デザインとビジネスを繋ぐデザインストラテジストの役割とは?

Goodpatchにおけるデザインストラテジストとは、世界レベルのプロダクトとユーザー体験を生み出す環境をつくるために、クライアントやユーザーと密接に関わりながら働く人たちです。特にデザインするプロダクトが定まっていない不明瞭な段階で、様々な戦略を駆使してデザインに取り組みます。つまり、デザインストラテジストはクライアントの組織においてさまざまなレベルの変化を起こしていくために、変革と生産の両方の役割を担うのです。

数日前にGoodpatchベルリンオフィスで最初のデザインストラテジストとして働くSamにインタビューする機会がありました。デザインストラテジストとは一体どのような職種で、なぜデザインプロセスにおいて欠かせない役割なのかを探りました。

100%デザイナーであり、100%ビジネスパーソンでもある

デザインストラテジスト

Samuel HuberはGoodpatchベルリンオフィスのデザインストラテジスト。社会学、経済学、マネジメント、デザインをチューリッヒ大学、スタンフォード、ザンクト・ガレン、東京で学ぶ。システム上の課題を解決することやイノベーションを起こすことに対する強い関心、不明瞭な状況に立ち向かう好奇心が彼に幅広い経験をもたらしてきた。自身の経験した学問分野からさまざまな職種経験を経て、現在Goodpatchでも学際的なチームでデジタル製品から日用品まで多くのデザインを手がけている。

── デザインストラテジストとはどのような職種ですか?

私はよくデザインストラテジストを翻訳者と表現しています。デザインストラテジストはビジネス用語をデザイン用語へ、デザイン用語をビジネス用語へ変換します。両方の言語を話すためには、多様なバックグラウンドを持ち、様々な角度から物事を捉える視点やマインドセットを持ち合わせた人材でなくてはなりません。

── もう少し詳細な役割について教えていただけますか?

デザインストラテジストが一番必要とされるのは、サービスのコンセプトや方向性が定まっていないプロジェクトの前段です。誰もが迷走する中で、散らばった波を整えるような役割を果たします。

例えば自動運転のような新しい技術や、ブロックチェーンのように話題になっているテーマを取り入れるときは、単なるテクノロジーとしてではなく、テクノロジーの本質的な意味合いについても理解することが重要です。後者を理解するためには、ユーザーと密接に関わりながら、彼らが取りうる行動やマーケットの変動に敏感にならなくてはなりません。

また、デザインストラテジストはコンセプトだけを描くのではなく、より本質を追求するためにアイデアを形にします。従来のストラテジストはデスクワークでのリサーチを行い、そこから可能性を導きだしていましたが、デザインストラテジストにはリサーチをするだけでなく、人の話に共感して、得られたインサイトから答えを導きだすためのアイデアを創出する力が求められているんです。

── 実際のプロジェクトにおいてはどのような役割を担うのでしょうか?

デザインストラテジストは特に”PROBLEM SPACE”と称されるデザインプロセスの最初の段階に置いて役割を発揮します。しかし決して後半のプロセスにおいて不必要だという意味ではありません。大事なのは、プロジェクトに関わる全員がオーケストラでシンフォニーを奏でるように、それぞれの奏でる音の大きさや順番は違ったとしても、最初のフェーズから最後のフェーズまで共に歩むというマインドセットをもつことです。

もう少し詳細に話すと、まずはユーザーリサーチから始まります。デザインストラテジストにとっては、ユーザーに共感することが最も重要です。そしてユーザーが話したストーリーをビジネスやデザイン、テクノロジーの専門家へわかりやすく通訳することが求められます。ユーザーのニーズはとても重要ですが、プロジェクトが進むにつれ忘れられがちです。だからチームに繰り返しリマインドすることが重要なのです。もしこの役割がうまく果たせたのなら、チームメンバーに対して向かうべき道筋を示すことができると同時に、成功へ導くことができます。私がよく行うのは、ユーザーのインサイトを要約し、煮詰めて本質的な結果に落とし込むことです。非常にたくさんの情報が存在するため、多くのノイズの中からシグナルを見つけ出し、ビジネスやデザイン、技術の領域で活用できる知識に変えていくことが極めて重要です。

もう1つ重要な役割は、考えすぎずに素早くプロトタイプを作ることです。完璧でなくても、イメージを共有しなくてはチームメンバーの考えるイメージの方向性が一致しないという問題が非常に起きやすくなります。頭の中で想い描く方向性の違いを認知するのは難しいです。プロトタイプを作ることで、初めてお互いの解釈を理解できるのです。素早くプロトタイプを作ることは「不可解な問題」に取り組むときにも大変役立ちます。不可解な問題とは、決まった答えがない問題のことです。そうした問題に対する答えを1つ考えたときは、必ず3つ以上の問いが浮かびます。不可解な問題に取り組むときにあなたが行なっているのは、未だ入ったことのない海の中に何かを投げて波を立たせることに似ています。いくつかの波は返ってくるでしょうし、返ってこないものもあるでしょう。ですが、問いを投げずにフィードバックを得ることはできないのです。

── ストラテジックデザイナーという言葉を聞いたことがあるのですが、デザインストラテジストとの違いは何なのでしょうか?

デザインストラテジスト

Goodpatchの考えるストラテジックデザイナーとデザインストラテジストの役割はとても似ています。私たちがデザインストラテジストと呼んでいるのは、彼らがクライアントと一緒に世界で戦えるプロダクトや体験を作るための環境を作るためです。ビジネスの業界では、まだまだデザインは表層的なものとして捉えられています。そのため、最初からビジネスパーソンと同じ目線で話ができ、ビジネスの課題をデザインのマインドセットやプロセスから解決していくパートナーシップを組むという前提を明確にすることが重要なのです。

── デザインストラテジストがいるプロジェクトといないプロジェクトではどのような違いがあるのでしょうか?

デザインストラテジストがいないプロジェクトで起きやすい問題はいくつかあります。よくあるのは、既存の概念が本当にあっているのか問われることなくプロジェクトが進んでしまうケースです。もう1つはその真逆で、企業が大量のリソースをリサーチに投資したにもかかわらず、得た情報を収束できずに無駄にしてしまうケースです。これはデザインプロセスのProblem SpaceからSolution Spaceへのつなぎが抜け落ちてしまった状態です。つまりデザインストラテジストの役割は、膨大な情報を有用なものへと変換してそれぞれの役職の人へと伝えることです。

── どのようにプロジェクトを成功へ導いたという確信を得ていますか?

本を読めば誰でも学べることですが、私は一番過去の経験に助けられています。私は運よくME310というスタンフォード大学のデザインシンキングコースへ通うことができ、そこでデザインの厳格さを経験しました。私のチームはターゲットユーザーを狭め過ぎたばかりに、他のチームに比べて遅れをとっていました。この経験から、ほとんどのプロジェクトには突然光が暗闇にささるようなブレークスルーと呼ばれるタイミングがあることを学びました。つまり何が言いたいかというと、自ら困難なプロジェクトに身を置き試行錯誤する経験をせずに自信は得られないということです。その経験が失敗に終わったとしても、上手くいかなかった物事をポジティブに捉えて、振り返る時間をもつことが自分自身の確信へとつながるのです。

── Goodpatchの最初のデザインストラテジストとして、どのようにチームを拡大してきましたか?

デザインストラテジスト

確かにGoodpatchのチームは私が作りましたが、他の会社にもデザインストラテジストや似たような職種はあります。アイデアは既存のものを如何に融合するかという好奇心から生まれるものです。自分の経験した過去のプロジェクトやキャリアからもたくさんアイデアを得ましたね。デザインストラテジストという職種はまだまだ変化の段階にありますが、Goodpatchでデザインストラテジストが重視されはじめてきて、たくさんの人が興味を持っていることは非常に嬉しいことです。

私たちは多様な学歴やバックグラウンドをもつ人材をオープンに受け入れています。オープンであることが採用プロセスを難しくもしていますが、労力を費やす価値のある部分だと感じています。デザインストラテジストとして働く人は、複雑なバックグラウンドの人が多いです。デザインマネジメントや機械工学の知識ももちながら、一般企業やスタートアップでキャリアを積む人もいます。いつか心理学者を採用したい気持ちもあります。

── どのようにデザインストラテジストになる人材を見つけていますか?

私は新しい人と出会うことに対してとてもオープンです。仕事とは全く関係のないイベントやコンサートで出会った人たちと、話しているうちにとても良い議論相手であることに気がつくこともあります。他にもリファラーで採用することもあります。また、採用情報を見て応募したという熱意や共感を示してくれる人も歓迎しています。インタビューでインスピレーションを得たときは嬉しい気持ちになりますね。もちろん東京オフィスへ来て、多くの人と話をできたこともとても刺激になりました。ここでもデザインストラテジストにふさわしいマインドセットをもつ人たちに出会うことができました。

── どのような人材を採用したいと思うのでしょうか?

好奇心のある、ポジティブなチームプレイヤーですね。自分よりも役割に適したメンバーが周りにいれば、躊躇なく仕事を任せることができる人。多様なバックグラウンドを持ち合わせていることも大切です。どのようなプロダクトをつくるのかだけではなく、もっと大きな理想を掲げてほしい。社会やエコシステムに影響を与えられるような。

── デザインストラテジストになりたい人へおすすめする学び方などはありますか?

デザインストラテジスト

曖昧さに対処しなければならない状況でも落ち着いていられる方法を学ぶこと。私たちはいつも自分たちのことを100%デザイナーであり、100%ビジネスパーソンであり、足して200%であると説明しています。これはとても重要なマインドセットです。両方になることは可能なんです。どちらの視点から始めたとしても、学んだことのない職種に対してオープンになることは非常に大事です。まだ見ぬ世界へ視野を広げることも重要ですね。

いくつか紹介できる本があります。1つはMintzberg et al.によるStrategic Safariというストラテジーに対するさまざまな見解が述べられている本。もう1つはVergantiによるDesign-Driven Innovationです。この一冊はユーザー中心なプロダクトやサービス設計において、クリティカルなスタンスをもつことについて書かれています。最後にChange by Designという古典的なデザイン本をおすすめしたいです。本書は組織の視点からデザイン思考について書かれた一冊です。プロダクトをどのように作るかだけでなく、どのようにユーザー中心なプロダクトを作れる組織へと導くからという視点が学べる貴重な一冊です。


ベルリンオフィスから来日したSamには、デザインストラテジストという職種だけではなく、どのように人間中心なプロダクトをデザインするのかという部分を多く学び、深いインスピレーションを受けました。今年は国とカルチャーを超えたナレッジ交換により力をいれていきたいと思います。

本記事の原文はこちらをご覧ください。

Goodpatch Berlinの代表Borisに聞いた、ベルリンでの自由な働き方

ABOUTこの記事をかいた人

keika

'94年生まれ。中国と日本のハーフで、1歳から18歳までを中国・上海で過ごす。2016年にロンドンで写真・デザインを学ぶ。グッドパッチが注力しているFintechと、国外のデザイン組織情報を中心に発信。
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