デジタル広告の進化が著しい昨今、テレビCMは、大きなリーチ力がある一方で、発注から放送までのプロセスの複雑さや運用のしにくさなど、さまざまな課題に直面しています。
「テレビCMをデジタル広告のように手軽で自由に活用できるようにしたい」。そんな思いから誕生したのが、日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)のサービス「スグリー」です。
業界の常識を変えたスグリーは、2025年のグッドデザイン賞を受賞。同サービスの企画、開発にはグッドパッチのフルリモートデザインチーム「Goodpatch Anywhere」が伴走支援しています。今回はスグリーの開発を進めたプロジェクトメンバーにインタビュー。
<話し手>
日本テレビ 営業局 営業戦略センター アドリーチマックス部 柳田さん
日本テレビ DX推進局 ICTエンジニアリング部 山浦さん
日本テレビ DX推進局 豊田さん
Goodpatch Anywhere QM/PM 須貝
Goodpatch Anywhere リードエンジニア 大畠
Goodpatch Anywhere UIデザイナー 木山
Goodpatch Anywhere PM/UIデザイナー 中島
「将来の危機」を見据えた若手有志の挑戦
——今回はグッドデザイン賞受賞おめでとうございます。まず、プロジェクトが立ち上がった背景からお聞かせください。
日本テレビ 山浦さん:
スグリー自体は、デジタル広告の伸長など市場環境の変化を受けて、テレビ局の若手有志が集まって「次の一手を打てないか」と話し合ったことから始まりました。配信におけるアドテクを地上波にどう持ち込めるか。そのアイデアがこのプロジェクトにつながっています。
日本テレビ 柳田さん:
デジタル広告と比較すると、テレビ広告は強いリーチ力がある一方で、発注から放送、レポート確認まで一定のリードタイムが必要でした。広告市場の伸長において、デジタル運用型広告が大きく牽引している一方、テレビの成長率はほぼ横ばいでした。広告主のニーズが多様化する中で、よりスピーディで柔軟な運用ができる手法への関心が高まっていました。
日本テレビ 豊田さん:
私はTVerなど配信側のシステムを担当してから放送側に来たのですが、最初はリードタイムの長さに驚きました。配信側では当たり前だった運用性が、地上波ではまだ実現できていなかった。そのギャップを埋めることが、このプロジェクトの意義だと感じています。
——とはいえ、当時は広告枠が埋まっていたとも伺いました。
日本テレビ 柳田さん:
そうなんです。スポット枠の需要が高く、CM在庫は2カ月以上先まで完売している状況でした。だからこそ「今このタイミングで新しいテレビCMの取引ができるサービスを開発する必要があるのか」という声も社内にはありました。ただ、プロジェクト内では将来を見据えて取り組むべき課題を認識し、粘り強く企画提案を行い、仲間を増やしながらここまで推進してきました。

厳しいリサーチ結果から生まれた覚悟
——グッドパッチが参画した初期、ターゲット設定はどのように進めたのでしょうか。
Goodpatch 須貝:
当初は大規模広告代理店と中小広告代理店の両方をターゲットとして想定していました。ただ、インタビューを重ねる中で「このサービスは現状では必要ないかもしれない」という結果が出てきたんです。
——それは厳しい結果ですね。
Goodpatch 須貝:
正直、悩みました。言われたことをやるだけならできる。でも、うまくいかない可能性があるなら、早めに決断を促すのも私たちの仕事ではないかと。そこで、調査結果を正直にお伝えしたんです。
日本テレビ 山浦さん:
そのとき、当時のPOから「このまま、現状のやり方を続けていては、どんどんテレビ広告市場が縮小していく。今は「ニーズがない」という状況かもしれないが、信じてついてきてくれ」という言葉があったんです。
Goodpatch 大畠:
実は当時、グッドパッチ内でも意見が割れていました。僕はこの取り組み自体に価値があると思っていた。ブランディングとしても意味がある、と。ただ、デリバリーの時期や市場の反応を考えると、慎重な意見もあった。そこをていねいにすり合わせ、全員で「やろう」という方向に向かいました。
Goodpatch 須貝:
あのとき衝突を恐れなくてよかったと思っています。お互い正直にぶつかり合ったことで、大きな舵を切る覚悟が生まれた。
Goodpatch 大畠:
面白いのは、当時「日本テレビ単独ではニーズがなくて厳しい」という評価だったのが、リリース後に他局の広告枠も買える共通プラットフォーム化の流れが生まれたこと。日本テレビさんは当時からこの未来が見えていたのかもしれません。

UI/UXへのこだわり 「迷わせない」を貫く
——UI/UXの設計で、特に意識した点を教えてください。
日本テレビ 山浦さん:
私は中途入社で放送のことを何も知らない状態からこのプロジェクトに入りました。正直、なんて複雑な商流なんだと感じた。だからこそ、初めて見た人にも親しみを持てるサービスにしたいと思っていました。
日本テレビ 柳田さん:
今までテレビCMを活用いただいている方だけでなく、新しい広告主や広告会社の方にも使っていただきたい。そのためには専門用語を排除して、シンプルにする必要がありました。一方で、既存のお客さまから「こんな機能がほしい」「こんな機能もあると嬉しい」と多くのリクエストをいただきます。
しかし、限られた工数の中で開発を行うので、本当に必要な機能なのか、プロジェクトのビジョンと方向性が合う開発なのかを常に考えながら、エンハンス案件のプライオリティ、および要件を定めています。
Goodpatch 木山:
スグリーという名前自体が柔らかいので、UIもその世界観に合わせています。テレビ広告は「難しそう」「面倒くさそう」という心理的ハードルがある。それを下げるために、専門知識がなくても「次に何をすればいいか」に迷わないよう設計しました。
Goodpatch 須貝:
参考にしたのはGoogleアドマネージャーでしたが、それよりも優しい色遣いで、ビジネス的になりすぎないようにしています。将来さまざまな広がりを見せるサービスになることを見据え、より開かれた印象を目指しました。
Goodpatch 木山:
このプロジェクトは3、4年ほど続いていますが、途中でリサーチ結果が厳しく出たときも、日本テレビ側が「それでもやっていこう」と推進してくれた。あの瞬間は印象的でしたし、結果的に今はいい方向に進んでいます。最初から完ぺきなデザインを目指すのではなく、段階的に改善していくアプローチを取れたことも、そうした信頼関係があったからだと思います。
Goodpatch 大畠:
BtoBアプリケーション的になりすぎないよう、どうフレンドリーさを表現するかは常に意識していました。フローが複雑な分、どうしても難しいポイントは出てしまう。その緩和策として、デザインを柔らかい方向に持っていったんです。
Goodpatch 中島:
今後の課題として感じているのは「分かりやすさ」の設計です。専門家にとっての分かりやすさと、初心者にとっての分かりやすさは異なります。機能ごとに「これはプロ向け」「これは広く使う機能」と力の入れ方を変えるための議論は、今も続いています。

グッドデザイン賞受賞 そして次のステージへ
——2025年3月のリリース後、ユーザーからの反響はいかがですか。
日本テレビ 柳田さん:
リリースから3カ月で約400社、約2000アカウントの申し込みをいただきました。スピード感があり、柔軟に運用できる点を評価いただいており、「明日からテレビCMを打ちたい」と前日発注されるケースもありました。
放送15分後に速報実績を確認できる点や、広告主と広告会社が同じレポート画面を見られる点も好評いただいています。一方でプラットフォームとしては、まだまだ利用社数は少なく、機能としても足りない部分も見えてきているので、もっと多くの方々に利用していただけるように改善を続けていきたいです。
Goodpatch 中島:
展示会などに参加すると、これまでテレビ広告に興味を持っていなかった方々が興味を示してくださることもあります。実際に刺さっているなという実感があります。
——グッドデザイン賞受賞が決まったときの率直な感想をお聞かせください。
Goodpatch 須貝:
商流を変革するサービスですから、社会的なインパクトを出し続けられるという確信はありました。それが形として認められたのはうれしいですね。
Goodpatch 大畠:
正直、応募したときは実感がなかったんです。開発でバタバタしていたので。でも振り返ってみると、商流のゲームチェンジができているわけですから、納得の結果だと感じています。
日本テレビ 山浦さん:
まさか取れるとは思っていなかったので、純粋にうれしかったですね。
日本テレビ 柳田さん:
長い時間をかけてこだわったUI/UXを評価していただけたこと、そしてリードタイムの改善やオンライン化といった取り組み自体を審査員コメントで評価いただけたこと。見た目だけでなく、プロジェクト全体への評価をいただけたのは非常に価値があると思っています。
——今後の展望をお聞かせください。
日本テレビ 山浦さん:
日本テレビだけでなく、日本国内を巻き込むプロダクトになっていけばいいなと思っています。現在は、日本テレビ以外の放送局のCM在庫を扱えるようなプラットフォーム開発を進めています。
日本テレビ 豊田さん:
日本テレビ系列局だけでなく他系列局も巻き込んで、日本のテレビ業界全体を動かしていきたい。グッドパッチさんの特徴は「妥協しない」ところだと感じています。新機能のリリース要望がある中でも、デザインが決まるまでていねいに考え抜いてくれる。拡大フェーズでも、その姿勢を大切にしていきたいです。

Goodpatch 須貝:
スグリーはこれからも広がり続けるサービスだと思います。その変化に応じて、どういうユーザーにどう届けるのかを、日本テレビの皆さんと一緒に追求していきたいですね。
