
昨今では、日本でもデザイナーへの需要が高まり、その専門領域は拡張の一途を辿っています。
例えば、ユーザーとプロダクトやサービスとの間をより良い設計で繋ぐ“UIデザイナー”。プロダクトの表層を作り、ユーザーに感動を与える“ビジュアルデザイナー”。
皆さんの中には、
- 「UIデザイナーになりたいけど実際のキャリアパスがわからない」
- 「Webデザイナーからビジュアルデザイナーになれるの?」
といった疑問を持っている方は少なからずいると思います。
そこで今回は、A.C.O.さんをお迎えした“A.C.O.×Goodpatch Designer’s Meetup”のイベントレポートをお届けします!
目次
A.C.O. | 「好きを、ふやそう」を掲げるデザイン会社
トップバッターの株式会社A.C.O.さんのデザインマネージャー兼UIデザイナーである石井さんからは、会社の概要とデザイナーのキャリアパス、その専門性についてお話しいただきました。

石井さん:
株式会社A.C.O.は「好きを、ふやそう」を掲げるデザインコンサルティングファームであり、“Love to think”、“Be brave”、“Be together”、“Find your superpower”、“Hello world”、“Take a chance”の6つの行動指標を大切にしてUIデザインやUXデザイン、ブランド開発を中心に行っています。
デザインファームの自社ブランディングレポート Vol.1 バリュー(行動指針)策定編 | ACO Journal
A.C.O.では、ナレッジの共有やプロジェクトの管理、社内の業務などをNotionでまとめ、ルールを決めることで新入社員のオンボーディングにも役立てています。また、業務に関する連絡やチャットはSlackで行い、海外に在籍するメンバーとも積極的に連絡をとっていますね。
さらに、カルチャーとしては、『A.C.O. JAM』という社内イベントを2ヶ月に1度実施。新型コロナウイルスの影響もありフルオンライン開催になってしまいましたが、「プロジェクトが違う人が何やってるかわからない」といった悩みを払拭するような情報共有や業績報告を行っています。
また、オウンドメディアやPodcastでの情報発信もA.C.O.のカルチャーであると思います。
主な取引先はサービス業や通信業なのですが、小売業や銀行などの多岐に渡り、to Bやto C関係なくお付き合いさせていただいています。
プロジェクトの事例としては、株式会社ほぼ日様の「ほぼ日の學校」が挙げられます。
ほぼ日の學校とは、「2歳から200歳までの」をコンセプトに、映像と言葉を用いて「絵本」のようなUIで様々な人の経験や感動、知恵などを学ぶことができる新しいサービスです。
このサービスの制作の特徴としては、UXデザインとUIデザインの垣根を作らず、ほぼ日様と、プロダクト開発事業とデジタルコンサルティング事業を行う株式会社モンスター・ラボ、A.C.O.の3社のメンバーが全員プロトタイピングを行ったことが挙げられると思います。

その中で、3社のメンバー全員がデザインの案を確認できるようデザインツールを共有し、大量のトップページのデザインから1ピクセル単位までのディテールの徹底的な検証をしながら、作っては壊してを繰り返してサービスを立ち上げました。
十人十色のキャリアパス
現在、A.C.O.では様々なバックグラウンドを持つ人材が活躍しています。
ここでは、実際にA.C.O.で働いているメンバー3人の多様なキャリアパスを紹介し、その後、私自身のキャリアを紹介したいと思います。
川北さん(General manager / UX Designer / Information Architect)

川北奈津さんは、学生時代にIAMAS(情報芸術大学院)での制作活動を経て広告制作会社に入社。
その後A.C.O.に入りました。入社してからはエスノグラフィ調査と出会い、人を調査することによって顕在化する新たな発見に面白さを感じ、今では自身が設立したUXデザインと情報設計の専門チームであるUX/IA部を成長させています。クライアントワークでは、UXデザインのリードやプロジェクトを引っ張っています。
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小林拓也さん(UI Designer)

小林拓也さんは、学生の頃は社会学を専攻していたのでデザインとの接点はなかったのですが、アメリカ大使館報道室のインターンシップを経てWOW incにアシスタントプロデューサーとして入社。
そこでデザインに興味を持ちA.C.O.に転職しました。現在では、国内外のデザイン制作やブランド開発プロジェクトを推進しています。
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沖山直子さん(General manager / Art Director)

沖山直子さんは、幼少期からデザインに興味をもっており、学生時代に所属していた桑沢デザイン研究所ではタイポグラフィを、予備校ではアートやデザインを学んでいました。
その後はアシスタントとしてデザインの事務所に入り、空間のサイングラフィックなどに従事し、A.C.O.に転職。現在はジェネラルマネージャー兼アートディレクターを務めています。
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建築設計からUIデザイナー
私は、大学・大学院の6年間で建築デザインを学び、卒業後は建築設計の会社に1年ほど務め、その後はA.C.O.にWebデザイナーとしてジョインしました。現在はUIデザイナーのかたわらデザインマネージャーを務めています。
未経験からUI、Webデザインの業界に転身したという経験があることから、必要だったスキルや知識などが気になると思うのですが、私はA.C.O.に転職する前から建築設計をしていたということもあり、デザイン全般のスキルやPhotoshopの使用経験は持ってました。しかし、WebデザインやUIデザイン、プログラミングの知識やスキルに乏しかったため1ヶ月ほど独学をし、A.C.O.に入社した後も継続しています。
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“UIデザイン×マネジメント”を中心とした組織デザイン

そんな私は、今年からプレイングマネージャーとしてクライアントワークを約6割、マネジメントを約2割、その他の業務を約2割の割合で行っています。
クライアントワークとしては、①お問い合わせを頂いたところからのヒヤリングや見積もりなどの営業活動、②スケジュールやリソースの管理、デザイナー同士の分担を決定するディレクション、③要件設定からワイヤーフレームまでの設計やスタイリング、トーン&マナーなどの表層的な部分などのUIデザインを担当しています。
マネジメンとしては、単にチームを見るだけというわけではなく、2週間に1度の1on1ミーティングの実施、プロジェクトのアサイン調整などをして8人のデザインチームの管理。会社全体でのナレッジの蓄積や業務プロセスの改善を行うなど組織デザインを行っています。
Goodpatch | “パートナー”として協働するデザイン会社
Goodpatchのマネージャー兼リードデザイナー山木からは、自身のデザイナーキャリアの変遷や、納品契約と準委任契約それぞれのメリットとデメリット、そしてGoodpatchでのキャリアパスの一例についてお話しました。

山木:
Goodpatchは「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させるを」をビジョンに、「デザインの力を証明する」をミッションに掲げるグローバルデザインカンパニーです。
特徴としては、プロジェクトなどを「受注」するのではなく、デザインの「パートナー」としてクライアント様と共創するという形態をとり、プロダクトやサービスのビジョンとコンセプトを共同で策定します。これにより、スピーディーなプロトタイピングが実現しサービスを作り上げることが可能になっていると感じますね。
さらに、コミットメント量の高さと強さも特徴と言えます。Goodpatchではクライアント様の文化や知識のインストールを各メンバーが行った上で共創しています。
作れる“デザイナー”からコミットできる“デザイナー”へ
山木拓実(Design Lead)

私のキャリアパスとしては、2000年から2009年頃はWeb広告やイラストを広告代理店やフリーランスで作成していました。この頃は、クライアント様の要望に忠実に作ることに注力し、デザイン業務を行っていましたね。
2009年から2018年にかけて2Dデザイナーとして株式会社コロプラに入社。この時期は見たことないスゴイものを作ってくれという期待が強く、自分はやれることはなんでもやった時期だと感じます。例えば、
- 新規ゲームタイトルの開発・運用
- 新しい表現や技術を求めたディレクション
- それを表現するための採用
など多岐にわたります。
また、入社当初は20人くらいの小さなゲーム会社でしたが、退社する頃には上場、1000人を超える規模にまで成長する過程を経験しました。
2018年に株式会社コロプラを退社した後は、DRONE FUND株式会社のドローン前提社会プロジェクトというところでコンセプトアートやビジュアルの制作を副業フリーランスとして参画しています。
ドローン前提社会プロジェクトでは、頭の中にある言葉だけのビジョンを形にするということを行っています。例えば、ドローンが法整備されて世の中で運用されているという未来は、10人に言葉で説明すると10通りの解釈が生まれると思います。そこで私が、ドローンが将来的に普及すると、このように生活が便利になるといったことを表すようなキャッチーなイラストをドローンの有職者やサービスを制作している方々に話を伺いながら描いています。

そして、2018年から現在にかけてGoodpatchでリードデザイナー・マネージャーとして徹底的なコミットをして、正しさとロジックのあるデザインを進めています。
デザイナーであり続けるため、グッドパッチを選んだ。ものづくりを通して拡張する「デザイン」に真摯なチーム|Goodpatch Blog グッドパッチブログ
Mさん(UI Designer)
Mさんは、新卒で入った制作会社からキャリアをスタートし、Webサイトやアプリの制作に携わりました。しかし、8年間業務を続けた頃にコンフォートゾーンに入ってしまったと感じます。そこで、さらにクライアントやユーザーに寄り添った本質的なデザインに関わりたいと考えて転職を決意して、Goodpatchに入社したという経緯があります。
作れる“デザイナー”からコミットできる“デザイナー”へ
前職:アウトプットに契約

Mさんの制作会社で勤めていた頃の働き方はこのような図で表すことができ、常時3案件が並行して進んでいることがわかります。星が示すのはアウトプットの量であり、これらの案件をクライアントの方と社員を繋ぐ窓口担当を通じて、Mさんが作るアウトプットに契約するという納品契約の形で働いていました。
納品契約のメリットとしては、
- アウトプット量が多いので技術力が著しく上がる
- 窓口と制作が分かれているので担当領域が明確になり、専門の業務に集中することができる
- 案件数が多いため、幅広い案件に対応できる表現力が身に付く
といったことが挙げられます。
しかし、デメリットとしては、
- アウトプットへの契約なので残業が多くなりやすい
- 窓口担当とクライアント様が話し合ったものを作るので、本当にユーザーのためになっているかが不明瞭である
- 制作が専門になるため、部門を横断しての挑戦しにくい
などが挙げられます。
現職:デザイナーと契約

一方、Goodpatchにジョインしてからは、アウトプットはもちろん、デザイナー自身のコミットの量への期待にも契約していただく準委任契約の形で働いています。
準委任契約のメリットとしては、
- 「何が本当に必要か」ということを考える時間を多く確保でき、1案件に深くコミットできる
- 窓口担当ではなくデザイナー自身がクライアント様と話し合うので、ダイレクトに課題解決をすることができる
- 1ヶ月や3ヶ月間フルコミットする中で、クライアント様の状況や業種をインプットするためビジネスとデザインへの理解力が高くなる
といったことが挙げられます。
一方、デメリットとしては、
- 1人1案件なのでアウトプットの量は少なくなってしまい、表現における技術的な成長が緩やになる
- 窓口や交渉など、できることは越境して自分で取り組むことが必要である
などが挙げられます。
“アウトプットと人に契約”、目指すべきデザイナーとは

このようにMさんが以前まで勤めていた納品契約の形を取る会社と準委任契約の形を取るGoodpatchではメリットやデメリットがありますが、Mさん自身やることができるようになったこと、やらなければいけないことが格段に増えました。
そこで、私が結論として言いたいことは、表現できるスキルなどを身につけることができたデザイナーは、次に、アウトプットだけに契約してもらうのではなく、自身にも契約してもらえるようなデザイナーになるというキャリアパスを踏むべきだということです。
“即効性”と“遅効性”、デザインが与える2つの感情

私は、デザインを施すことによって、見た瞬間湧いてくる「即効性」の感情と遅れて湧いてくる「遅効性」の2つの感情があると思います。
具体的には、即効性の感情はイラストや映像、写真などのビジュアルデザインと非常に相性が良く、遅効性は、UIデザインやUXデザインで導き出したユーザーストーリーの中でどのような感情の曲線を描くかや、ブランディングで描いたストーリーととても相性が良い。そして、この遅効性の感情はGoodpatchの強みでもあると考えます。
しかし、即効性の感情と遅効性の感情、どちらの方が重要だというわけではなく、即効性で見た瞬間の感情を引き出して、サービスを使うきっかけを作った上で、遅効性の感情にパスを運ばなければ、いくらきちんと作られたサービスやプロダクトであっても使用してもらえないといったような機会損失が起きてしまうかもしれません。
ですから、私はロジックとエモーション、どちらも大切にできるデザイナーは強いと思います。
Q&Aセッション
ーA.C.O.やグッドパッチでは、UIデザイナーがUXデザイナーの仕事をすることはありますか?
石井さん:
UIデザイナーとUXデザイナーの仕事の分担は結構会社によって定義が異なると思ってるのですが、A.C.O.では厳密に定義をしていなくて、自分がUIデザイナーだと思ったらUIデザイナー、UXデザイナーだと思ったらUXデザイナーのように本人に任せています。
ですから、UIデザイナーがUXデザイナーの仕事をすることはあります。
山木:
全然あります!
「私はUIデザイナーだからUXデザインに関わりません」というふうに断言してしまうとUXデザイナーが決めたことをただUIデザイナーが作らなければいけないという状況が発生してしまいますよね。
ですから、準委任契約で1人1人が契約をしていただいている以上、納得のいくUIデザインを作るためにUXデザインのプロセスを手伝うことが重要です。
ーデザイナーからリーダーにステップアップされた中でどのような経験をされましたか?
石井さん:
経験をしたからリーダーとして任されたというよりは、以前から興味がありリーダーになりたいと相談していたからリーダーにステップアップすることができました。
準委任契約の性質上、1つの案件のスパンが長くなってしまい、1年で関われるプロジェクトが少なくなりがちです。そこで、「自分1人がどれだけデザインできても社会に与えるインパクトは限られている」と思い、自分だけではなくて会社全体でそれを実現したいと考え、リーダーになることを決意しました。
山木:
私は、マネージャーになる前提で入社させてもらったので、1〜2案件ほどにアサインした後すぐにリードマネージャーになりました。
その中で、プレイヤーとしてチームとともに仕事をしてからマネージャーになるべきだったと考えます。というのも、「この人はこれくらいの物を作ることができる」ということをメンバーに理解させてマネジメントをする方がデザイナーの技術職にとってはメンバーからの納得感が高いと感じたからです。
ーWebデザイナーが、UIデザイナーやUXデザイナーになりたくて転職する際、どのようなことを転職希望者に求めますか?
石井さん:
まず初めに今Webデザイナーとして活躍されているのであればそのポートフォリオを拝見し、デザインのレベルやクオリティを見ます。その上で、UIデザインやUXデザインのを勉強しているか。また、入社した後も勉強を自ら継続できるかを見ています。
さらに、クライアント様やメンバーとプロジェクトを進める上でコミュニケーション能力は必要不可欠なのでその能力を重視しています。
ー石井さん自身がこれから独学でUIデザインやUXデザインを学ぶしたら、具体的にどのように勉強しますか?
石井さん:
これから学ぶのであれば、まずはひたすら既存のデザインのトレースや自分でプロダクトのデザインをすると思います。その中で表層的なぱっと見の綺麗なデザインは出来て当然だと思うんですね。そのため、作るだけではなくアプリなどの全体の体験というものを勉強すると思います。
ー山木さんはどの様なことをUIデザイナーやUXデザイナーに求めますか?
山木:
UIデザインとUXデザインって正しさや納得感を作れるかどうか重要だと思います。ですから、転職希望者の方々に求めるものがあるとしたらUIの正解とUXのプロセスを知っているかどうかを求めます。
ー最後に、お二人はデザインをどの様に定義していますか?
石井さん:
僕の個人的な定義でいうと、説明しなくても良いという状態に運ぶことだと思います。例えば、階段は「ここを登ってください」と言わなくても登れますよね。この様な状態を目指して道具を作ることがデザインだと考えています。
山木:
“design”って、“de”と“sign”の2つ言葉に分けることができ、直訳すると「否定する記号」という意味になると思うんですね。これは、既存の常識や目の前にあるものに対して、デザイナーが持っているバックボーンやスキルを用いてどの様に否定するかという解釈をすることができる。私はデザインをその様に定義しています。
さいごに
現在Goodpatchでは、即効性の感情を提供できるビジュアルデザイナー、UIデザイナーを募集しています。「ビジュアルデザインチームで活躍したい!」、「デザイナーとしてクライアントと契約してデザインのしごをしたい!」と思う方は奮ってご応募ください!