ナレッジ・ノウハウ

企業が伝えたいことは、なぜ伝わらないのか? AI時代のカギを握る、「らしさ」から始めるブランドづくり

AIの進化によって技術や機能だけでは差別化が難しくなった今、企業が選ばれ続けるために問われているのが「ブランド」です。自社独自の価値を言語化して発信し、組織や顧客に浸透させていくブランディングの重要性が増しています。

2026年1月にグッドパッチが主催したイベント「認知形成のためのステップを実例から学ぶ 顧客に選ばれ続けるためのブランド進化論」では、AI時代におけるブランドの役割と、コアとなる「らしさ」を軸にブランド体験をつくるための考え方が語られました。本記事では、その内容をレポートします。

AI時代に、なぜブランドが重要なのか

最初のセッションに登場したのは、グッドパッチでBrand Experience Design領域を統括する佐宗 純。サービスブランディング、コーポレートブランディング、インナーブランディングの3領域で、事業のグロースや企業成長のために必要なブランド定義を行っています。

グッドパッチ Design Division ゼネラルマネージャー 佐宗

グッドパッチ Design Division ゼネラルマネージャー 佐宗(撮影場所:グラングリーン大阪 北館 JAM BASE 3F Blooming Camp コネクトエリア)

手掛けた案件は、デリバリー総合サイト「出前館」アプリのリブランディング、化粧品会社mshが運営する「Ctrlx」のデザインコンセプト及びECサイトの立ち上げ、資生堂グループ「IPSA」のCX(顧客体験)デザイン強化、サントリーグループの新規事業「SUNTORY+」など多岐にわたります。

課題に対し、UI/UXとブランドを起点に企業成長に貢献する3つの柱を解説。サービスブランディング: 「愛されるブランド体験」を実現するUI/UXデザイン。ファンを生み出しブランド価値を高める。 コーポレートブランディング: 「企業らしさ」を体現するBXデザイン。本質的な価値をウェブサイト等の接点に落とし込む。 インナーブランディング: 「組織の一体感」を醸成する組織デザイン。社員を巻き込み、ビジョンへのエンゲージメントを高める。

提供する価値

佐宗はAIによる社会変化に触れ、「ブランドの視点で大事なのは社会の流れ」だと指摘します。

「AIによって最適な体験が変化し続ける時代だからこそ、社会の変化に目を向け、体験の変化に着目する。それがブランドづくりにつながっていきます」

AIとブランドの関係性として、佐宗は3つの視点を提示します。

1つ目は、AIが開発速度を上げることで、体験とブランドの重要性が増すということ。誰でもAIツールを使って開発ができるのであれば、プロダクトの性能ではなく、UXとブランドの体験がユーザーの選定基準になります。

その例として、佐宗はChatGPTのGPT-5を挙げます。登場時、世界では「I lost my only friend overnight(一夜にして唯一の友を失った)」と、アップデートによってChatGPTが無機質になったことを嘆く声が上がりました。

「これは『らしさ』の消失です。別のAIモデルに切り替える人が増えたことでOpenAIはロールバックし、GPT-5.1では好きな人格を選べるようになっています。この事例から分かるように、AI時代だからこそ人はプロダクトのストーリーや関係性を重視するのです。情緒的な価値やサービスの人格が、より重要な競争への源泉になってくる。ブランドや、モノと人の関係性が重視される社会になってきているわけです」

2つ目は、AIによる体験の多様化です。2025年10月、OpenAIとウォルマートが提携し、ChatGPTからウォルマートで買い物ができるようになりました。これによってChatGPTは購入履歴からユーザーの行動を推察し、「そろそろ水を購入しますか?」といった提案ができるようになります。

「これは購買体験の変化です。つい先日もGoogleとウォルマートがAIエージェント型コマースで提携すると発表がありましたが、世の中のビッグテックが体験そのものを変えにきている。こういった購買体験の変化を踏まえ、今後自社がどういった体験を提供するのか、考える必要があります。その体験が積み重なることで、ブランドも形づくられていくのです」

3つ目は、AIによる個性の埋没。AIツールの回答は平均的になりやすく、プロンプトを工夫しない限り、画期的な回答は出てきません。

「つまり、AIに頼りすぎることで個性が薄れてしまうのです。誰でも作れるサービスになりやすく、顧客維持率はどんどん下がってしまいます」

ブランドは「内側」から設計する

ブランド設計を行う際のアプローチが、「Brand Experience Design(以下、BXデザイン)」です。

BXデザインとは、提供するサービスや企業の世界観を、一貫性を持って伝える戦略的なアプローチです。ブランドの核となる「ブランド・コア(思想)」、ブランドストーリーやブランドコンセプトなどの「アイデンティティ(らしさ)」、ロゴやフォントといったブランドデザインに当たる「エクスプレッション(世界観)」を順に定めていき、それらをウェブサイトやプロダクトといった表現に落とし込み、最終的な「タッチポイント(体験接点)」を創出します。

重要なのは、内側から外側に向けて設計すること。BXのアプローチを示した図を用いながら、佐宗はそう強調します。

「中心部のブランド・コアから外側のタッチポイントに向かって一貫した体験を設計しなければ、ビジョン・ミッション・バリューが抽象的になったり、ブランドとしての一貫性が崩れたりといった問題が生じます。それにより、採用時の魅力や訴求力も低下してしまいます」

「内側から外側へ広げる」という4つのステップによるデザイン手法の解説。BRAND CORE: 企業の内側にある思想と本質を紐解く。 IDENTITY: ブランドの”らしさ”を定義し言語化する。 EXPRESSION: ”らしさ”を表した世界観を可視化する。 TOUCHPOINTS: さまざまな接点を作り、社内外と関係を築く。 右側には、これらが円状に広がり、ウェブ、PR、CM、店舗などの具体的なアウトプットに繋がるイメージ図が添えられている。

デザインアプローチ

最後のタッチポイントは、社内と社外に分かれます。社内に向けたインナーブランディングのタッチポイントは、経営者やリーダーの言動、イントラネットなどが該当します。「社内の思い」や「らしさ」を言語化し、「それを社外のアウターブランディングにつなげていく順番が大切」と佐宗。

ブランディングの構造を「中心から外側へ」の円層状と、「インナー(社員)からアウター(顧客)」への軸で示した図解。中心核: 「BRAND CORE(思想)」ビジョン・ミッション・バリュー。 第2層: 「IDENTITY(らしさ)」名前、ロゴ、フォント、言葉遣い、性格など。 第3層: 「EXPRESSION(世界観)」色、質感、動き、ストーリーなど。 最外層: 「TOUCHPOINTS(体験接点)」プロダクト、店舗、広告、SNS、社員の言動、福利厚生など。 下部: インナーブランディング(社員向け)、コーポレートブランディング、サービスブランディング(顧客・投資家向け)という3つの領域が連動していることを示している。

タッチポイントとブランディング領域

グッドパッチでは、「言葉を引き出し定義する」「クリエイティブに落とし込む」「ブランドを浸透させる」の3つのフェーズに分けて進めるのが、BXデザインの基本プロセス。「言葉を引き出し定義する」のフェーズでは、社員を巻き込んでアンケートやインタビュー、ワークショップなどを行います。

「インタビューでは、経営層やプロジェクトコアメンバー、顧客に対して、1対1だけでなく、対談形式でヒアリングを行うこともあります。自社の現状だけでなく、ありたい姿を探ることで、未来から逆算しながら現時点での『らしさ』を定義することが可能です」

ワークショップは20〜30人を対象に、過去・未来・現在に分けて自社について考え、最終的に目指したい姿を定義したり、『ブランド・アーキタイプ』に基づいてサービスの性格を診断したり、「サービスが5年後の雑誌に掲載されたとして、どのようなタグラインで、何の雑誌に紹介されているか」を議論することで「らしさ」を抽出したりと、その内容はさまざまです。

「いい感じの言葉ではなく、自分たちが納得できる『らしさ』を引き出すことに注力し、社員を巻き込みながら『らしさ』を定義するわけです。インタビューとワークショップの内容をまとめて構造化し、キーワードに落とし込み、最終的なビジュアル化につなげていきます」

ブランディングプロジェクトの工程を3つのフェーズで示した表。Phase 1(約2ヶ月): 言葉を引き出し定義する。 内部・外部調査を経て、VMVやブランドストーリーを構築。 Phase 2(2ヶ月〜): クリエイティブに落とし込む。 タッチポイント設計やプロトタイピングを行い、CI/VI、ガイドライン、Webサイト等を作成。 Phase 3(中長期): ブランドを浸透させる。 ワークショップや社内報、プレスリリース等を通じて、社内外にブランドを定着させる。

プロセス:ブランドエクスペリエンス

「らしさ」を言語化し、体験へとつなぐ

プロダクトのビジョン・ミッション・バリューを言語化し、最終的なタッチポイントに落とし込むアプローチを行った事例を紹介します。

インタビューやワークショップを通じて「らしさ」を定義し、そこからタグラインやブランドストーリーを作成。プロダクトを通じて与えたい価値を言語化し、それを基にイラストやロゴなどクリエイティブの基準を作っていきました。

そうして完成したブランドガイドラインは、一貫性を持って「らしさ」を伝えるための判断基準となります。アプリやウェブサイト、ポスター、イベント、コミュニティ、自動販売機のポップアップなど、全てのタッチポイントに適用した結果、アプリの継続率84%という高水準に達しました。グッドデザイン賞も受賞し、契約は順調に伸びています。

「重要なのは、サービス開発もコーポレートブランディングも、『ブランド・コアの言語化』から始めることです。その上で世界観を作り、全ての接点でブランドを統一し、サービスの『らしさ』を基にリテンションを高めていく。それによって環境変化に耐え、進化し続けられる会社になっていくのだと思います。社会が変化しても、自分たちのコアは変えないまま、体験自体を変えていくことができるのです」

ブランド投資による成果を5つのステップで示したロードマップ。1st Step(起点): ブランドコアの定義とタッチポイントのデザイン。 2nd Step(初期成果): 顧客に他との違いを認知され、選ばれ、リピートが始まる。 3rd Step(中期成果): ブランドが経営・組織の判断軸になり、キャッシュフローが安定する。 4th Step(中核成果): 代替されない競争優位の確立。 5th Step(長期成果): 環境変化に耐え、進化し続けられる状態。

ブランドへの投資が創出する事業インパクトと創出ステップ

最後に佐宗は、ブランドの想いを「体験」で伝える3つのポイントを挙げます。

  1. 累積的UX:体験の積み重ねがブランドを形づくる
    2. 思想を結ぶ:ブランド戦略とプロダクト体験をつなぐ
    3. らしさを伝える:全ての接点でブランド体験を統一する

「体験の積み重ねがブランドを形づくり、ブランド戦略とプロダクトの体験をつなぎ、全ての接点でブランド体験を統一することが継続率の改善のみならず、社員のエンゲージメントにもつながるのだと思います」 

続いてのスペシャルセッションは、登壇したグッドパッチのグループ会社・スタジオディテイルズにてレポートの公開を予定しております。

交流会にも「ブランド」のテーマを反映

セッションの交流会では、イベントのテーマである「ブランディング」の要素を散りばめた特別なケータリングを提供。Blooming Kitchenを運営するヒトトバ社が提供している「Co-Cook Lab」(コンセプト:AIと人が“想い”をレシピに変える)を活用し、イベント内容や条件、リクエストなどをAIに打ち込み、壁打ちをしながら一緒に企画・作成しました。

ケータリングフード

会場の食事にもテーマを反映

会場に並ぶケータリングには、「SIZZLE」や「EDGE」など、ユニークなメニュー名が添えてあります。「どういう味なんだろう?」「なぜこういう名前なんだろう?」といった会話のきっかけを作る意図で、メニューの説明はせず、メニュー名のみを記載しています。

グッドパッチでは、今後も関西支社を拠点に、ブランディングやデザインに関わる方々に向けたイベントを継続的に開催していく予定です。気軽に学び、対話できる場をつくっていきますので、ぜひ足を運んでいただけたらうれしいです。