デザイン思考で、あなたの周りの人を救ってください──超実践型研修「Project-YOU」をトヨタファイナンスが受講した結果
デザイン思考、大事なのは分かるけど、結局何から始めればいいのか──。
経済産業省が発信した「『デザイン経営』宣言」など、事業におけるデザインの重要性が叫ばれて久しいですが、実際の業務で実践できているかというと別問題。座学の研修をしたけれど、特に効果を感じられていないという企業は多いのでは。
グッドパッチでは、DXを推進する多くの企業がユーザーに向けてサービスや商品を提供する上で欠かせない「デザイン思考」を業務課題の改善に生かす「超」実践型プログラム「Project-YOU」をさまざまな企業で行っています。
先日、グッドパッチのファシリテーション&コーチングチーム「Marble」がトヨタファイナンス様に対し、Project-YOUを含む4日間の研修を実施しました。
目次
座学ではない、生きた業務課題でデザイン思考を実践する「Project-YOU」
「Project-YOU」とは、デザイン思考を研修の場で学ぶことはあっても、「なかなか実践できない」「普段の業務に生かせない」といった現場の皆さまの声に応えるプログラムです。
身近な業務課題の探索から、アイデアの立案、検証といった、以下のようなプロセスを対面での合同ワークセッションと、グループ個別での現場活動を通じて進めていきます。
実践の中で学びや気付きを得ながら、業務改善・イノベーション推進を進めるプログラムで、1つの課題についてチームで活動を進めます。メンバーの結束力向上や、関係者に前向きな課題改善姿勢が見えることによる社内の協力者・支援者が増えるといった副次的な効果も目指す研修です。
今回は、研修を企画された事務局と参加者の計4名にお話を伺い、研修を通じてどういった気付きや学びがあり、業務に生かされているのかを聞きました。
話し手:
トヨタファイナンス株式会社 CX本部 CX企画部 CXデザイングループ 主幹 酒向さん
トヨタファイナンス株式会社 人事部 人事企画グループ 梅村さん
トヨタファイナンス株式会社 地域統括部 地域統括グループ 三品さん
トヨタファイナンス株式会社 セキュアペイメント部 セキュアペイメント運営グループ 奥村さん
机上の学習で終わらせないために──体験ベースでHCDを理解するための研修
──まずは、研修を企画された事務局のメンバーのお二人にお伺いします。今回、グッドパッチに研修を依頼するに至った経緯をお聞かせいただけますか?
トヨタファイナンス(以下、TFC)酒向さん:
当社は、皆さまが自動車を購入する際に利用する金融商品を中心とした金融事業を手掛けています。
これまでは、基本的に車のメーカーや販売店(ディーラー)の要望に応じた金融商品を提供するBtoBビジネスを展開してきたのですが、お客さま接点のデジタル化の推進と合わせ、お客さまに価値を感じていただける良質なコミュニケーションを販売店とともに取る方向へ、ビジネス戦略の転換を進めています。
そのためには、販売店だけでなく、その先にいるお客さま、つまりエンドユーザーの視点で業務や事業を考える必要があります。社員一人ひとりが顧客視点を理解しなければ、ビジネスを進めていくことができないということで、2018年に研修をスタートし、2022年には1500人ほどいる全社員に向けて展開しました。
──顧客視点の研修自体は、以前から実施していたんですね。
TFC 酒向さん:
研修の反応は良く、顧客視点やカスタマージャーニーといった考え方に親しむきっかけになっていたと思いますが、頭で理解しても、それを実際に商品やサービスに落とし込めるかというと、また別の問題です。その際に重要になるのが「デザイン思考」だと考えています。
──なるほど。そこからデザイン思考のベースとなる「人間中心設計(HCD)」の研修につながるのですね。
TFC 酒向さん:
HCD研修の企画を考え始めたのは、2023年の春ごろで、人間中心設計推進機構が公開している教材を当社用にアレンジして、eラーニングとして全社員に展開しました。
8割以上の参加者から「HCDの理解に役立った」など、好意的な反応をもらってはいたものの、eラーニングだけではどうしても受動的な机上の研修内容になってしまうことが気がかりで。やはり、実際に「体験」できる研修が必要ということで3社ほど検討した結果、グッドパッチさんにお願いすることに決めました。
──知識のインプットだけでない、実践型の研修を希望されていたのですね。グッドパッチを選んでいただいた決め手は何でしたか?
TFC 酒向さん:
誠実さですね。どなたと接していても、相手先企業の困りごとを心から解決したいという誠実な姿勢を感じます。
今回の研修も当社向けにかなりアレンジいただき、しっかりフィットするものにしてくださって。「自分たちのノウハウを教える」という一方的なものではなく、パートナーとして、共に解決していくという頼もしさが溢れていますよね。
TFC 梅村さん:
私も人事として、さまざまな研修会社と接する機会があり、当社の課題を聞かれることも多いのですが、そこから議論に発展したり、深掘りしていただいたりする機会は少ないです。
グッドパッチさんは、当社のことをよく理解いただいた上で強化すべき点を客観的かつ具体的に指摘してくれます。研修にとどまらず、課題解決に向けて寄り添ってくださる姿勢がありがたく、今回ご依頼できて良かったと感じています。
ニーズを精査できずに新規事業で失敗、顧客視点の大切さを痛感した経験
──研修に参加されたお二人に伺います。今回の研修は基礎編と実践編の2部構成で、実践編の「Project-YOU」は参加意欲の高い方から選抜されたメンバーだったと伺っています。参加したいと思われた理由を聞かせていただけますか?
TFC 三品さん:
少し前の話ですが、以前の部署で、販売店に使っていただく商品やサービスの企画推進を担当しておりました。新規事業を企画する際に販売店さんに「(こういう商品)どうですか?」と尋ねた際に「いいですね!」という発言を信じて、ニーズを正確に把握しないまま商品開発を進めた結果、販売店のニーズに合わずサービスが終了したといった苦い経験がありまして……。
──顧客視点が課題になったというわけですね。
TFC 三品さん:
そして昨年、20代以下の社員を対象にした、若年層向けの新規事業創出プロジェクトに参加し、顧客視点の重要性を自分ごととして捉え、危機感を強く感じたのが、研修の参加を希望した理由です。自分の通常業務に生かすのはもちろん、そのプロジェクトに生かしたいという思いも強いですね。
──サービス立ち上げの失敗を経験したからこそ、HCDの重要性を感じられていたのですね。奥村さんはいかがですか?
TFC 奥村さん:
私は2019年に入社したのですが、先ほど酒向が申し上げた社内のHCD研修の一環で、新入社員研修で「カスタマージャーニー」について学びました。他社の事例を踏まえながら、顧客視点が重要な理由を学び、面白さを感じたことを覚えています。そういった経験もあり、CX分野にはずっと関心があったのですが、実践に対しては壁を感じていたんです。
──奥村さんは普段どういった業務をされているのでしょう。
TFC 奥村さん:
現在は、クレジットカードの加盟店領域のオペレーション企画を担当しております。以前、販売店向けのWebサイト構築や、業務効率化のための「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の要件定義などを担当した際に、顧客視点がなければ、販売店向けのものはもちろん、社内向けにリリースするものであっても、使いづらさからミスを誘発したり、工数削減を阻害したりするのではないかと思いました。
お客さま・社内向け問わず、より良いものを作りたいと考えてきましたが、具体的な方法が分からなくて。今回の研修ではそのヒントが得られると思い、楽しみにしていました。
研修をきっかけに、生成AIの業務活用プロジェクトにつながった
──Project-YOUのテーマは「半径100メートル以内の人たちの困りごとを探してきて分析する」でした。どのようなテーマを掲げられたのでしょう?
TFC 奥村さん:
お客さまからの問い合わせ対応などの受電業務を行っている、隣のグループの課題を取り上げました。
お客さまの状況により対応が異なるため、覚えなければいけないパターンが多く複雑な上、高い正確性が求められます。そのため、派遣社員や契約社員の方の定着率が低く、慢性的な人材不足に困っていることを日々感じていました。そこで、その部署の方々をモデルにペルソナに設定し、実際に数名インタビューを行って、課題や困りごとをヒアリングしたんです。
──なるほど。身近な人が直面している課題だと、題材がリアルですし、解決するモチベーションも上がりますね。
TFC 奥村さん:
話を聞く中で、自分が想定していたものとは別の場所に課題があることが判明し、当初の考えを修正する場面もありました。ペルソナの設定やインタビューといった手順を踏まなければ、間違えた解釈のまま進んでいたかもしれず、本当に重要な工程なのだと実感しました。
最終的には、解決策として生成AIの活用を挙げるところまで提案し、研修は終了していたのですが、実際にプロジェクト化することになり、現在プロトタイプの制作まで進んでいます。
──それは素晴らしいですね。実際に社内の課題を扱うからこその展開と言えそうです。三品さんはどういったテーマを掲げられましたか?
TFC 三品さん:
私のチームは少し特殊でして。今回の研修には、先ほど触れた部署横断で若手社員で取り組んでいるプロジェクトのメンバーの多くが共に参加したこともあり、他の人の困りごとではなく、自分たち自身の課題である「プロジェクト内で自由な発想のアイディエーションを促すためにはどうしたらいいか」というテーマを選びました。
プロジェクトの企画にあたっては、実際のターゲット層に対してインタビューを実施していますが、今回のHCD研修の中でも、奥村さんと同様にプロジェクトのメンバーに対してインタビューを実施しました。自分たちがインタビューを受ける側も体験したことで、過去行っていたインタビューで、誘導尋問となるような問いかけ方をしてしまったというような、他のチームとは違った視線での気付きや学びを得られたと感じています。
──これまでのeラーニングと今回の実践的な研修には違いを感じられましたか?
TFC 三品さん:
何よりも本当に楽しかったです!これまで受講したeラーニングは、内容に賛同していても、さまざまな制約に身を置いている状態で実践することが叶わず、自分ごととして捉えることが困難でした。理想と現実のギャップというか、少し距離を感じていたんです。
──どういったところに楽しさを感じたのでしょう?
TFC 三品さん:
一般的な研修がインプットに終始するものが多い中、今回の研修では学ぶ内容を「体感」することで、納得感を持てたところですね。その一連の学びがつながるサイクルを体感できてこそ、楽しいと思えたのだと思います。
「正解がない」ことに対する議論が、所属の垣根を超えてできた
──今回の研修を受けて、特に実務に生かせると思われたポイントがあれば教えてください。
TFC 奥村さん:
現在はプロジェクト化したものが進行中のため、HCDの実践途中にいますが、プロトタイプができた後の効果測定の検証方法に関しても、研修でちゃんと設定できていることは大きいですね。
定量的な目標を設定することで、検証の結果や想定ラインを越えられなかった場合に一度立ち返って考える必要があるということをメンバー全員が共通認識として持てています。
TFC 三品さん:
今まさに新規事業におけるサービスの具体化というフェーズに身を置いているので、顧客視点を常に意識しなければと強く思います。今回の研修で手順や実践の方法などをしっかり学んだので、その経験を道しるべに、さらに経験を積むことで課題の本質を見極める力も向上させたいです。
また、今後はHCDの重要性を社内に広められる人間になりたいと思っています。私の所属先で接するお客さまは販売店ですが、HCDの考え方自体は、あらゆる本部のそれぞれのお客さまに置き換えて応用できますよね。自分たちが研修やプロジェクトを通して学んだことを、自分たちだけで完結させずに伝えていきたいです。
TFC 奥村さん:
私も学んだことを周りへ展開していく重要性を感じています。実は明日、小規模ですが新入社員の方向けに、研修で私が学んだことをお話しする予定で。いずれもう少し規模を拡大して、いろいろな方に学びを共有していきたいです。
──事務局からはどのように研修を見られていましたか?
TFC 酒向さん:
参加者の2人がここまで研修内容を深く理解して自分ごととして落とし込み、自業務に役立てるだけでなく、周りに伝えていくアクションまで起こしていると聞いてとてもうれしいですね。今回研修を受けたメンバーから、どんどんHCDの実践が広がっていくことを期待しています。
TFC 梅村さん:
今回はあえて所属の異なるメンバーでチームを編成するように事務局のほうで決めたのですが、縦割りの組織文化が根強い当社としては珍しい試みでした。
年齢の垣根を超えた研修自体が初めての試みでしたので、実施する際には不安もありましたが、いざ始まってみると、それぞれが自分の意見を発言し、それぞれが自分の考えを発言できた上で、チームとして1つの考えを作ることができたことに手応えを感じています。心理的安全性が圧倒的に高い研修だったからこそ、実現できたと思います。
TFC 三品さん:
社内の話でも知らないことが多くあって、今回のように異なる部の方々と一緒に研修を受けることで、各部に共通する課題があることを知れました。研修をきっかけに部署を横断して課題に取り組み、それを各部に持ち帰って検証するということが課題解決につながるのではと感じています。
TFC 梅村さん:
正解がないことに対する議論が、所属の垣根を超えてできたことは当社にとって大きなメリットだったと感じています。そういった議論が実務に生きることも実感できました。目の前の業務で忙しいことは事実ですが、今後もこういった場を設けたいです。
顧客視点を体現する組織への変革に向けて
──今回の研修を受けて、今後の展望をお聞かせいただけますか。
TFC 酒向さん:
今後実施する研修について、梅村とも検討を始めているところなのですが、やはり実践を通してHCDの考え方を身につけていくことは、引き続き取り組んでいきたいと考えています。
私自身はデザイナーを抱えたチームに所属していますが、全社的にデザイン思考を浸透させるという意味では、デザイナーがデザイン思考の実践をリードしつつ、研修を通じて実務に生かす社員を増やして、周りに波及させていくことが大切です。皆でスピード感を持って、デザイン組織の文化を作っていくことを期待しながら企画を進めていきたいですね。
TFC 梅村さん:
HCDを正しく理解している社員が少しずつ増えている実感はありますが、顧客視点といったときにお客さまの目線ではなく、「当社から見たお客さま」が主語になってしまっている例が散見されます。しっかりと顧客視点を捉えるためにも、研修を通じてインタビューをする文化が根付くことを願っています。
将来的には、事業評価の判断基準にHCDを取り入れることで、現場での優先度が適切に上がることも重要な点だと認識しています。さまざまな制約がある中で検証の手順を踏むのには必要なことだと改めて感じましたね。
──研修を通じて、グッドパッチのどういったところに価値を感じていただけましたか?今後期待することなどもあれば、教えてください。
TFC 酒向さん:
今回の研修は本当に私たちが当初想像した以上に盛り上がりました。グッドパッチさんの熱量も最初から最後まで素晴らしかったですが、参加者側も同様の熱量で進められたのはファシリテーターの拓也さんをはじめ、グッドパッチの皆さんのおかげだと思っています。
皆さんの誠実な姿勢については、先ほど触れましたが、こちら以上の真剣さで当社の課題を見てくださっていると心から感じています。課題解決に向けたご提案もいただいていて、今回の研修に限らず、別のプロジェクトでも支援をいただいています。引き続きぜひ伴走いただきたいです。
TFC 梅村さん:
第三者目線での的確な指摘をいただけるというのがすごくありがたいですね。フランクにいろんなご相談ができる関係性を作っていただいたので、事業を作っていく上でのサポートはもちろん、社内の人間だけで解決するのには困難な企業文化や風土の改革なども支援いただけるようでしたら、ぜひ今後もご相談させていただきたいと思います。
これまで外部のコンサルティング会社との取り組みは、社内にナレッジが蓄積されていかないことが懸念点でしたが、グッドパッチさんと作る研修は、私たちもしっかり成長できている。パートナー、と呼ぶのがふさわしいお付き合いができていると感じますね。
Marbleについて
グッドパッチのファシリテーション&コーチングチーム「Marble」は、ワークショップやコーチングなどを通じて、組織や人の育成・変革を支援しています。
今回の「Project-YOU」のような研修以外にも、新規事業創出支援やチームビルディング(組織活性化)といった個別の課題に対して、フィットするプログラムをご提案いたします。詳しい内容やお問い合わせはこちらからどうぞ。