ユーザー視点で体験を設計する。キャリアトレックの新たなコミュニティが始動
転職サイトとして知られる 「キャリアトレック」は、20代社会人が未来の「はたらく」を考えるコミュニティ 「BalconiiTalk(バルコニートーク)」を創設しました。
WeWrorkが上陸し、コワーキングスペースなどが盛り上がる現代において、どのような思いからコミュニティ創設に至ったのか。また、コミュニティデザインの役割をどう捉えているのか、株式会ビズリーチ キャリアトレック事業部のみなさんにインタビューさせていただきました。
お話を伺った人:
横山明日希(よこやま・あすき)
株式会社ビズリーチ キャリアトレック事業部 プロダクトマーケティング部 マネージャー
早稲田大学大学院卒業。新卒で教育系企業に入社し、新規事業開発本部にて副校長業務に従事。その後サイバーエージェントに入社し、広告事業本部にてオンラインマーケティングを担当。事業会社にて事業貢献できるマーケティングに携わりたいという想いから、2015年にビズリーチに入社。キャリアトレック事業部にて広告運用を担当し、会員数大幅増に貢献。現在は、キャリアトレック事業部の「インハウス・マーケティング」全体を統括。また、個人としてもパラレルワークで「教育分野」を中心に事業を展開し、「数学の楽しさを伝える数学のお兄さん」として活動中。
松澤亜美(まつざわ・あみ)
株式会社ビズリーチ キャリアトレック事業本部 プロダクトマーケティング部 コミュニティディレクター
コミュニティマーケティングのコンサルタント、かつ40カ国以上旅するトラベルコラムニスト。また、異国料理から異文化を理解するイベントを運営するNPO法人LunchTripの代表理事も務める。早稲田大学卒業後、メーカーにて海外営業など4年勤務。その後ライター・PRのフリーランスを行ったのち、ピンタレスト・ジャパン株式会社より声がかかり、3人目の社員としてコミュニティマネージャーとなる。J-WAVEのトレンドレポーターやアディダスジャパン株式会社でのブランドマネージャーを務めた後、2017年6月に独立。
なぜ今、コミュニティなのか
ー本日はよろしくお願いします。まずは、今回のコミュニティ立ち上げの経緯を教えてください。
横山 インターネットの普及で、情報が飽和している現代では、私たちはいつも情報の取捨選択を求められます。そのような中でも信頼できる情報の判断基準の一つには、「人からのおすすめ、後押し」があると思いました。オンラインでの情報設計だけではなく、オフラインの体験も含めて設計していくことが重要なのではないか、と気がついたんです。そこでコミュニティという存在に行き着き、BalconiiTalkを立ち上げる運びとなりました。
松澤 例えば、人が何かを決断する時には、家族や友人、先輩などの声や、読んだものから影響を受けることが多いですよね。背中を押される経験なしに、前へ進み続けることは難しい。さらにその決断がキャリアに関することだと、次の道を選べずに立ち止まってしまうような人も大勢います。
コミュニティ活動はロングテールの部分も含めて設計するので、長期間に渡るものです。新たな選択を後押ししてほしい人から、一歩が踏み出せずにいる人までをサポートしたい、応援したいというチームメンバーの想いがBalconiiTalkには込められています。
ー現代においては口コミや、誰がおすすめしているのかという点を重視する人が増えましたよね。
松澤 はい。そのため、企業ブランドの価値も重要視されており、企業の活動自体がブランドに影響するようになりました。「こういう活動をしている企業っていいな、好きだな」と思ってもらえたことがきっかけでその企業を知ることがあったり、次の行動に繋がるのではないかなと思います。
ーWeWorkの進出など、日本でもコワーキングスペースが目立ち始め、コミュニティという存在が注目され始めていると感じます。コミュニティが増える中で、BalconiiTalkはどのような差別化を図るのでしょうか。
松澤 今年の6月、Facebookがミッションを変更しましたよね。「世界をよりオープンにし、繋げる」ことをミッションとしてきた同社が、「コミュニティづくりを応援し、人と人とがより身近になる世界を実現する」ことに一新させました。SNSなどが普及して、誰かと繋がることが当たり前になっているからこそ、今後はより密な繋がりが求められるようになっている。時代の流れを汲んだミッション変更だと私は捉えています。
日本でも、六本木ヒルズで毎月開催されるHills Breakfastというコミュニティ活動が7年間続いていたり、マザーハウスさんがマザーハウスカレッジというコミュニティを持っていたりと、コミュニティのニーズは日々高まっています。今度上陸するWeWorkも、空間のスタイリッシュさのみならず、人とのコミュニケーションや繋がり、新しいビジネスが生まれるようなコミュニティそのものに期待して、人が集まるのではないでしょうか。
横山 私たちが運営する事業は、転職という人生の大きな転機に関わっています。年齢ごとに異なる悩みやライフイベントに寄り添って、今後について一緒に考えていくことができる点は、私たちだからこその強みだと思っています。さらに、特にキャリアについて悩むことが多い20代に特化したコミュニティを作ることが、差別化の大きなポイントになると考えています。そんな彼らが求めているものは何だろう?と、ユーザーの視点から考えたコミュニティを作っていく戦略をとっていますね。
ーユーザー視点で、具体的にどのような体験を提供していきたいですか。
横山 今の20代の方には、「ロールモデルとなる存在が欲しい」という人もいれば、「同世代で横の繋がりを作りたい」という人もいます。私たちは、そのどちらの機会も得られるようなコミュニティ、体験を作っていきたいです。
キックオフイベントにはゲストをお呼びしたのですが、トークがあって終わるだけでは、彼らのニーズには応えられないんです。面白い、ためになる話を聞いた後には話し合う時間が欲しいし、そこで生まれるコミュニケーションが新たな機会や行動に繋がるかもしれないですからね。こうしたユーザーのニーズに、いかにバランスよく応えるかにこだわっています。
松澤 話を聞いて終わるだけではなく、その話を受けて感じたことを参加者同士で話し合って、何かを学んだり、その場での出会いが今後の行動を後押ししてくれたりと、サードプレイスのようなコミュニティになることを目指しています。
よりインタラクションを持たせた場にするためには、会議室を用意するよりも、もう少しリラックスできる空間が必要だなと思ったので、キックオフイベントでは、くつろげるナチュラルな雰囲気の場所を選びました。
ーデザインの文脈では、インタビューなどからペルソナを設計するのですが、コミュニティデザインにあたってどのようなユーザーリサーチをされたのでしょうか。
松澤 主にアンケートとインタビューで、ターゲットとなる20代がどんなことに悩んでいるのかリサーチしました。アンケートの結果、92%の人はロールモデルが必要だと感じていて、70%の人は勤務先でキャリアの悩みを相談しづらいと考えていることが分かりました。社内、社外でも実際にインタビューをして、「どんな悩みがあるんだろう」「具体的にどういうことにモヤモヤするのだろう」と定性的なヒアリングを重ねました。
横山 現段階では、特定のペルソナ像に絞っているわけではないんです。初期のタイミングから、テーマやターゲットを細かく切り分け過ぎると、予定調和になってしまうと思ったからです。まずはリサーチで見えてきた「新しい働き方を求めている20代」という層を幅広く受け入れ、試行錯誤を重ねた上で、彼らが本当に求めているものを拾って、ユーザーの声に沿ってセグメントで切っていくやり方ができればいいなと考えています。
松澤 今後やっていきたいのは、トークイベントだけではなく、より個人にフォーカスした内容のイベントです。それぞれが今までの経歴を振り返ったり、今後に向けてどんなアクションが取れるかといったことを考える時間を設けて、その後はテーマ別に参加型のイベントをやってみようかと模索しているところです。職種などによっても属性が分かれそうですし、これからのBalconiiTalkは、それぞれがもう少し小さく密なコミュニティになっていくのかなとも思っています。テーマによって、強く惹かれるものとそうでないものが出てくると思うんですが、惹かれる部分に熱量を持って活動してくれる人は、どんどん巻き込んでこれからの展望を一緒に作っていきたいですね。
熱量の高いコミュニティ実現にむけて
ーイベントのコンテンツを企画する際、判断軸はどのようなところにあるのでしょうか。
横山 BalconiiTalkに関わっているチームメンバーは比較的若く、参加する層に当たる20代が多いんです。彼らもかつて、モヤモヤ・悩みを抱えたことがあったりと、ある意味ではターゲットに近い。なのでイベントのコンテンツを企画する際にも、チームメンバーの意見が役立つことはありますね。
松澤 そうですね。あとは先程も申し上げたように、参加者同士がコミュニケーションをとる時間をしっかり設けて、「学びがあって刺激的だった」「また来たい!」と思ってもらえるような雰囲気づくりを心がけています。具体的に言うと、テーブルには8人以上の人間がいると話しづらいとされているので、一つのテーブルに座る人数を決めたり、タイムテーブルのどこで乾杯をすれば場が盛り上がるのか考えたりしましたね。
松澤 トークセッションのゲストを考えることにも心を砕きました。参加者が当事者意識を持って話を聞くことができるような、一歩先の世界で活躍している人ってどんな人だろう?と何度も話し合いましたね。
ディスカッションの結果、Retty 経営企画室長の奥田 健太さんと、FOVE CEOの小島由香さんをお呼びすることになりました。お二人とも、悩んだり、モヤモヤした経験をされています。そんなお二人にこれまでの人生を語っていただくことで、今悩んでいる人たちが次の一歩を踏み出すための示唆を引き出せないだろうか、と思ってオファーをさせていただきました。
ー実際のイベントでの工夫について、詳しく教えてください。
松澤 コンテンツの企画でも、空間のデザインにおいても、このイベントが私たちの一方的な発信にとどまらず、インタラクションを持たせた場にするための工夫が必要だと思います。
横山 イベントの盛り上がり方って、連鎖反応的ですよね。「こういう空気だから、こうしていいんだ」と参加者が感じることで、少しずつコミュニケーションが生まれたり、盛り上がり始める。なので、いかに早くその盛り上がった空気を作れるかがカギだと思いました。会場に足を踏み入れると、すでに参加者同士でコミュニケーションが生まれているような状態がいいなと思います。
松澤 コミュニティって、何かの共通点がある人たちが集まっているものなんですよね。なので、志や悩みなど、共通点が早い段階から分かっていると、心を開きやすい。せっかく来ていただいたからには、「最後まで自分のことを話せなかった」と思って帰ることがないように、自己紹介をどのタイミングで行うかも考えましたね。
コミュニティデザインが果たす役割
ー工夫がとても幅広く、驚きました。改めて、コミュニティデザインの役割をどう捉えているのか教えてください。
松澤 コミュニティデザインは、トンマナであったり、雰囲気を作ることすべてだと思っています。ですから、ユーザーの体験を左右するもの全てがデザインの対象なんですよね。イベント当日で言うと、受付やサポートするメンバーの表情や、会場の雰囲気などです。
横山 コミュニティを通しての体験だと、イベント開始前の告知も大切ですよね。オフラインでの工夫も含めて、ユーザーに関する小さなことをひとつひとつデザインしていくことが大切なのかなと思います。
松澤 さらに、コミュニティをより密なものにするためには、粘着性が不可欠です。一度参加しただけで終わってしまわないように、前回の内容を深掘りする形で何度も開催していくことが大切です。
そこで、BalconiiTalkでは、イベント終了後に自由に参加できるFacebookグループを作成しています。こうしたところから、オフラインでの交流も深めていって欲しいですね。
横山 今回、お申し込みいただいた際のアンケートでも、コミュニティのコンセプトに共感してくれた方が多くいたんですよね。共感してくれているということは、ゆくゆくは自分でコミュニティを作ってみたいと考える方も出てくるんじゃないかな、と感じています。なので今後も参加する方の声を聞いて、一緒にコミュニティを作っていくようなことができたらいいな、と思いますね。
今回コミュニティデザインについてお話を伺う中で、デザインの奥深さに驚くばかりでした。BalconiiTalkのチームのみなさんがユーザー視点でコミュニティのあり方を設計できているのは、転職に関わる仕事をする身として「キャリア面の悩み」という課題に共感し、解決したいという思いを強く持っているからなのだと感じました。
誰かの悩みを解決したい、心地よくしたいという気持ちから生まれる工夫は、すべてデザインなのかもしれません。コミュニティデザインの可能性から今後も目が離せませんね。