こんにちは!Goodpatch プロジェクトマネージャーの星です。

プロジェクトマネージャーという仕事は、対外的に発表できるアウトプットが作成しづらくスキルや実績の証明が難しい職種です。

アウトプットを作成したとしても、数値的な事業目標を定めたスコープ定義書であったり、実名の入った体制図であったりと、基本は社外秘の情報が満載。自身のスキル証明のためにポートフォリオを作ろうとしても、掲載できるものがほとんどないのが実情です。

そんな中、実績やスキルの証明に役立つ数少ない手段としてプロジェクトマネージャー資格「Project Manager Professional®︎(以下、PMP)」があります。

長時間のテストや英語のレポートなど、取得が難しいと言われる資格ではありますが、Goodpatchの仲間や組織としての応援を追い風に一念発起。約4ヶ月かけて資格を取得できました。この記事では、資格取得までの道のり、大変だったポイント、そして取得した結果どうだったかについてお伝えしようと思います。

PMPとは

PMPとは、先ほど書いたように「Project Management Professional」の略です。アメリカのProject Management Institute (PMI)が主催する、国際的プロジェクトマネジメント認定資格です。

  • プロジェクトマネージャーとして3年以上の実務経験 (詳しくは後述)
  • 35時間の講習受講
  • 経験したプロジェクトの規模や成果、担当した役割についてのレポート(英語)
  • 180問、制限時間4時間のテスト

をクリアする必要があります。

PMP認定証

きっかけと勉強の準備

取得の目的と動機

PMP資格取得の主な目的は、自身のハードスキル向上でした。

前職のソフトウェアメーカーでシステム導入コンサルタントとしてプロジェクトを遂行した経験はあったものの、プロジェクトマネジメントの専門的知識の研修機会はなく、我流の域を出ませんでした。

Goodpatchでプロジェクトを実際に進める中では、それまでの経験を頼りに進行を担うこととなります。一定の貢献はできていたと思う一方、見落としもあり非効率な部分も。プロジェクトはうまくいっていても「本当にこれで良いのか」という迷いもあり、いまいち自信を持てない、という状態が続きました。

プロジェクトメンバーから、「この部分を期待しているが、やってくれないのか」と直接的なリクエストをもらってしまうこともありました。

手探りで何とかプロジェクトを切り盛りして丸3年が経過した2022年秋。ここらできちんと基礎固めをすることが、今後のプロジェクト、クライアント、仲間への貢献に繋がるだろうと考え、資格取得に本格的に取り組むことを決めました。

プロジェクトマネージャー認定資格の候補

勉強に先立ち、まずはどのような資格があるのか調査。主だったところでは、以下が候補になりました。

各々メリット・デメリットがありますが、私としては「どうせ取るなら、国際的に広く認知があり日本でも通用するものがいい」と考えてPMPを選びました。

PMP取得までの道のり

実務経験

当然と言えば当然ですが、PMP受験のためにはプロジェクトマネージャーの実務経験が必要です。私の場合は、大卒でプロジェクトマネジメントを学んだことはなかったので、3年以上の実務経験が必要。ちょうどその要件を満たしたタイミングでした。

受験資格要件抜粋

引用:プロジェクトマネジメント協会『PMP®︎試験内容の概要』(2021年1月版,11ページ)

勉強方法を動画で学習

周囲に資格保持者がいなかったこともあり、勉強方法をネット検索するところからスタート。プロジェクトマネジメント専門として発信されているYouTubeチャンネルがあり、非常に参考になりました。

I LOVE PM / プロジェクトマネジメント専門チャンネル / イトーダ(YouTube)

テキスト

テキストの履修自体は必須とされていませんが、動画のアドバイスを踏まえ、以下を中心に学習しました。

それぞれ分厚いテキストです。記述も細かく最初はとっつきづらくて、流し読みをしてしまいましたが、練習問題を解いていくうち、詳細な内容まで理解する必要があると痛感することに。結局はしっかりと向き合い、細部まで読み込みました。

35時間分の研修

受験のためには必修の講義です。複数のスクールが対策講座を提供しており、対面講義とe-Learningも選択できました。私は自分のペースでの学習がしたいと考え、JPSビジネスカレッジさん提供の35時間相当のe-Learning(日本語版)を選択しました。

JPSビジネスカレッジ PMP®受験者向けサービスのご案内

講義では、先出のテキストの内容を踏まえ、具体的なシチュエーションでどのように思考・行動するのかを問う設問が豊富に用意されています。「授業を35時間分受ければいいのだろう」と考えていた私は甘すぎました。一問一問に実際的なシチュエーションが設定され、そこで起こる様々な課題。取るべき行動の選択肢の中から最適なものを選びます。

用語自体を問われるような問題はほぼありません。複数の要因の中から課題解決に関連するものを特定し、PMBOKガイドで推奨される考え方に最も沿ったものを選択。一見するとそれらしく見える回答も、提示されている状況下では不適切の場合があるなど、かなりシビアに見ていく必要があります。

特典として、PMI公式問題集が無料で利用でき、内容の理解に大いに役立ちました。

レポート

勉強とは別に、プロジェクトマネージャーとして規定を満たす実務経験を積んだことをきちんと申請しないといけません。

担当したプロジェクトについて、

  • 担当期間や企業の規模、業種
  • プロジェクトの目的や成果物
  • 責任範囲や重点的に行ったこと

などを正確に英語で記載します。私はGoodpatchで3年の間に担当した4つのプロジェクトについて記載しました。英語については、DeepLという無料翻訳サービスを活用して乗り越えました。

費用

テキスト、研修、模試、試験料を合算すると21万円ほど。なかなかのお値段になりました。ご参考までに掲載しておきます(2022.11月〜2023.2月当時の価格です)。

なお、スクールについては対面型講習で30万円弱のものから、Udemyさんの英語コースでは3万円弱のものまで様々な選択肢があるので、それによって費用も変わります。

受験料

  • 7万3000円程度
    (PMI年会費139ドル+割引適用試験料 405ドル=544ドル。1ドル=約134円:2023.2月時点)

研修受講料

  • 10万円程度
    (JPSカレッジさんの35時間研修 e-Leaningコース。他にも様々なオプションがあります)

模擬試験料

  • 7,000円程度
    (JPSビジネスカレッジさん主催のリアルタイム模試。割引適用後価格)

テキスト・問題集

大変だったポイント

テキストの難解さ

PMBOKガイドは非常に詳しく記載量が多いのが特徴です。またどの章から読んでも関連内容を網羅できるようにと配慮し、既出の内容は「x章x項目を参照」としてくれていますが、それがまた多い。正直、読み物としては読みづらく、教科書や参考書よりは辞書に近いと感じました。

PMBOKガイドの構成俯瞰図

PMBOKガイド 第6版の構成俯瞰図。自作しました。

そこで私の取った対策は、テキストの構成と参照の関係性をホワイトボードツールを利用して俯瞰図にまとめること。そこそこの労力がかかりましたが、作成する過程でどの章がよく参照され重要なのか、章と章の関係性はどうか、などが脳内で整理でき、全容理解が早まったと感じます。

PMBOKイズム

35時間の研修内で出題される問題を解いていると、「誤答と判定されたが、この選択肢の方が正しいのでは?」と感じることも多々。研修受講を始めたばかりの頃はこの点に相当なストレスを感じていました。

ですが、よくよく解説を読んだりPMBOKガイドに立ち返ったりすると、「原則としてこう対応するのが最善」という記載があることに気づきます。

  • スキル不足のメンバーには、トレーニングを施す
  • リクエストが生じたら、合意ドキュメントに立ち返り変更委員会に手続きを申請して承認を得る
  • 専門家にアドバイスを求める

などなど、「実際にはコストも期限もあって現実的じゃない!」と憤ってもダメ。

これまで培ってきた自分の経験則に照らして判断するのではなく、原則として適切な対応は何か、と考える力を問うているのです。それに気付き、我を通すのをやめてから得点に結びつくようになっていきました。

なんと監査対象に

学習を一通り終え、受験の申請をサイト上で行ったときのことです。なんと申請が通らず監査にひっかかってしまいました。

サイト上には「監査対象はランダムに選ばれる」とあったので、運の問題かもしれません。が、私にはちょっとやましい点がありました。

申請書には4つのプロジェクトを記載して提出したのですが、それぞれのプロジェクトで何を担ったかという、比較的定型的な部分(スケジュール調整、リソース調整など)の記述は、サボってほぼコピペしていたのです。

それが監査対象になった原因かどうかはわかりません(サイトではランダムと謳っています)。が、後ろめたいことがある時には人はそれが原因と思うものですね。

さて監査対象になると、

  • 卒業証書(または世界的にそれに相当するとみなされるもの)のコピー
  • 申請書の経験確認セクションに記載されたプロジェクトのスーパーバイザーまたはマネジャーによる署名
  • 申請に必要な専門教育の受講時間として記載した各種コースを提供した研修機関発行の認定書および/または手紙のコピー

の提出が求められます。

あわてて卒業した大学に英文の卒業証明書の発行を申請。郵送しか受け付けておらず、2週間程度必要とのこと。返送を待ちつつ当時を知るマネージャー(幸い社内に在籍)に経緯を説明し、PMIの申請システム経由で申請内容を送付。システム上でサインをもらいます。

届いた卒業証明書を写真に撮り、研修修了後に発行された認定書と合わせて、再申請。今度は無事に受理されました。なかなか疲れました。

模試と試験本番

念のため模擬試験を受験

なにせ受験料が高額ですから(7万円超え。再試験はその半額程度)、落ちるわけにはいきません。しかも、いまいち正解が分かりづらい性質の問題。ここは万全を期すため、

  • 4時間という長丁場に慣れること
  • 少しでも多くのタイプの問題に触れておくこと

を目的にオンライン模試を受けておくことに。本番と同じ180問。たっぷり4時間、制限時間いっぱいかかりました。受験の形式や問題数への慣れ、受験前の総復習として、文字通り模擬試験という意味では受けてよかったと思います。

総復習

テキスト、問題集、模擬試験と、ここまで実施してきた学習の総ざらい。

  • かなりのボリュームがある
  • 紙の書籍、電子書籍、e-Learningと媒体が様々
  • 章立てや構成がそれぞれ異なる

という特徴があり、何をどこまで見直したかの把握がこれまた困難。俯瞰図にまとめて把握しながら進めました。

試験勉強範囲の俯瞰図

試験勉強をしてきたテキストや問題集の内容を可視化。

試験本番

さあいよいよ本番です。試験会場は、自宅か専用会場か申込時に選べます。私は自宅を選択しました。

試験は4時間。60問ごとのセクションが3つ。セクション間で計2回、各10分の休憩を自分のタイミングで取れます。日本語です。

自宅での受験の場合、

  • デスクの周りにカンニングできるようなものがないか、写真を撮って送信
  • PC以外のモニターは電源OFF ・PC内蔵のカメラで常時監視
  • 斜め後ろ45度の角度から自分の背中を固定カメラ(専用アプリを入れたスマホ)を設置
  • 試験中に部屋に人が入室するのは禁止
  • 試験中の大きな声での発話は禁止
  • 飲めるのは透明な容器に入った水だけ

など不正防止を徹底されます。10分休憩の間だけは、自由。心配だったトイレには行けました(笑)。

さて試験開始。1問あたり1分程度でどんどん解いていく必要があります。どんな画面なのか紹介したいところでしたが、なんとスクリーンショットが撮れない仕組み! 徹底しています(仮に撮れても貼ってはいけませんが)。出題形式や内容が最も近かったのは、受講した35時間研修の無料付録「PMI公式問題集」です。

ちょっとでも気を許すとペースが落ちます。 10分で10問、数十秒ほどあえてインターバルを作って脳の疲労を回復させ、次の10問、と進めました。

時間ギリギリまで使い切り、完了。 結果はすぐに画面で確認できます。ただし、暫定結果。数日後に確定情報が送られてきます。

試験結果

「Pass」の文字。合格できました。ふーーーっ。

資格を取得して得られたもの

自信と思考パターンの変化

月並みかもしれませんが、自分の仕事に自信がつきました。

  • プロマネとして押さえておくべき範囲、用語がどれだけなのか
  • (現実的かどうかは置いておいて)状況に応じて推奨される行動指針
  • 自分が何を期待されるのか

を一通り理解し、引き出しとして備わった、と感じることができるように。

また、プロジェクトを要素分解して捉えられるようになったとも感じます。日々生じる数々の出来事は「事業の性質」「コンフリクト」「リソースの調達」など、どの要素によって生じているものか?王道の対応方針は?他に取りうる選択肢は?など。

これらが言語化できるようになったことで、脳内の整理がしやすくなりました。毎度一から手探りで考えなくてよくなった感覚です。

視野の広がり

これまでは目の前のプロジェクトをやりくりすることに必死、という感覚でしたが、今はプロジェクトを俯瞰し成功に導くことに加え、「その次」に意識を向けるだけの余裕が少しではありますが、持てているように思います。

クライアント企業に対しては、プロジェクトの達成のあとの事業展開。自分自身に対しては、プロジェクトマネジメント業務以外のタスクや、先の展望。足元を見ながら進んでいたこれまでに対し、顔を上げて前を向いて進めている感。これは思わぬ効果でした。

企業としての応札資格

官公庁のプロジェクトなどでは、PMP有資格者が参画することが入札案件に応じるための条件になることがあります。対応できるプロジェクトの幅が広がることは喜ばしいことですね。

さいごに

取得して一番の成果と思うのは、「プロマネって何するの?」と聞かれるのが怖くなくなったことかもしれません。

実を言いますと、この素朴な質問をされたとき自信を持って答えられない自分がいました。「環境を整える」「なんでもやる」と答えるものの、「どうやって?」と踏み込まれたらきちんと答えられない・・。

今は「プロジェクトの遂行を支え、成功に導く」と堂々と答えられそうです。字面だけ見ると教科書通りの言葉ですが、今の自分には体系化され網羅された知識があります。それを実務に結び付けられそう、という感覚も身につきました。

これからも精進の日々は続きますが、今後成功やつまづきに出会ったとき、何が要因なのかを把握し向き合える準備が整った、といったところでしょうか。

資格試験にチャレンジすることは、自分の現在地を客観視できる良い機会だと思います。また、取得することで次のステップへと視野が開ける効果もあるように感じます。本記事が資格取得を検討されている方のお役に立てれば幸いです。

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