今回ご紹介するのは、Android/フロントエンドエンジニアの古家 佳武です。
古家は2016年にGoodpatchへ入社し、自社プロダクト開発を担うデザインプラットフォーム事業のチームでProttの開発を担当。組織崩壊やProttリニューアルプロジェクトの頓挫を経て、2020年にオンラインホワイトボードStrapをリリースし、現在もStrapの開発に携わっています。
これまでの失敗体験やキャリアの葛藤を経て、エンジニアがものづくりにビジネス視点を取り入れていくまでの変化についてお話を聞きました。
目次
SIerで感じていた、チームで価値を届けることの難しさ
前職はSIerで、Androidエンジニアとしてキャリアを歩んできました。
Slerあるあるかもしれませんが、決められた仕様が覆せないクライアントとの関係性に難しさを感じていましたし、もっとチームとしていいプロダクトを作って価値を届けることにフォーカスしたい気持ちを抱きながら働いていました。
さらに前職ではずっとAndroidエンジニアをしていたので、いつのまにか重鎮的なポジションになっていたんですよね。でも、社外に目を向けると自分よりもっとすごいAndroidエンジニアはたくさんいるし、「自分の技術力はまだまだなのに」とギャップを感じていました。本当はもっと細かいところまでこだわったり、お互いを高めあえる議論がしたい。そう思っていたときにGoodpatchからスカウトが届いたんです。
話を聞いてみると、Goodpatchはデザイン会社でありながらエンジニアにとって有意義な環境やクライアントとの関係性を大事にしているところに興味を持ちました。社外から見ていてもスキルの高いエンジニアやデザイナーが多い印象だったので、「この人たちと近い距離でいいプロダクトを作ることに集中してみたい」と入社を決めました。
入社後に直面したスキル不足。バリューを発揮するためになんでもやった
配属は自社プロダクトであるProttの開発チームでしたが、入社してすぐに周りのエンジニアとの差に気がつきました。正直、外から見えている以上にみんな優秀で自信を失いました(笑)。今までずっとAndroidエンジニアとしてキャリアを積んできたので、みんなほどではなくても「そこそこ出来る方」だと思っていましたが、全然そんなことはなくて。「まずはこの人たちと対等に議論できるようにならなければ」と思い、手を動かしたり勉強する時間が増えました。焦りが募るなかで自分自身のバリューを発揮するために、どんなに細かい改善でも積極的にやりましたし、そうやって自分の居場所を作ろうとしていました。
技術的に優秀なことはもちろんですが、メンバーそれぞれの当事者意識の強さ、コミットメントにも違いを感じました。会社の方向性について意見しやすい文化が確立されており、社長に直接意見するメンバーがいることもこれまでの会社では考えられなかったことで、入社当時とても驚きました。これまでに働いてきた会社と比較して、透明性が担保されているなということもあらゆる場面で感じました。
困難を極めたProttのリニューアル
当時のProttチームを一言で言い表すと「やることは決まっていないけど、とにかく人を増やしている」状態だったかなと思います。僕も当時はプロジェクトの全体像が見えず、ぼんやりと「本当にこのままで良いのかなぁ」と思う状態が半年くらい続いていましたが、なんとかバリューを出そうとずっと模索していましたね。
そんな中、Prottのリニューアルの話が持ち上がり、僕がアプリ設計をメインで任せてもらえることになりました。初めてエンジニアとして大きな仕事を任せてもらえることになりようやく居場所ができた気持ちで、個人のモチベーションは高まりましたが、チームの空気は良いとは言えない状態でした。例えば1つの機能を作るにも、スコープや優先度などの目線がバラバラで、議論がすぐに脇道にそれてしまう。何かを決めるまでにものすごく時間がかかる。そんな状況が2017年頃まで続き、メンバーの離職も多く、「どうしたら良くなるんだろうな」とスクラム開発の本を読み直したり、あらゆるインプットをしていました。
関連記事:2018年当時、古家が執筆したProttモバイルアプリ設計の話
いいものを作るだけではなく「誰に届けるのか」の視点が重要
2018年を迎えたころ、Prottチームを見ていたGMが退職して新しいPMがジョインしたり、アジャイルコーチを迎えたりする中で「もう一回やり直そう」という空気になる転機が訪れました。この機会があったおかげで、エンジニアとしては良いアウトプットが出せるようになりました。
でも、そのアウトプットは「エンジニアとして」という視点でしかなくて、「誰に届ける価値なのか」が足りていなかったと今振り返って思います。
結果として、Prottのリニューアルプロジェクトは現行のProttからのデータ移行の問題などで、リリースを待たずにストップすることが決定しました。 正直、とてもショックでしたね。うすうす「本当に実現できるのかな」という迷いは生じていたのですが、いざ止めることになりましたと言われるのは、流石にこたえました。
実はProttのリニューアルなども構想がありましたが、リリース前に頓挫しています。プロダクトの方向性を固めるのに時間がかかり、いずれも開発に時間をかけすぎてしまいました。そして、開発速度をあげるためにチームの人数を急激に増やしたらコミュニケーションコストが大きくなってしまったことで同じものを見て話すことが難しくなったり、メンバー間でモチベーションにばらつきが生じてしまう事態になってしまったのです。「人数を増やせば開発速度も上がる」という考えは甘かったことが分かりました。
引用:当時を知るエンジニアリングマネージャー西山のインタビュー
先ほども話したようにProttのリニューアルでは「エンジニアとしては」いいものを作った感覚を持っていたんです。1年以上コミットしてきたものが世に出なかった喪失感は大きく、心も折れかけていたので「もういいかな」とGoodpatchを辞めることも考えました。
ですが、その直後に実施した代表の土屋との面談で「もう一度プロダクトを作らないか」と言ってもらえたことで残ることを決めました。この後もしばらく苦悩は続くのですが(笑)、土屋に「やります」と言った以上もうやるしかないと覚悟を決めました。
後がないチームに救世主が加わり、開発が加速
Prottリニューアルの失敗を経て今後を模索していたとき、チームにあるエンジニアが加入しました。Goodpatchへの熱い想いと、僕らがやろうとしていたProttのリニューアルの完成形に近いプロトタイプをメールで送ってきた人でした。「このタイミングですごい人が来てくれた」と思いましたし、技術的にも人格的にも優れた人で、圧倒的な実装力でプロトタイプを形にしていく彼にはいつも刺激されます。
メールを送ってきた黄さんはProttのユーザーで、ユーザーミートアップにも参加したことのある人だった。(まさか、ユーザーミートアップで少し触っただけのPrott2を見てあれを実装したのか・・?)
ドキドキしながら、会った黄さんは、想像の斜め上を行くくらいの好青年だった。そして、あのPrott2のプロトタイプってどれくらいの期間で作ったか聞くと、なんと1ヶ月!!むしろReactを触ったことがなかった所から2週間でReactをキャッチアップし、2週間で実装したと言うのである。しかも、バックエンドはWordpressだと。
正直バケモンが来たと思った。
引用:Goodpatchの新プロダクトStrapに秘められた苦悩の3年間のストーリー
そんなメンバーも加わって、もう一度挑戦しようとStrapの前進となるプロトタイプを作り始めたのが2019年頭のことです。もう後がないし「これでダメだったらやめるしかない」と思っていたので、1ヶ月でSwiftを覚えてiOSアプリも作りました。
初めてプロダクトを世の中に送り出した経験から学んだこと
Strapの構想をプロトタイプにして経営陣に提案し、Goが出て開発に取り組み続けて、2020年4月に念願のβ版をリリースすることができました。まだまだやることは目の前に山積みではあったけれど、「とにかく世の中に公開できた!」という感覚がありましたね。
Prottリニューアルの頓挫とStrapのリリースから僕が学んだことは、きちんとビジネスとして成立しなければいけないということです。Prott時代もユーザーのことは考えていたつもりでしたが、一口にユーザーといっても実際にプロダクトに向き合うユーザーには様々な立場の方がいます。プロダクトをビジネスとして成立させるためには、様々な視点から提供する価値を考えることが僕たち開発者にも必要だと考えています。
僕個人だけではなく、チームにも変化がありました。今、Strapの開発に携わるメンバーは「これは誰にとって価値があるのか」についていつも考えて話しています。β版の段階からGoodpatch社内でもStrapを使ってもらい、フィードバックをもらいながら改善を繰り返してきたので、今でも毎日メンバーからたくさんのフィードバックが届きます。改善したいことや要望が山ほどある中で、「誰に価値を届けるプロダクトなのか」を最初からチームで決めていたことで、共通認識が持てるようになりました。
関連記事:オンラインホワイトボードStrapの使い方
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「このままじゃ終われない」人が残り続けたチーム
Prottのリニューアルが頓挫することになった時、僕も退職を考えましたし、実際に去っていくメンバーもいましたが、それでも踏ん張って残り続けた今のメンバーには「このままじゃ終われない」という想いがあります。
チーム状態もプロダクトの先行きも不透明だった2018年頃は、全社総会で表彰されるクライアントワークの部署のメンバーを祝いながらも、どこか肩身が狭いといいますか、「来年こそあのステージに立ちたいね」とチーム内で話していました。
なので2020年夏の全社総会で全社MVPにノミネートされた時はとても嬉しかったです。本リリース直前だったので、当時はそれどころじゃないくらい開発がバタバタしてはいましたが(笑)。
今、Strapの開発に携わっているチームはエンジニアとデザイナー、CSやプロダクトマネージャーがとても密に連携しているのですが、それはとても特異なことです。もっとそんなチームの形、プロダクト開発の形が広がっていくといいなと思っています。
貴チームは、ProttやBalto、Laikaなどのプロダクトとそれらを共に開発してきた多くの仲間たちと共に逃げることなく今日まで走り続けてきました。4月のβ版リリース後、社内では泥臭くフィードバックを集めてつくり手を増やし、コロナ禍でもひるむことなくたった4ヶ月間で100回を超えるアップデートを重ねました。失敗に向き合うチームの強みを活かし、これからも愛されるプロダクトの価値を磨き続けていきましょう。「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる」この言葉と共にあなたたちをFY2020 Most Valuable Productとして表彰します。
Strapがベストプロダクト賞を受賞した社員総会のレポートはこちら
社会をもっと前進させるために「良いデザイン」を届けたい
現在のGoodpatchは、自分で何かを変えようという意識がある人がどんどん集まるようになった印象です。変化を受け入れて自分から変えていける人が増えましたし、長く在籍している人に共通している部分でもあると思います。
自分で変化を起こしていける人達が集まっているので、Goodpatchは着実に社会を変える存在になりつつあると思っています。僕が入社した2016年当時と比べると、社会におけるデザインの重要性が上がっていますし、これからもっと広がっていってほしいなと思います。入社当時、土屋やプロダクトチームの頭の中には「開発フロー全てにGoodpatch発のプロダクトが介在している世界」が構想としてあったと思うのですが、当時の組織では実現できなかったんですよね。でも、僕らがものづくりをしている人の生産性をあげたり、支えになるプロダクトを生み出していくことで、良いデザインがあるとなぜ良いのかをもっと証明していきたいと思っています。
今回のストーリーに登場したオンラインホワイトボードStrapの機能、料金プランについては、サービスサイトもぜひご覧ください!
また、Strapを開発するProduct Div.では、バックエンドエンジニアと業務委託のフロントエンドエンジニアを募集中です。ユーザーにとっての価値を考え、プロダクトをビジネスとして成立させるチームで開発しませんか?
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