2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、様々な産業・場面でDXが推進されました。デジタル庁立ち上げをはじめ、行政においてもDXが推進されています。そのような中で、内閣官房ICT総合戦略室が発表した「デジタルガバメント 実現のためのグランドデザイン」ではデジタル行政におけるユーザー体験の重要性が認識されています。

日本の行政DXが推進されていく中で、優れたユーザー体験のサービスを実現する手がかりとして、Goodpatchでは2020年末から2021年初にかけて、電子政府として評価の高い海外の行政サービスについてユーザー体験の視点で独自にリサーチを行いました。

対象としたのは、電子政府ランキング上位3カ国のデンマーク、韓国、エストニアと、ユニークな行政サービスを提供しているスウェーデン、中国(上海)です。これらの国のリサーチ結果を、全5回に渡って紹介していきます。

今回は、電子政府ランキング2位の韓国のリサーチ結果をご紹介します。

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電子政府ランキング2位の韓国

2020年に国連が発表した電子政府ランキング(United Nations E-Government Survey2020)において、韓国は第2位にランクインしています。

このランキングが初めて発表された2003年時点では、実は韓国は13位でした。しかしそこから飛躍的に順位を上げ、2005年に5位、2010年には1位に輝きその後現在まで1〜3位にランクインし続けています。

2019年に韓国の政府が発表した調査によると、韓国の国民の10人に9人が電子行政サービスを利用しているといいます。
(参考:
https://www.etnews.com/20190210000014?fbclid=IwAR1ifdiyp0mePX8xTsmiSGZoPFytRL7bUJyMbK83eAAoWI4CxwA4Nd4fk8w

そして、そのサービス満足度も93.8%と非常に高く、また年々向上しています。

韓国はなぜここまで満足度の高い行政サービスを提供することができているのでしょうか?

Goodpatchは、実際に韓国の行政サービスを日常的に利用しているユーザー(韓国国民)にインタビューを行いました。

まずは、韓国の国民ID(住所登録番号)について話を聞きました。これは日本のマイナンバーに当たるもので、17歳以上の国民は取得が義務化されています。日本のマイナンバーと異なる点は、銀行口座の開設やネット回線の申し込みなど幅広い場面で使用され、情報と結び付けられている点です。

実際にこのID制度を活用して、韓国は2020年にCOVID-19の感染拡大に際した給付金をわずか2週間で国民の97%にまで行き渡らせることができました。

インタビュー対象者の方の話を聞くと、IDを用いてログインする「政府24」という行政サービスのポータルサイトをよく利用しているといいます。この政府24について、さらに詳しく話を聞きました。

行政手続きの9割がオンラインで完結。韓国の行政ポータルサイト”政府24”

「政府24」は、国民ID(住民登録番号)を基盤とした行政サービスのワンストップのポータルサイトです。

政府24は、2001年から構築が進められ、現在では転出入、住民票の取得、自動車の登録など役所が発行する書類のうち約9割の手続きをオンライン上で行えるようになっています。

インタビューでも、以前は警察署で行っていた車関係の手続きをパソコンやスマートフォンで行えるようになり便利になったとの声がありました。

2020年には旅券の紛失届をオンラインで提出できるようになるなど、現在でもオンライン上で行うことができる手続きは増えていっており、韓国の行政サービスは継続して国民の生活を便利にし続けているといえます。

“政府24”の優れたUI/UX設計

ここからは、韓国の電子行政サービスの満足度と利用率の高さの秘訣を探るべく、政府24のUI/UXについて少し詳しくみていきましょう。

政府24は、大きく次の3つの情報設計上の特徴がにより優れたUI/UXを実現しているといえます。

①コンテクスト重視の表示
政府24のモバイルアプリのトップには、「よく使われるサービス」が表示されています。全てのサービスを一覧で表示するのではなく、頻繁に使用されているサービスをピックアップして表示することで利便性を高めています。

「よく使われるサービス」には、住民登録や健康保険料の納付、自動車登録証明、小中学校・高校の卒業証明などが含まれています。

②直感的なアイコンデザイン
サービスのアイコンが直感的でわかりやすいことも特徴的です。文字情報だけでなく自動車登録なら自動車のイラスト、予防接種の証明なら注射器のイラストなど、視覚的に必要なサービスにアクセスしやすくなっています

さらに、オンラインで証明書の発行が可能なサービスのアイコンには帯が付けられています。サービスの詳細を確認しなくてもオンライン申請が可能であることがひと目でわかります

③ワンストップの申請
政府24では、関連するサービスをワンストップで一括申請することができます。例えば妊娠出産、相続、引越しなどのカテゴリーを選択すると、必要な申請項目や関連するサービスが一括で表示されます。

必要な申請を一つずつ調べなくても良いため、手間が省けると同時に申請漏れを防ぐこともできます。

質の高いサービスをスピード感を持って実現した韓国の行政組織

ここまで見てきたように、韓国政府のデジタルサービスは優れたUI/UXを実現することで国民の生活を便利にしているといえます。では、政府24や韓国のデジタルサービスはどのように作られたのでしょうか。

デザインプロセスを取り入れたサービス設計

韓国の行政安全部(行政戦略を描く機関)には、「政府イノベーション組織事務局」という部署があります。政府イノベーション組織事務局は、各省庁と民間企業、国民のコラボレーションを推進し政府のイノベーションを加速する役割を担っています。政府24も政府イノベーション組織事務局の管轄です。

その政府イノベーション組織事務局では、「国家デザインチーム」という取り組みがあります。これは、民間のサービスデザイナーや専門家を招いてデザインプロセスを実施し、政府の担当者や技術者と一体となってサービスを設計する取り組みです。

このプロセスでは、ブレインストーミングのワークショップやペルソナ/カスタマージャーニーマップの作成、アイデアストーリーボードの作成などを通じて、国民中心のサービスデザインが行われています。国家デザインチームは、国際的なデザイン賞「iF Design Award 2016」でサービスデザイン賞金賞を受賞しています。

(韓国行政安全部HPよりhttps://www.mois.go.kr/frt/sub/a06/b02/govServiceDesign/screen.do

大統領直下で進めたDX

記事冒頭で紹介したように、韓国は2000年代に急速に電子政府化を達成しました。この背景には、ハイスピードで電子政府化を推進することができる組織体制がありました。

韓国のデジタル施策は、決定権のある大統領のもとに戦略を描く行政安全部と電子政府推進委員会がおかれ、その下に実際に施策を実行する情報化振興院や地域情報開発院が置かれています。

この体制では、大統領が強いコミットメントを持って戦略立案から実行、各自治体との連携を進めることができています。国家デザインチームなどの施策を実行し、政府24のような優れたサービスを提供できている理由の一つはこの組織体制にあるといえます。

まとめ

韓国では優れたUI/UXを実現するデジタルサービスを提供し、国民の高い利用率と満足度を実現しています。急速に電子化を押し進め、電子政府としてアジアでもダントツで高い評価を受ける韓国では、デジタル行政を推進する組織体制や官民コラボレーションを実現する取り組みがありました。

韓国の事例からは、DXを推進する際の組織構築やオープンイノベーションのモデルとしても示唆を得ることができます。ぜひ参考にしてみてください。