以前中国で爆発的な人気を誇り、街中を埋めつくしているMobikeの優れたUXとその戦略について取り上げました。

実は2017年5月に、Mobikeの体験設計を手がけたデザイン会社に直接訪れる機会がにありました。EICOはGoogleやAmazon、Alibabaといった大企業から、MobikeやOnePlusなどのスタートアップまで満遍なく手がけています。また、関わるサービスのフェーズも0→1から1→10までさまざまです。

今回は、彼らの組織編成やデザインプロセス、気になるクリエイティブなプロダクトのデザイン戦略について聞いてきました!

EICOってどんな会社?

EICOは、製品やブランドの真の価値を創造するために、デザインコンサルティング事業に特化したスタートアップです。現CEOである张伟(Rocky)と许士彦(Ricky)が2004年に北京で設立し、現在13年目。社員数は現時点で約60人、そのうちの90%がデザイナーなのだそうです。みんなプロフェッショナルでデザインに熱意のある人ばかり!

彼らの魅力は人材だけでなく、働く環境にも潜んでいました。北京・厦門・上海に拠点を置くオフィスは、“仲間とシェアしやすいクリエイティブな環境”をコンセプトに空間デザインも社内メンバーで担当したのだとか。

この日もオフィスを快く案内していただきましたが、まだ新築中のビルの2階の凝縮された空間で、メンバーが真剣にデザインに向かう姿や、和気あいあいとランチをする姿を目にすることが出来ました。

EICOが掲げる4つのデザイン原則

©️ EICO

EICOのデザインプロセスはこちら(上図)。
デジタル領域だけでなく、幅広い分野のデザインを手がけています。どのプロジェクトも、はじめはユーザー理解(クライアントがどのようなプロダクトを必要としているのかの洗い出し)から始まります。その後インタビューを重ねることで調査範囲の拡張を行い、発散されたアイデアの中から取捨選択をすることでプロトタイプ制作をするプロセスを用います。

このプロセスは、他社のデザインプロセスとも近いものを感じますが、これに加えてEICOではプロセスの中で大事にしている「デザイン原則」というものがあり、実務内でも実践しています。

1. 欲求満足

一般的にクライアントとユーザーの需給は、それぞれ違った角度にあります。EICOはクライアントの需給を徐々にユーザー側へ寄せていくことを目指しています。

2. 行動設計

カスタマージャーニーマップに沿った設計をするために、ユーザーが目的達成までにどのような行程を踏んでいるのかに重きを置いた設計をしています。

3. 画面推移の最適化

できるだけ画面推移を減らし、同じスクリーンで多くのことを体験できるような設計を意識することを大事にしています。

4. 使用時の精神的ハードル低減

ユーザーの心理的ストレスを少しでも軽減できるデザインを意識しています。
(参考:http://www.itvalue.com.cn/read/article/69821

この4原則を常に意識し、柔軟に企業の要望とすり合わせて適応していくことが、良いプロダクトを作るには欠かせないのだそうです。

改めて、デザインをする上でこういった原則を言語化することの大切さを感じました!

クライアントワーク実績

EICOは、GoogleやAmazonなどといった大手外資企業をはじめ、約200社以上のクライアントと提携し、400以上のプロダクトを開発した実績を持ちます。平面上のデザインに止まらず、あらゆるテクノロジー(AI, VR, AR, 3D)を駆使した領域にとらわれないデザインが、他とは一線を画して注目を浴びているようです。彼らはクライアントの組織成長段階に沿って、4つの部門にクライアントワークを分類しています。

1. 0→1

創業当時から行なっている「0→1」と名付けられたもの。スタートアップやこれから創業を考えている事業に向けて、デザインコンサルティングを行っています。

2. デジタル化

従来オフラインで行われていた事業をオンライン化するクライアントワークです。例えば、銀行のオンラインバンクのコンサルティングなどが含まれます。

3. 差別化

既にある程度認知度を獲得したビジネスを、よりプラスへと引き上げるコンサルティング。先ほど挙げたグーグルやアマゾンはここに含まれます。

4. オンライン+オフライン

アプリなどのオンラインサービスと、オフラインの空間を同時にデザインするクライアントワーク。例えば、医師と患者が交流できるアプリと病棟の待合室を同時にデザインした実績があります。
(参考:http://eicodesign.com/productcase/dx-2/

その中でも私が気になったのが、EICOが行うスタートアップパートナーシップ。つまり、0→1のクライアントワークです!今回は実績の中から3つピックアップしてご紹介します!

実績ピックアップ

OnePlus H2OSのブランド戦略とデザイン

2015年に発売された国内人気のモバイル端末OnePlus H2OSのシステムデザイン。Google Material Designの基礎を最適化したH2OSのデザインは、新しい生活方式をユーザーに提供しています。

(1)モーション天気予報

©️ EICO

物理的現象を抽象化し、モーションで実際の天気を表示します。各地の天気が画面一面に動きで表現され、見ているだけで楽しめるデザインになっています。

(2)カード式メール

©️ EICO

メールに送られてくる主要な情報(認証キーや請求費用)が太文字でメール上部に表示されるデザイン。ユーザーは実際にメールを開かなくても、必要な情報をすぐに確認することができます。

(3)モーション時計

©️ EICO

国内の時間経過からすぐに海外の時間を計測し表示する時計。従来の羅列された数字では分かりづらい時差が一目瞭然です。

「端末自体をデザインする」というスケールの大きいプロジェクトにも関わらず、EICOの幅広い知見を最大限に活かした製品となっています。日本ではiPhoneが主流ですが、中国ではOnePlusのような国内スマートフォンメーカーが流行しています。そのため、OnePlusをデザインした会社としてEICOを知る人もいるのだそうです。

mobikeのUX設計

もう1つ私が着目した0→1製品は、中国と東南アジアを中心にシェアリング自転車を提供しているMobikeのUX設計。EICOは、ロゴからアプリのUIまで一貫した製品デザインを担当しました。街でも目につきやすい赤色の可愛らしいデザインが若者から人気を集めているようです。

特におすすめの機能は、製品の貸し借りをQRコードでできること。モバイクのハンドル部分とサドル部分には、QRコードが添付してあります。ユーザーはアプリでQRコードを読み取り、モバイクをレンタルすることができます。また、駐輪所の指定がなく、どこでも駐車することができ、アプリ内に内蔵されたGPSで駐輪されている場所がわかる仕組みになっています。

モバイクは2006年4月に誕生してから、たった1年で80以上の都市に浸透し、1日2000万代も受注しているのだとか。現在、モバイクの総株価は凄まじい勢いで上昇しており、現在100億ドルにまで上っていると、The New York Timesをはじめ、数々の米国メディアで報道されています。

自社プロダクト「Weico」

クライアントワークばかりでなく、自社プロダクト開発にも注力をしているEICO。2007年に中国の最大SNSプラットフォームであるWeiboのモバイル専用アプリ「Weico」を開発したそうです。Weicoをリリースしてわずか3日間で3万ダウンロードを突破!凄まじい勢いで人気を集め、自社のブランディング強化や知名度向上にも繋がったそうです。

EICOの目指す未来

クライアントワークでも、自社プロダクト制作でも多大な成功を納めているEICO。今後どのような展望を持っているのでしょうか?

CEOのRockyは、「デザイナーは製品製造社のようにプロダクトを作り続けるのではなく、地に足をつけ、デザイナーとしての経験をプロダクト製造に活かすことがより大切なのです。デザインは、常に困難の連続ですが、同時に楽しさの詰まったプロセス。次のクライアントが誰であるのか、次はどんな仕事が待っているのか、想像はできません。ですが、毎年『今年こそは家電領域を探索する』と決めています」とCSDN(中国メディア)でも語っています。

また、スタートアップ・パートナーシップもより幅広い領域で行うことが予想されます。日中問わず、このようなデザイン会社が他事業に投資する文化がより広まってほしいと思いました!

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今世界でも話題となっている「中国の斬新なUIデザイン」を牽引するEICOに今回は着目しました。

まだまだ中国では、デザインを専門としクライアントワークを手がけている会社や、投資を積極的に行なっている会社は、日本ほど多くはありません。日中のデザイン企業による事業への投資動向に、今後も注目したいと思います!

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