デザインが優れた資産管理アプリのUI分析(アメリカ編)
前記事「デザインが優れている、海外のFinTechサービス5選(欧米編)」では、欧米のチャレンジャーバンク(既存銀行サービスの概念を覆す、ITを駆使した現代的な金融サービス)を5つ取り上げ、それらが従来の銀行に比べてどのようにユーザーの利便性を向上しているかを紹介しました。
今回は、銀行サービスの中でも、個人の資産に対するアドバイスや管理をユーザーの代わりに行なってくれる「資産管理アプリ」にフォーカスを当てて、7つご紹介します。
資産管理アプリとは
資産管理アプリとは、ユーザーがアプリに紐付けた銀行口座やクレジットカードからデータを読み取り、そこから得たデータをもとにユーザーへ資産管理に対するアドバイスを与えたり、他の銀行アプリにはないような便利な機能を提供します。
チャレンジャーバンクを含む多くのFinTechは、ユーザーの一部の資産のみを把握することに留まりますが、資産管理アプリではさまざまな情報源から情報を収集しています。従って、異なる情報源から得たデータをもとに「ユーザーの属性に最も合う機能をレコメンドする」ことが可能なのです。
資産管理アプリは大きく
・家計簿アプリ
・少額貯金アプリ
・クレジットスコアアプリ
という3つのカテゴリーに分けられます。この記事では1つずつご紹介します。
家計簿アプリ
資産管理アプリの中で、最もよく知られているのが家計簿アプリではないでしょうか。
Goodpatchがデザインリニューアルを担当(2014年5月公開バージョン)した自動家計簿アプリMoney Forwardの利用者数は、2017年現在で500万人を超えており、日本国内においても、資産管理への関心は高まりつつあると言えます。
優れた家計簿アプリは、入力する手間を自動で軽減してくれます。ユーザーの取引履歴は、銀行口座やクレジットカードとの統合によりアプリに自動的に反映されます。例えば、「昨晩のピザのデリバリーを受け取った決済履歴を『食品』というカテゴリーに分類する」などの面倒な作業は、各サービスのアルゴリズムによって処理されるのです。
Mint
家計簿アプリの中でも、魅力的なUIデザインと優れたUXを提供することで、ローンチ時から不動の人気を誇るのがMintです。設立メンバーでヘッドデザイナーのJason Putoriは、アプリの複雑な機能を取り除くだけではなく、ユーザーへ適切な目標を提案することで、ユーザーの信頼を獲得できるEI(エモーショナルインテリジェンス)デザインを実現しました。そして、そのデザインは常にユーザーへ安心感をもたらしています。
リリースから10年経った今でも、家計簿アプリの1つとして市場で高い価値を維持しており、他のすべての金融サービスにとってのベンチマーク的地位を確立しています。
デザインのポイント:分かりやすさを第一に
Mintは、タブごとの情報量を最小限に抑えるなど、「ユーザーインターフェースを簡潔にすること」にこだわっています。 iOSアプリでは、すべてのコンポーネントの動作がユーザーが使い慣れているパターンに沿ってデザインされています。これは、ユーザーの戸惑いや操作の不確実性を防ぎます。ユーザーは、彼らの資産を管理するときに、戸惑いが生じるようなインターフェースは使いたいと思わないはずです。
また、エンプティーステートデザイン(表示情報がない際に空白を補うインターフェース)を利用することで、ユーザーへさらなる安心感をもたらすような工夫をしています。 チュートリアルは適切でタイムリーなもので、ユーザーが初めて新しい機能を試すときにのみ表示されます。
緑、黄色、赤で彩られたメーターは、ユーザーが貯金目標にどれだけ近づいているかを表しています。ユーザーが普段から目にする信号と同じ色を用いることで、違和感を取り除いているのでしょう。
Penny
サンフランシスコを拠点としたPennyでは、チャットボットで親しみのあるフレンドリーなコーチ・キャラクター「Penny」が資産運用に対するアドバイスをしてくれます。Pennyは自身を「パーソナルファイナンスコーチ」と呼び、消費や資産運用に対するアドバイスをユーザーに提供しています。ユーザー自身がアプリ内で特に何かを設定する必要はありません。
チャットボットやAIは資産管理アプリであるDigit、Cleo、Bank of Americaでも、ユーザーと資産データの関係性を結びつける賢いインターフェースとして用いられています。
デザインのポイント:チャットボットではなく、本当の友達
Pennyは、ユーザーがアプリを開くたびにユーザーの名前で歓迎してくれます。 Pennyの可愛らしい喋り口調に加えて、アニメーションGIFと絵文字は、アプリを非常に親しみやすいものにしています。アプリのオンボーディングと初期の口座連結も、全てチャットボットにより行われます。
Pennyから送られてきたメッセージには、共有、コピー、またはフラグを付けることができます。 ユーザーが同じ要求を何度も繰り返し入力するのを防ぐために、一般的に推測できるユーザーの行動はすべてデフォルトでPennyに送信できるメッセージとして用意されています。
Pennyは他にも、これまでにないほど見やすい取引履歴をユーザーへ提示しています。 ユーザーが行なった取引は、自動的に4つのカテゴリーに分類されます。これは、先ほどのMintのようなカテゴリーが膨らみ上がった家計簿アプリとは、比較できないほど凝縮されたカテゴリー数です。
Exeq
Exeqは、ニューヨーク市を拠点としたスタートアップです。2017年の夏にニューヨーク市内でクローズドβ版をリリースしました。現在は、3万人以上の人がウェイティングリストでサービスの利用を心待ちにしています。
Exeqは、ユーザーが貯金をすることではなく、より良い消費体験ができるように支援しています。他の資産管理アプリがユーザーへ提供するような機能よりも優れた予算の分析とパーソナライズされたアドバイスを提供しています。
Exeqはユーザーがどのような消費体験をする傾向にあるのかを分析し、より消費対効果の高い代替案を提示してくれるのです。例えば、ユーザーがメキシカンのファンだということが情報から分かれば、通っている店より5ドル安くメキシカンを楽しめるお店を紹介してくれるでしょう。
また、銀行と提携してユーザーへ預金・投資口座を提供しています。おそらく、資産管理アプリとチャレンジャーバンクの間のギャップを埋める役割を果たそうとしているのでしょう。同時に、アプリ内にお店を評価できる機能を付け、食べログ、Foursquare、Yelpなどのサービスと似た市場へ参入しています。
デザインのポイント:視覚的に魅力のあるUI
まだ完全リリース前なので、現時点でExeqのUIに言及することはできません。しかし、事前に公開されているUIを見ると、Pinterestでよく見るような視覚的に魅力のあるUIであることが分かります。また、数字情報と画像を同じぐらい重要視して表示しています。多色のパレットは、他のFinTechアプリの簡略化された色合いとの差別化にもなっています。
さらに、ソーシャル機能も優先されていることが分かりました。自分以外のユーザーからライクやコメントをもらうことができます。
完全リリース後に、Exeqがどのようなユーザーから支持を得るのか、私たちも待ち望んでいます。
少額貯金アプリ
少額貯金アプリには貯金を完全に自動化し、ユーザーが本来担う資産管理の負担を軽減するものと、ユーザーの多少の関与を求めるものがあります。前者は、ユーザーが気づかないうちに自動的に貯金するサービスを提供しています。 後者はユーザーに日々の節約に対しより積極的なアプローチをするよう促し、ユーザーに詳細な質問をしたり、ゴールを自ら設定してもらうプロセスを応用したりしています。
Digit
こちらもサンフランシスコのスタートアップです。Penny同様、チャットボットのUIを利用しています。 Digitは、ユーザーが考えるべきことを代わりに考えてくれます。 ユーザーは、個人資産の分析や節約のための最善策をアプリ側に信頼して任せることができます。
また、アプリのAIが情報解析の作業を行ってくれるので、ユーザーは多くの情報を登録時に入力する必要はありません。 ユーザーは、個人の資産が今どのような状況下にあるのかを把握するためだけにアプリを開けば良いのです。
Digitには、クリエイティブ・ディレクターのDaniel Scrivnerがいます。彼は米FinTech・Squareのほぼ全てのプロダクトやサービス、ビジュアル製品などのデザインに携わった偉大な人です。また、彼はAppleのiPhone 4のランディングページやその他のウェブデザインを経験しています。
デザインのポイント:信頼感
DigitのチャットボットはアニメーションGIFやカジュアルな語調を用い、より人間らしいインターフェースを演出しています。 また、入力の手間を軽減するために、推測できる一般的な返答をデフォルトで用意し、ユーザーが手入力する作業を極力省いています。Digitのメッセンジャーは他のメッセージングアプリのような、ユーザーが使い慣れたチャットUIを利用しているため、ユーザーは友人とチャットしているかのような感覚になれます。
Qapital
Qapitalは、スウェーデンの創業者がオープンAPIが法律として禁じられている自国を飛び出し、より技術進展に前向きなアメリカでスタートさせた少額貯金アプリです。先ほどのDigitと比べると、より詳細にカスタマイズできる預金機能をユーザーへ提供しています。例えば、新しいスニーカーのために「5マイルの長距離を走りきるごとに5ドル貯金」できたり、ハワイの休暇のために「雨が降るたびに1ドル貯金」できたりするのです。
Qapitalが提供しているもう1つの機能は「共同預金口座」です。例えば、友達をグループへ招待し、夏休みの音楽フェスティバルのためにみんなで貯金をしたり、カップルがキッチンをリフォームするために一緒に貯金を始められたりします。
デザインのポイント:夢を実現するためのゴール
ユーザーが楽しく貯金できるように、Qapitalは遊び心満載なデザインになっています。 ユーザーは、ウェブ検索または自分のフォトライブラリから、目標ごとにカバー写真を自由に設定できます。ユーザーのモチベーションをあげられるように、カバー写真は最も目立つホーム画面に表示されます。アプリを利用する目的が本来の「貯金」ではなく、「夢を実現すること」かのように感じられるデザインになっています。
アプリの他の部分はいたってシンプルです。ホームや個人設定のタブを含めて、合計3つのタブしかありません。アクティビティタブには、ユーザーやユーザーの友人についてのアクティビティフィードが用意されています。コメント機能やライク機能などのソーシャル要素を取り入れることで、よりユーザーがアクティブに利用できるような仕掛けになっています。
Albert
Albertは、少額貯金だけでなく、クレジットカード、ローン、投資、不動産、保険など、幅広い金融サービスを提供する総合的なアプリです。Albertはユーザーの財務状況を高めるために、AIで他の金融サービス(ビジネスモデルとなる)へ誘導してくれます。
デザインのポイント:簡潔なダッシュボード
Albertには、トップダッシュボードと財務状態ダッシュボードという2つのダッシュボードがあります。 シンプルな配色が綺麗なコントラストを生み出しています。また適切な余白の使用やタブバーをあえて省くことで、画面に余裕を持たせています。
そして、ヘルスケアアプリでよく見られる定量計測機能を応用したイメージが、画面の1番目立つ場所に表示しています。ユーザーは財務状態を表す数値を確認するためにアプリを開き、真っ先に数字を確認することができます。
他の少額貯金アプリ:Clarity Money、Tip Yourself、Folio
クレジットスコアアプリ
米国では、個人の信用度を統計で表した「クレジットスコア」を一人ひとりが保有しています。ユーザーに融資を求められた際に銀行や貸し手がこの数字を参照し、支払うべき利子の額を決めるのです。 ユーザーが自分自身の評価を確認したり、詐欺防止を行ったりする際にクレジットスコアアプリを利用します。
Credit Karma
Credit Karmaは、ユーザーが新しい手法で自分のクレジットスコアを追跡し、ニーズに最も合った金融商品やサービスを見つけ出すためのサービスです(Albertのように、他の製品へ誘導することによりマネタイズしています)。Credit Karmaは初め、Webに焦点を当てて開発を進めていましたが、スマートフォンでサービスを利用しているユーザーが増えはじめ、モバイル端末に対応することを決めました。そして彼らの努力は、2016年にAppleが発表した「今年のベストアプリ10」の中に選ばれました。
デザインのポイント:モバイルのための3つの指針
Credit Karmaは、モバイルサービスを3つの原則をもとに提供しています。
第1の原則は「ユーザーの時間を大事にする」というものです。これは、アカウントタブのダッシュボードに「ユーザーにとって重要な情報」をすばやくハイライトして反映することで実現されています。
第2の原則は「いつでもどこでもアクセス可能」です。プッシュ通知により、外出先でもユーザーは知りたい情報をすぐに知ることができます。
第3の原則は「ユーザーに自然だと感じてもらう」ことです。無駄な情報を省いてデザインされた簡潔なインターフェースはユーザーへ快適感をもたらし、ユーザーがコントロールしている感覚を与えます。
他のクレジットスコアアプリ:Prosper Daily、CreditWise
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回はアメリカのサービスに焦点を当てましたが、次回は英国やヨーロッパのアプリ事情を詳しく見ていきたいと考えています。
全体として、今回ご紹介した資産管理アプリは、ミレニアル世代をターゲットにしている点が共通していると言えます。この世代は優れたユーザー体験をもたらす上質なデザインを期待しており、簡単に目的を達成できる製品を選択する傾向にあります。また彼らは、大学ローンや雇用の低迷などにより多額貯金が困難であるため、より気軽に始められる便利なFinTechサービスで資産管理ができることを大いに期待しているのでしょう。
GoodpatchではFinTechチームを立ち上げ、国内外で先進したFinTechサービスの研究を行なっています。ご興味のある方は、一緒に働いてみませんか?