催。
お客様のITライフサイクルを支えるソリューションプロバイダ 伊藤忠テクノソリューションズと、デザイン会社として初の上場を果たしたデザインカンパニー Goodpatchの二社が、不確実性の高いDXをテーマにデザインという切り口から講演・パネルディスカッションを行いました。
本記事では、各登壇者による講演とパネルディスカッションの様子をお届けします。
目次
「不確実なDX。成功事例とメソッドから現実的な攻め方を探る」|伊藤忠テクノロジーソリューションズ株式会社 Buildサービス推進チーム長 神原 宏行さん
はじめに簡単な自己紹介をします。私は、伊藤忠テクノロジーソリューションズ株式会社 Buildサービス推進チームでチーム長を勤めています。我々は2020年4月からお客様のDX支援を行う事業を立ち上げました。
本日は日本のDX市場における現状や課題、それに対する我々の取り組みについてお話します。
日本のDX市場における現状と課題
DXは様々なビジネスシーンにおいて注目されており、多くの団体やコンサルティングファームが日本のDXの現状に関する情報を公開しています。日本においてDXという言葉が広範に使用されるようになった一つの大きなきっかけは、経済産業省が発行した「産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進」の公開です。
公開資料やDXの動向を俯瞰して捉えると、企業が現実に直面する課題は業種・事業ステージ・カルチャー・組織体制によって異なり、DXの取り組みに確実な正解はないと言えます。
DX時代に必要な新たな機能について、DXという言葉がなかった時代と比較して紹介します。以前は、経営戦略コンサル会社が企業の戦略を考え、ウォーターフォール型でプロジェクトを実施。場合によってはITコンサル会社がプロジェクトに伴走するという形でした。
それに比べ、DX時代において大きく変化したポイントは、企業間の競争力や売上向上のために、いかに企業が速く柔軟にデジタルプロダクトやサービスを提供できるかが問われるようになったという点です。プロジェクトだけでなくデジタルプロダクト作りが必要となり、デザイン思考やアジャイル型で進めることが重要視されています。
新たなデジタルプロダクト作りに必要なデザインやアジャイル開発を一気通貫で行うためには、スタートアップやベンチャー企業における新規事業創出の際のプロセスと同等の手法が必要になります。大企業や一般企業が自社だけで行うと、組織の壁やカルチャーの壁にぶつかってしまうというのが日本の現状です。
Buildサービス推進チームの取り組み
Buildサービス推進チームは、DXの本質を企業が競争上の優位性を確立することであると定義しています。DX時代において我々のようなSIerに問われていることは、既存コストの削減や業務の効率化だけでなく、ビジネスにおける優位性を向上させるための新たな事業やサービスといった非連続的な価値創造を一緒に作ることができるパートナーであるということです。
そこで我々はアメリカのSlalom社と協業して、お客様のプロダクト作りのDX支援に特化したチームを日本で立ち上げております。
参考プレスリリース:
現在、日本のDX市場ではDXコンサルティングが活況です。どこの企業もコンサル会社を通じて、自社のDX戦略を練っています。しかし、考える領域と実際に作る領域が分離しており、DXが進みにくいということが散見されます。
そこで我々がフォーカスしていることは、コスト削減や既存システムの効率化をウォーターフォールで請け負うのではなく、お客様と新規事業や新規システムの開発をアジャイルに共創するということです。
デザインの力を活用して、ユーザー体験に着目。どんな体験や価値を提供するのかを考え、素早く実装するためにクラウドネイティブなアーキテクチャーを活用。それをお客様とアジャイルに共創するといったサービスを提供しています。
我々は共創を通じて、お客様自身に新たなデジタルプロダクトのリリースやグロースをどのように実現していけば良いのかを身に付けてもらい、世の中の大きな変化に追従する力を養ってもらうことを目的としています。
全社的にDXを推進することは決まっているが、具体的な方向性が定まっていないという声を様々な企業からお聞きします。このような未知の領域を切り開くための鍵はデザインです。
どのような価値提供を行えば良いのかという段階からお話しをして、お客様のDX支援を実施しています。
DXの取り組みには様々な業種業態・カルチャー・組織の状態があるので確実な正解はありません。ただし、新たなデジタルプロダクト作りにはデザインの力やクラウドネイティブ、アジャイル開発といった要素が必要になっています。新たなことに対して、ゼロからお客様だけで取り組むことは非常に大変です。私たちは伴走する形で日々進化しながら支援します。ご清聴ありがとうございました。
デジタルトランスフォーメーションを解き明かす鍵=デザインの力|株式会社グッドパッチ UX Designer 西村洋
はじめに簡単な自己紹介をします。私は2020年6月に東証マザーズに上場したデザイン会社であるGoodpatchにて、UXデザイナーとして活動しています。
本日は、様々なクライアントの新規事業立ち上げやデジタルプロダクトのリニューアルを通して見えてきたDXにおけるデザインの効果的な活用法や考え方について紹介します。
未知の領域に対してデザインがもたらす効用
企業におけるDXの取り組みは、効率化と事業変革という二つの目的に分類できます。いずれの目的においても、DXには未知の領域が付き物です。
特に事業変革には、未知の領域が大きいからこそ様々なビジネスチャンスが眠っています。デザインは、そういったイノベーションにおいて、デザインがもたらす効用に対してかなりの期待をいただいて活用されています。
デザインと聞くとアプリ画面といったビジュアルデザインが想起されやすいと思います。しかし、デザインには設計という意味も含まれており、表層的な見た目のデザインに留まらず、要件定義や情報設計などもデザインの対象です。また、デザインはユーザー起点で出発する考え方であり、ユーザーとの関係性といった戦略の部分もデザインが扱う対象になっています。
デザインが果たす役割は大きく三つあります。
一つ目が、価値という抽象的なものを体感できるように具現化することです。例えば、プロトタイピングを行うことで既存事業における新たな価値や改善の余地を表面化することができます。
二つ目が、価値を届ける・伝達するということです。代表例として、具現化された価値をユーザーが享受できるようにデザインするという、ブランドデザインが挙げられます。
三つ目が、価値を掘り起こすということです。価値の再解釈やユーザーの新たな行動変容を作り出すために、ブレインストーミングといったフレームワークが活用されます。特にプロジェクトにおいては、価値を掘り起こすという役割が期待されることが多く見受けられます。
DX3つの側面とデザインの関係性
今まで紹介したデザインの役割が活かせるDXの3つの側面について事例を交えながらお話をします。一つ目が省人・自動化・効率化の変革。二つ目が顧客とブランドの距離の変革。三つ目が価値のリフレーミングという側面です。
まず、省人・自動化・効率化の変革という側面とデザインが果たす役割の関係性について紹介します。
自動たこ焼きロボットのプロトタイピングを通じてビジネスがドライブした事例があります。プロトタイピングによって投資回収のシナリオを描くことができたという単純な成果だけでなく、ロボットが作ったたこ焼きに対してユーザーが見出す価値を具現化することができました。プロトタイピングを行うことで、仮説状態の価値を具現化することができ、プロダクト戦略の意思決定の質を高めることができます。
続いて、顧客とブランドの距離の変革についてです。
Pelotonは、エアロバイクの販売とフィットネス動画のサブスクリプション事業を手掛ける企業です。製品の配送には、Amazonなどの物流業者に委託することが一般的で効率的だと思います。しかし、Pelotonは自社が大切にしているブランドをユーザーに伝達することがビジネスの肝である。と考え、自社でトラックを購入。そして配達員には健康的な人材を登用するためにオーディションを行いました。ブランド構築に対する初期投資がビジネスの成功要因になっています。
この領域において弊社が支援させていただいたケースとして、サントリー食品インターナショナルさんのSUNTORY+というヘルスケアサービスアプリがあります。サービスの方向性や価値を整理し、どのようにブランドとして一貫した価値をユーザーに伝達するのかをデザインしました。
参考記事:
・「まず作ってみる」が前進の鍵。サントリーとGoodpatchが共創するSUNTORY+開発ストーリー【前編】
・職種を超えてものづくりに向き合う。サントリーとGoodpatchが共創するSUNTORY+開発ストーリー【後編】
最後に価値のリフレーミングについてです。
Netflixは、一昔前までは大量のコンテンツ保有しているレンタルビデオショップでした。そのリソースをデジタルの世界に接続したことで、現在のNetflixのビジネスモデルの原型が誕生したと考えられます。
既存事業の潜在的な価値や魅力を掘り起こすリフレーミングの実行可能性は、ブレインストーミングやエスノグラフィなどといったデザイン手法を用いることで大きく向上します。
関連記事:
ユーザーの生活に深く潜り込む、エスノグラフィで大切にしたいマインドセット
弊社が支援させていただいた事例として、リンクアンドモチベーションさんのモチベーションクラウドというSaaS型のサービスがあります。
Goodpatch独自の、価値のリフレーミング手法の一つとして、ユーザーの新たな行動変容を促し、その会社の空白領域の事業案を創出する守破離道というパッケージが存在します。このようなフレームワークを活用しながら価値のリフレーミングを行っております。
我々のミッションはデザインの力を証明することです。DXという未知の領域に対してもデザインの力で挑戦します。新たなアップデートや変革といった大きなうねりが起きている現在において、是非一緒にチャレンジしてワクワクする事業をやっていきたいと思っています。
パネルディスカッション「DXにおけるデザインの役割とは?」
登壇者:
・伊藤忠テクノロジーソリューションズ株式会社 Buildサービス推進チーム¦小岩井 裕 氏
・伊藤忠テクノロジーソリューションズ株式会社 Buildサービス推進チーム¦東海 連 氏
・株式会社グッドパッチ UX Designer¦西村 洋
モデレーター:
・伊藤忠テクノロジーソリューションズ株式会社 Buildサービス推進チーム¦有馬 正人 氏
左から、モデレーターCTC有馬さん、Goodpatch西村、CTC 東海さん、CTC 小岩井さん
DXにおけるデザインの役割は推進力
有馬さん:
プロダクト開発や新規事業開発は不確実性が高く難しい。しかし、デザインを活用することで開発の精度や成功の確度が上がると思っています。本日は具体的にどのようにデザインを活用していくべきなのかについてお話したいと思います。
小岩井さんはソリューションオーナーとして、クライアントのプロダクト開発支援をデザイナーと一緒に行われていると思います。DXにおけるデザインの役割をどのように考えていますか?
小岩井さん:
私はデザイナーではなくソリューションオーナーとしてプロダクト開発の支援を行っています。ソリューションオーナーは分かりやすく言うと、スクロムマスターの役割とプロダクトオーナーの支援を積極的に行う位置付けです。
プロジェクトをフェーズで分けると検討フェーズと開発フェーズがあります。検討フェーズでは、表面的なデザインだけでなく分析や市場調査、デザイン戦略を考える役割を期待しています。開発フェーズにおいても、表面的なデザインだけでなく、アジャイルスプリントの中で常にデザインの提案を行い続け、その提案に対して責任を持つ役割を期待しています。
有馬さん:
東海さんはいかがでしょうか?
東海さん:
私は実際にプロダクトを作っていく前段階から関わらせていただくことが多いです。そのフェーズにおける役割は、いわゆるアプリ画面のデザインを作成するということではなく、プロジェクトを進めるために各タイミング毎で何を行う必要があるのかを可視化するということです。
DXという大きな枠組みでデザインの役割を定義することは難しいため、プロダクト開発に範囲を限定すると、問題解決のデザインアプローチというよりも、DXの文脈で必要になるのは探索的なデザインアプローチです。西村さんのセッションでもあったように、具現化といったアプローチがあることで、プロジェクトが進みやすくなることは常々感じますね。
西村:
あえて一言で表すと新たな問いを再定義する役割だと思います。少しだけ踏み込んで、皆さんが本当にやりたいことや言い難いことを代弁するような役割です。
東海さん:
なんとなくデザイナーだから踏み込んだことを言ってもいいみたいな(笑)。
有馬さん:
DXの不確実性が高い一つの要因として、関わるステークホルダーの数が多いということがあると思います。DXを推進するためには、事業会社の歴史や組織のしがらみを乗り越えなければならない。そういった際にデザイナーが活躍できる機会があるのかもしれませんね。
デザイナーとして必要な考え方やスキルは、価値の循環と可視化能力
小岩井さん:
デザイナーの方々は広範囲のスキルが必要であり、プロダクトマネージャーの定義にかなり近しい印象があります。そこでデザイナーとして必要なスキルや大切にしている考えがあればお聞きしたいです。
西村:
私のキャリアはUXリサーチャーとして始まり、HCD(人間中心設計)の分野からUXの領域に携わりました。私としては価値をうまく循環させることに責任を持つことがUXデザイナーの定義です、ビジネスモデルと異なる点は、ビジネスモデルにおける価値の中心はお金です。しかし、UXデザイナーはあくまでもユーザー目線での価値の交換の循環をうまく設計して綺麗な川の流れにすることが役割だと思っています。
参考記事:
事業会社からスタートアップまで渡り歩いたUXデザイナーが語るデザインファーム特有の価値
東海さん:
多くのデザイナーの共通点として見受けられることは、カオスで煩雑な状況でもなんとなく進んでいけるという点です。物事や課題を上手く整理しながら進んでいく。そういった共通点から考えると可視化というスキルに繋がっているのかなと思います。
質疑応答
ここからは視聴者の方の質問にも答えたいと思います。
「一般のサラリーマンでもデザイン思考を身に付けることは可能か?」
有馬さん:
「デザイン思考は一般のサラリーマンでも後から身に付けることは可能なのでしょうか?必ずプロのデザイナーが必要なのでしょうか?」といった質問です。
西村:
後天的に身に付けることはできます。表層の部分だけをデザインの範囲として捉えると、美大や芸大に通いましょうという話になり、急に難しく感じます。しかし、価値の循環やユーザー起点の設計という戦略の部分をデザインとして認めてあげると、後天的にデザイン思考は獲得することができます。
東海さん:
私自身、HCDの専門家なので後天的に身につかないのであれば資格は何なんだという話になります(笑)。デザイン思考には一定のスキルやノウハウは必要ですが、人々の行動がなぜ起きているのかということを考える習慣や、世の中を見る視点の持ち方が重要であると思います。
「価値のリフレーミングの際に意識しているポイントとは?」
有馬さん:
もう一つ質問をいただいています。「価値のリフレーミングをする時に気にしていることやそのプロダクトをどのレイヤーまで掘り下げて構築し直すのでしょうか?」といった質問です。
西村:
価値のリフレーミングにおいて、最終的な収束の際に、主に3つのことを考えています。1つ目が時代の変化。時代の変化が訪れる際はサービスや事業も新たな方向へ変化していくと考えています。2つ目がユーザーにとっての環境の変化と価値の変化。そして3つ目が会社のブランドや方向性です。
また、どのレイヤーまで掘り下げて構築するのかという点に関してです。我々デザイナーは初めの段階から再解釈・再構築を実施したいのですが、信頼がないと何もできません。まずは小さな成果を積み上げ、信頼を勝ち得た上で意思決定者の方々と再構築に取り組みます。
最後に
以上、Build.Lunch Session Vol.1 『不確実なDXを解き明かす鍵「デザインの力」』のイベントレポートをお届けしました。DXの取り組みには確実な正解がなく、未知の領域が付き纏います。しかし、デザインが果たす役割を理解し活用することで、DXにおける不確実性を下げ、競争上の優位性やビジネスチャンスを獲得することができると述べられていました。
GoodpatchはUI/UXを強みに、デザインパートナーとして企業のDXを伴走者として支援して参ります。DXに関するご依頼やご相談については、お気軽にこちらからお問い合わせください。