ユーザーに行なって欲しい操作や行動を導くインターフェイス/インタラクションのデザインを行うために、デザイナーはどんな意識をもつ必要があるのでしょうか。
今回は意識するべき概念の1つとして、メンタルモデルを紹介します。

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メンタルモデルとは

観客からすれば、映画に夢中になると、光の点滅やスプロケットのことなど忘れてしまう。というより、多くの観客は、映写機の仕組みだとか、それがテレビの仕組みとどのように違うかといったことなどまず知らない。観客は、単純に大画面に動く写真が映し出されているだけだというイメージを持っている。

(引用元:アラン・クーパー『About Face 3 インタラクションデザインの極意』)

上記でいう“観客”がもつイメージのことを、メンタルモデルと言います。
“観客”をユーザーと置き換えて考えてみると、メンタルモデルとはつまり、目の前のシステムについてユーザーが信じているもののことです。
ユーザーが持つメンタルモデルには個人差があり、また実際のシステムを正しく理解しているとは限りません。

このメンタルモデルという概念はApple Human Interface Guidelinesでも登場します。

実装モデル、メンタルモデル、表現モデル

インターフェイス/インタラクション設計においては、先ほどのメンタルモデルを含めた以下3つのモデルが存在します。

  • 実装モデルシステムの仕組み
  • メンタルモデルシステムに対するユーザーの理解の仕方
  • 表現モデルシステムの表現方法

ユーザーインターフェイスはすなわち表現モデルが具現化したものと言えます。ですから、UIデザイナーが設計を行うのは主に表現モデルの部分になります。

ユーザーのメンタルモデルを構築する

ではなぜ、デザイナーがユーザーのメンタルモデルを意識する必要があるのでしょうか。

結論から言うと、ユーザーのメンタルモデルとデザイナーによる表現モデルとの間に齟齬があった場合、ユーザーがシステムとうまくインタラクションできないといった事態が起こるからです。

メンタルモデルは、ユーザーがシステムについて、何をするもので、どう動き、どんな作業ができるか、と信じているものに過ぎません。
よって、デザイナーはユーザーが信じているものシステムの間にズレが生じているとき、理想的なインタラクションを導くための調整をする必要があります。

調整には主に2つのパターンが存在します。

  1. ユーザーのメンタルモデルにシステムを合わせる
  2. システムに対応できるようユーザーのメンタルモデルを進化させる

1つ目はIA(情報アーキテクチャ)上の問題を解決するのに適切とされる調整方法です。

ユーザーがコンテンツを探す上で間違った場所に行き着いてしまう場合、その間違った場所にコンテンツを移し、ユーザーの行動を正しいとしてしまう。といったシステム側の変更が分かりやすい例です。

こうした時、メンタルモデルの理解を図るためカードソーティングという手法が利用されることもあります。つまり、この1つ目の調整方法はシステム側の情報設計に問題がある際に活用されるのです。

一方で、2つ目の調整方法はユーザーに対してこれまで使ったことのないような製品や機器、サービスとのインタラクションを促す際にを目の当たりにさせることになる時に有効です。

ここからは、ユーザーのメンタルモデルを進化(構築)させるためにデザイナーが具体的にできることを紹介していきます。

メンタルモデルを構築するための概念

メンタルモデルを構築するには、そのシステムが何をするもので、どう動き、どんな操作が可能なのかをユーザーに発見させる必要があります。

ユーザーがシステムを理解できる表現モデルを設計するために、理解しておくべき心理学的概念と表現モデルの具体例を一緒に紹介します。

シグニファイア

アフォーダンスを知覚させる

“モノ”と“モノをインタラクションしようとする主体”との間に存在する関係性のことを「アフォーダンス」と言います。
この関係性は、主体に知覚されていようが知覚されていまいが存在するものですが、関係性が知覚されていなければ主体がモノとインタラクションすることはできません。
そこで、アフォーダンスの存在を知覚させるシグニファイアという要素が必要になります。

独自の解釈ではありますが、アフォーダンスとシグニファイアに関する概念は、サービスやアプリケーションに当てはめて考えると分かりやすくなると思います。

サービスやアプリケーションにおけるアフォーダンスは、“サービス”と“ユーザー”の間に存在するシステムが提供する機能のこと、と言えるのではないでしょうか。

機能はサービスやアプリケーションに必ず存在するものですが、ボタンやナビゲーションといった、機能を知覚させてくれるシグニファイアがなければ、機能を使うこと、ましてや機能の存在自体に気づくことすらできません。

マッチングアプリのシステムを例にシグニファイアの具体例を見てみましょう。

マッチングアプリでは、ユーザーが相互にいいね!をした状態をマッチングしたと言います。また、マッチング後でなければメッセージを送ることができません。

では、ユーザーはどうやってメッセージのやりとりができる相手を把握するでしょうか。

マッチングアプリでは、マッチングした相手を一覧することができます。ユーザーは、この一覧を見て、表示されているアイコンの人が自分にいいねしてくれたことを理解することができます。


つまり、このマッチング相手の一覧は「マッチング済みなので、この相手とのメッセージを送ることができる」という機能をユーザーに知覚させるシグニファイアであると言えるのではないでしょうか。

マッチングアプリのように、これまでになかったシステムをユーザーが扱えるようにするためには、アフォーダンスを明確に知覚させるシグニファイアの存在が不可欠です。

対応づけ

マッチングアプリでは、「いいね、ごめんなさい、とても良い」の処理と、ユーザーによる「右スワイプ、左スワイプ、上スワイプ」の操作が対応づけられています。


はじめは戸惑いがあったとしても、何十回も繰り返されるこの操作が、システム上の処理との間にどのような因果関係を持っているかを、ユーザーなりに理解することは容易なはずです。

「スワイプする方向によって意味が異なる」操作は、空間的なアナロジーが活かされている自然な対応づけと言えます。
このように、システムにどのような影響を及ぼすのかを自然に理解できるような表現モデルの設計は、メンタルモデルの構築に大変有効です。

制約

シグニファイアの説明で紹介したマッチングした相手の一覧には、いいねを返してくれなかった相手は表示されません。つまり、いいねをしたはずのユーザーがこの一覧に出てこないという事実から、ユーザーは「あぁ、あの人とはマッチできなかったんだ…」と理解せざるを得ません。

その相手がどんなに好みの人であったとしても、メッセージを送るという機能は、マッチングした他の人か、もしくは新たにマッチングする相手にしか使うことができないのです。


このようにシステム側が定める条件が達成されない場合、機能を使う範囲が限られるという制約は、ユーザーがシステムを理解するための手助けになります。

フィードバック

ある行為の結果を伝えることをフィードバックと言います。フィードバックをユーザーに届けることができれば、ユーザーが要求したことに対してシステムがしっかり働いていることをお知らせしたり、ユーザーが行なった行為が適切かどうか等を伝えることができます。


これによって、システム上でユーザーは何ができるのかを学習する機会が得られます。

また表現モデルにフィードバックを取り入れる場合、適切なフィードバックを実現するために、以下の項目に注意する必要があります。

素早く 遅れが生じると、何に対するフィードバックなのかが分からなくなります。
豊かに 何かが起こったことを伝えるだけでは不十分です。何が起こったのか、どうすれば良いのかを伝えましょう。
優先順位をつける 複数のフィードバックを与える場合、重要な情報に対して、より注意が惹かれるよう工夫しましょう。

さいごに

当然ながらUIデザイナーは、メンタルモデルと実装モデル、このどちらに対する理解もしっかりと持った上で、両者の橋渡し役となる表現モデルを設計するという意識を持つことが重要です。
今回紹介したメンタルモデルに関する知識は、インターフェイス/インタラクション設計において適切なUIを検討する際の手助けになるはずです。ぜひご活用ください。

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参考資料
https://u-site.jp/alertbox/20101018_mental-models
https://u-site.jp/usability/
https://www.amazon.co.jp/dp/4788514346

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