デジタル広告の進化が著しい昨今。テレビCMは、大きなリーチ力を持ちながらも、発注から放送までのプロセスの複雑さや運用のしにくさなど、いくつもの課題に直面しています。
そうした中、「テレビCMのリーチ力を生かしたまま、デジタル広告のように手軽で自由に活用できるようにしたい」という思いから誕生したのが、日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)による新規事業「スグリー」です。
本記事では、グッドパッチと日本テレビが共同で開催したオンラインイベントの模様をレポート。開発初期の苦悩やチームづくりの秘訣、新たなテレビ広告の可能性など、トークセッションで交わされた議論をダイジェスト形式でお伝えします。
スピーカー
- 柳田 貴裕:日本テレビ放送網株式会社 営業局 営業戦略センター アドリーチマックス部
- 山浦 洋司:日本テレビ放送網株式会社 DX推進局 ICTエンジニアリング部
- 佐合 駿:日本テレビ放送網株式会社 営業局 営業戦略センター アドリーチマックス部
- 大畠 康佑:Goodpatch Anywhere エンジニア
- 木山 圭太:Goodpatch Anywhere UIデザイナー
モデレーター
須貝 美智子:Goodpatch Anywhere Quality Manager/Project Manager
目次
テレビCMの強みを生かしながら、デジタル広告のような自由さを手に入れる
イベント冒頭で紹介されたのが、日本テレビが提供する新プロダクト「スグリー」。これまでは数週間先の放送枠をまとめて発注し、放送までに時間がかかるのが当たり前だったテレビCMの取引を、より柔軟に、運用型で取り扱えるようにするプロダクトです。
「テレビ広告には、爆発的なリーチ力や広告回避されにくい特性など、強いマーケティング効果があります。一方で、取引単位が分かりづらかったり、広告効果が見えづらかったり、リードタイムが長かったりといったさまざまな課題があります。私たちはテクノロジーの力でテレビ広告をより使いやすい形に進化させたいと考えました。今回、開発したスグリーの特徴は大きく三つあります。すぐ買える・すぐ変えられる・すぐ分かる、というものです」(佐合氏)
テレビ広告ならではの大きなリーチ力を活用しつつ、これまでの「買いにくさ」を解消していく狙いがあります。
立ち上げのきっかけ:テレビ広告を取り巻く変化と課題
テレビCMは多くの人々の目に触れる強力なメディアですが、一方で「広告枠の確保が難しい」「価格や効果の把握がしにくい」「入稿~放送までのリードタイムが長い」といった課題があり、デジタル広告の運用型モデルと比べると柔軟性に欠ける面もありました。
日本テレビは、こうした現状を踏まえつつも「テレビCMの価値はまだまだ大きい。デジタルの運用型広告の良さを採り入れれば、テレビ業界が持つ潜在力をさらに伸ばせる」と確信し、新規事業としてスグリーの開発をスタート。
「アドテックやインターネット技術を融合し、クロスファンクショナルなメンバーを揃えないと今回のようなプロジェクトは成功しないと考えました。プロジェクトの立ち上げ当初はUIもなく、どう売るのか、どのようなビジネスモデルにするのかというレベルから議論が始まったんです。まだビジョンすら固まっていない段階で、グッドパッチさんに声をかけ、提案を受けて一緒に進めることになりました」(山浦氏)
ニーズがない? 初期段階の調査がもたらした「壁」
開発初期のヒアリングを進める中で、「今はテレビCMの新しい買い方を検討していない」「運用型でテレビCMを扱うイメージがわかない」といった声が想定以上に多く寄せられました。
サービス設計を担うチームからも「ニーズがないかもしれない」という調査結果が出たため、プロジェクトは一時、立ち止まりを余儀なくされます。
「グッドパッチさんから『ニーズがないかもしれない』と言われた際、社内では、『今やっても意味がないかもしれない』という声もありました。しかし、それがあったからこそ、あらためてビジネスモデルやプロジェクトの方向性をしっかり考えられたし、現在のスグリーの形が定まったと思います。一度立ち止まってビジョンをつくる重要なフェーズだったと感じています。チームが同じ方向を向けるのは、意見を言い合える心理的安全性があったおかげです」(山浦氏)
ニーズが顕在化していない段階でも将来的に必ず価値を発揮するためのビジョンを固めることで、プロジェクトを前進させました。
アジャイル開発の難しさとやりがい
「スグリー」のような新しいサービスを、放送局という大組織でアジャイルに作り上げるのは決して容易ではありません。仕様変更が重なる中で、「途中まで制作したデザインを大きく変える」「社内のプロセスを再調整する」など、折衝や再検討が発生したこともありました。
それでも、プロジェクトメンバーは「答えがないからこそ面白い」と捉え、試行錯誤を繰り返しながら開発を前に進めていきました。
「難しい仕様やビジネスモデルの理解をお互いに深めることで、それぞれがチェックし合い、こうした方がいいのでは? と意見を出し合えるチームになったと思います。ただ、2年以上のプロジェクトで仕様やデザインが変遷するため、以前なぜこう決めたのかを思い出すのが大変な場面もありました」(大畠)
難しさのあるプロジェクトだからこそ、チームの雰囲気や関係性も大切にしたといいます。
「自由に提案しやすい雰囲気だったと思います。『仕様が固まったのでこれを作ってください』という関係性ではなく、一緒に考え、それをデザインに反映していけるため、デザイナーとしてやりがいを感じました」(木山)
「ミーティングの際はいつも『なぜやるのか』を説明するようにしていました。もし『こうしてください』と一方的に提案して終わりだと、グッドパッチ側に依頼する意味も薄くなってしまいます。ビジネスモデルの説明が伝わっているか不安で、ドキドキしながら話していたのですが、グッドパッチ側が自分ごと化して考えてくれるチームだったので、議論が深まり、とても助かりました」(山浦氏)
「スグリー」が目指すこれから
2025年3月から本格運用が始まる「スグリー」。この先も機能追加や参画局の拡大など、進化の可能性は大きく広がっています。ゆくゆくは地上波テレビの全国ネット枠、さらにはデジタル動画枠との掛け合わせも視野に入れるなど、テレビ広告の新たなスタンダードとなることを目指すとのこと。
柔軟なアップデートを重ねることで、テレビ業界の新たなスタンダードを目指すスグリーの今後がますます注目されます。