みなさんは「良いデザイン」と聞いて、どのようなデザインを思い浮かべるでしょうか。

装飾的である、触り心地が良い、色遣いが美しい…など、人によって答えは色々あると思います。

しかし、デザインがもたらすのは、外見上の美しさだけではありません。そのプロダクトの登場によって、従来のあり方が覆されるような、根本的な問題解決も、デザインであると言えます。

そこで今回は、デザイナーの観察から生まれた、機能美にあふれるプロダクトについてご紹介します。

アーロンチェア/ハーマンミラー

http://www.hermanmiller.co.jp/products/seating/performance-work-chairs/aeron-chairs.html

アメリカの家具メーカー、ハーマンミラー社のアーロンチェアはご存知でしょうか。長時間座っていても、身体に負担がかかりにくいことから、エンジニアやデザイナーに高い人気を誇っています。
そんなアーロンチェアは、観察を元にした人間工学の考えが採用されています。

人口が急激に高齢化していた1970年代のアメリカで、高齢者のための家具についてリサーチをしていたビル・スタンフとドン・チャドウィック。
2人のデザイナーは、当時の病院にあったインテリアは、人間工学を無視した、長期的なケアに不向きなものであることに気づきます。

具体的な発見のひとつに、ウレタンの詰め物と布張りのチェアは、長時間座り続けると熱がこもってしまう問題がありました。そこで、従来の布やレザー、詰め物が取り払われた、メッシュ素材のデザインが考案されました。
つまりアーロンチェアは、登場した1994年には考えられないような奇抜な外見でありながら、人間中心の設計で開発されたプロダクトだったのです。

私は数あるワークチェアの中でも、アーロンチェアの洗練された外見と座り心地の良さに憧れを持っていましたが、その「洗練」の核に、人間を観察した結果があることが分かり、より一層魅力的なプロダクトに感じるようになりました!

体にフィットするソファ/無印良品

https://www.muji.net/store/campaign/detail/C17042102

無印良品が開発したヒット商品。「人をダメにするソファ」という名称で有名ですね。
このソファが開発されることになったきっかけは、ユーザーを対象にネット上で実施したアイデア投票でした。「すわる生活」というテーマでアンケートをとった結果、リラックスできる大型クッションに人気が集中したことから、開発が始まりました。アイデアは他にもありましたが、「ソファを置くと部屋が占領されてしまう」「大きめのクッションに全身埋もれてくつろぎたい」などの意見が最も多かったことから、体にフィットするソファに決まったそうです。ユーザーの声がダイレクトに反映されていることがよく分かるエピソードですね。

体にフィットするソファは、『グッドデザイン・ロングライフデザイン賞』も受賞しており、企画・開発の意義を以下のように説明しています。

例えばテレビの向かいにソファがあるように、私たちの暮らしは家具によって場所を決められることがあります。ものを得ることで手に入れてしまう、ある種の不自由さ。「体にフィットするソファ」で提案したかったのは、モノのカタチによって暮らしの場所やシーンが自由になるということです。このソファによって、新しいライフスタイルが生み出されていたら嬉しいです。
引用元:http://www.g-mark.org/award/describe/41976

実際に使っている場面を観察し、そこに解決するべき問題が潜んでいるかどうか考える過程がデザインのプロセスに組み込まれているからこそ、アイデア投票の際にも、ユーザーの心を射抜くような案が出てくるのだと思いました。
無印良品には、生活者について想像し、寄り添うようなデザインの事例がたくさんあります。成田国際空港ターミナルのソファを手がけた事例なども、観察から始まるデザインとして学びが多いと思います。ぜひチェックしてみてくださいね。

出刃庖丁/タダフサ

http://www.tadafusa.com/

包丁ブランドである庖丁工房タダフサは、新潟県の老舗である株式会社タダフサが立ち上げたオリジナルブランドです。シンプルなラインナップが特徴で、パン切り庖丁(写真左)は何ヶ月も予約待ちの人気商品となっています。

このプロダクトの面白いところは、300種類もあった包丁を、7種類に絞って売り出した結果、爆発的にヒットした点にあると思います。
「包丁は種類がたくさんありすぎて、どれを選ベばいいのか分からない」というユーザーの声を発見し、「基本の3本・次の1本」という形で分かりやすく自社のプロダクトを提供したのです。
老舗ならではの機能性として、抗菌の加工が施された持ち手や、鋭い切れ味も、人気の理由として頷けます。
長く使い続けてもらうためのユーザーへの気遣いが、あらゆるところから感じられるようなプロダクトと言えるのではないでしょうか。

LAMY noto/LAMY

http://www.lamy.jp/noto.html

プロダクトデザイナーの深澤直人氏が手がけたLAMY noto(ラミー ノト)。ドイツの筆記具メーカーであるLAMYとコラボレーションして作られました。
親指・人差し指・中指の3点がフィットするよう、なだらかな三角断面形状に設計された本体は、「書く」という行為に自然に寄り添います。
私が最も関心するのは、クリップの部分が本体に内蔵されていることです。
ペンのクリップとは、必ずしも使う機能ではないにも関わらず、飛び出すような形で本体にくっついていて、ペンケースの中でかさばりますよね。(同じように感じたことがある人は多いのでは?)
しかし、シンプルな見た目のためにと、安易にクリップを排除するのではなく、本体に内蔵するというアプローチは、ペンを使うすべての人を思いやった結果であると言えます。
デザイン思考を提唱するIDEOにいた深澤氏ならではの、気持ちの良い『問題解決』としてのデザインだと思います。

カドケシ/コクヨ

コクヨのヒット商品であるカドケシは、従来とはまったく違う消しゴムです。一度見ると忘れられない外見をしているので、見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。
カドケシは、デザイナーの神原 秀夫氏が、消しゴムを使う場面を観察した時の気づきを元に考案されています。それは「丸くなった消しゴムを使う時に、どこが紙に接しているのかが分からない」という発見でした。つまり、消しゴムは丸くなるものという既成概念を疑い、ひっくり返したのです。

要は当たり前すぎて誰も気付かなかったこと、見えていなかったこと。そういうものほど、それを見つけたときにすごくインパクトが大きいし、そこをちょっと変えるだけで、新しいモノ、新しいデザインが成立するんですね。
引用元:http://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/cf/27_kambara/p1.html

カドケシが発売された当時、筆者は小学生でした。どこから消してもカドというアイデア、そして未来的な見た目に、多くの小学生は飛びつきましたし、実際に使ってみて、新品の消しゴムのような使い心地がずっと続くことが嬉しかったことを覚えています。
28もあるカドは細かいところを消しやすく、凸凹があるため持ちやすく、転がりにくい。消しゴムを使う人をよく観察しているプロダクトだなと思います。
このプロダクトは『グッドデザイン賞』のほか、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の『MoMAデザインコレクション』に選定されるなど、世界的に評価されており、その優れた機能性から、図面を書く建築家や、楽譜を書く音楽家にも愛用されているようです。


「観察から生まれたプロダクト」として、様々なプロダクトをご紹介しました。
今回登場した5つのプロダクトは、 デザイナーの観察眼で、人々の暮らしに自由や快適さをもたらした 点が共通しているのではないでしょうか。そして、デザイナー的な観察眼を磨くためには、生活に潜む「思い込み」を疑う姿勢と、使う人のことを考え抜くことが何よりも大切なのだと思います。
みなさんが愛用しているプロダクトが生まれた裏側には、デザイナーたちの観察や苦悩が隠れているかもしれません。

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