みなさんは欧州を中心に盛り上がりを見せている、MaaSと呼ばれる新しい移動の概念をご存知ですか?日本では国土交通省が令和元年を「MaaS元年」とし、先行モデルとなる事業を選定するなど、MaaSの本格的な展開に向けて動いています。本記事では、MaaSとは一体何かを明らかにした上で、各国のMaaSへの取り組み、今後の展望についてご紹介します。

MaaSとは

MaaSとはMobility as a Serviceの略称で、国土交通省の発表したガイドラインでは以下のように定義されています。

MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念である。

言い換えると、「インターネットにアクセスできれば、誰でも自宅から目的地まで一本道で移動できる」といったところでしょうか。公共交通、電車、タクシー、自転車まで、異なる事業者が運営する全ての移動手段を一つのサービスとしてとらえ、利用者は利用した分だけ料金を支払うというスタイルです。もちろん、決済は全てインターネット上で行うことができます。

海外の事例【欧州編

欧州は、MaaS発祥の地であることから、世界の中でもかなり早い段階からMaaSが盛り上がりを見せていました。一部の国ではMaaSが実用化されてから既に30年以上が経っているというから驚きです。

Lime-S

Lime-Sは現在パリで大人気のシェアリングスクーターサービスです。パリではLime-Sの登場前からVélib’ というレンタルサイクルサービスがあり、市民の足となっていました。しかし、今回Lime-Sが大きな盛り上がりを見せている一つの要因として「乗り捨て可能」という点があげられます。

画像引用:https://apps.apple.com/us/app/limebike-your-ride-anytime/id1199780189

Lime-Sには決まった貸出ステーションがありません。専用アプリでスクーターの位置情報を確認して現場に行き、QRコードをスキャンするだけで簡単に貸出・決済を行うことができます。もちろん返却の際も道端に乗り捨てOKです。

また、自転車に比べて小回りが効く点は市民だけでなく観光客にも嬉しいですね。国際免許を持っていれば観光客も利用可能ですので、パリに行かれた際はぜひ利用してみてはいかがでしょうか。

emmy 

ベルリンはトヨタ自動車(以下トヨタ)がMaaS事業の本社を置くことを決定するなど、ドイツの中でもMaaSサービスの拠点都市と言えるでしょう。そんなベルリンを拠点とするemmyは、約1600台が15万人のユーザーに使われている、電動スクーターのシェアリングサービスです。こちらもLime-Sと同様、アプリで位置を確認、荷物入れのロックを解除して、鍵とヘルメットを取り出すことでレンタルすることができます。 Goodpatch BerlinがアプリケーションのUI/UXデザインをお手伝いしました。

画像引用:https://goodpatch.com/ja/work/emmy

2人乗りが可能で、カーシェアより安価に住むこと、どこでも乗り捨て可能なので電車やバスだとアクセスの悪い目的地にも行きやすいことが、ベルリン市民に愛される理由なのかもしれません。Goodpatch Berlinのメンバーたちも、emmyとパートナーになる前からランチタイムなどによく利用していたようです。詳しいデザインプロセスは以下でご紹介しています。

関連記事:次世代のスクーター体験、emmy

海外の事例【アジア編】

Hellobike

Hellobikeは中国の約300都市で展開しているシェアサイクルサービスで、2億人を超えるユーザーを抱えています。数年前まで中国のシェアサイクルサービスと言えば、北京や上海などの主要都市で事業を展開しているMobikeOfoでした。しかし現在、郊外や地方都市を中心にHellobikeが飛ぶ鳥を落とす勢いで浸透しています。

画像引用:https://www.facebook.com/pg/Hellobikechina/photos/?ref=page_internal

Hellobikeが他のシェアサイクル企業と異なるのは、サービス開始時から地方での展開に力を入れている点です。展開場所には海岸や山間部の観光地なども含まれ、交通手段が限られる場所に多く設置することで、多くの人から支持を得ています。

また、返却方法をユーザーに委ねている点も大きな特徴の一つです。Hellobikeは乗り捨て、停車場への返却どちらも可能で、乗り捨てた場合にはその分の手数料が余分に引き落とされる形になっています。仮に乗り捨てた場合でも、30分以内に戻って停車場に返却すればユーザーに追加料金が課されることはありません。このスタイルによって、土地勘のない観光客でも気兼ねなくサイクリングを楽しむことができるので嬉しいですね。

Drivezy

意外かもしれませんが、インドでもカーシェア、ライドシェアサービスが盛り上がりを見せています。インドの英字紙エコノミック・タイムズによると、2018年のUberとライドシェアサービスOlaの利用者数は3年で3.5倍に増えたそうです。

画像引用:https://drivezy.com/Bengaluru/

Drivezyはインドの9都市で自動車と二輪車のシェアリングサービスを提供するスタートアップです。2015年の創業時は自動車のみを扱い、他のカーリース業者と提携してプラットフォーム上での情報提供を行なっていましたが、2016年にP2Pのカーシェアリングサービスをローンチし、二輪車も扱うようになりました。

Drivezyでは企業が所有するモビリティを利用者に提供するのではなく、個人の所有者がDrivezyの利用者に車両を貸し出すことができます。インドにもともとあったという、家族や親戚間で車両をシェアするという文化をITの力でビジネスに変え、比較的安価で提供したことがDrivezyの成功の理由かもしれません。

こちらの記事では、ここでは紹介しきれなかった東南アジアの移動サービスについてまとめていますので、より詳しく知りたい方はぜひご覧ください!

日本におけるMaaS

日本では都市部でシェアサイクルをよく見かけるようになったものの、MaaSが浸透しているとはまだ言えません。

十分な交通機関が整備されていない地方部におけるシェアリングサービスの展開に加え、最近では高齢者に免許返納を呼びかけていることによって、高齢者向けの移動サービスの需要も今後高まることが予想されます。まさにMaaSの時代がこれからやってくると言っても過言ではないのでしょうか。

その先駆けとして、トヨタや三井不動産などをはじめとする企業がMaaSに関する新たな事業を次々と発表しています。

画像引用:https://whimapp.com/

三井不動産はフィンランド発のサービスWhimのMaaS Global(以下MG社)と提携して、日本でのMaaS実用化のため実証実験を開始することを発表しました。MG社は世界で初めてMaaSサービスのプラットフォームを展開した会社で、三菱不動産はそのノウハウを活かしつつ、交通サービスのみならず、街づくりの視点から、街に暮らす人々の生活を快適にするMaaSの実用化を目指すとしています。

画像引用:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/20508200.html

トヨタは2018年にe-Palette Conceptと呼ばれる、MaaS専用の次世代モビリティを発表しました。e-Palette Conceptは箱型のモビリティで、ライドシェアリングだけでなく、内部の仕様を変えることで移動式オフィスや飲食店としても利用が可能です。このモデルが実現すれば、将来的には取引先への移動中に社内ミーティングを行なったり、個人が一日限定で飲食物の移動販売を行うことも可能になるかもしれません。

また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおいて、e-Palette Conceptと独自の運行システムによって選手や大会関係者の移動を支援することを発表しており、様々な場面での活用が期待されています。

さいごに

今回は様々なMaaSの実例をご紹介しながら、これからのMaaSの可能性についてご紹介しました。今後、MaaSの実用化に伴い、世界規模でシェアリングエコノミーがさらに大きくなっていくことが予想されます。また、ひと昔前までは夢のような話に過ぎなかった移動式オフィスや百貨店の実現も、決して遠い未来のことではなくなってきました。

令和の始まりと共にMaaS時代に突入した日本。今後、企業や自治体がどのようなサービスを展開していくのか、非常に楽しみですね。

参考記事:

https://diamond.jp/articles/-/199785
https://tokuhain.arukikata.co.jp/paris/2018/08/lime-s.html
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00019/041100040/
https://gaiax-blockchain.com/drivezy
https://36kr.jp/11510/
https://www.fnn.jp/posts/000000022_000031879/201905291350_PRT_PRT
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2019/0424/

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