広告費用対効果は10倍。定量成果にも繋がった「DMM.make 3Dプリント」プロジェクトの裏側
合同会社DMM.com(以下、DMM)は国内でも有数のエンターテイメント企業として知られていますが、規模の大小やジャンルに関係なく、ハードウエア、テクノロジー、社会課題など、さまざまな領域にサービスを提供していることをご存じでしょうか(参考:https://dmm-corp.com/business/focus/)。
同社では「DMM.make 3Dプリント」と呼ばれる3Dプリントトータルプラットフォームを提供しています。これまでも一般ユーザーが手軽に3Dプリントを利用できるサービスとして運営されていましたが、システムの老朽化に伴い、リブランディング・リニューアルを検討していました。そこでパートナーに選ばれたのが、Goodpatchのフルリモートデザインチームである「Goodpatch Anywhere」です。
今回は、DMMの皆さまがGoodpatch Anywhereに依頼に至った背景をはじめ、実際にどれだけの成果が生まれたのかを当時のプロジェクトメンバーにお伺いしました。
話し手:
合同会社DMM.com 3Dプリント事業部 事業責任者・プロダクトオーナー 梅田さん
合同会社DMM.com 3Dプリント事業部 エンジニア 菊池さん
合同会社DMM.com 3Dプリント事業部 開発ディレクター 山崎さん
Goodpatch Anywhere 生駒
Goodpatch Anywhere 濱田
目次
決め手はレスポンスの早さとコミュニケーションの円滑さ。3Dプリントの知識と興味も後押しに
——始めに「DMM.make 3Dプリント」の事業内容について、簡単に教えてください。
DMM 梅田さん:
「DMM.make 3Dプリント」では、主に2つの事業に取り組んでいます。1つは、3Dプリントの受託造形サービスです。「早い・安い・高品質・24時間365日発注可能」が特徴のサービスで、データのアップロードから約1分で価格が分かり、最短で翌日の出荷が可能です。国内最大規模のユーザー利用数を誇ります。
もう1つは「クリエイターズマーケット」です。3Dモデルデータを作成したクリエイターと、データから3Dプリントされた商品を購入したいお客さまをつなぐマーケットプレイスを運営しています。
——今回は、ユーザーとより一層のコミュニケーションを図るため、 3Dプリントサービスのリブランディング・リニューアル時のUI/UXデザインをGoodpatchにご相談いただいたと聞いています。当時抱えていた課題や、相談に至った経緯などを教えていただけますか?
DMM 梅田さん:
デザインパートナーを探し始めたのは、老朽化するシステムのリニューアルを決めた2021年12月です。私は2021年4月に3Dプリント事業部の事業責任者に就任し、パーパス・ミッション・バリュー(以下、PMV)の設定や求める顧客像の定義などを進めていました。その後に取り組んだのは、Webサイトのリブランディングです。
内製化ももちろん視野には入れていましたが、3Dプリントサービスを通し、世の中とコミュニケーションを図る目的を最大化するため、今回はデザインコミュニケーションを専業とするパートナー企業を探すことにしました。
——Goodpatch Anywhereへの依頼の決め手は何でしたか?
DMM 梅田さん:
レスポンスの早さとコミュニケーションの円滑さです。他社も検討していましたが、レスポンスのタイミングが心地よく、コミュニケーション面も1番スムーズだったのがGoodpatch Anywhereでした。問い合わせへのレスポンスも早く、このメンバーとなら、ストレスなくプロジェクトが動かせると思ったことが決め手の1つです。
元々、GoodpatchはUI/UXに強い会社として認知していたため信頼感もありました。それに加えて、最初にフロントに立ってくれた齋藤さん(Goodpatch Anywhere事業責任者)が3Dプリントの知見を持っていたことも大きかったですね。このチームであれば、PMVとお客様をつなぐデザインを実現できるはずだと期待しました。
DMM 山崎さん:
初めてAnywhereの方とお話ししたとき、ガジェット好きとは聞いていたものの、3Dプリントにも明るくて驚きました。機器やモノづくりが好きな方でも、3Dプリントは手が出しにくい領域だと言われているからです。私たちが提供するプロダクトに対して、前のめりに好奇心を持ってくれる人たちと一緒なら、プロジェクトも円滑に進むだろうと思いました。
PMにデザイナー、不足する役割をAnywhereメンバーが補ってくれた
——メンバーはそろったものの、プロジェクトの初期は混乱を極めたと伺っています。
DMM 梅田さん:
当初は、事業部として定めたPMVを土台に、Webサイトおよびデザインのリブランディングならびに、老朽化したシステムの大規模リプレイスを同時に進めようと思っていました。しかし、どのような順番で開発を進めたらいいのか、何を基準に判断していけばいいのかの情報がそろっておらず、自分で進めようにも何をどうしたらいいのか分かりませんでした。
DMMグループ全体としては、PM、PdM、ディレクター、デザイナーなどが多数所属しています。一部のエンジニアは外部パートナーから集めましたが、UI/UXデザイナーやPMといったプロジェクトをハンドリングできる人材が事業部内で不足していました。
なので生駒さんには最終的に、デザインの部分だけでなく、システムのリプレイスも含めたプロジェクト全体のマネジメントも担ってもらうことに。本当に大変だったと思います。
Goodpatch 生駒:
今回はリニューアルの規模がかなり大きく、当初ご相談いただいた内容を全てまとめてリリースしようとすると、かなり時間がかかってしまう恐れがありました。そのスピード感ではビジネスとしては致命的です。そのため、まずは段階的なリリースが可能かどうかを梅田さんに確認しました。その上で、ユーザーの体験が成立する形でどのように段階的リリースしていくかを判断していきました。
その際に用いたのが、下図のような「ユーザーストーリーマッピング」という手法です。まずは、ユーザーストーリーという形で、必要な機能や要件をすべて洗い出しました。そこに、開発コスト、ユーザーの提供価値、ビジネス優先度などを情報として付与し、事業責任者の梅田さんが意思決定できるレベルにまで可視化しました。
——それをもって、すべてのメンバーがそろうリアル“合宿”を行った、と。
DMM 梅田さん:
合宿には、DMM、Goodpatch Anywhere、開発ベンダーの3社からシステム・デザイン・ビジネスを担当するプロジェクトメンバーが集まりました。ビジネス観点、ユーザー観点、開発観点の3つの観点から総合的に事業として、どの施策をまずは実行すべきか決める必要があったからです。
DMM 山崎さん:
それぞれの立場では最適だと思っていることも、プロジェクト全体で見るとそうでないといったことが、合宿を通し、見えてきました。プロジェクトが始まるタイミングで、そのズレを認識し、調整できたことは、その後の進行にとって大いにプラスになったと思っています。
Goodpatch 生駒:
リリースまでのスコープをどのように区切ればいいのかは、誰しも判断に迷う点だと思います。しかし、合宿という場で、お互いの認識の齟齬を把握し、妥協できる点、譲れない点などを粘り強く対話することが大事だと改めて思いました。その場で新しいアイデアも生まれましたし、最終的にファーストリリースはここだ!と梅田さんに意思決定してもらうことができました。
DMM 梅田さん:
シンプルにいえば、新規獲得を意識したリブランディングか既存ユーザー向けのユーザビリティ向上にするかの判断でした。後者は既存システムと密接に関わっているため開発コストが高い。さらに、現状の既存ユーザーは、初期こそ戸惑いはあるものの、一度新しい仕様を体験すれば、問題なく使い続けてくれるだろうと仮説を立てたんです。
最終的にまずは、DMM.make 3Dプリントに対する期待と熱量を高めることこそが今の事業フェーズには最も重要だと判断し、リブランディングを決めました。明確なジャッジができたのも、全員が顔を突き合わせて話し合える“合宿”という場があったからだと感じています。
成果物だけでなく、プロジェクトが終わっても活用し続けられる“資産”も提供
——ファーストリリースまでのプロジェクトは、どのようなスケジュールで行われましたか?
DMM 梅田さん:
開発への並走期間も含めると、2022年8月から2023年6月末の約10カ月のプロジェクトでした。8月中旬にオンラインでキックオフMTGを実施したものの、先に述べたような状況だったため、各人が作業を始めることができたのは10月からでした。
DMM 菊池さん:
そのタイミングで、開発方法をウォーターフォールからアジャイルへ切り替えました。これまでもエンジニア単独のプロジェクトでは、何度かアジャイル開発を取り入れてきました。しかし、今回のようにプロジェクト全体でアジャイル開発に取り組むのは事業部としては初めてで……。そのため、スケジュールやリリースの管理の面で、開発メンバーからは不安の声が挙がっていました。
その際も、生駒さんはメンバーの不安をくみ取り、アジャイル開発の利点や進め方をアドバイスしてくれて。次第にチームメンバーの不安も払拭され、開発手法を切り替えることができました。今でも、アジャイルの手法で開発をすることがあるんですよ。プロジェクトが終わっても残り続ける“資産”をもらったと思っています。
DMM 梅田さん:
リブランディングのデザイン自体は12月ごろにほとんど終了していましたが、引き続き開発と並走してもらいたかったので、生駒さんと濱田さんにはプロジェクトに残ってもらうことにしました。
リリース直前まで開発と並走してもらえたことで、変更点があればすぐにデザインの修正をお願いできるなど、すぐに相談できるパートナーがいたのは開発を進める上でとても心強かったです。
Goodpatch 生駒:
Goodpatch Anywhereとしては、私たちの仕事をして終わりではなく、リリースまで見届けたいという気持ちでプロジェクトに並走しています。今回はリリース直前まで開発に並走できたため、DMMの皆さんのご要望に最後まで細やかに対応できました。
——開発の方法が変わり、チームの雰囲気や開発に対する姿勢に何か変化はありましたか?
DMM 菊池さん:
コミュニケーションの取り方は変わりましたね。 開発手法をアジャイルに変えてから、毎朝ミーティングをしてから1日の作業を行っていたのですが、プロジェクトが終了しても、エンジニアチームでは引き続き毎朝のミーディングを続けています。今回のプロジェクトを通し、オンラインでも毎日顔を合わせることで相互理解が深まり、きちんと話し合えるんだと実感できたことはいい経験になりました。
広告費用対効果は10倍。リブランディングから実感した定量的な効果とは
——今回、ペルソナの作成にもかなり力を入れられたと伺いました。
DMM 山崎さん:
ペルソナはDMM側で準備をし、内容の肉付けやペルソナをどう活用していけばいいのかまで含め、Goodpatch Anywhereのデザイナーたちに作り込んでもらいました。私たちビジネスサイドも参加し、一緒に認識合わせをしたのは、これまでにない経験でした。
Goodpatch 濱田:
私含め、UIデザイナーがプロジェクトのスタート時から参加していたため、深く早くキャッチアップができ、実際にデザインのプロセスに入ったときには、フルスピードで取り組むことができました。
特に今回のリブランディングで意識したことは、個人利用だけでなく、法人の利用も踏まえたデザインです。toCとtoBでは表現の仕方に違いはありますが、プロジェクトの初期から参加していたことで、さまざまな情報をしっかり整理できて助かりました。
DMM 梅田さん:
Anywhereチームのスピードにも圧倒されました。ミーティング冒頭で改善を依頼したことが、ミーティング終了前には修正して共有されるんです。
Goodpatch 濱田:
今回は特に手を動かすのが早いメンバーが多かったこともありますが、Anywhereはとにかく早く改善のサイクルを回すことを日頃から意識しています。「一度持ち帰って、来週のミーティングで改善案を提示します」ということはほとんどしないですね。
Goodpatch 生駒:
Goodpatch Anywhereには海外在住のメンバーもおり、時差を活用したプロジェクト運営ができることも特徴です。今回のプロジェクトにも海外メンバーが参加していました。日本が夜の間に海外メンバーが作業を進めてくれるので、実質24時間稼働しているような感覚です。
——今回、3Dプリントサービスのリブランディングを進めた結果、どのような成果がありましたか?
DMM 梅田さん:
顧客獲得単価(CPA)は、これまでの約3分の1になりました。もちろんWebサイトだけではなく他の施策の効果もあっての結果ですが、デザインの力を実感する数字です。
また、広告の費用対効果であるROAS(ロアス)が、約1,000%になったことも大きな成果です。一般的にROASは100%を基準値とし、値が大きいほど、費用対効果が大きいと言われています。マーケティングの世界では、300%〜500%を出すと驚かれますが、約1,000%という数字には社内でも大きな反応がありました。
今回のプロジェクトは、メンバー一人ひとりがプロフェッショナルの自覚を持ち、サービスを良くするために自発的に動けるチームでした。時に、伝えにくいことも腹を割って話せるカルチャーが、定量的な成果にもつながったのではと思っています。
DMM 山崎さん:
社内の常識にとらわれないもの作りができたことも大きかったですね。内製チームだとどうしても社内ルールの派生から物事を考えがちです。社内とは違う視点からご提案いただくことで、自分たちの常識を取っ払った状態でアイデアを考えることができました。
——今後の3Dプリント事業の展望について教えてください。
DMM 山崎さん:
私たちのミッションである「誰もが3D printingを使いこなせる世の中を作る」を実現するため、法人・個人問わず、利用者が拡大できるよう、引き続き業務に励んでいきたいです。
DMM 菊池さん:
このサービスは、日本で1番になることを掲げ、活動してきました。将来的にはきっと1番利用されるサービスになると思いますので、その気持ちで今後の開発も進めていきます。
DMM 梅田さん:
Goodpatch Anywhereのメンバーと開発を進めた本プロジェクトは、日本の製造業、3Dプリント業界に大きなインパクトを与えたと思います。多くの方から「3Dプリントなら、DMM.make 3Dプリント」と言われるよう、今後とも精力的に活動していけたらと思います。
今回一緒に働いたAnywhereのメンバーを見ていると、プロフェッショナルとしての能力はもちろん、人間的にも良い人ばかりでした。もし、私たちと同じような課題を抱えているチームや組織の皆さんには、ぜひ相談してみてほしいですね。
Goodpatch Anywhereについて
Goodpatchのフルリモートデザインチーム「Goodpatch Anywhere」では、今回のようなリブランディングプロジェクト以外にも、アプリケーションのデザインや新規事業支援など、デザインパートナーとして、さまざまなサービスを展開しています。詳細はこちらからどうぞ。