Goodpatch創立から10年。この10年で「デザイン」を取り巻く状況は大きく変化しました。また、Goodpatchにおいても、組織の崩壊と成長を経験。そんな苦しい時期を乗り越え、2020年6月、国内のデザイン会社として初の上場を果たしました。
10周年を記念してGoodpatchと深い関わりのある企業との対談をお届けします。
今回は、アドウェイズの代表でありUNICORN代表を務める山田さんと、Goodpatchへの留職を経験した遠藤さん、そしてGoodpatch BX (Brand Experience) デザイナー米永、Kai QINとの対談。留職やプロジェクトを通して、会社同士の関係を築いてきたアドウェイズとGoodpatchについて、語っていただきました。
Goodpatchとアドウェイズの出会い
ーー今あるGoodpatchとアドウェイズさんの関係は、代表土屋さんとの出会いがきっかけとお聞きしました。当時の土屋さんの第一印象は?
山田さん:
出会いとしては、土屋さんが営業でアドウェイズに来たのがきっかけです。僕は当時執行役員で、「社長自ら営業しに来るのは気合い入ってるな」と感じていました。
僕は今でいうUI/UXデザインを大学で勉強していましたが、会社に入ってからもUI/UXデザインの重要性について誰からも理解されませんでした。「そんなことより売り上げを上げる方法を考えて」と言われ「使いやすさも大事だけど、とりあえず儲からなきゃ」と考えるようになり、UI/UXデザインについて押し出すことができませんでした。
そんな時土屋さんから「GoodpatchはUI/UXデザインをメインでやっている会社です」と言われ、UI/UXデザインをビジネスにできる会社が日本に存在するんだ!という衝撃を受けました。「UI/UXデザインではビジネスとして成立しない」と思っていましたから。

ーーなぜ「UI/UXデザインではビジネスとして成立しない」と思っていたのですか?
山田さん:
僕自身C向けのサービスを考えていましたが、あまりうまくいきませんでした。当時のアドウェイズはB向けのビジネスがメインだったのもあるかもしれません。
そのようなアドウェイズのビジネススタイルを鑑みると、UI/UXデザインはそこまで重要視されていませんでした。あるとしても社員が操作しやすいようにUIを作るくらいで、ビジネスのメインストリームになるような事業展開をしていませんでした。UI/UXデザインを軸に事業を進められるイメージも自信も沸いていませんでしたね。
ーー「お金にならない」というイメージを変えてくれた存在がGoodpatchや土屋さん?
山田さん:
そうですね。でも当時はGoodpatchがうまくいくかも分からなかったです。Prottを契約していたのですが、似たようなツールをAdobeが出すだろうと思いながらも、会社で使用していました。
どこまで会社として大きくなるのか分かりませんでしたが、やっていることは他になく、ニーズはあるので頑張って欲しいなという期待もありました。
ーーGoodpatchやデザインの可能性をどこに感じましたか?
山田さん:
僕もGoodpatchと同じように表層のデザインだけではだめだと感じていました。iPhoneのように、マニュアルがなくても自然に使えたり、プロダクト自体に想いが乗っている、言いたいことがストレートに伝わるプロダクトはすごく大事だとずっと感じていました。そんな使い勝手の良いプロダクトは、C向けの事業で力を発揮できるだろうなと思っています。それができる会社として選ばれるのはGoodpatch以外に思いつかなかったですね。Goodpatchは元々Gunosyのデザインに携わっていたことは知っていましたし、そういう領域では輝くのかなと。
Goodpatchに大きく影響を与えた、遠藤さんの出向
ーーデザイナー遠藤さんがGoodpatchに出向するまでの経緯を教えてください
山田さん:
経営者が集まる飲み会で、土屋さんと飲む機会があったことが出向のきっかけです。その際はGoodpatchが大変だった時期ですね。土屋さんに遠藤さんの出向のリクエストをしたのが、僕の最初の賭けでした。というのも、当時まぁまぁ仲は良かったのですが、わざわざ2人で飲みに行くまででもない関係でしたので。(笑)
遠藤さん:
まだアドウェイズ内にUI/UXデザイナーが存在していなかった時に、私からやましょーさん(山田さん)に自分の下にUI/UXデザイナーの人材を採用したいという提案を相談していました。

山田さん:
そこでGoodpatchさんに僕や遠藤さんの相談を聞いてもらえる場をセットしてもらいました。ですが遠藤さん自身がUI/UXについて理解してないと、そもそも無理だと僕自身が思っていて。その段階で遠藤さんをGoodpatchに出向させるのが唯一の方法だと感じていました。アドバイスをもらったところで身につくものではないので、Goodpatchのなかで働いてもらうのが一番早いだろうと行き着きました。
ただ「Goodpatchにそのまま行っちゃうんじゃないのか」などの不安点も社内で挙がりましたね。とはいえそんなことは言ってられないので、土屋さんに飲み会の場で出向をお願いしたら、割とその場で即答してくれました。
ーー当時のGoodpatchはまだ内部が大変な時期でしたが、不安や期待、率直な想いを教えてください
山田さん:
そんなにGoodpatchの問題は気にしていませんでした。Goodpatchで起きている問題は人の問題、アドウェイズは人の問題をどうにかしてきたので、逆にGoodpatchの環境だったらうまく行くかもしれないと思っていました。僕らのようなイーブンマネジメントができる人がUI/UXデザインを勉強するのは、噛み合わせ自体悪くないとも考えていました。
ーー何を期待して遠藤さんは「出向」をしていたのですか?
遠藤さん:
プロダクトを作り上げる一気通貫したUI/UXデザインのフローが漠然とありました。出向してみて分かったのは、UI/UXデザインを学ばなくていいなということに気づけました。Goodpatchの強みは表層よりももっと手前のところでした。
山田さん:
Goodpatchとアドウェイズのスキルシェアも結果的にできていましたが、当時はなったらいいなぐらいの気持ちでした。遠藤さんが成長し、会社に実りがあるならそこにチャレンジしてみようというラフさで出向を捉えていました。
米永:
最初は遠藤さんに対し、社外の人という認識がありました。ですが当時、組織崩壊直後で内部のメンバーが声をあげにくい環境の中、目的意識がある遠藤さんが自発的に行動してくれたおかげでGoodpatchのメンバーは刺激をもらえました。
遠藤さんはプロジェクト内で、「いかにクライアントに価値提供できるか」を俯瞰的に見て足りないポジションを埋めてくれる役割でした。専門的なスキルが強い人も多いですが、遠藤さんはそうではないデザイナーの活躍の仕方をしていた印象です。
山田さん:
毎週頻繁に遠藤さんから活動報告などを聞いていました。楽しそうに仕事をしたり、吸収していく様子を聞いて、僕は基本的にガンガンやっちゃえと応援していました。
ーー他メンバーとの関わりはどうでしたか?
遠藤さん:
アドウェイズのマネージャーとの交流会もやりました。また、Goodpatchとアドウェイズの良い人たち同士を掛け合わせたいと思い、Goodpatchの若手とアドウェイズの若手で勉強会を設定してみたりもしていました。
米永:
Goodpatchは社内でそういった交流は活発ですが、社外の人との交流はあまりないのでその分刺激になりました。業界が違うとデザインの捉え方も変わってくるので、それぞれの会社のデザインの接点がどこか探るのが面白かったです。
山田さん:
ここまでの広がりは考えていませんでした。僕に興味を持ってくれて食事をしたり、相談をしにきてくれるGoodpatchの社員さんもいました。
遠藤さん:
元々アドウェイズ内でキャンプに行くことがあったのでその流れで、プロジェクト関係なくお互いの会社4人ずつくらいでAirbnb使って旅行したりもしましたね。
山田さん:
Goodpatchのように会社単位での交流がある会社はあまりないですね。Goodpatchをきっかけに交流は増えてはいるのですが会社単位ではまだ多くないです。会社のスタンスが近くないとここまでの交流ができないと思います。
ーー遠藤さんを出向させることで生まれた双方の発見などはありますか?
山田さん:
違う環境に入ることで、社員それぞれの強みやコントラストがでるようになりましたね。僕らは自分たちへのコンプレックスが強いので「できてないな」と思うことが多いです。ですが意外とできてることもあると気づけました。
それこそマネジメントなどはアドウェイズの強みだとわかりました。意外と自分たちの良いところは蔑ろにしがちで、ダメなところばかりに目がいくものです。そういう意味で投資先への出向などでも効果があったと思います。
アドウェイズはB向けの製品ばかり開発しているのでエンジニアがあまり自信をもてないことが多々あります。ですが、投資先のC向けのサービスにアドウェイズのメンバーが入ると、活躍できる場面が多く「自分たち意外といける」と自信が持てたりします。自信があることで転職も減りますし、出向させる機会を増やせます。アドウェイズで得られない経験もできて、かつ会社へのモチベーションが上がる可能性がある、それに気づけたのはすごい大きかったです。
米永:
個人的には、Goodpatchの「留職」という意思決定が面白いと思います。あまり自分の中の価値観には「留職」はなかったので、Goodpatchの柔軟性を感じられました。
遠藤さんの他の組織に入っていく時の振る舞いや、そこでのコミュニケーション方法など勉強になりました。その姿を見て、この時代のデザイナーはそんな振る舞いができたほうが良いなと感じました。アウトプットで魅せるのも格好いいですが、そうではないやり方もとても面白そうだなと見てて感じます。
Kai:
「留職」を受け入れる文化はありだなと思いました。組織崩壊直後に遠藤さんのような明るい存在が来てくれて、全体の雰囲気がよくなりましたね。
遠藤さん:
Goodpatchは色んなところから色んな人が来ている組織です。そもそも外から来る人を拒絶することがないのは素晴らしい文化だと思いました。土屋さんのキャラクターがみんなに移っているような気がしますね。
UNICORNの本質的な理念を伝える「カルチャーデック」
ーーカルチャーデックをつくる背景
山田さん:
ビジョン・ミッション・バリューを固めたい想いがありました。社内での制作でもできなくはありませんが、折角ならと声をGoodpatchに声をかけさせて頂きました。その結果のアイデアとして「カルチャーデック」がでました。

ストーリーを辿り北極星を探す。UNICORNとGoodpatchが紡ぐ共通言語
ーーなぜその状況打破にGoodpatchを選ばれたのでしょうか?
山田さん:
僕自身言語化するの得意でしたが、内部でもビジョン・ミッションを固めることはコスパが悪いと感じていました。人が増えてきた分「UNICORN」自体がブレてきたり課題が出てきます。Goodpatchは企業のビジョン・ミッションを策定したり、インナーから支援していることを知り、僕らが大事にしているものを言語化するとなったら、ここだろうと思いお願いしました。
ーー最初の期待値はどのくらいでしたか?またどこまでやって欲しいと思っていましたか?
山田さん:
僕らが取り組もうとしている課題は、複雑でわかりにくいという自覚がありました。なのでGoodpatchさんは言葉を紡ぐなどの限定的な稼働になると思っていましたが、2・3回目あたりから僕らでも整理できていなかった事業や業界の状況の整理をしてくれました。これはすごいと印象に残っています。
ーーGoodpatchの具体的なアプローチは?
Kai:
UNICORNのコアが伝わるように、History(歴史や軌跡)、Purpose(企業や事業の存在意義)、Symbol(象徴)、Truths(真実)、Future(未来)、様々な切り口から本質を見抜いて、言語化・可視化しました。プロジェクトメンバー全員で、組織の思想、哲学、想い、文化などを話して、多角的な視点から状況を解釈するプロセスを踏みました。

山田さん:
最初は「アウトプットをサポートしてくれるといいな」という気持ちでお願いしていました。ですが成果物を見て、コストはかかるが得意なパートナーにお願いした方がいいものできるなと意識が変わりましたね。
会社をより理解してもらうために、会社で使用しているSlackに入ってもらってます。セキュリティとしてはあまりよくはありませんが、それだけGoodpatchの人を信頼しています。
ーーGoodpatchの信頼関係の変化はありましたか?
山田さん:
Goodpatchとは「相手は信じる」というスタンスが同じでした。変に相手に期待を押し付けるではなくて、何かやってくれそうと捉え、それを信じるスタンスです。会社としてのスタンスがUNICORNと噛み合っていました。なので自分たちでやらず、Goodpatchにお願いしてよかったと思います。
ーー今も全社DXのような新しいプロジェクトが動いていますよね。Goodpatchに相談しようと思った理由はなんですか?
山田さん:
Goodpatchは物理的に見えない課題を解決するのが得意な印象です。年末に土屋さん、大山さんが普通じゃない案件をやりたいと話していました。そこで「Goodpatchはこういうことをやれる範疇に入りますか」と土屋さんたちに投げてみたんです。こちらとしてもただ仕事をお願いするよりも面白い方が楽しいですよね。
僕自身、自分の仕事は面白いかどうか気にしていて、方向性も度々変えたりします。注文が多くやりにくいのではないか、どのように相談するのが良いのかなと考えたりはします。
Kai:
納品物が決まったプロジェクトもあれば、決まり事が何もないプロジェクトもあります。UNICORNとでは決まり事がないからこそ、可能性が広がります。カルチャーデックについても、形式的なフレームにはめるのではなく、UNICORNならではのストーリーを重要視して組み立てていきました。これによって、UNICORNにとって意味のある本質的なBrand Experienceを構築できたんじゃないかと思っています。
米永:
Slackや主要会議も見学させてもらってた分、とても動きやすかったです。自分の提案を翌週から社内にアナウンスして実験的に試してくれるなど、柔軟性とスピードが長けています。デザイナーからすると、本質的な話ができているのでそこまで方向性が変わること自体には不満はないです。プロジェクトマネージャーからするとヒヤヒヤするでしょうけど。(笑)
山田さん;
意見を聞いて初めて自覚できますね。UNICORNもできるだけ内部を見せるようにしています。見られることで真似されるようなものを作っていないですし、それこそ課題を開示して外部から意見を聞いています。
アドウェイズから見た「Goodpatch」
ーー改めて山田さんから見たGoodpatchの印象を教えてください。
山田さん:
最初の頃は頑張ってくれたらいいなくらいの印象でしたが、時間が経つにつれて、Goodpatchのすごさに気がつきました。僕らのできていないところができていて、むしろGoodpatchから学びを得ています。いい会社どこ?と聞かれたらGoodpatchと言えるくらいには印象が変わりました。
ーー山田さんの経営者としての立場から、Goodpatchにはどのような影響を受けていますか?またGpから得るものについて教えてください。
山田さん:
物事を構造的に理解する力や本質的な言葉を紡ぐ力、そういった本質的なデザインを大事にしたいと思っています。ですが、それらは特殊スキル的に思われています。他の役員に本質的なデザインの考えを増やすことができることは想定していませんでしたが、Goodpatchを見てそういう人は増やせると思えました。
ーー山田さんは以前のインタビューで「Gpは増幅装置」 とお答えいただきましたがより詳しく教えてください。
山田さん:
クライアントによっては、課題を我々に投げて考えて欲しいというスタンスをとるところもあります。それらに対しアドウェイズはある程度考えがまとまっています。僕らが強く思っていることをGoodpatchさんに観察してもらえれば勝手に大きくなっていく、そういう意味で増幅装置と答えていました。僕が勝手に話すことでドキュメントができているのって、結構すごいことだなと改めて思います。

山田さん:
また、カルチャーデックとは別に、「Unleash Potential」というプロジェクト・パートナーシップテーマも進めています。
僕らがビジネスで活動したりコラボレーションする上で、「今までできなかったことができるようになる」をどれだけ作れるかがとても重要だと思っています。パートナーと仕事する上でも、ただの受発注の関係ではなく、UNICORNやアドウェイズとだからこそできる仕事にしたい。という想いを、Kai君が言語化してくれたのが「Unleash Potential」です。
単純にポテンシャルを見つけるとかではなく、表に出にくいものを僕らがきっかけを作り、外に出せるようにすることを意識してやりたいと考えています。
ーーGoodpatchに求めること
山田さん:
プロジェクトベースで関わるには限界があります。半常駐のような、それ以外の関わりができたら面白そうだなと思います。長期で伴走する中でできるだけバリューを最大するアプローチができたらとても良いなと思います。
各部門へのUXデザイナーの派遣を一緒にやってみたいです。UXデザインの機能を根付かせることで、サブプロジェクトが生まれたりするでしょう。外部の人だからと言って外注だとクオリティが下がるデメリットがあるので、それなら内部に入れてしまうのも一つの手だと思います。枠があることに意味がないのかなと。納期など無駄なプレッシャーをかけることしかないです。
土屋さんとは、「上場しているふたつの会社が今後コラボレーションしていくうえで、どういう形があるのか」という話をよくしています。それは合併とか単純な形ではなく、それぞれが主張しながらバリューアップしていける方法があるんじゃないかなと。僕は「可能性」という言葉にこだわっているので、Goodpatchとなら新しいカタチが見えてくるんじゃないかなと思っています。

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