本日はインクルーシブデザインを紹介したいと思います!本記事でのインクルーシブデザインの概念は英国デザイナーキャット・ホームズの本「Mismatch」を参考にさせてもらいましたので、もしご興味持っていただけたらぜひ一度読んでみてください。

インクルーシブデザインとは一体何なのか

世の中にはインクルーシブデザインについていろんな定義があると思いますが、個人的に一番しっくりくるのは以下の通りです。

インクルーシブデザインとは、すべての人々のために1つのものをデザインすることではない。誰もが帰属意識を持つことができるように、除外されてしまっているユーザーの課題を元にデザインしていくことである。

インクルーシブデザインで最も大事なのは、除外されたコミュニティと共にインサイトを探し出し、ユーザーが参加しやすくなるための新しい方法を見つけ出すことです。

なぜインクルーシブデザインが重要なのか

案件にもよりますが、Goodpatchのデザイナーが用いるデザインプロセスでは、ペルソナを作ることが多いです。ユーザー調査で出た課題を凝縮し、プロダクトの使いやすさをテストするための基準ユーザー(ペルソナ)を作ります。ペルソナは特定のユーザーニーズを満たすように設計されるものですが、同時に平均的なユーザーのためのデザインになってしまうこともあります。インクルーシブデザインは、誰がプロダクトへのアクセスを求めていて、設計した方法でアクセスできているのか、もしくはユーザーインサイトが足りずユーザーが苦戦しているのか、このような想定外のユーザーを意識するためのデザイン思考です。

ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインの違い

概念として似ているユニバーサルデザインは、最初から幅広いユーザーが使う想定で設計されているデザインのことです。建築や空間デザイン、グローバル展開するデザインなどでよく使われている概念です。

ユニバーサルデザインを通じて最終的に出来上がるデザインは、ユーザー数を増やすような改善余地が無いように計算されてできています。インクルーシブデザインはよく似ていますが、絶えず進化するデザイン手法であるため、一度できたものでも除外されているユーザーがいる限り改善を続けるデザイン概念です。常に改善を求めることでより使いやすく、より新鮮なプロダクトができるようになります。もう1つの違いは想定ユーザーの規模です。ユニバーサルデザインは大抵大衆向けに作られるものですが、インクルーシブデザインは包括性と排他性の境界を打破するために改善されていくデザイン思考であるため、大衆用である場合もあればニッチなユーザー層のために作られることもあります。

インクルーシブデザインと排他的デザインの例

インクルーシブデザインが何なのか紹介したところで、より深く理解していただくための例について話していきたいと思います。

これまでの、そしてこれからのゲームコントローラー

1983に発売された任天堂のファミコンコントローラーは、その後発売されていくすべてのゲームコントローラーの基準となりました。手の中での収まりが良く、硬いボタンは連打しやすく、当時のゲーム業界の革命を起こすほどの威力と影響を与えたゲーム機です。ファミコン、そしてそのあとに続くたくさんのゲーム機はグローバル展開のためにユニバーサルデザイン思考を元に作られているとも言えます。特にプレイステーションのコントローラーのボタンは文字ですら無く、◯や△等のユニバーサルなシンボルを使用しています。

しかし、これらのコントローラーは世界中で使われるための拡張性はありますが、世界中の誰もが使える柔軟性が足りないと思います。例えば、体が不自由な子供が周りの友達と同じように格闘ゲームが操作できるか。反射神経が鈍かったり、指をうまく操作できなかったりすることで、その場から除外されることになるかもしれません。誰もが楽しく遊びたいのに、周りの人たちと同じ体と力を持っていなければ参加は不可能になります。

この子供の視点から考えてみると、自分もみんなと一緒に楽しみたいのに、なんでこのコントローラーを使うのがこれほど難しいことなのか?まるで、自分のような人を除外するために作られたデザインだと考えてしまうかもしれません。もちろん、コントローラーをデザインした人たちは誰もが楽しくゲームを遊べるように一生懸命考えて作ったものなのは間違いないですが、マイノリティユーザーの視点を求めなかったため、自然と除外される人が増えていきました。

一方、2018にマイクロソフトから発売された「インクルーシブコントローラー」は、このように除外されていた人たちからインサイトを集め、そのユーザーたちと主に使いやすいコントローラーをデザインしました。

Xbox Adaptive Controllerはプログラムすることで自由にボタンの操作を指定することができ、外部のスイッチやボタン、マウント、ジョイスティックに接続することでユーザーに合わせたコントローラーを作り上げることができます。マイクロソフトは、インクルーシブデザイン思考を元に、25年間変わらなかったゲームコントローラーを1から改善し、より多くの人たちが楽しめるようなプロダクトを発明しました。このようにいろんなユーザー視点からプロダクトを見つめ直し、新しいインサイトを元に改善を繰り返していくと、より世のためになる、より新鮮で新しいプロダクトを作り続けられると思います。

日常でのインクルーシブデザイン

私たちの日常にも、小さな除外されるきっかけはたくさん存在すると思います。

左利きである私は、社会から除外されるようなデザインに毎日のように触れています。ハサミやコンピューターのマウスが利き手で使えなかったり、飲み会の時も座る位置を端の方にしないと誰かと肘がぶつかったりなど、右利きの人からするとあまり考えることのない苦痛がたくさんあります。もちろん、世の中のデザインをすべての人たちのために作ることは難しいし、ユニバーサルになり過ぎてしまうと面白くない結果になってしまうこともあります。さらに、”別に右手でハサミ使えばいいじゃん!”と思う方もたくさんいると思いますし、自分だって適応しているのでハサミは右手で使っています。

長く同じ形で存在しているからといって、それが本来あるべき姿であることとは限りません。除外されているユーザーと共にプロダクトを見直すことができれば、改善する価値を発見することができるかもしれません。さらに改善することを苦痛と捉えるのではなく、新しいデザインが生まれるきっかけと捉えれば、よりデザインプロセスが楽しくなると思います。

どのプロダクトにおいても、除外されるユーザー層は1組だけではありません。左利きの人でも使えるハサミに改善していこう!と言い出すデザイナーがいれば、手が不自由な人、または金属アレルギーのある人でも使用できるハサミをデザインしていこう!と思うデザイナーもいるかもしれません。デザインが提供する価値は無限にあり、問題を定義し挑戦し続けるのがインクルーシブデザイン思考の芯だと思います。