グッドパッチと北海道上川町は2023年8月23日、「未来共創パートナーシップ協定」を締結しました。

当日は東京・八重洲で両者の「パートナーシップ協定調印式」が行われ、記者会見だけでなく、トークセッションや懇親会といったイベントも合わせて開催しています。

盛況のうちにイベントは幕を閉じましたが、実は記者会見で使われたパネルをはじめとして、来場された方に上川町の魅力が伝わるよう、写真や特産品などの展示も行っており、イベント会場全体を含めた総合的なデザインも担当していました。

グッドパッチはアプリケーションなど「ソフトウェア」のデザインを手掛けるイメージが強いかもしれませんが、これまでも新入社員に贈る「内定証書」や、ふるさと納税の特産品など、アナログなモノのデザインも手掛けています。

今回の記事では、発表会イベントの会場をグッドパッチのメンバーがどのようにデザインしたのか、その裏側を紹介できればと思います。

UIデザイナーが空間をデザインするときに意識したこと

今回、会場のデザインを担当したのは、私を含む若手UIデザイナーを中心とした「コミュニケーションデザインチーム」です。普段はWebサービスなどのUIデザインを行っていますが、グッドパッチには「Go beyond(領域を超えよう)」というバリューがあり、普段の業務から外れた領域であるものの、立候補して担当することができました。

普段の業務と扱う対象が異なっても、共通する点はあるものです。私たちがUIデザインをする際は、ユーザーストーリーを想像しながらUIを作っていくのですが、それが今回の「空間のデザイン」にも生きたと考えています。

イベントの参加者、そして主催者のゴールは何なのか、そしてどんなタイミングで、どういう思いを持って見てもらえるといいか──そういったユーザーの体験を想像しながらデザインを行うことで、参加者目線に立った自然なアウトプットにできました。ここからは記者会見で活躍したモノたちの例を挙げながら、解説していきます。

1. 記者会見用のパネル

まずは、パートナーシップ協定の調印式に使用したパネルです。CEOの土屋と上川町長の佐藤様が手に取り、記念撮影を行いました。

「ずいぶんとポップなデザインだな」と思う方も多いと思いますが、カラフルかつポップなトンマナにすることで、協定を結んだ後に広がる未来のワクワク感に加え、豊富な観光資源とさまざまな個性を持つ温かい「人」がいるという、上川町ならではの魅力を伝えるという狙いがあります。

一般的なパートナーシップ協定の調印式では、互いが調印書を開いて見せる、またはそれぞれのロゴと「パートナーシップ協定調印式」という言葉が乗ったシンプルな長方形の形状のパネルが使用されることが多いです。

一方で今回の協定は、「パートナーがデザイン会社」という点が大きな特徴ですから、パッと見て、デザイン会社との協業であることが分かる方が目的に沿っています。写真がさまざまな媒体で使用されることを想定し、イラストなども組み込んだ形で全体を構成し、デザインに沿って切り抜いた形状にしました。

もう一つ、デザインのモチーフとしたのは「プラモデル」です。これから上川町とグッドパッチが共創していくということで、上川町の魅力である人や観光資源と、グッドパッチのデザインの力を合わせて組み立てていくことで、より素敵な未来を作り上げていきたい、という意味合いを込めています。

2. 人の魅力に焦点を当てた「上川町写真展」

会場後方には、トークセッションなどのイベントを目当てに来てくれた方に向け、上川町の魅力を伝えるために上川町の写真展を用意しました。

イベントに来る方たちは、上川町を訪れたことがない人がほとんどだと考えられるので、そこで住んでいる人の生活が伝わるよう、「上川町で暮らす」をテーマとして、個性的な住民および観光資源を紹介するポスターを作成しました。

それぞれのポスターは、人や観光資源の個性にちなんだ図形で切り抜き、関係するポップなイラストを散りばめることで、どのような特徴を持つ人なのか、遠くから見てもパッとわかるようにしています。

また、写真やイラストを見て興味を持ってもらった方に、その人がどんな人なのか、なぜ上川町に住んでいるのか、どんな観光資源を生み出しているのか、といった背景を伝えるためにキャッチコピーや詳細な紹介文もつけています。

カラフルな背景やイラストを使っているのは、先ほど説明したパネルと同様です。彼らの個性を表すとともに上川町が持つ多様性、そして多様性を認める受容性を表現したものになります。

今回のイベント会場は、全体的に縦長な空間だったので、奥側に会見場(兼トークセッションを聞くエリア)を配置し、手前側に写真展や上川町の特産品のエリアを配置することで、必ず通る人の目に入る、そして、気になった人はしっかりと写真展を見ることができるような配置にしたのもポイントです。

3. 上川町特産品のPOP

観光資源をアピールするという目的のもと、日本酒や天然水、はちみつといった特産品を紹介するエリアも作りました(ふるさと納税の返礼品もあります)。

とはいえ、単に商品を並べるだけでは芸がありません。今回のイベントでは、上川町の魅力が「人」であることをテーマとしているので、POPを使い、生産者の顔や声が目に入るレイアウトにしています。

商品を目立たせるためにPOPのカラーリングはグレーをメインにしている

POPには、商品の詳細を知ることができるQRコードも配置。会場の都合上、POPのサイズに制限はありましたが、イラストでQRコード自体をアピールするなど、配置にも気を遣いました。

パネル制作の裏側をちょっとだけご紹介

最後に、記者会見における制作現場の裏側とプロセスも少しだけお見せします。

1. デザインコンセプトの決定

まずはデザインのテーマに関する部分から。今回作成したパネルや写真展、POPの目的・対象者・ゴールは何なのか、どういうときにどんな風に見てもらえると良いか、という点を以下のように定義していきました。

今回設定した写真展の目的・ゴール・見られ方

そして目的(ゴール)を考えたときに、全体のトンマナについて「さまざまな尖った、かつ温かい人がたくさんいて面白い、ということが上川町の魅力であることを伝えられる」方針をまとめ、それを実現できるトンマナを目指しました。

最近では、いわゆる「地方創生」など、地方にスポットが当たる企画やイベントは多いですが、その際に想起される「地方」のイメージというのは、自然でナチュラルなものであることが多いです。しかし、上川町の魅力をその枠に当てはめてしまうのはもったいない。いわゆる地方のイメージを裏切るものを作りたい、という思いもありました。

2. パネルが出来上がるまで

この記事では、記者会見のコンセプトを最も反映した「パネル」の制作過程をご紹介しましょう。まずは先ほど定めたトンマナを基にコンセプトの案出しをしていきます。

1ターム目では、上川の海と川といったモチーフを使用したコンセプトや、人と観光資源といったモチーフのコンセプトを出していきました。

しかし、これでは単なる上川町の特徴を表すだけのパネルになってしまいます。「デザイン会社であるグッドパッチとの共創感をもっと出してほしい」というリクエストをもらい、再度案出しをすることに。

2ターム目では、グッドパッチとの共創感を出すため、「作り上げていく」というイメージが沸く、そしてグッドパッチのデザインの力を表現できるコンセプトを目指しました。

その結果、プラモデルのキットをモチーフに、上川の魅力(人、山、川)とデザインの力(カスタマージャーニーマップや虫眼鏡、豆電球、鉛筆などで表現)を組み立てて、上川町の未来を創り上げていくというコンセプトに決定しました。

ここからは、デザインをブラッシュアップするフェーズに入ります。全体の写真展やPOPとも合うようにデザインを調整。

もちろん最後は印刷の調整も行っています。印刷したときにどう見えるか、色はどうか、サイズはどうなるか、というところをシミュレーションしながら、ひたすら調整を加えていきました。

3. 完成!

ギリギリまで粘ってついに完成! イメージ通り、カラフルでポップな仕上がりになっていて一安心です。

会場入りした後は、写真展やPOPを会場に配置していきます。一定の規則性は持たせつつ、ランダムな配置に。実空間におけるモノの配置は、デジタル世界での作業とは異なり、新鮮な経験でした。

Webやアプリだけではない、「リアル」をデザインする機会も増やしたい

イベント当日は、記者会見の終了後からトークセッション、懇親会にかけて、写真展や特産品のスペースも含めて、たくさんの方に見ていただけました。

懇親会では「写真展、一つ一つ全部見ました!」「パネル可愛かったです」といったコメントも来場者の方からいただき、非常にうれしかったことを覚えています。

今回のアウトプットや作成のプロセスを振り返ると、文章を考えていただいたり、写真を調整していただいたり、FBをいただいたり、当日は設営を手伝ってもらったりと、本当にたくさんの方に助けていただいたなと改めて思いました。感謝の気持ちでいっぱいです。

UIデザイナーチームとして、今後もこういった印刷物や空間を含めたデザインにも挑戦していきたいですし、ともに新たな挑戦をする仲間も募集しています。最後まで読んでいただきありがとうございました!

デザイン担当

コンテンツ・企画デザイン:
吉本健太/米田真依

グラフィックデザイン:
コミュニケーションデザインチーム(平尾 帆野佳・栃尾 行美)/河内 愛美