「宝探し」の興奮をWebでも。ヘビーユーザーの愛着とライトユーザーの使いやすさを両立させた、「ハンターズヴィレッジ」リニューアルの舞台裏
宝探し・謎解きイベントのポータルサイト「Hunter’s Village(ハンターズヴィレッジ)」を運営する株式会社タカラッシュ。自治体や企業と連携し、リアルな場での「宝探し」体験を提供しています。
同社は2024年、サイトのUI/UX改善とリブランディングを目指し、グッドパッチとタッグを組みました。

独特な世界観を持つエンターテインメントサービスにおいて、熱狂的な「プロハンター」と、初めて訪れる「ライトユーザー」という対極的なユーザー層をどう満足させるか。
「アプリを作るべきか、Webを直すべきか」という根本的な問いから始まり、ユーザーインサイトの深掘り、そして「タカラッシュらしさ」の言語化まで。約半年にわたるプロジェクトを共に走り抜けた4名に、リニューアルの裏側を語っていただきました。
<話し手>
タカラッシュ CMO(チーフマーケティングオフィサー) 阿部さん
Goodpatch UI/UXデザイナー 秋野
Goodpatch UI/UXデザイナー 今宿
Goodpatch UI/UXデザイナー 河内
目次
「アプリを作りたい」という相談から始まった、Webサイト再生への道
──まずは、今回のプロジェクトが始まったきっかけについて教えてください。
タカラッシュ 阿部さん:
ハンターズヴィレッジのサイトの「見た目」と「使い勝手」をどうにかしたい、というところがスタートですね。このサイトは、コロナ禍において勢いで立ち上げたという面もあり、デザインや仕組みが整理されきっておらず、正直に言うと「ダサい」状態でした。
せっかく多くの会員様がいるのに、サイト自体を楽しみに訪れているわけではなく、まるで掲示板のように情報を確認して帰るだけの場所になっていたんです。 実は当初、代表からは「アプリを作りたい」という要望が出ていました。しかし、自分たちで解決したい課題を整理していく中で、「本当にアプリを作ることで解決するのか?」という疑問も持っていました。

タカラッシュ CMO 阿部さん
──パートナーとして、グッドパッチ以外の企業も検討されていたのでしょうか。
タカラッシュ 阿部さん:
何社か検討していたところはありました。皆さん「アプリならこれくらいの費用で作れます」という機能ベースの提案が多かったのですが、グッドパッチさんからは「御社が解決したい課題は、アプリでなくても解決できるのではないか」「まずはWebサイトを変えることで、ユーザー定着のステップを作れるのではないか」という、多角的な視点での提案をいただきました。
単にモノを作るだけでなく、事業の将来性まで見据えてくれた点が、ご依頼する決め手として大きかったです。
機能はあるのに、たどり着けない。「継ぎ足し建築」の限界
──実際にプロジェクトが始まって、どのような課題が見えてきたのでしょうか。
Goodpatch 今宿:
私たちが最初にサイトの現状分析(ヒューリスティック評価)を行ったとき、一番の問題だと感じたのが「構造の複雑さ」でした。 阿部さんたちにヒアリングをしていくと、「あ、そんなところにそんな機能があったんですね」と驚かれることもあって(笑)。

プロジェクトの全体像
タカラッシュ 阿部さん:
そうなんですよね。運用が長くなるにつれて、「この機能が必要だ」となればその都度追加し、「ここを変えたい」となれば継ぎ足していく。いわゆる「アドオン」での機能改善を繰り返してきた結果、サイト全体が迷路のように入り組んでしまっていたんです。
一度リリースした機能は、使ってくれているユーザーがいるので、簡単には消せません。だから、新しい機能を追加していくしかない。それを繰り返すうちに、運営している僕らでさえサービスの全体像を把握できなくなっていました。
──なるほど。歴史が長かったり、急成長したようなサービスだと、よくある話かもしれませんね。
Goodpatch 秋野:
続いてハンターズヴィレッジのユーザーにも話を聞いていきました。このサービスには「プロハンター」と呼ばれる超ヘビーユーザーの方々がいらっしゃいます。まずは彼らにインタビューを行ったのですが、私にとって衝撃の連続でした。
あるユーザーさんは、ご自身のクエスト参加スケジュールをスプレッドシートで完璧に管理し、あらゆる手段を駆使してサイトを「攻略」していました。「このサイトがないと生きていけない」と語るほどの愛と熱量を感じた一方で、その熱量ゆえに、使いにくいサイト構造さえも乗り越えてしまっている状態だったのです。

Goodpatch UI/UXデザイナー 秋野
Goodpatch 今宿:
一方で、その状況は、サイトを初めて訪れるライトユーザーにとっては大きな障壁になっていました。彼らは、自分が今サイトの中のどこにいて、何をすればいいのか分からない状態に陥っていたのです。
タカラッシュ 阿部さん:
この状態はずっと「良くないな」とは思っていたんです。ただ、自分たちにはUI/UXの専門的な知見がなく、「何から直せばいいのか」「どう直せば正解なのか」が分からなかった。それが当時の正直な苦悩でした。
「トレーニングクエスト」って何? 独自用語を、ユーザーの行動動機に合わせて再分類
──ライトユーザーにとっての障壁は、情報の構造以外にもあったんですか?
Goodpatch 秋野:
はい。サイト内に「タカラッシュ独自のワード」が非常に多かったんです。 例えば、メニューの一等地に「トレーニングクエスト」や「トレジャークエスト」といった言葉が並んでいるのですが、初めて来た人には、それが何を意味するのか、どんな体験ができるのかが直感的に伝わりません。
タカラッシュ 阿部さん:
そこが今回、僕にとって一番の「気付き」であり、反省点でした。 われわれのいる「宝探し/謎解き」という業界は非常にニッチで、競合他社がほとんどいません。だからこそ、社内で通用する言葉がそのまま「業界の常識」になってしまっていたんです。
自分たちでは「トレーニングクエスト」と言えば通じると思っていましたが、グッドパッチさんから「ユーザーは分からないのではないか」と指摘されて、ハッとしました。
Goodpatch 秋野:
ユーザーが求めているのは「難しい名前のクエスト」ではなく、「週末にお出かけして遊びたい」とか「家でじっくり解きたい」といった、具体的な行動なんですよね。だからこそ、サイト側の論理(社内用語)で分類するのではなく、ユーザーの「行動動機」に合わせて、情報を整理し直す必要がありました。
──そうした課題に対して、具体的にどのようにアプローチしていったのでしょうか。
Goodpatch 今宿:
まずは散らかった情報を整理し直すところから始めました。既存の独自用語ベースの分類を解体し、「お家で解きたい」「お出かけしたい」「周遊したい」といった、ユーザーが直感的に選べる切り口にメニュー構造を変えていきました。
それを言葉だけで議論するのではなく、具体的な「ワイヤーフレーム(画面設計図)」に落とし込んで、「こういう情報の見せ方なら、初めての人でも迷わないですよね」という検証を繰り返しました。

タカラッシュ 阿部さん:
このプロセスで、僕の中にあった「固定観念」がガラガラと崩れていきましたね。 これまでは「業界唯一の会社だから、このやり方でいいんだ」と思い込んでいた部分がありましたが、外部の視点、特にユーザー視点のプロであるグッドパッチさんから客観的に指摘されたことで、目が覚めました。「自分たちは固定観念の塊だったんだ」と気付づけたことは、今回のプロジェクトの最大の収穫かもしれません。
言語化できない「熱量」を、ビジュアルとして翻訳する
──「顧客視点」に立てるようになったといえるかもしれませんね。
Goodpatch 河内:
情報の整理と並行して、ビジュアルデザインの刷新も進めました。情報の整理が「骨組み」なら、ビジュアルはそこに吹き込む「魂」のようなものです。ビジュアルの方向性を決める際、最初はワークショップでキーワードを出し合いました。そこで面白かったのが、皆さんの頭の中にあるイメージが、言葉とは裏腹にすごく熱いものだったことです。
「ハンターズヴィレッジ」という名前からは、牧歌的な「村」や「集会場」を連想しがちです。ですが、阿部さんやスタッフの皆さんが語る言葉の端々からは、「小さな村から広がっていく冒険世界」「周囲を巻き込む行動力のある主人公」「ガンガンいこうぜ」といった、もっと冒険心に溢れたキーワードが出てきたんです。
タカラッシュ 阿部さん:
実は私、言葉でビジュアルのイメージを共有するのがすごく苦手なんです(笑)。言葉よりも画像で認識するタイプというか……。だから、言葉だけで議論しているときは、正直あまりピンときていませんでした。 でも、河内さんがムードボード(イメージ画像集)を作って、「阿部さんが言っているのはこういうことですか?」と視覚的に提示してくれた瞬間に、パチッとハマったんです。

Goodpatch 河内:
阿部さんの反応を見て、方向性が定まりました。「ただの村ではなく、成長していける場所」「相棒のような存在としてのギルド」というコンセプトを固め、そこからは色使いやイラストのタッチを、これから新しい物語が始まりそうなワクワクする「冒険の舞台」へと振り切りました。
タカラッシュ 阿部さん:
出来上がったデザインを見たときは感動しましたね。これまでのサイトは、正直クライアント(自治体や企業)に見せるのが恥ずかしかったのですが、新しいデザインなら「私たちはこういう世界観を提供できます」と胸を張って言える。BtoBの営業面でも大きな武器になると確信しました。
「謎を解いて終わり」の人に、最初の一歩を踏み出してもらうために
──今回のリニューアルでは、機能面でも新しい試みがあったと聞いています。
Goodpatch 今宿:
はい。特に課題だったのが、ライトユーザーの定着です。 タカラッシュのルーツは「宝探し」にあります。謎を解いて終わりではなく、現地に行って宝箱を見つけ、そこに書かれているキーワードをサイトで報告することで初めて「クリア」になり、ハンターズヴィレッジ内でのランクを上げられる「ハンターポイント」をもらえるんです。
しかし、最近増えている「謎解き」ファンの多くは、「謎が解けた瞬間」に満足してしまう。わざわざサイトにログインして報告する、というアクションの動機が薄いんです。インタビューでも「目の前の謎という壁を乗り越えるのが楽しいのであって、その後のインセンティブには興味がない」という声が多く聞かれました。
タカラッシュ 阿部さん:
しかし、運営側としては報告してもらわないと次の楽しみも提案できません。どうすれば「ただの謎解き好き」の人に、ハンターとしての「最初の一歩」を踏み出してもらえるか。それが悩みでした。
そこで、まだランクに興味がない層に向けた、分かりやすい「実利」として「コイン」という仕組みを整理して導入したい、という相談をしました。「報告すればカフェで使えるコインがもらえて、クーポンなどに交換できる」という分かりやすいメリットを提示することで、まずはサイトを使ってもらうきっかけを作ろうとしたんです。
──確かに新しいインセンティブにはなりそうですね。
Goodpatch 秋野:
はい。ただ、既存の「ハンターポイント」に加えて新たに「コイン」というシステムを作ることで、「この2つは何が違うの?」「なんで2種類も貯まるの?」という混乱を生まないか、という懸念もありました。 プロハンターの方々は、既存の「ポイント(=ランク)」の価値を熟知しているので問題ないのですが、初心者の方からすると、異なる概念が2つあること自体が複雑で分かりにくいんです。
タカラッシュ 阿部さん:
社内でも議論になりましたし、何よりユーザーにどう直感的に理解してもらうかが本当に難しかったです。ポイントはハンターとしての強さやステータスを表す「名誉」のためのもの。コインはカフェやグッズ交換に使える「実利(報酬)」のためのもの。この住み分けを、サイト上の言葉やアイコンでどう表現するか。
Goodpatch 秋野:
結局、デザイナーの3人で、毎朝のように顔を突き合わせて「どう表現すれば伝わるか」を悩み続けましたよね(笑)。「ポイントは経験値」「コインはお金」といったゲーム的なメタファーを使ったり、クリア画面でのアニメーション演出を工夫したり。あの毎朝の議論があったからこそ、プロも初心者も納得できる設計に落とし込めたと思います。
タカラッシュ 阿部さん:
そのおかげで、「商品は欲しくないけどランク(名誉)を上げたい人」も、「ランクは興味ないけど、クーポン(実利)が欲しい人」も、どちらも取りこぼさないサイトの骨格ができあがりました。

Webサイトが「ビジネスを支える強固な土台」に生まれ変わった
──今回のリニューアルプロジェクトを行ったことで、社内に何か変化はありましたか。
タカラッシュ 阿部さん:
最初は「サイトがダサい、使いにくい。でも何から手をつければいいか分からない」という状態でした。でも今は、「ユーザーはこういう動機でサイトに来るから、こういう情報を出さなければいけない」というロジックを持って考えられるようになりました。
ただ単に見た目をきれいにするだけなら、他の制作会社さんでもできたかもしれません。でも、グッドパッチさんは「そもそもその機能、ユーザーに必要ですか?」「その言葉、伝わっていますか?」という根本的な問いを投げかけ続けてくれた。そのおかげで、継ぎ足しだらけだったサイトが、これからのビジネスを支える強固な土台に生まれ変わったと感じています。

──ありがとうございました。最後に、タカラッシュの今後の展望をお聞かせください。
タカラッシュ 阿部さん:
今、タカラッシュはリアル店舗や書店など、オフラインでの接点が急激に増えています。これまでは特定のイベント目的で来る方が多かったのですが、これからは「本屋さんで見て、なんとなく面白そうだから来た」という新しいお客さまが増えていきます。
今回のリニューアルで、そうした新しいお客様を迷子にさせず、しっかりと受け止めて「宝探し」の沼に誘う、そんな準備が整いました。これからはこのサイトを武器に、もっと多くの人にワクワクを届けていきたいですね。
