こんにちは!デザインリサーチャーのKeikaです。

前記事でもご紹介したように、Goodpatchでは現在、Fintech領域に注力し、日本の金融市場へ新たなイノベーション創出をデザインの力で支援しています。そのような中、中国において2次元コード決済が主流になった背景を詳細にまとめられた記事が、先月「移动支付网」より発表されました。日本がこの先2次元コード決済を普及させる参考になると感じたので、転載許可取得の上、日本語翻訳(一部意訳)したものをお届けします。

前置き

現在、中国の決済領域において、最も急速なスピードで普及している決済方法はモバイル決済です。モバイル決済の発展に伴い、市場にはNFC(かざすことでデータ通信をする規格のこと)、2次元コード、眼球(血管)、音声、指紋決済など、数多くの新しい決済方法が誕生しました。上記の中でも、2次元コード決済は現在最も高いシェアを占めている決済方法です。

この記事では、主に2次元コード決済の誕生から、中国においての2次元コード決済が普及するまでの歴史、現在の主な製品モデルと今後の開発動向の分析についてまとめます。

2次元コードの基本概念

私たちがショッピングモールで購入した商品の袋には、多くの場合「バーコード」がついています。中国ではこれらを「1次元コード」と呼びます。1次元コードは誕生して以来、商業、工業、金融、ヘルスケア、運搬など、さまざまな分野で活用されています。しかし、物品上の小さな1次元コードが保管できる情報量はわずか数字13桁。つまり、一定の利用に限られてしまうのです。

利用が限られてしまうため、1次元コードがもつ低生産コストな面だけでなく、大量の情報を持つことができ、セキュリティーも高い、新しいコードを開発することに励みました。そして1992年、米国のSymbol Technologies Inc.が幾年もの努力を重ね、「PDF417」(現 2次元コード)が誕生しました。

PDF417

2次元コードは、特定のルールとシンボルに応じてデータを記録する白黒の表示方法で、コンピューター言語である“0”と“1”の情報で構成されています。コードに光線を当てると、自動的に情報が処理、伝達される仕組みです。

2次元コードが誕生して以来、世界中には250種類以上のコードが存在します。よく見かけるのは、QRコード、DMコード、GMコードと、CMコードなどです。その中でも、国際的に認識されているのが、QRコードとDMコードです。
QRコードは日本でも主流であり、読み取りが早い点と、数式情報の許容密度が高い点、データ容量の軽さなどに優れている点に加え、漢字の表示も可能な点です。
DMコードは韓国で主流の2次元コードです。DMコードは複雑なエラーコレクティングコード(デジタルデータの転送時に起こりうる間違いを防ぐために付加されたデータ)が付随しているため、間違いを修正する能力が他の2次元コードより強力です。

中国発の代表的な2次元コードは、GMコードとCMコードです。この2つの2次元コードは、中華人民共和国工業情報化部により2006年5月に発表されたものです。GMコードは一定量のデータ保存ができ、ユーザー自身がセキュリティ強化具合を選ぶことができます。CMコードは、より高速なコード認識と識別処理が可能です。

2次元コード決済のこれまで

2次元コードはAlipay(前記事参照)によって正式に中国市場へ参入しました。2011年、AlipayはTaobao(Alipayを展開するアリババグループのサービス。中国最大ECサイト)の存在により、既に国内EC決済市場において絶大なシェアを占めていましたが、オフライン上での決済は主に銀聯(ユニオンペイ)指標のある銀行カードが主流でした。

銀聯(ユニオンペイ)ロゴマーク

中央銀行の規制上、オフラインでの決済は銀聯カードを利用することが必須であったため、Alipayは新たな決済方法を開拓すべく試行錯誤を重ねていました。

しかし、国外では既に2次元コードが普及しはじめ、街中でも多く見かけられるようになっていました。例えば、日本や韓国では、交通機関やオンラインマーケットで2次元コード決済ができるようになっていました。このような中でAlipayは2011年7月1日、正式にオフラインでの2次元コード決済市場へと参入しました。

2次元コード決済は通常の銀行決済と比べ、下記の点で優れています。

1つ目は、持ち歩きが便利な点です。ユーザーは携帯電話(またはスマートフォン)さえ持っていれば、一連の決済行程を行うことができ、同時に日々の生活の中で多数のカードを持ち歩く手間を省けます。

2つ目は、操作が簡単な点です。ユーザーは携帯電話(またはスマートフォン)を取り出し、カメラでバーコードを読み取るだけで決済ができます。カードをその都度探し出す必要がなくなりました。

3つ目は、店側のコストを低減できる点です。従来のPOS機能では、POSにあらかじめおつりを準備しないとクレジットカードでの決済が行えませんでした。しかし、2次元コード決済は店側が端末読み取り器(もしくはそれにレシート印刷機が付随したもの)さえ用意すれば決済できるので、コストを大幅に削減できたのです。

時間的側面から見ても、Alipayがこの時期に2次元コードを利用したオフライン決済市場へ参入したのはベストタイミングだったと言えます。

1つ目の理由は、当時は3G、4Gの無線LANが既に普及をしはじめていたので、2次元コード決済の利用基盤が整っていたからです。
2つ目の理由は、先ほど挙げたTaobaoの発展により、莫大なAlipay利用ユーザーがいたことです。さらに、ユーザー側と経営者側双方に、ある程度Alipayシステムの利用経験があった状態からスタートできたことも大きな要因の一つです。

Alipayの2次元コード決済はオフライン市場へ瞬く間に浸透し、従来の銀聯カード決済を打ち負かし、窮地に立たせました。しかし、2次元コードの新しい決済方法は支払い方法の安全面と技術面で検査基準に達していなかったため、中央銀行は2014年3月にAlipayに対し、2次元コード決済活動を直ちに停止するよう命じました。

2次元コード決済の今

Alipayと他の決済領域参入機関は、中央銀行に「2次元コード決済禁止令」を提示されたものの、これまでのオフライン決済の浸透率と多大な利便性への確信から、継続的に2次元コード決済の改善策を模索しつづけ、オフライン決済市場への再参入を図りました。

決済機関の技術改善と努力の末、2次元コードはついに中央銀行からの承認を獲得。2016年8月3日、支払精算協会は決済機関に対し「コード決済事業規範」を提示しました。これは、中央銀行が2014年に2次元コード決済禁止令を提示した後、初となる監査官の2次元コードに対する承認が降りた事例です。「コード決済事業規範」は、2次元コードに対し、効率性、取引額限度、取引の安全性などの面で一定の基準を表記したと共に、 「2次元コードは日常の少額取引にのみ用いられ、従来のカード決済の有効補助的役割を果たすこと」と明記しました。

2次元コードは中央銀行の認証を受けてから急速な発展を遂げ、現在ではオフライン決済の中でも非常に頻繁に目にする決済方法になりました。

2次元コード決済方法は、「ユーザーとビジネスのインタラクション」と、「ユーザー間インタラクション」の2つに分類できます。さらに、ユーザーとビジネスのインタラクションは二分化することができ、「ユーザー主体スキャンモード」と、「ユーザー非主体スキャンモード」に分けられます。それぞれの詳細について以下で説明します。

(1)ユーザーとビジネスのインタラクション

1. ユーザー主体スキャンモード

ユーザー主体スキャンモードは、ユーザーが主体となり、スマートフォンアプリ(Alipayなど)を開いて店側の2次元コードを読み取る決済方法です。2次元コードは通常店頭のPOSに表示されるか、紙に印刷してあります。

  1. 2次元コード発行
  2. 2次元コード反映
  3. 2次元コードリーダーでスキャン
  4. 支払い請求
  5. 決済システムへ請求
  6. 取引明細送信

2. ユーザー非主体スキャンモード

ユーザー非主体スキャンモードは、店側が2次元コードスキャナーを利用し、ユーザーの携帯画面上に表示されたコードを読み取る決済方法です。ユーザー非主体スキャンモードを利用する際、2次元コード内にはユーザーのアカウント情報と、ユーザーに関連した情報が含まれています。取引行程は以下の図で表しています。

  1. 2次元コード発行
  2. 2次元コード反映
  3. 2次元コードリーダーでスキャン
  4. 支払い請求
  5. 決済システムへ請求
  6. 取引明細送信

前述のユーザー主体スキャンモードの利点は、専用端末を用意する必要がなく、ビジネスコストが低減できる点です。欠点は、店側による2次元コード偽造が懸念されます。

一方で、ユーザー非主体スキャンモードの利点は2つあります。1つ目は、2次元コードの偽造を防ぐことができ、個人情報が保護できる点です。2つ目は、ユーザーがオフラインでも、アプリを開いて2次元コードを提示するだけで決済が完了するので、ユーザーのオフライン取引を促すことができる点です。欠点は、店側が2次元コードスキャナーを設置しなくてはならない点です。

(2)ユーザー間インタラクション

ユーザー間取引は下記載の図のように行われます。

  1. 2次元コード発行
  2. 2次元コード反映
  3. 2次元コードリーダーでスキャン
  4. 支払い請求
  5. 決済システムへ請求
  6. 取引明細送信

市場の拡大により生まれた決済のトレンド

(1)2次元コードのマイクロチャネル決済

ここ最近では、AlipayとWeChat Payの2次元コード決済の普及により、「マイクロチャネル決済」という新たな決済方法が生まれました。マイクロチャネル決済とは、決済サービスに関わらず、ひとつのQRコードさえあれば決済ができるシステムです。これまでは、サービス専用のQRコードが必要でしたが、それが必要ありません。既存だと「付钱拉(フーチェンラー)」や「Ping++」などが挙げられます。
さらにマイクロチャネル決済は、2つのモードに切り替えることが可能です。

1. ユーザー主体スキャンモード

ユーザー主体スキャンモードは、店側が1つの2次元コードを提示することで、複数の決済アプリに対応する方法です。ユーザーが読み取った2次元コードはオンラインと連携しており、自動で該当する決済システムと連動します。この方法では、決済システムがモバイル内に登録されたアプリ情報を判別し請求を行います。

2. ユーザー非主体スキャンモード

ユーザー非主体スキャンモードは、店側が複数の決済システムを内蔵したPOS(もしくは他の2次元コード読み取り器)を用いて、ユーザーの提示するコードをスキャンします。つまり、POSでユーザーのアプリ上に表示された2次元コードを読み取り、その情報を相当する決済システムへ自動で繋ぎ決済を行います。

(2)銀聯による2次元コード決済標準の提示

先ほども述べた通り、2次元コード決済のオフライン市場への参入は、銀聯市場に大きなダメージを与えました。銀聯は自社市場を参入させるために、「中国銀聯2次元コード決済安全規範」と、「中国銀聯2次元コード決済応用規範」を打ち出し、モバイル決済市場参入機関に対してある一定の水準を提示し、銀行と非銀行機関の連携をはかりました。

他にも、銀聯はBtoB、CtoB、CtoCの資金運用に対し、相当する決済方案を打ち出すだけではなく、多くの銀行が銀聯の打ち出した法案を支持する方針を示しました。(建設銀行、交通銀行、民生銀行、招商銀行、华夏信用銀行など)

(3)銀行とモバイル決済の協力

決済機関のオフライン市場潜入領域が拡大するにつれ、銀行も自らのオフラインビジネスを守るため、モバイル決済機関との提携をはじめました。2017年4月、工商銀行e-ICBCはWeChat Payと提携することを発表し、銀聯と他金融機関の2次元コード決済をサポートすることを発表しました。

具体的なサービスはまだ公開されていませんが、現時点で考えられるもっともシンプルなモデルは、2つ。マイクロチャネル決済の決済アプリの中に銀行の2次元コードを内蔵する方法か、銀行アプリの中に決済アプリの2次元コードを内蔵する方法のどちらかです。

モバイル決済機関との提携による銀行側への利点は、1つ目に良質なビジネス資源を保つことができること、2つ目に、銀行アプリのユーザー増加が見込めることです。

(4)インターネットなしでの決済

従来の2次元コード決済は、インターネットが繋がる場合のみ利用できる決済方法でした。特にユーザー主体読み取り決済は、ユーザーのインターネット接続が必須でした。しかし、2次元コードのオフライン決済解決法案では、2次元コードの市場で応用できる場面を新規開拓し、オフライン環境での決済を可能にしました。

2次元コード決済のこれから

2次元コード決済は、決済市場の中でもすでに重要な位置づけとなっています。コード決済における未来への展望は、以下のような期待が寄せられています。

(1)利用範囲の拡大

2次元コードの応用領域が広範になるに伴い、決済以外にも割引やe-チケット購入においてなど、多くの場面ですでに普及しています。加えて利用する場面がますます拡大し、ユーザーが利用する機会も増えることで、ユーザー数も右肩上がりになることが予想されます。つまり、2次元コードのムーブメントは、今後更に強まると予想できます。

(2)2次元コードの標準化

現在構築中のオンラインサービスも、2次元コードの新たな利用領域を模索しています。そのため、未来に2次元コードの規範が標準化されるという見通しも十分に立てられます。

(3)QRコードの国際化

Alipayは2016年にドイツの決済サービスConcardisと提携し、ドイツで著名な腕時計やジュエリーブランドのWempe、飲食店などに2次元コード決済を導入したそうです。

他にも、2017年5月9日、銀聯国際、国際VISA、マスターカードがバンコクで3社合併し、タイにて共通の2次元コード指標を制作すると発表しました。これは、タイの電子化を加速化する戦略が組み込まれています。2次元コード決済の国際化は、これから広い範囲でトレンドになる見通しです。

(4)他の決済手段との競争

当然市場では2次元コードだけではなく、NFC、顔認証、眼球(血管)認証など、他の決済方法も普及しています。その中で特筆すべきなのがNFC決済です。NFC決済は、今までは2次元コードのように普及しているわけではありませんが、IoT(Internet of Things)が発展するにつれ、NFCの決済手段も次第に発展するとみられています。今後、2次元コード決済がどのような成長曲線を描くかは、それぞれの決済方法の利便性と安全性の追求度合に依存します。

結論

インターネットとスマートフォンの普及に伴い、2次元コード決済は1つの成熟した決済方法になり、すでに日常生活のいたるところで活用されています。

本文では、2次元コード決済の応用について比較的詳細な分析を行いました。2次元コード決済が今後ますます広大な作用を発揮することを期待しています。

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