ケーススタディ

知識の会得だけではチーム力は上がらない──実践を促し、組織課題を解決する「没入型ワークショップ」の威力とは

チームメンバーが変わる、新しい事業を立ち上げる、業務のフローが変わる――大きなことから小さなことまで、働いていれば「チームで新しいことに挑戦する機会」は多くあると思います。では、チームで新しいことに挑戦するときの成否を分けるポイントを聞かれたら、何と答えますか?

成功事例の「知識」や、過去にチャレンジした「経験」を持つ人がいるか……といった答えが出てくるかもしれませんが、意外と見落としがちなのが「メンバー同士の認識のズレ」です。どれだけ良い知識や成功事例を学んでも、チームとしての判断基準がそろっていなければ、動き方はバラバラになり、満足な連携もできないでしょう。

そして、このズレは個人の努力だけでは解消が難しい領域です。なぜなら、同じプロセスを体験しない限り、判断の「基準値」がそろわないからです。

では「研修」という形で、同じものを学べば良いかというとそうでもありません。新しい学びの場において、レクチャー中心の設計では知識が“理解のまま”止まりがちで、実際にどういうことをすればいいか、が実は分かっていないことが多いもの(分かったけど、できてない)。だからこそ、実際に手を動かし、考え、議論し、形にするという“共に体験する学び”が、メンバー間の認識をそろえる一番の近道になります。

グッドパッチのファシリテーション&コーチングチーム「Marble」が提供する、ユーザー起点でのモノ・コト作りを体験的に学べる没入型ワークショップ「デザインプロセスワークショップ」は、参加者が自ら考え、判断し、形にする一連の体験を通じて、チームで認識をそろえることを大切にしています。

この「チーム・組織で学びを共体験する活動」こそが、新たな領域へチャレンジする組織の成長に非常に貢献できるトレーニングだと考えています。今回の記事では、没入型ワークショップの一例として、SB C&S様に向けたプログラムをご紹介します。

SB C&Sが抱えていた“デザイン内製化の課題”

SB C&Sは大きく3つの事業を軸に展開しています。法人向け事業では、ソフトバンクグループの原点である ICT 流通を基盤に、クラウドやAIといった先端テクノロジーを活用し、メーカーや販売パートナーのビジネスを支援するとともに、最適なICTプロダクト・サービスの導入を推進しています。

コンシューマ向け事業では、日本最大級のIT・IoT 商材プロバイダーを目指し、モバイルアクセサリーを中心に、PC周辺機器やソフトウェアなどを自社開発も含めて幅広く提供しています。さらに新規事業では、データとデジタルを融合したDXの実践を通じて、企業の業務変革や新たな価値創出を支援しています。

今回は、この3つの事業のうち、コンシューマ向け事業において自社開発を担うチームからの相談をきっかけに、本ワークショップの実施に至りました。

背景には、ハードウェアと連携するアプリケーションやサービスにおいて、UI/UXの重要度がますます高まっており、「外部パートナー頼りではなく、社内でUXの価値を理解し、実践できる体制を整えたい」と考え、グッドパッチにお声がけいただきました。

状況を把握するためにヒアリングをしたところ、目的を達成するには以下のような課題があると見えてきました。

  • 部門を超えた組織全体に“良いUX”の基準がない
  • 組織で協働していくために、何から始めれば良いか分からない

「UXの価値を理解する」だけならば、セミナーなどの座学で対応することもできるでしょう。しかし、内製化をするとなると学んだ知識を実行し、業務に取り入れることになります。そのためには「共通の思考基盤」が不可欠です。

ヒアリングと分析の結果、この基盤づくりの壁となる本質的な課題は以下の2つだと考えました。

1.デザインに対する認識がばらついている

デザインを“見た目”として捉える人もいれば、“課題解決プロセス”と捉える人もいます。デザインに対するなじみの深さが影響しているので、この目線合わせが重要だと考えました。

2.組織で協働はしているが、思考の前提がそろいきっていなかった

部門ごとに工夫しながら取り組みは行われていたものの、ものづくりのプロセスにおける共通の考え方や判断の前提が、組織全体で十分に言語化・共有されている状態ではありませんでした。

このような状況において、知識を個別に学ぶだけでは限界があります。そこで、「デザインのプロセスを共体験し、組織で共通言語を獲得する」ことを目的としてワークショップの設計を進めました。

“わかったつもり”を解消し、認識をそろえる──デザインプロセスワークショップの全体像

このワークショップは、参加者がプロセスを学ぶだけではなく、自ら手を動かしながら背景や考え方をすり合わせ、チームとしての判断の軸を徐々にそろえていく構造になっています。

  • ユーザー理解(インタビュー):事実を収集し、自身の思い込みとの差を知る
  • 解釈・構造化:情報を整理し、課題を特定する
  • アイデア創出:チームの多様なアイデアを持ち寄り、多角的に可能性を検討する
  • プロトタイピング:アイデアを具体化し、ユーザーに向けて検証する

この流れを体験することで、デザイン思考があらゆる業務で活用できる、「自身が対面する『人』を中心に、モノやコトの関係を建設的に改善するプロセス」として体感していただくことができます。

没入型ワークショップはどう“没入”をつくるのか

デザインプロセスワークショップでは、単に手を動かすだけではなく、参加者が状況に入り込み、判断・対話・協働が自然と発生する“没入状態”を意図的にデザインしています。没入を生み出すために、以下の構造を仕掛けとして組み込んでいます。

  • 実際のユーザーに触れる“現実のインパクト” :仮説と現実の違いを体で感じることで、思考が一気に動き出す
  • プログラム全体を通して一貫したストーリー体験:理解→変容→協働が自然とつながる設計
  • 抽象と具体を往復しながら深まる議論構造:あいまいさが徐々に減り、判断軸がそろっていく
  • 形にして、見て、話す“手触り”を中心にした進行:対話が加速し、共通認識が生まれる

こうした仕掛けの積み重ねによって、参加者は“頭で理解する”だけではなく、“体験として腹落ちする”没入状態に入っていきます。以下では、その具体的な仕掛けを3つの観点から紹介します。

仕掛け1:判断基準をそろえる“体験の導線”

このプログラムでは、最初に“思い込みのズレ”を体験してもらうように設計しています。それは、デザイン内製化において最も大きな障害は、スキル不足よりも「判断基準の違い」だからです。

ワーク冒頭のユーザーインタビューでは、参加者が自分の仮説を基に設計した質問を実際のユーザーに投げかけます。そこで返ってくるのは、多くの場合「想像していた答えと違う」という反応です。

これは、対象者の“表面的”な情報だけを見て判断していたことに起因するズレ(思い込み)であり、価値観や背景を理解していなかったことが明確になります。

このズレは、意図的に設計されています。始めからインタビューの正しい手順を教えるのではなく、まず“自分のやり方でやってみる”ことで生まれる失敗が、気付き・学びを深くします。実務でも同様に、初期の仮説のズレに気づけるかどうかは成果を大きく左右します。

ズレを知った参加者は、「もっと聞けばよかった」「文脈が取れていなかった」と自発的に振り返ります。対象者への興味関心や共感が足りなかったことに気付き、これまでのユーザー理解の浅さを痛感することで、その後の議論が格段に深まり、チーム内の対話も一気に活性化します。この経験は、レクチャーを丁寧に行っても得づらい、記憶に残る学びになるでしょう。

「ユーザー理解が不足したままでは、焦点の定まった議論ができない」という体験を全員で共有することで、『ユーザーへの深い理解こそが、チームの共通の判断基準であるべきだ』という認識が、部門を越えて育まれ始めるのです。

仕掛け2:問いで“議論の対象”をそろえる

ユーザーインタビュー、アイデア出し、プロトタイピング制作……とワークが進むにつれ、参加者は自身の思い込みによるユーザー像で物事を考え、チームメンバーとコミュニケーションを取ったり、ユーザーのことを考えるよりも、完成物を作ることに意識が寄ってしまったりと、チーム内の議論の焦点がずれる場面が少なくありません。

その状態のままワークを終えても、学びが損なわれるどころか、逆に参加者にモヤモヤやしこりが残ることになってしまいます。そこで重要になるのが“問いによる焦点合わせ”です。ファシリテーターが投げる問いは、個人を指摘するのではなく、チーム全体へ向けた“場を整える問い”です。

  • この議論の前提はどこにありますか?
  • その根拠は、チームとして共有されていますか?
  • 見落としている視点はありませんか?
  • 今、チームの中で何が起きていますか?

これらの問いを投げかけると、ワークに熱中している参加者は一度立ち止まり、状況を俯瞰し始めます。「確かに前提がずれていた」「少し戻ろう」と自然に状況が整い、議論が本来向かうべき対象に戻っていきます。

特に今回のケースでは、マネージャーが現場メンバーと同じテーブルに加わり、同じ問いに向き合ったことで、学びが個人のものではなく“組織の判断基準”として共有される効果が生まれました。

仕掛け3:プロトタイピングは“協働の準備運動”

ワークの終盤で行う「プロトタイピング」は、実現したいコンセプトを他者に伝えて反応を得ることで、プロジェクトを前進させるための活動になります。個人での活動ではもちろん、チームプロジェクトにおいては、協働するメンバーや周囲のステークホルダーとの対話のために大切な活動になります。

プロトタイピングのステップでは、参加者の心理状態と議論の質が大きく変わります。形として可視化された素材が生まれることで、自分の考えを説明しやすくなり、他者の意図も受け取りやすくなるためです。

まず、抽象的な議論が続いていたワーク前半とは異なり、プロトタイプを前にすると曖昧な表現はそのまま形にできません。参加者は「この言葉は具体的にどういう意味?」「どんな状態を示している?」と自然に問い直し、本当に伝えたい内容を具体化していきます。

創造的な対話が最も活性化するのは、描いたスケッチを見ながら意見を交わす瞬間です。言葉では伝わりにくかった意図が共有され、「もっとこうしたい」「この部分は違和感がある」と建設的なやり取りが増えていきます。さらに、得意領域が見えやすくなることで役割分担も自然に生まれ、お互いの不足を補い合いながら協働する動きが整っていきます。

プロトタイピングを“協働の準備運動”と位置付けている理由は、ここで認識のズレが最もスムーズに減るからです。形を介した会話は対話の負荷を下げ、専門性の壁を越えて共通の判断基準をつくりやすくします。後半の議論が一気に前に進んだ背景には、この“共同で形にする経験”がありました。

デザインプロセスワークショップには、これらの仕掛けがギュッと詰まったプロセス・体験となっています。デザインプロセスにおけるマインドセットを「組織」で体感することによって、お互いの知識・意識を交流させながらチームでのデザイン活動が実践しやすくなります。デザインの学びを個人に閉じるのではなく、協働する仲間同士で学び会うことがこのワークショップの本質的な価値といえます。

インタビュー:没入型ワークショップは、現場の“次の行動”をどう変えたのか

没入型ワークショップを体験した方が実際にどのような感想を持ち、実業務にどのような影響があったのか。今回のワークショップに参加した方にお話を聞いてみました。

話し手:
SB C&S 商品企画部2課 森さん
SB C&S プロダクトマネジメント室 荻窪さん
SB C&S ビジュアルデザイン課 樺澤さん

──今回のワークショップで印象に残ったポイントがあれば教えてください。

樺澤:
私はデザイナーではありますが、業務では広告などの紙媒体のデザインを手掛けることが多く、アプリなどのデジタルプロダクトの開発には関わったことがありませんでした。今回のワークショップを通じて、お作法と言いますか、基本的なことが頭に入っていなかったんだな、ということを痛感しました。ワークショップでアプリ画面のプロトタイプを製作したのですが、「進む/戻る」といったボタンを入れるのを忘れていまして……。そういうものをしっかりと作ってくれるデザイナーがいるというのは、心強いことなのだと再認識しました。

荻窪:
そうですね。日常的にアプリに触れていて、操作方法も直感的に分かっているはずなのに、いざ作るとなると全然うまくいかない。画面という「表面」だけを考えるのではダメで、ユーザーの声を聞いて、カスタマージャーニーを作って、考えて……といった背景があるからこそ、良いものができるのだなと感じました。あと、カスタマージャーニーマップを作るときに、さまざまな人からアイデアが出てきたのも印象に残っています。

森:
確かに普段あまり発言しないような方も含めて、チームメンバーがまんべんなく発言していましたね。人の意見を聞きながら、自分の意見も乗せて、考えを膨らませていくことができていたんじゃないかなと思います。

私は企画を考える業務なので、普段からペルソナについて考えることはあるのですが、ペルソナがどう考えていて、どんな行動を取り、彼らにどうフィットさせていくのかという流れで考えていくフローは分かりやすいと思いました。

あとプロトタイプを評価してもらうときに、ユーザー役だった方から「僕のことを最も一生懸命考えてくれて、僕に合うように考えてくれたので、このチームのプロダクトが一番良いと思った」とお話しされて、自分が良いと思うものではなく、相手にとって良いと思えるものを作らなければならないのだと実感しましたね。

──ワークショップを終え、翌日以降の業務で変わったポイントはありますか?

荻窪:
これまでは森さんたちのチームから出てきた企画に対して、技術の観点から「これはできる」「これは難しい」とジャッジをするような立場やコミュニケーションになってしまっていたところがあったのですが、ワークショップを経て、企画やペルソナに合わせて、こんな機能を載せられないかというのを考えたり、アイデアを提案してみたりしようと考えるようになりました。まだ実行に移せていないところもあるのですが。

樺澤:
ペルソナを考えて企画やデザインに生かす、という点では私も大きな学びがありました。まだ発売していない商品の話にはなりますが、パッケージのデザインを提案する際に「このターゲット層に合うように作りました」とプレゼンし、弊社ではあまり作ってこなかったようなトーンのデザインが承認されたといった変化はありましたね。新しい知識を学んだことで、今までに経験したことがないようなことにも、挑戦しやすくなったなと思います。

──すごい、それは大きな変化ですね!

樺澤:
これまではデザインについてロジックが求められても、なかなか言語化することが難しかったのですが、ペルソナをベースに説明できるようになったのは良かったです。ワークショップで見せていただいた資料も参考になりました。分かりやすく他人に説明できるよう、参考にさせていただいています。

森:
私もそのプレゼンは見ていましたが、どういった背景でこのデザインにしたのかという説明が明快だったので、同意しやすかったなと思いました。あと、私の話ではないのですが、ワークショップに参加した方が「ブランドコンセプトの見直し」に関する資料を作っていて、見てみたらしっかりとしたペルソナを作られていて、ワークショップの効果なのかなと感じていました。

──今回のワークショップを通じて、部署やチームのコミュニケーションなどに変化が現れた点などはあったのでしょうか。

樺澤:
同じチームの人と話すことはもちろんこれまでもあるわけですが、別部署の方と一日中ずっと話すことってこれまでなかったと思うんです。それが今回のワークショップでは、皆で同じ課題に取り組んだので、別のチームの人と「あれどうだった?」と話すことも多くて。

特に同じチームだった方とは、ワークショップが終わった後もオフィスで立ち話とかをするようになりましたね。コミュケーションの頻度が上がって、結束力みたいなものも生まれたような気がします。

まとめ──没入型ワークショップは“共通判断基準”をつくる

今回の取り組みは、単なるデザイン思考の導入ではなく、異なる専門性を持つメンバーが同じプロセスを体験し、判断の基準をそろえるための仕組みでした。

  • 前提のズレが明確になる
  • 専門性が共有される
  • アイデアが具体化される
  • 議論のレイヤーがそろう
  • トップ層が現場と同じ判断基準を共有する

これらを通じて生まれたのは、デザイン内製化に不可欠な「共通の認識基盤」です。没入型ワークショップは、“知識の理解”だけでなく、実務で必要な判断・議論・協働をそろえるための有効な手段です。結果として、体験や知識が業務にきちんと反映され、課題解決に向けた効果を生むものになるのです。

SB C&Sのみなさんが体験から持ち帰ったのはスキルだけでなく、“共通の判断基準で協働できる状態”でした。デザインの内製化を進める上で最も重要なのは、特定の個人に依存しない“組織としての判断基盤”を育てることです。

今回の没入型ワークショップは、その基盤づくりに向けた大きな一歩となりました。今後、プロジェクトや部署を越えて協働が求められる場で、この共通基盤が必ず力を発揮していくはずです。


Marbleについて

グッドパッチのファシリテーション&コーチングチーム「Marble」は、ワークショップやコーチングなどを通じて、組織や人の育成・変革を支援しています。

今回のプロジェクトのようなDX人材育成以外にも、新規事業創出支援やチームビルディング(組織活性化)といった個別の課題に対して、フィットするプログラムをご提案いたします。詳しい内容やお問い合わせはこちらからどうぞ。

プロジェクトメンバー

デザイン思考のワークショップならグッドパッチへ

デザインプロセスワークショップの様子

グッドパッチでは、デザイン思考やUI/UXの考え方に基づいたワークショップを実施しています。デザインや開発の現場で培われたデザインプロセスワークショップでは、1回4〜6時間程度で、ユーザー中心の課題抽出、アイデア創出、検証などを実践的に学ぶことができます。現場ですぐに活かせるスキルを習得し、革新的なアイデアを形にしましょう。

このような方におすすめです

  • ・ ニーズの見込める事業・サービスのアイデアを生み出したい
  • ・ チーム全体のデザイン理解・スキルをアップさせたい
  • ・ 詳しい料金体系や過去の実施事例を知りたい
  • ・ 社内の新規事業プログラムを導いてほしい
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