次々と出てくるシェアリングエコノミーサービスの中で、今世界で絶大な人気を誇るのが住宅シェアサービスをCtoCで提供しているAirbnbや、タクシーシェアサービスを同じくCtoCで提供しているUberではないでしょうか。
その中でも、Uberのような「移動手段となるシェアリングエコノミー」に今回は着目しました。
事例として、今最も人気が上昇している中国発祥のシェアバイクサービス「Mobike」を取り上げ、彼らがスタートアップとしてどのように資金調達約10億ドルのメガベンチャーへと成長したのかを解明していきます。
目次
シェアバイクの歴史
シェアバイクはヨーロッパを起点とし、50年以上も前から世の中に出回っていましたが、利用者は多いとは言えませんでした。しかし、近年になってようやく、シェアバイクの歴史を一新する動きが現れ始めました。この歴史的変貌を可能にしたのは、近年の利便性を追求したプロダクトデザインの浸透とテクノロジーの普及による斬新なエコシステムの構築だと言えます。
利便性の追求
従来のシェアバイクがなぜそこまで普及しなかったのかというと、私は「指定駐輪所の数が少ない」ということが原因だと考えています。せっかく借りた自転車で遠出をしても、指定された時間までに自転車を返却しなくてはなりません。そこで近年では、駐輪所をさらに増やすこと、もしくはあえて無くすことで、利便性の向上に努めているようです。
テクノロジーの応用
シェアバイクの普及を加速化させたのは、テクノロジーの応用により構築された斬新なエコシステムです。例えば、この記事の主役であるMobikeも、アプリを利用してバイクの居場所検知や、レンタルをできるようにしたことが話題を呼びました。
今最先端の「Mobike」とは?
Mobikeは2015年に上海にて設立されたスタートアップです。中国で爆発的な人気を誇り、現在は1億人を超えるユーザーを獲得しています。中国ではほぼ全ての地域に導入されており、「通勤時や休日の街散策に使える気軽な移動手段」として多くのユーザーに親しまれています。
そんなMobikeのコンセプトは「誰でも借りられる自転車」。30分1元(日本円で約17円)という激安価格でサービスを提供しています。更に安さだけではなく、指定パーキングがないところもユーザーの絶大な支持を得ている理由の1つです。つまり、ユーザーはバイクを見つけて、アプリでレンタルを行い、乗り捨てができるのです。
初めは「公共交通機関の1つなので、乗り捨てにするべきではない」という声もありましたが、指定パーキングに返却させるよりも、目的地にたどり着いた後はそのまま乗り捨てができる方がユーザーにとって使いやすいため、コンセプトが変わることはありませんでした。
Mobikeのアプリに取り入れられた戦略
Mobikeの1番の魅力は、先に述べたように「アプリを利用して安く簡単に自転車を借りられる」ことです。ユーザーはアプリを開き、GPSで近くに駐車してあるMobikeを検索し、QRコードをスキャンしてバイクをレンタルできます。
このアプリを設計したのが、以前の記事でも取り上げた中国のデザインファームEICO(eico designからEICOに改名)です。
いくつか彼らがデザインの中で取り入れた戦略を見てみましょう。
「ノーインターフェース」への挑戦
一般のバイクを利用する時、私たちはアプリを開く必要がありません。鍵をポケットから取り出し、鍵穴に挿して腕を半回転させるだけでロックを解除できます。
それに比べて、アプリを使って自転車のロックを解除するという行為は、「携帯を取り出す→携帯のロックを解除する→アプリをホームスクリーンで探して開く→アプリへログインする→ロック解除画面を開く→ロック解除を指定の方法で行う」と、最低でも6つのステップが必要です。
EICOはアプリを利用しない方が便利である体験を、あえてアプリを利用する体験へとリデザインすることに挑戦したのです。ここでアプリ設計者ができることは「アプリ内の操作を最短にする」ということです。デザインがシンプルであればあるほど、ユーザーは目的を簡単に達成できます。
EICOは「ノーインターフェース」を意識して、「ユーザーがアプリを開き、マップで近くのMobikeを見つけ、QRコードスキャナーでスキャンをする」というたった3つのステップで、Mobikeを借りられるアプリをデザインしたのです。
ユーザーは現在のMobikeアプリを利用して、特別何か意識しなくても目的である「自転車を借りる」ことが達成できます。
ユーザーが本当にサービスに求めていることは「モノを保有すること」ではなく、モノを利用する際の利便性なのです。
ユーザーの目に留まるデザイン
Mobikeのアプリデザインで1番重視したのは、「ユーザーの目に留まるデザインをすること」です。例えば、Mobikeの停まっている場所を地図で表す際には、マップのベースカラーである灰色や、場所を表すオレンジとは被らない色を選ばなくてはなりません。
また、ロゴは再現性の高い、ユーザーが一目で製品を認知できるシンボルとして機能しなくてはなりません。
さらに重要なのは、街中へ実際に置かれた時に「思わず乗りたくなるような目立つデザイン」を考慮することだったそうです。
これらの全てを取り入れたのが、今のMobikeの輝かしい赤色の車体と、Mobikeを象徴しているシンプルな自転車のロゴです。
できるだけ多くの仮説を立てる
Mobikeのアプリを設計する際には、できる限り多くの仮説を立てたそうです。
EICOは「300メートル進むごとにMobikeがあること」を理想として掲げてデザインを進めました。
成人は1分間で75メートル歩くという統計が出ています。つまり、300メートル進むには4分必要だということです。4分間が集中力の限界であると仮定し、「ユーザーの飽きがくる前にアプリでMobikeのロックを解除できるようなデザイン」がエンジニアが挑戦したデザインコンセプトです。
また、Mobikeは「インターネットが繋がらない」「マップ上ではあると表示されている場所にMobikeが見当たらない」「1つの地域で借りられたMobikeが別の地域まで乗られてしまった」などの仮説をもとに、解決策を取り入れたデザインをされています。
このように、立てた仮説に対策を打つことで、より優れたUXを生み出しているのです。
他のシェアバイク(ofoなど)との違い
中国国内で20社以上あるシェアバイクビジネスを展開するベンチャーの中でも、Mobikeの強豪となるのが北京大学出身戴威(ダイウェイ)が立ち上げたOfoです。両社ともシンガポールやイギリスにビジネス展開をしており、今年中に200以上の都市へサービスを展開すると発表しています。
ここでは実際にサービスを利用していたユーザーからホームページへ寄せられたフィードバックをもとに、両社の違いを分析します。
ユーザー体験の違い
OfoのアプリはMobikeより複雑なユーザー体験を提供しているように見受けられます。しかしながら、プロセスが複雑な分、安心感を得るユーザーもいるのは確かで、両社の支持は依然として対立しています。
Ofoの場合
借りるとき
- アプリを開く
- バイクに表示されている6桁の番号をアプリ内で入力する
- アプリが4桁の暗証番号を示し、10秒後に金額計測が始まる
- 4桁の暗証番号でチェーンをアンロックする
返すとき
- チェーンをロックする
- 暗証番号をずらして返却
- アプリ内で「返却する」を実行
Mobikeの場合
借りるとき
- アプリ内で付近にあるMobikeを見つける
- アプリでQRコードをスキャンしてアンロックする
返すとき
- バイクのロックバーをロックして返却する
OfoはGPSがないが、Mobikeはある
Mobikeのアプリ(画像左)を見ると、明確にバイクがどこに駐輪してあるのかが分かるUIになっています。これは、GPS機能を内蔵することによって可能となりました。
一方、Ofoのアプリ(画像左)にはGPS機能が取り入れられていません。したがって、ユーザーが分かるのは「近くにいくつ空きバイクがあるか」という情報だけです。
ホームページには他にも、「Ofoは学割でMobikeに比べて半額で乗れるのが良い」「Ofoの方がバイク自体は軽いが乗り心地はMobikeの方が良い」などの声が寄せられていました。
これらのことから、ユーザーはそれぞれのニーズに合わせてバイクを選択していることが推測できます。利便性を求めるユーザーはMobikeを、安さや安心感を求めるユーザーはOfoを選択しているのでしょう。
シェアバイクの今後
現代は、インターネットを通じて多くのサービスへと繋がれる時代です。中国ではシェアタクシーサービスの「滴滴」とMobikeが中心となり、移動手段のシェアリングエコノミーに改革を起こしています。
記事で取り上げたMobikeやOfoのような「近年の革新的なシェアバイクサービス」は、ユーザーの利便性を高めた分、「返却がされない・製品が壊れる」などの問題が多発しています。この先、他国に進出するにあたり、今のビジネスモデルを維持したままでは多大な負担が生じると私は考えます。
重要となるのは、それぞれの国で異なる戦略を取り入れることと、全く違う領域へのビジネス展開を視野に入れることではないでしょうか。
例えば、両社とも2017年に日本上陸を発表しましたが、日本の土地に合った戦略を取り入れなくては普及は難しいということです。
また、この先Mobikeがシェアハウスやシェアフードなどの領域へ進出する可能性も十分にあるでしょう。
この先のシェアリングエコノミーについては、物理的なもの(アプリなど)の存在感をできる限り無くしたデザインが求められると予想しています。EICOのようにプロダクトデザインの際に「ノーインターフェース」を目指し、利便性と利用効果を追求するようなデザイン理念がますます重要となるでしょう。