UXもDXも諦めない。戦略に貢献するUXエンジニアの信念
今回は、グッドパッチのフロントエンド/UXエンジニアとして活躍する大角のインタビュー記事をお届けします!「デザイナーかエンジニアか」キャリアに悩んでいた大角がグッドパッチに入社するまでの経緯や、入社後株価を一時10倍まで上げデザインの力を証明した案件のエピソード、目指しているUXエンジニアとしてのあり方について話を聞いてみました。
プロフィール
Goodpatch Design Div. フロントエンド/UXエンジニア 大角 将輝(おおすみ まさき)
Twitter:@cawpea
熊本県出身。熊本デザイン専門学校でグラフィックデザインを専攻後、ソフトウェア開発会社でデザイナー兼エンジニアとして、WebアプリケーションのUIデザインから開発までを担当。その後、通信事業会社でテックディレクション、Web制作会社でHR Tech事業のフロントエンド開発を経験したのち、2016年UXエンジニアとしてグッドパッチへ入社。株式会社リンクアンドモチベーションが提供する組織改善システム「モチベーションクラウド」のリニューアルプロジェクトを担当し、2018年度グッドデザイン賞の「グッドデザイン・ベスト100」に選出。
自分がデザイナーなのかエンジニアなのかわからなかった
僕のキャリアの原点はデザインなんです。もともと絵を描くことが好きだったので、大学では紙媒体を中心にグラフィックデザインを勉強していました。その頃Webデザインと出会い、「Webの世界も面白いかも」と思って新卒でWebデザイナーとして就職しました。入社したのは地元熊本にある20人ほどのソフトウェア開発会社で、コーポレートサイトや名刺のデザインなど会社のあらゆるデザイン業務を一人で担当していました。エンジニアリングが主体の会社だったので、デザインについて教えてくれる先輩はおらず、社長と直接デザインの方向性を話したり、新卒なりに試行錯誤する毎日でした。その後、プログラミングもある程度覚える必要が出てきたので、そこで初めてプログラミングを学びました。Javaの研修を受けて、実際に業務の中でもUIのデザインと開発を両方するようになりました。デザイナー兼エンジニアとして4年ほど働いたんですが、後半はコードも書けるようになって、デザインよりもエンジニアリングの比重が大きくなっていました。プログラミングを始めたばかりの時は抵抗もあったし、分からないことだらけで挫折しかけたのですが、ある時つらいフェーズを抜けた実感があって。それからはプログラミングが楽しくなって、休みの日もコードを書いたりしていました。
グッドパッチを知ったのは2013年頃、リニューアルしたグノシーのUIをデザインした会社として記事に載っていたことを見たのがきっかけです。当時、僕は仕事で管理画面などを中心にWebアプリケーションのUIを担当することが多かったので、「UIデザインに着目してる会社って珍しいな」と印象に残ったんですよね。同時に、僕自身デザインの力を使えばもっとよくなるプロダクトがたくさんあることも知っていたので、グッドパッチがやっていることにすごく可能性を感じました。熊本の実家の自室から一人、畳の上でグッドパッチのWebサイトを見ては「いいな、かっこいいな」と思っていました。
代表土屋の「毎年社員をシリコンバレーに連れて行くような会社にしたい」というメッセージにも魅力を感じていました。ずっと憧れは持っていましたが、自分のスキルに自信がなかったので、すぐには応募できなかったです。当時の僕からしたら、グッドパッチは遠い存在でした。
キャリアに悩み、一人でシリコンバレーへ
Webデザイナー時代には出張で東京に行く機会も多く、好奇心を刺激されて上京を決意しました。会社の先輩に紹介してもらった通信事業会社のディレクターに転職し、2年弱ハードウェア倉庫の現場と営業の間でスケジュールや納品物の調整などを担当しました。
ディレクターに転職してからもグッドパッチへの憧れは変わらず持っていて、土屋が起業前にシリコンバレーに行ったブログを読んで、一人でシリコンバレーに行ったりしていました(笑)。なぜそんなところまで行ったのかというと、キャリアを悩んでいたからです。ものづくりがしたい思いはあるけど、デザイナーになりたいのかエンジニアになりたいのか分からない状況でした。コードも書きたいし、デザインも好き。ただ、世の中的にはデザイナーは表層のビジュアルをつくる人、エンジニアはロジカルな技術を使う人として分断されており、どちらかを選ばなければいけない風潮でした。
渡米時は僕も土屋同様、海外に行ったこともなく英語も話せない状況でした。でも、サンフランシスコの現地で働く日本人の集会に参加しAppleやGoogle、Facebookで働く人とコミュニケーションをとったり、そこで出会ったFacebookのエンジニアにオフィス見学に連れて行ってもらったりと、とても刺激を受けた旅でした。同じ土地に足を運んだことで、さらに土屋やグッドパッチには縁を感じるようになりました。
当時の様子が赤裸々に綴られる土屋のブログ:http://likeasiliconvalley.blogspot.com/
2014年頃になって、フロントエンドエンジニアという職種がポピュラーになり始めました。デザイナーとエンジニアの中間職のようなポジションなので、自分にぴったりだと思ったんです。そこでフロントエンドエンジニアを未経験から募集していたWeb制作会社へ転職し、約2年間フロントエンドエンジニアとして働きました。就職してからエンジニアリングを担当する割合が多かった僕にとっては得意分野を使いつつデザイナー不在時は情報設計もできることが楽しく、フロントエンドになってよかったと思いましたね。
デザインの専門家としてビジネスをリードする
グッドパッチに入社することになったきっかけは偶然でした。たまたま登録していた転職エージェントからスカウトの連絡をいただき、「デザインもエンジニアリングも両方やれる会社に行きたいんです」と伝えたところ、グッドパッチを紹介され、面接へ進みました。
土屋のことは何年も前からブログやメディアの記事で追っかけてきたので、初めて会った気がしなかったです。面接では、「グッドパッチは外から見るとキラキラして見えるかもしれないけど、実際は課題ばかりなので覚悟して入って欲しい。」と言われたことを覚えています。
大丈夫です!と答えて入社しましたが、そのころのグッドパッチは組織崩壊していた大変な時期でした。ただ、僕は入社直後だったためそういう文化なのかな、と受け入れていました。プロジェクトに夢中だったんです。当時席が近かったメンバーは、今では独立していたり、マネージャーに昇格していたりとレベルが高く、これまでの自分になかったUIの考え方などを教えてもらいました。「グッドパッチにはUI/UXが好きな人たちが集まっている。デザインが好きなエンジニアがこんなにいる環境ってすごい。自分の価値観に合っている。」と感動しました。
クライアントワークでは、リンクアンドモチベーション社が提供する組織改善システム「モチベーションクラウド」のリニューアルプロジェクトを担当しました。
モチベーションクラウド :https://goodpatch.com/ja/work/motivation-cloud
立ち上げから現在まで、2年半という僕の人生の中で一番長く携わっている案件なので特に思い入れがあります。「モチベーションクラウド」は2018年度グッドデザイン賞受賞対象の中から、審査委員会により特に高い評価を得た100件「グッドデザイン・ベスト100」に選出されました。
当時のプロジェクトメンバーが参加した、2018年度グッドデザイン賞授賞式にて
プロジェクト開始当初、個々のメンバーだけを見れば経験豊富でスキルもあるメンバーばかりでしたが、実際にプロジェクトが始まるとBtoBのSaaSに関して知識不足な部分も多く、プロジェクトが前に進まない状況が続いていました。ワイヤーフレーム設計につまづき、クライアントに何度提案してもなかなか噛み合わず、どんな形に落とすべきか見えなかった時、社内のメンバーが力を貸してくれたんです。
ワイヤーのたたき台を作って一緒にクライアントへ説明に行ってくれたところ、クライアントから「めっちゃいいですね!」と初めて言ってもらえました。自分たちのチームに足りない部分を社内に知見のあるメンバーが補い、一気にプロジェクトが加速しました。そのメンバーは、OOUI(Object-oriented user interface)の思想をベースに既存のアプリケーションの問題を説明した上で、「なぜそういう形にしたのか」というユーザーにとってアプリケーションのあるべき姿を伝える裏側のロジックが整っていたんです。デザインの専門家としてのリーダーシップを感じました。ここまでの戦略段階の約2ヶ月間、全くコードは書いてなかったのですが楽しかったです。
大角がパートナーと一緒に取材を受けたWeb Designing誌
誰もが使いやすい!管理画面を変えたUXデザイン:https://book.mynavi.jp/wdonline/detail_summary/id=102790
また、クライアントは組織改善のプロフェッショナルだったので、彼らとプロジェクトを進める中でグッドパッチメンバーにも組織を大事にする価値観がインストールされ、自然とお互いをモチベートするようになりました。一方でグッドパッチのデザイン文化をクライアントに共有することで、異文化の中にも共通言語が生まれていきました。
そのおかげもあって最初はよそよそしかったパートナー同士の壁も徐々に無くなっていき、最終的にはクライアント、パートナー、グッドパッチ すべてのメンバーが共通の目標に向かう、まさに1つの「チーム」になっていました。自分たちの実体験を通して、組織やチームの重要性に気づいたからこそ、心の底からモチベーションクラウドを多くの人に届けたいと思ったんです。
戦略や要件整理の段階からエンジニアが食い込むことは一般的には珍しく、最初は戸惑うこともありました。基本的にはPMやデザイナーが基本的には主体ですが、エンジニアである僕もユーザーインタビューにオブザーバーとして参加したり、デザインスプリントを回したりしました。既存サービスの場合、すでに他のソフトウェア会社が開発しているためハブになる役割が必要でしたし、表層の要素をどう実装していくかなど、戦略段階とはいえエンジニアの視点も必要でした。
プロジェクト中盤にはチーム外のメンバーにも手伝ってもらうこともあったので、2018年度にグッドデザイン賞を受賞した時はサポートしてもらった卒業メンバー全員に連絡しました。みんな一緒に喜んでくれました。また、モチベーションクラウドを活用する会社様向けのリニューアルのリリースパーティーに僕たちも参加させてもらった際に、「とても使いやすくなりましたね。」とユーザー企業様に声をかけてもらったことも嬉しかったです。
グッドデザイン賞受賞により、プロダクトの知名度は向上しリンクアンドモチベーション社は一時期株価が10倍になるなどデザインの力を証明し、クライアントパートナーとしての信頼を得ることができたと思います。
UXとDXの両立を実現するUXエンジニアへ
今後、デザインとエンジニアリングを近づけることに挑戦したいと思っています。僕はApple、Sony、ダイソン、バルミューダなどの製品、機能と美しさが備わっているプロダクトが好きなんです。これらはデザインとエンジニアリングが両輪で回っています。ただ、現状は設計の思想が違うなどその二つは分断されていることが多く、いいプロダクトにはなりません。
デザイナーとエンジニアがもっとコミュニケーションをとり、お互いがお互いの領域にフィードバックし合う状態をつくれたらもっと良いプロダクトが作れると思っています。特に、ソフトウェアはリリースが完成ではありません。運用期間が圧倒的に長いため、開発視点からデザインのフィードバックを考えるべきで、運用視点を踏まえた技術的負債が溜まらないようなデザイン設計が必要なんです。
UXエンジニアの定義はいろいろありますが、僕はUXエンジニアの役割はUser ExperienceとDeveloper Experienceを両立する人だと思っています。
ビジネスレイヤーだけでなくエンジニアからも「このデザインめっちゃいい」と言ってもらえるよう、デザイナーとエンジニアをつなぐことが大切です。問題は人と人の間にあるという言葉がありますが、チームや部署の間にある問題を解決する体制を整えることもUXエンジニアとして重要な役割の一つです。まだ模索していますが、両者の橋渡し的存在になりたいと思っています。