東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)は国内でも有数の大手通信会社ですが、事業で培われた技術や知見を生かし、民間企業や省官庁、地方自治体などの団体にさまざまなサービスを提供しているのをご存じでしょうか。

同社では「ひかりクラウド スマートスタディ」と呼ばれる学習管理サービスを開発・販売していますが、「ユーザー体験(UX)に寄り添った開発ができてないこと」に課題感を覚えていました。この状況を打破するため、プロジェクトに並走できるデザインチームを探していたと言います。

そこでパートナーに選ばれたのが、Goodpatchのフルリモートデザインチームである「Goodpatch Anywhere」。サービスサイトの改修からコアバリューの見直し、開発体制の変更からマーケティングの支援まで。今なお続くプロジェクトの内容と、現時点での成果を前後編の2本立てでお届けします。

サービスサイトのリニューアルや、年間1000万円以上のコスト削減を実現した「申し込みフローの自動化」などの話がされた前編に続き、後編では、アジャイル開発に初挑戦したエピソードやプロジェクトチームの変化などの話を伺いました。

話し手:
NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 小林さん
NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 田中さん
Goodpatch Anywhere 生駒

アジャイル開発に初挑戦 プロトタイプ検証で、SaaSに不慣れな人の気持ちが分かった

──今回のプロジェクトでは、開発をウォーターフォール型ではなく、アジャイル型で進めたとありましたが、どういう経緯があったのでしょう。

NTT東日本 小林さん:
独学ではありますが、ユーザーニーズに沿ったプロダクト作りをするなら、仕様を決めきって開発を進めるウォーターフォールよりも、アジャイルの方が適していると思ってはいました。ただ、見よう見まねでやっているような状況でして、生駒さんに具体案を出してもらいながら支援していただいた形です。

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 小林さん

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 小林さん

──なるほど。とはいえ、開発スタイルを変えるというのは大変なことですよね。

NTT東日本 小林さん:
チームのエンジニアのほとんどが、20年以上ウォーターフォールで生きてきた人なので、宗教が変わるような感覚だったと思います。

生駒さんは、スクラムの教科書となる書籍を提案してくれたり、「スクラムマスターではない」と言いつつも、開発を円滑に進めるための調整やサポートといったマネジメント業務を主体的に担ってくれたり、アジャイルコーチのような形でもスキルを発揮していただいています。タスク管理をNotionにした際には、一晩でデータベースをそろえてくれたこともありました。抽象度の高い話から具体的なサポートまでを引き受けてくれたので、どうにかやりきれました。

Goodpatch 生駒:
小林さんが全体の音頭を取り、「これでいこう!」とチームに啓蒙したのが効いたと思います。POがアジャイルの本質を分かっていないチームは、結局破綻してしまいますから。

また、今回のプロジェクトでは、エンジニアとビジネスサイドの距離が近かったのも成功要因だったと思います。サービスサイト改修の際も、動くプロトタイプを作成して、チーム全員で迅速に検証を繰り返す体制が作れました。

NTT東日本 小林さん:
実際に動く画面を見ながら検証して、初見のユーザーならではの動きや困りごとを知ることができました。社員にテストをお願いしても、スムーズに申し込みまでたどり着けなかったことも多々。

開発する側の私たちはSaaSの利用に慣れていますが、お客さまにはSaaSに不慣れな方もいらっしゃいます。検証を通じて、実際の利用シーンやつまづくポイントを想起しやすくなりました。

Goodpatch 生駒:
私たちの予想通りの使われ方になるかを確認しつつ、うまく行かない部分はすぐに修正してという進め方ができました。1週間単位でテストサイトが変わる様子に「アジャイル型で動けている」と実感しました。

リニューアルしたサービスサイト

リニューアルしたサービスサイト

脱SIerスタイル ユーザー中心主義は「御用聞き」ではない

──開発の方法が変わり、チームの雰囲気や開発に対する姿勢に何か変化はありましたか?

NTT東日本 小林さん:
以前は一言で表すならSIer的というか、社風として「お客さまに寄り添い、やれることは全部やる」というスタンスでした。しかし、このやり方はSaaSというサービスには合いません。お客さまからお願いされた要望を全て叶えることはできませんし、開発の優先順位がつけられなくなってしまう。

今は自分たちで顧客ペルソナを定め、どのようにしてそのペルソナから仕事を獲得するかという観点で開発を進めるようになりました。お客さまの声は聞くけれど、単なる「御用聞き」にならないことが大切です。

NTT東日本 田中さん:
機能要望の話が出てくると、「その機能は、誰が欲しいと言っていましたか? 他の人も欲しいと話していますか?なぜ欲しいといっているのですか?」と生駒さんに必ず確認されました(笑)。今までなら、あまり気にせず「欲しい人がいるのだから、対応しよう」と考えることも多かったですが、今は意識が変わりました。

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 田中さん

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 田中さん

──ユーザーの全体像を見て、開発の優先順位を付けられるようになったのが大きいですね。

NTT東日本 小林さん:
実際に今回、サービス画面のUIを刷新した際、一部のお客さまから「ユーザーのことを考えていない」とお叱りを受けた一方で、別のお客さまからは「素晴らしいアップデートだ」とお褒めいただきまして。全体のバランスを見ながら、優先順位を考える必要があると学びました。そこで、ユーザーの皆さまがどう思っているのか、アンケートも初めて実施したんです。

──今回のプロジェクトに対する、社内の評価はいかがでしょう?

NTT東日本 小林さん:
社内でも特に部門長からの評価が高いです。部門長は部門内の20近くある全プロダクトのデザインを見ていますが、われわれのチームは「グラフィックがいい」「お客さまの目線で仕事をしている」と評価いただきました。私たちのUI、UXへのこだわりが認められているのだと思います。

デザインパートナーは「いたほうがいい」ではなく、「いなければ仕事が始まらない」存在

──プロダクトを成長させるために、さまざまな挑戦をされてきた様子が伝わりました。Goodpatchのメンバーとプロジェクトを進める中で感じた、率直な印象を教えてください。

NTT東日本 田中さん:
デザインの世界を全く知らなかった私からすると、Goodpatchのメンバーが入ったことで、世界が広がりました。コミュニケーションを密に取ってくださるので、疑問に思ったことを素直にお伺いできますし、コメントにも納得感がありました。

NTT東日本 小林さん:
とにかくメンバーのレベルが高いですね。世界標準のデザイン、エンジニアリング、組織論に精通しながらも、日本の伝統的な企業の雰囲気も熟知した上でバランスを取って、プロジェクトを進めてくれるのはありがたいです。

また、厳しくても伝えなくてはならないことをしっかりと言ってくださるので頼りになります。プロモーションもクライアントが要望するのであれば実行しても良かったはずです。しかし、ユーザーのためにならないことにはNGを出すという、ユーザー中心主義を徹底し、私たちを止めてくれました。今でも大変感謝しています。

──私たちのようなデザイン会社と一緒にプロジェクトを進めたことで、得られた価値や気づきがありましたら、教えてください。

NTT東日本 小林さん:
アジャイル開発、あるいはユーザー中心主義にチームを生まれ変わらせてくれたことですね。これまでは、開発の方向性もユーザーの声を聞かずに何となく決めており、UIに至っては外注先に丸投げでしたが、Goodpatchと一緒に仕事をするようになって、常にユーザーを最優先で考えた行動ができるようになりました。

NTT東日本 田中さん:
確かに、チームの雰囲気は変わりましたよね。これまで営業チームは、リリース直前にしかプロダクトを見ることがありませんでしたが、Goodpatchと取り組むようになってから、営業チームにもデザインツール上で進捗がリアルタイムに共有されるようになりました。日々プロダクトの見た目が変わり、その度に触れる機会ができたため、開発チームも営業チームも、今まで以上に意見や議論をしやすい環境になったと思います。

NTT東日本 小林さん:
「デザイン」という言葉には、かなり注意が必要だと思っています。われわれ素人はデザイナーというと「お絵描きが上手なのかな」という感じで、グラフィックデザインの中でもごく一部の価値しか想像できていないように思います。だから「わざわざ準委任契約で並走してもらわなくても、ロゴを作るとか、サービスサイトを作るときだけ発注すればいい」と勘違いしてしまう人も多い。

実際には「UX観点で考えれば、UIはこうあるべき。であればバックエンドはこうあるべきではないか」というように、ユーザー起点でプロダクトを開発する上で絶対に欠かすことができない重要な機能を担うのがデザインパートナーだと思います。「いたほうがいい」ではなく、「いなければ仕事が始まらない」存在です。

「こんなに全部任せていいの?」 プロダクトの状況に応じた最適な人員アサイン

──プロジェクトの最初期からデザインパートナーがいることに価値があると。

NTT東日本 小林さん:
そうですね。そして、とにかく一緒に仕事していてラクの一言に尽きます。今回のプロジェクトでは、こんなに全部丸投げしていいのかなというぐらい、お任せしています。生駒さんは「小林さんがPOとして判断してくれるので助かります!」とよく言われますが、そもそも生駒さんが判断に必要な情報をすべて整理してくださっているので、苦労をしたと思ったことはあまりありません。

Goodpatch側のチーム編成にしても、プロダクトのステージや進捗状況に応じ、必要な人材を適宜入れ替えながら運営してくれたので、開発も円滑に進みました。個々のメンバーの動きも加味しながら、スピーディーに調整してくれるのはありがたいです。

Goodpatch 生駒:
Goodpatch Anywhereには、デザイナー以外も含めたさまざまなプロフェッショナルがいるので、「ビジネスを成功させるため、今プロジェクトに必要な人材は誰なんだろう」と思い浮かべつつ、予算を加味しながら人材を選定していました。

デザイナーだけでなく、マーケターやUXライター、スクラムマスターなどの人材を連れてくることで、プロダクトのグロースまで見据えた価値を提供できました。UIデザイナーだけを連れてきても、ここまでの価値は出せなかったと思います。

Goodpatch Anywhere 生駒

Goodpatch Anywhere 生駒

──その時々で必要な人材が参加してくれれば、チームとしても動きやすくなりますね。

NTT東日本 小林さん:
そもそもニーズに応じて人を紹介してもらえるということ自体、素晴らしいことです。プロジェクトの状況に応じて、必要な人材は変わっていきますし、その人材を集めるのは簡単ではありません。ジョブディスクリプション(職務記述書)の作成は、相当なスキルが求められますから。

私だけではここまでチームを回しきれなかったと思います。ここまで踏み込んだ支援をしてくれるパートナーは、貴重な存在です。

──ありがとうございました。最後に、今後の「ひかりクラウド スマートスタディ」の展望を教えてください。

NTT東日本 小林さん:
まずは競合優位性を出すための活動をしたいと考えています。今はアジャイルソフトウェア開発宣言にしたがって、遅くとも 3 カ月スパンでの外部リリースを目指しています。このくらいの間隔でユーザー体験を改善するためのアップデートを繰り返す予定です。

申し込みまでの整備ができたので、今はレポート機能をつけたり、UXを抜本的に見直した新たな研修コースの提案を模索したりとサービス自体の改修を進めています。他社に追いつきつつ、「ひかりクラウド スマートスタディ」ならではの価値を模索していきます。多くの方から「学習管理サービスは『ひかりクラウド スマートスタディ』じゃないとダメ」と言われるようなプロダクトに成長させたいです。

また、「ひかりクラウド スマートスタディ」の結果を出す中で、アジャイル開発やユーザー中心主義のマインドや価値を社内に広めていけたらと考えています。部門長にも「他のチームにGoodpatchを紹介してほしい」と言われていまして(笑)。

Goodpatch 生駒:
そのためにもまずは「ひかりクラウド スマートスタディ」を成功させたいです。実績を上げれば、それだけデザインの価値に興味を持つ人が増えるはずですから。