普段はワークショップなどを通じて、デザインを教えているグッドパッチですが、私たちがデザインを教える相手は社会人だけではありません。
2026年1月、徳島県にある「神山まるごと高等専門学校(以下、神山まるごと高専)」に招待され、3年生の選択科目「デザイナー探究」の授業にて、約20人の高専生に向けて3時間のUXデザイン講義を実施しました。
「デザインを教える」というのは簡単なことではありません。知識を得るだけではダメで、「理解」をして行動し、再現されることで初めて価値が生まれるものです。この記事では、神山まるごと高専で実施したUXデザイン講義を事例に、授業を担当したUXデザイナーの視点から、短時間でも実践につながる学びを生み出すグッドパッチのデザイン講義の設計をご紹介します。
デザインに関する研修や講義を実施したものの、
- その場は盛り上がったが、現場のアウトプットが変わらない
- 知識は伝えたはずなのに、行動につながっていない
- 学んだ内容が数カ月後には使われていない
と悩む教育機関の方や研修担当者の方へのヒントになれば幸いです。

目次
デザインが日常的な取り組みとして浸透する、神山まるごと高専という場で
今回、講義のご依頼をいただいた神山まるごと高専は「テクノロジーとデザインで、人間のに未来を変える」という 理念を掲げ、「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てることを目的に、実践を重視した独自の教育方針を貫いています。「神山サークル」と呼ばれるそのカリキュラムでは、テクノロジー、起業家精神と並び、「デザイン」が学びの三大要素として対等に位置付けられています。

提供:神山まるごと高専
一般的にビジネスの現場では、開発が先行し、デザインは「最後の仕上げ」として後回しにされがちです。しかし同校では、創業初期からデザインを経営の中核に据えることを目指しており、ツールや手法の習得にとどまらず、課題にどう向き合い、どのような視点で「伝える力」や「実現する力」を養うかが重視されています。
そんな熱心な教育現場でも特有の難しさがありました。学生たちはコーディングなしでも見栄えの良いモックアップを作る技術を持っており「Figmaで作るのは楽しい」反面、その手前にある「誰のために作るのか」や「本当に使われるのか」というプロセスが抜け落ちやすく、「作ってみたけれど、誰も使わない」という壁にぶつかる現状がありました。
限られたカリキュラムの時間の中で、どこまでを、どの深さで伝えるのか。 広く浅く学ぶ授業スタイルの中で、「なんとなく習った」状態で終わらせず、いかに実践的な「思考プロセス」を定着させるか。 学生たちに対し、いかに「自分ごと」として響くキャリアや現場のリアリティを届けるか。
今回の講義は、こうした教育現場の前提と課題感を神山まるごと高専の先生から共有いただいたうえで、教科書的な「お作法」ではなく、現場の第一線で活躍するプロフェッショナルだからこそ伝えられる「生きたデザインの力」を伝える場を目指しました。
設計ポイント①:自分ごと化するためのアジェンダ設計
ここからは授業を行うにあたって、UXデザイナーとして意識したポイントを紹介していきます。
今回の講義に限った話ではありませんが、往々にしてステークホルダーごとに考えていることやニーズは異なるものです。学校・教員・学生それぞれの期待を整理すると、以下のようになります。
- 学校:リサーチ思考を身につけてほしい
- 教員:ビジネスとデザインの接続を理解してほしい
- 学生:キャリアと職能を具体的に知りたい
授業を行う以上、最も優先されるべきは「学生が学びを得られること」ということで、学生の体験を最大化する構成が望ましいのは言うまでもありません。これらのニーズを別々に講義するのではなく、受講者本人の関心を軸にテーマを展開することで、学びを「自分ごと」として接続されやすくなることを狙いとして、以下3部構成のプログラムを設計しました。
- 第1部:UXデザイナーの仕事とキャリア
- 第2部:UXスキルアップ講座
- 第3部:AI時代におけるUXの拡張性
学生からのコメント
もともとは「体験のデザイン」に対してあまり興味や関心がない分野だと思っていましたが、講義を通じてその認識が覆されました。
実際のプロセスを知ることで、UXデザインが感覚やセンスではなく、徹底的なリサーチと根拠の積み重ねで行われる専門性の高い仕事だと実感しました。見えにくい部分まで含めて「デザインできる人」になるために、UXを本気で頑張りたいという強い意欲を持つようになりました

設計ポイント②:講義3時間の「前後」を生かす設計
当然ながら、3時間の講義でUXデザインのすべてを教え切ることはできません。それでもより多くのことを持ち帰ることができるように重視したのは、受講者自身が「自分の思考プロセスの現在地」に気付くことです。そのため、本講義では事前・当日・事後が連動した設計にしています。
事前課題:現在地を知るためのUXリサーチ体験
事前課題では、受講者に「新規事業のUXデザイナー」という設定で、サービスの課題を明らかにするためのインタビューと分析に取り組んでもらいました。単なる調べ学習ではなく、以下を自分なりに設計したうえで、実際にヒアリングと整理まで行う課題です。
- 誰に話を聞くのか
- 何を明らかにしたいのか
- どんな仮説を持つのか
まずは自己流でも一度やり切ることで、自分の思考のクセや、プロセスの抜け漏れが可視化される状態をつくりました。
当日:プロの進め方との「差分」を確認
講義当日の限られた時間の中では、現場でUXデザインに携わるデザイナーが、実務でどのような観点でリサーチと分析を進めているのかを、具体的な観点とともに解説しました。
- 仮説の立て方
- 質問設計の視点
- 分析時の切り口
- 判断の根拠の置き方
解説をお伝えすると、学生側からは自分の仮説が曖昧だった/質問が誘導的だった/解釈と事実が混ざっていた、といった違いがそれぞれ自分とプロの違いが見えてきたようです。この「プロセスの差分認識」が、ただ知識を理解するインプットではなく、行動に生かすための思考の更新につながります。
事後:チェックリストで再現可能にする
講義で提示した観点は、その場限りで終わらないよう、簡易なチェックリストとして整理して配布しました。
- 仮説を先に言語化しているか
- 質問が答えを誘導していないか
- 発言と解釈を分けて記録しているか
- 判断の根拠を説明できるか
このチェックリストで扱っている内容が全てではありませんが、それでも「違い」に気付いた今回の経験を活用するきっかけとして、プロセスの質を継続的に引き上げる支点になります。
学生からのコメント
特に印象に残ったのは、ユーザーインタビューの考え方である。これまで私は「自分が知りたい情報をうまく聞き出すこと」が良いインタビューだと思っていたが、話を聞き、むしろ批判的な意見や違和感を引き出すことの方が、プロダクトの質を高めるうえで重要だと気づかされた。ポジティブな意見だけを集めると、本当に解決すべき課題が見えなくなってしまうという指摘は、自分のものづくりの姿勢を見直すきっかけになった。
事前課題で実際にインタビューを行ったからこそ、自分のやり方がいかに良くなかったかを身をもって実感できました。自分が相手を誘導してしまうような質問ばかりをしていたことに気付かされたのも、大きな学びで改善していきたいです。

設計ポイント③:完成物ではなく「判断プロセス」を見せる
今回のグッドパッチのデザイン講義において特に大切にしているのが、アウトプットだけでなく、そこに至るプロセスや判断観点まで共有することです。
講義を担当したのは、普段からUXデザインの現場でプロジェクトに取り組んでいるデザイナーです。実際のアウトプットに加え、試行錯誤の過程や、判断に迷ったポイント、注意すべき観点まで含めて共有しました。完成形だけを見るのではなく、どう考え、どう積み上げていくのかを知ることで、学生は自分との差分をより具体的に認識できます。
「この工程が抜けていたことに気付いた」
「想像以上に、考える量が多いと分かった」
実際にこうした反応が生まれたのも、プロセスまで含めて扱ったからこそでした。プロが実際の仕事で何を考えているかを知ることは、キャリアのイメージを固める一助にもなるはずです。
学生からのコメント
「一度すべてを仮置きして進める」という考え方は、とても新鮮だった。完璧を目指すのではなく、仮の前提で全体を前に進め、必要に応じて更新していく。その柔軟さは、自分のモノづくりにも取り入れたいと感じた。
実際のプロセスを知るほどに、その仕事の凄さを強く実感した。徹底的にリサーチを行い、なぜこの設計にするのか、なぜこの導線にするのかを、細部まで理由を持って説明できる。その姿勢を見て、「デザインする」という行為は、単に感覚やセンスで形を作るのではなく、根拠の積み重ねで人の行動を設計することなのだと気づかされた。

スタッフから見た学生の変化──「UXデザイン」という職能の魅力が刺さった理由とは?
授業が終わった後、今回の講義を依頼いただいたデザイン教育担当スタッフの本末英樹さん(准教授)に、授業を通じて見えた学生の変化や、現場の第一線で活躍するプロフェッショナルが教える意義について語っていただきました。
——授業を受けて、学生たちの取り組み方や視点にどのような変化がありましたか?
本末さん:
一番印象に残っているのは、学生たちが「UXデザインがプロジェクトチームのハブになっている」と気付いたことです。デザインというのは単にビジュアルを作ることだけではなく、エンジニアやPMなど色々な役割の人の間に入って、パズルのピースのように足りないところを埋める役割がある。塩田さんの言葉から、学生たちも「あ、デザイナーってそういう動き方をするんだ」「実はそういう隠れたパワーがあるんだ」ということに気付いていました。
講義後のアンケートを見ても、「UXデザイナーのインターンに申し込みたい」と言い出す学生が続出していて、バッチリ影響されていましたね(笑)。「デザイン」といってもファッションから建築まで選択肢が広すぎて、UXやUIの違いも分かっていなかったりするのですが、今回の授業で「UXデザイン」という職能の魅力が深く刺さったようです。

——具体的なワークショップの中での変化はありましたか?
本末さん:
宿題としてインタビューに取り組んでいた学生にとっては、当日の講義で「自分の思い込みを肯定する答えを求めてしまう」という話を聞いた時に、「あ、確かに自分もそういう聞き方をしちゃってたな」と気付きがいっぱいあったようです。実践を踏まえた上でプロの話を聞いたことで、「そうなんだ」で終わらずに深い学びにつながりました。
——普段の授業と比較して、どのような特徴を感じましたか?
本末さん:
「現場でバリバリ働いている人のリアルな話」が聞けたことです。 実際のプロジェクトの話(オフレコ含む)など、僕のような教員の立場では絶対に話せない踏み込んだ内容でした。通常の授業ではどうしても「お作法」としての定型を教えることになりますが、今回はそこを超えていました。
また、企業向け研修でしか聞けないようなグッドパッチさんの「秘伝の技」を、たっぷり3時間も聞けたのは僕としても至福の時でした。普段の1時間のライトなセミナーとは質も量も違いましたね。
今回は、年齢や感覚が学生に近い「現場の第一線の若手プロフェッショナル」に来ていただけた。学生に近い目線の塩田さんの言葉だったからこそ、一番響いていたのだと思います。
単発で終わらせない、デザイン教育のために
グッドパッチが目指しているのは、「分かった気がする」で終わる講義ではありません。限られた短時間の中でも、受講者が自分の現在地に気付き、次の行動を変えられる状態をつくることです。
もし今、
- 研修が実務につながらない
- 知識提供型から一歩進んだ学びに変えたい
- 思考プロセスを定着させたい
そう感じているのであれば、ヒアリングをもとに、対象者・課題・時間制約に合わせた研修設計をご提案できます。まずはお気軽にご相談ください。
