東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)は国内でも有数の大手通信会社ですが、事業で培われた技術や知見を生かし、民間企業や省官庁、地方自治体などの団体にさまざまなサービスを提供しているのをご存じでしょうか。

同社では「ひかりクラウド スマートスタディ」と呼ばれる学習管理サービスを開発、販売していますが、「ユーザー体験(UX)に寄り添った開発ができてないこと」に課題感を覚えていました。この状況を打破するため、プロジェクトに並走できるデザインチームを探していたと言います。

そこでパートナーに選ばれたのが、Goodpatchのフルリモートデザインチームである「Goodpatch Anywhere」。サービスサイトの改修からコアバリューの見直し、開発体制の変更やマーケティングの支援まで。今なお続くプロジェクトの内容と、現時点での成果を前後編の2本立てでお届けします。

話し手:
NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 小林さん
NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 田中さん
Goodpatch Anywhere 生駒

デザインパートナー選びの決め手は「準委任契約」? その理由とは

──今回、ユーザー体験に寄り添った開発の実現に向けてGoodpatchにご相談いただいたと聞いています。当時抱えていた課題や、相談に至った経緯などを教えていただけますか?

NTT東日本 小林さん:
デザインパートナーを探し始めたのは、2022年7月にひかりクラウド スマートスタディの担当課長になったタイミングですね。

ユーザー体験に寄り添った開発があまりできていないと感じており、準委任契約で並走してくれるデザイン会社を探し始めました。妻がデザイナーということもあり、サービス開発におけるデザイナーの重要性はよく聞いていまして。

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 小林さん

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 小林さん

──準委任契約が選定のポイントだったんですね。

NTT東日本 小林さん:
お客さまに寄り添った開発を進めるためにも、デザインのスペシャリストとしてプロダクトの向上にコミットしてくれるパートナーを求めていたからです。

私の周辺のプロジェクトでは、エンジニアのパートナーは準委任契約が多いにもかかわらず、デザイナーについては、なぜか「ロゴを作ってください」のように、発注した通りのモノを作って終わりの請負契約しかありません。いろいろな会社を探し、並走型支援を掲げるGoodpatchにたどり着きました。

NTT東日本 田中さん:
私はデザインの知識がなかったので、当初はそもそもデザイナーがチームに入る必要性が分かりませんでした。その後、Goodpatchがデザインというよりも、その根本にある「このサービスは誰に何を届けているのか?」から考えてくださると知り、非常に驚きました。

「プロモーション強化はプロダクトの価値を高めてから」 意思決定に影響を与えたデザイナーの一言

──プロジェクトでは、実際にどんなことをされたのでしょうか?

NTT東日本 小林さん:
生駒さんには、プロダクトオーナー(以下、PO)と同じ視点に立って「ひかりクラウド スマートスタディ」を売るために必要なあらゆることを考えてもらい、優先順位をつけて提案いただきました。

Goodpatch 生駒:
具体的には、サービスサイトの改修に始まり、コアバリューの見直し、管理画面のナビゲーションシステムの修正、Webからの自動申し込み制作、ホワイトペーパーの作成など。会員数増加に向けた顧客分析、新規ターゲット獲得に向けた目標設定なども提案しています。

Goodpatch Anywhere 生駒

Goodpatch Anywhere 生駒

──幅広いですね。サービス改修における多くの領域にまたがっているというか。

NTT東日本 小林さん:
リリース当初、塾向けに展開していたのですが、方針を転換して今は企業向けのサービスとなっています。販売を伸ばそうと、ある意味「八方美人」のようになってしまっていた状況を脱するため、Goodpatchさんには、コアバリューの再定義をしていただき、顧客へ「ひかりクラウド スマートスタディ」の魅力を明確に伝えられるようなサービスサイトのUI刷新をお願いしていたのです。

同時に、サービスサイト刷新後のプロモーション施策も検討しており、その相談をしたところ、結果的に方針が大きく変わりまして。

──どういった判断があったのでしょう。

NTT東日本 小林さん:
生駒さんから「プロダクトの価値を高めてからでないと、プロモーションをしても効果が薄い。今はやるタイミングではない」と止められたのです。

──おお……。なかなか直球というか、踏み込んだ意見ですね。

NTT東日本 小林さん:
結果として、当初予定していたプロモーション施策の実施は見送り、その予算を使って、マーケティング戦略の立案と、サービスの申し込みフロー自動化の体験向上を行うことにしました。方針の変更に従って、Goodpatchさんに新たなロールの方を追加でアサインいただきました。これが当初の予定よりも踏み込んだ領域まで支援いただくきっかけになったと思います。

年間1000万円以上のコスト削減を実現した「申し込みフローの自動化」

──サービスの申し込みフロー自動化というのは、優先すべき課題だったということですか?

NTT東日本 小林さん:
そうですね。というのも、これまでトライアル申し込みから契約手続きまでのフローの多くで人力に頼っていたのです。マニュアルも多く、ユーザーサポートのコストもかさむ状況でした。

例えば、営業チームからメールでお送りするExcelの申込書に、お客さまご自身で企業名、担当者氏名、電話番号などを手入力いただき、メールにてご返信いただいておりました。申し込み情報はデータベース化しますが、内容を目視で確認している状況で、担当エンジニアがエラー処理に追われていました。

NTT東日本 田中さん:
サービスのデモ依頼から契約までを営業チームが人力でサポートしていたため、お客さまと営業チームの負担を下げるためにも、申し込みの自動化が求められていたのです。

NTT東日本 小林さん:
そこで、Goodpatchさんにも支援いただき、申し込みフローやサポートについての整理を行い、2023年8月に行ったサービスサイトのリニューアルと同時に、申し込みから契約まで全てWeb上で処理できるように切り替えました。

サービス申し込みフロー

自動化に向け、サービスの申し込みフローを整理

──サイトリニューアルだけでなく、申し込みまでの根本的な課題の解決に向かったということですね。サービスサイトの申し込みから契約までの過程が整理され、ユーザー体験も変わったと思います。実際に社内、お客さまにどのような変化がありましたか?

NTT東日本 小林さん:
社内で言うと、運用コストが大きく変わりました。申し込みのフローを一貫して管理できるようになったため、申し込み手続きの人件費だけで約1,000万円相当を年間で節約できました。電話やメールによるお客さまへの確認業務も全てなくなりました。

NTT東日本 田中さん:
担当営業の業務負担も相当軽くなったと思います。これまでは、営業チームが間に入って連絡の調整をしており、間接作業が発生していました。業務コストという点でも大幅に削減されたと思います。

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 田中さん

NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 田中さん

ユーザーを最優先に考えたプロダクト開発がどういうものか、よく分かった

──サービスサイトをはじめとした、申し込みまでの部分における改善とともに、プロダクト側の改善も進めているんですよね。

NTT東日本 小林さん:
そうですね。プロダクトのコアバリューの見直しから進めていまして、これまで営業が抱いていた考えや、お客さまから吸い上げてきた情報をGoodpatchに言語化、整理していただきました。もちろん既知の情報もありますが、整理されたことで、対処できていなかった点が明らかになったという見方もできます。

営業の皆は、お客さまからいただいた声を共有してくれますが、正直、私一人では受け止めきれないのが現状です。情報整理が行われること自体、私にとっては非常に価値のあることでした。

NTT東日本 田中さん:
これまでも、営業とプロダクト開発側で「ひかりクラウド スマートスタディ」の優位性についての議論はありましたが、「価格はこれぐらい優れています」「〇〇という便利な機能があります」といった表層的な部分に留まっていました。しかし今回、ユーザーのニーズを突き詰めたことで、「仮説を実現していけば、市場で勝てるのではないか」と感じられるようになったのは大きな変化です。

NTT東日本 小林さん:
今は営業チームとGoodpatchが密に連携しながら、営業が吸い上げてきたお客さまの感覚をうまく抽象化し、開発現場へフィードバックしています。少しずつ循環が回り始めたなと、コアバリューを考えるプロセスの中で感じました。これがユーザー中心のプロダクトづくりへの第一歩なのだなと。

──小林さんの中でも、プロダクト作りへの考え方が変わったと。

NTT東日本 小林さん:
Goodpatchの皆さんには、本当に細かいところまでフィードバックをいただきました。個人的にはマニュアルの文言修正は印象に残っていますね。

オンラインマニュアルを作成した際、UXライターの方に「『はじめに』というページは、誰目線ですか? ユーザーにとっては『最初にすること』では」と指摘されて。言われてみれば、はじめにという言葉はユーザーが主語ではありません。

正しいものを正しく作り、正しく伝えることの重要性は知っていたつもりでしたが、行動が伴っていなかったことを指摘され、恥ずかしい気持ちになる一方で、とてもよい方向に切り替えてもらったと思います。

ひかりクラウド スマートスタディのオンラインマニュアル

「ひかりクラウド スマートスタディ」のオンラインマニュアル

──なるほど。気付きにくいかもしれませんが、重要な点ですね。

NTT東日本 小林さん:
開発のアプローチも変わりました。これまではお客さまの声を聞かず、とりあえずの仮説で要求仕様書を一生懸命作成し、1年かけて新機能を実装しては、ユーザーにウケない、というのを何回も繰り返してきました。デザインにいたっては「よしなに!」と外注先に丸投げしていたぐらいです。

Goodpatchが入ってからは、開発の方向性を決めたら、インタビューやアンケートでお客さまの感覚と合っているのかをしっかり確認した上で、ユーザー体験を最大化するためのUIを作って実装に入るという、常にお客さまを最優先で考えた行動ができるようになりました。

UXを最大化するために、どんなインターフェースが求められているか、必要な機能は何なのかと、これまでとは真逆の進め方で開発しています。ユーザーを中心に据えてプロダクトを開発するということが、どういうことなのかよく分かりました。今回のプロジェクトでは、開発をウォーターフロー型ではなく、アジャイル型で進めたのも大きなポイントなんです。

 

いかがでしたか。後編では、開発フローの変更やリニューアルの反響、Goodpatchと併走する中で印象的だったエピソードなどをお話しいただきます。お楽しみに!

後編はこちら:
「そこまで任せていいんですか?」アジャイル開発体制の構築から、最適な人材の紹介まで──NTT東日本の「ひかりクラウド スマートスタディ」開発プロジェクト(後編)

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