日本酒や果実酒、ワインなど、500種類を超えるオリジナルのクラフト酒(しゅ)を販売するオンライン酒屋「クランド」。好みに合ったお酒がランダムで届く「酒ガチャ」、事前購入で商品化を支援する「クラファン!」などユニークな企画も多く、お酒に詳しくない人でも楽しめるサイトとなっています。
事業規模が拡大し、企画や取り扱う商品が大幅に増えたことを契機に、クランドはサイトリニューアルを決断。リピート購入にまで至らなかったライトユーザーへのインタビューから、ニーズに基づいたUXコンセプトの策定、UIデザイン改善などをグッドパッチと進めました。
ともすれば「ウィンドウショッピング」で終わってしまう嗜好品のECサイトですが、購入に結びつくような仕掛けをどう増やし、どのようにリピート率を向上させたのか。取締役の河端さんと、CRMチームリーダーの吉江さん、グッドパッチのサービスデザイナー生島とUI/UXデザイナー山下の2人に話を聞きました。
<話し手>
KURAND株式会社 取締役 河端さん
KURAND株式会社 CRMチームリーダー 吉江さん
Goodpatch サービスデザイナー 生島
Goodpatch UI/UXデザイナー 山下
目次
商品とコンテンツの増加でサイトリニューアルを決意 ライト層の「リピーター」をどう増やすか?
──まずは読者に向けて「クランド」のサービスがどのようなものか、簡単に教えていただけますか。
KURAND 吉江さん:
「クランド」は、500種類を超える多様なお酒が楽しめるオンライン酒屋です。全国各地の200社を超える酒蔵とパートナー契約を結び、多種多様な「クラフト酒(しゅ)」や、酒器などのお酒関連商品を取り扱っています。趣味嗜好に合ったお酒との出会いを届ける「酒ガチャ」をはじめ、入手困難なプレミアム商品、事前購入型のクラウドファンディングなどユニークな企画も多く、お酒に詳しくない人でも楽しめるのが特徴です。

──グッドパッチ社員にはクランドを愛用している方もいます。今回、サイトリニューアルをすることになったきっかけは何ですか?
KURAND 河端さん:
クランドでは2022年11月にオンラインストアとブランドのリニューアルを行ったのですが、取り扱う商品数が当時の200種類から500種類以上にまで増えました。3年が経ち、商品のカテゴリーやキャンペーンも増えたため、導線が複雑で分かりづらくなっていました。そこでサイトの導線設計を見直すために10社ほど相談し、うち4社に見積もりを依頼しました。
──10社に相談とはすごいですね。比較検討も入念に行ったと思いますが、グッドパッチを選んでいただいた理由は何だったのでしょうか。
KURAND 河端さん:
グッドパッチのことはデザイン会社で初めて上場した会社として知っており、いつかふさわしいタイミングでお仕事を依頼したいと考えていました。複数社から提案を聞き、表層的な提案にとどまるものもあるなかで、御社からは、サイトの改善UIまで踏み込んだ提案資料をお送りいただいたことが印象に残っています。社員の方がUXについて解説しているYouTube動画や、Goodpatch Blogにあるコンテンツも一通り見まして、この人たちにお願いできたらと思ったのが決め手ですね。

KURAND株式会社 取締役 河端さん
──ありがとうございます。グッドパッチの2人はプロジェクト当初、クランドに対してどんな印象を持っていましたか?
Goodpatch 生島:
個人的に日本酒が大好きなので、このプロジェクトに関わることができると知って本当にうれしかったです。新卒でグッドパッチに入って、初めてのプロジェクトで緊張していたところもあったのですが、KURANDの皆さんは柔和な方が多く、「こうしたらどうですか?」といった提案にスピーディに回答してくださるので、コミュニケーションが取りやすく、ありがたかったですね。
Goodpatch 山下:
今回のリニューアルプロジェクトでは、いわゆる「ライトユーザー」のリピート増が目的だったのですが、私自身がたまにお酒を楽しむタイプで、ターゲットユーザー像に合致するため、貢献できることが多いと意気込んでいました。旧サイトはキャンペーンやページが乱立している状態で、必要な情報や知りたいコンテンツが探しにくく、複雑な導線になっていたので、UIの情報設計を改善すれば大きく数字も改善できると思いました。

Goodpatch UI/UXデザイナー 山下
ファンではなく「離脱層」にアプローチ インタビューで見えたユーザーとの意識のギャップ
──旧サイトの課題もある程度見えていたとは思いますが、リニューアルプロジェクトでは、まずどこから着手したのでしょうか。
Goodpatch 生島:
大きく分けて「探索」と「検証」の2段階に分けて進めていきました。コンテンツが多く、導線が複雑になっているという課題があったので、探索フェーズではまず初回購入のみでリピートに至らなかったユーザーに向けて、お酒全体の価値観やお酒にまつわる普段の生活についてのインタビューを行いました。
インタビューの対象者はクランドを一度だけ利用したことがあり、飲酒機会が日常的にある人を調査パネルで選定しました。リピート率の向上が目的だったので、お酒を飲むことが好き、友人と外で飲む機会が多いなど、お酒を嗜むライト層にアプローチしました。
──KURANDでもサービス利用者へのインタビューは行っていたと聞いていますが、グッドパッチのユーザーインタビューに同席してみて、いかがでしたか。
KURAND 吉江さん:
私たちも「酒ガチャ企画」「お酒の飲み方」といった、特定のテーマに沿ってインタビューを行っていました。30分間で私たちの質問にお客さまが次々と回答していくスタイルだったのですが、今回のプロジェクトでのインタビューは、まず時間が倍の60分あることに驚きました。進め方も対話型で、お客さまから出てきた意見に対しても「今の発言はポジティブですか、ネガティブですか、中立の意見ですか」といった形で、さらに深掘りしていくことが印象的でした。
人間って、自分がなぜその行動を取ったのかという理由まで深く考えていないことも多いじゃないですか。「なぜそうしたのか」という部分まで意見を掘り下げていくことで、私たちのインタビューでは聞かれなかったような、お客さまの本音が表出することが多々ありました。一方通行でこちらが聞きたいことを聞いていくだけでは、本当のニーズは出てこないのだなと反省しました。

KURAND株式会社 CRMチームリーダー 吉江さん
KURAND 河端さん:
それまではクランドを既に愛用してくれているリピーターを中心にインタビューを行っていたので、私たちが普段アプローチしていない、サイトを離脱している方たちを対象にインタビューを行い、サイト改善の課題を抽出するという提案には「なるほど!」と思いました。
──確かに、サービスの運営側から離脱層へはアプローチするのが難しいかもしれません。ユーザーインタビューを実施してみて、どんなことが分かりましたか。
KURAND 吉江さん:
想像以上にお客さまはサイトのさまざまな部分を見ていただいているということが分かったのは、大きな収穫でした。私たちとしては、そこまで重要視していなかったキャンペーンやコンテンツに興味を持つ方が一定数いるということが分かり、「そんなところまで見られているのか」と衝撃を受けました。
Goodpatch 生島:
インタビュー内容を分析した結果、クランドのライトユーザーは事前に想定していた通り「お酒を楽しむ」人ではあるものの、クランドが目指すコンセプトが体験できず、購買に至っていないことが分かりました。
ライトユーザーはお酒が好きで楽しみたい気持ちは持っており、クランドの「日常的な非日常を」というコンセプトも刺さっている。しかし、購入の決め手となる情報が見づらいために、商品を探すだけでも手間や時間がかかっていました。結果的に商品を購入するまでのハードルが上がっており、クランドが目指す「日常的な非日常」が「自分の日常からはかなり遠い距離にあるもの」と受け止められていたのです。

Goodpatch サービスデザイナー 生島
──なるほど。購入すること自体が、特別な体験と捉えられていたわけですね。
Goodpatch 生島:
より日常感を高めるには、たくさんある情報をユーザーが受け入れやすい形で見せていくことが重要だと考えました。データを定性と定量どちらで見せていくのか、シナリオが求められるのか、データが効果的なのか……情報の見せ方の指針としてUXコンセプトが必要だと考え、サイトリニューアルで目指すゴールを「非日常をより身近なものに」と定義しました。
──UXコンセプトを制定するまでのプロセスに参加してみて、KURANDのお二人はどう感じましたか。
KURAND 吉江さん:
古い考えかもしれませんが、これまで私は「クライアントが『作ってほしい』と要望したものを形にする」ことがデザイン会社の仕事だと捉えていました。でもグッドパッチの皆さんはお客さまやクランドというサービスを深く知ってから顧客体験を設計してくださったので、それまでの認識が大きく変わりました。
「日常的な非日常」という感覚を、より身近なものにしていく、という考えは、社内でもなじみのある言葉を使っており、社員にも浸透しやすくとても良い考えだと思いました。
KURAND 河端さん:
お客さまの深層心理や購買プロセスをグッドパッチの皆さんが深掘りしてくれたことで、自分たちとお客さまの考えにギャップがあることに気付きました。
例えば、クランドでは1万2000円の酒ガチャ商品を1本あたり3000円以下となるため、比較的手に取りやすい商品として販売していますが、お客さまから見るとこの金額は「とても特別な日のためのお酒」として映るので、より日常に寄せたサイト設計をしていかなければならない。
他にも「今のクランドは『選んで買う』ことまではできている。でもその先の、一期一会の購入体験を記録して共有しないと、ファン化にはつながらない」という指摘は、ユーザー体験としてまだ実現できていない部分でした。これらは、グッドパッチの皆さんから言われて初めて気付いたことです。ユーザーの日常に寄せたサイト設計をしていかなければ、と気が引き締まりました。
リピート率向上施策に100以上のアイデア──UXコンセプトに合う施策をユーザーテストで検証
──サイトリニューアルの方向性が固まってからは、どんなことを行いましたか。
Goodpatch 生島:
メンバー間で目指すリニューアル像がはっきりした段階で、リピート率を上げるためのアイディエーションを実施しました。KURANDの皆さんは発想力が豊かな方が多くて、100個以上も施策のアイデアが出てきたのは驚きました……!
Goodpatch 山下:
通常のアイディエーションでは、私たちからアイデアを出すことで場を温めて発言を促すケースが多いのですが、KURANDの皆さんは全員がしっかりとした意見を持っていてビックリしました。エンジニアやデザイナーからもたくさん意見が出てきて、サービスに対しての強い熱意があるのだと感じましたね。

実際のアイディエーションの様子
KURAND 吉江さん:
弊社は新しいものや面白いことが好きな社員が多いので、ワークショップ中は「言ったもの勝ち」な雰囲気でとにかくたくさんの意見を出していきました。他の社員の意見を聞くのも楽しくて、エンジニアから「自分の首を絞めるような案なのですが……(笑)」と斬新な意見が出たときは「そんなことも実装できるの!?」とワクワクしました。
──100個以上のアイデアが出てきたのは、もちろんすごいことなんですが、それだけの数が集まると、まとめるのは大変だったんじゃないですか?
Goodpatch 生島:
そうですね(笑)。全てのアイデアを検証するのは大変なので、出てきたアイデアは一旦グッドパッチで全て引き取りました。そこからUXコンセプトと照らし合わせて「今すぐやるべき具体的な施策」と「よりサイトがグロースした後に実装すべき施策や、実現に時間や手間がかかる抽象的な施策」に分類し、アイデアを絞り込んでいきました。
Goodpatch 山下:
施策の精度を高めるために、検証方法は使い分けて実施しました。「実現に時間や手間がかかる抽象度の高い施策」については、クランドのメルマガユーザーを対象に、購入の意思決定を後押しする要素を探るアンケートを実施し、一方で「今すぐ着手すべき具体的な施策」はプロトタイプに組み込み、ユーザーテストを進めながら、施策実装の優先順位を決めていきました。
──このタイミングでプロトタイプを作ったんですね。
Goodpatch 山下:
プロジェクト初期に行ったUI/UXフィードバックで出ていた改善点をベースにナビゲーションやカテゴリーといったサイト内の回遊性を高めるUIの情報設計を行い、その上で、「今すぐ着手すべき具体的な施策」のアイデアをUIデザインに落とし込んでいった形です。
──プロトタイプをベースにユーザーテストを進めたとのことですが、既存サイトから、具体的にどういう変化があったのでしょうか?
Goodpatch 山下:
例えばKURANDからの要望に、「記念日にクランドの存在を想起してもらい、購買までつなげたい」というものがありました。しかし、旧クランドサイトは商品数や企画が多くサイト内でユーザーが迷ってしまい、商品を選ぶ決め手に欠ける状態でした。
そのため、トップページには見やすい位置にカテゴリモジュールを設置して、購入のきっかけにつながりやすい「新商品」「ギフト」「送料無料」といったカテゴリーを設けて、目的買いの手助けが行えるようにしました。またアンケートでは購入判断をサポートする機能へのニーズが高かったことから、商品ページにはユーザーが選びやすいように味わいを表すチャートの設置などを行いました。将来的に機能が追加されていくことも見越して、拡張性を意識した設計にしています。

情報整理と再設計の様子
KURAND 河端さん:
既存のクランドサイトはどこに何があるか分からずごちゃごちゃしたUIになっていたのですが、リニューアル後はすっきりしてとても使いやすくなりました。一定の効果を感じたこともあり、このタイミングでグッドパッチへの依頼期間を延ばすことにしました。
──延長して、グッドパッチに何を追加でお願いしたのでしょう?
KURAND 河端さん:
クランドは年末年始の需要が高く、忘年会や帰省など人が集まる機会が増える12月から1月は一年で最も商品が売れる時期です。このタイミングでお客さまに最高の買物体験をしてほしいと考え、年内にリニューアルを完成させるために期間の延長をお願いしました。12月2日にリニューアルしたサイトを公開することができたのでよかったです。
Goodpatch 山下:
追加期間ではリニューアルまでの作業に加え、年末年始キャンペーンの「酒ガチャ福袋 2026」のLP設計などを支援しました。KURANDのデザイナーの方と細かく打ち合わせながら、協力して進めていきました。
「かゆいところに手が届く」新サイト 売上もリピーターも2割増、問い合わせ件数は4割減
──年末商戦に向けて万全の体制を整えたわけですね。ページリニューアルの反響はいかがでしたか。
KURAND 吉江さん:
クランドファンが集うユーザーコミュニティ「クラフト酒研究所」のメンバーが、すぐに変化に気付きました。スレッドには「シンプルで見やすい」「商品が探しやすい」という長文コメントがたくさん寄せられました。
細かい変化に気付いてくれるユーザーもたくさんいて、ユーザーがカラム数(一列に商品を表示できる数)を選択できる機能があるのですが、「商品表示画面を好みに切り替えられることで、レビューがしやすくなった」など、ポジティブなアクションにつながる声も聞かれました。
KURAND 河端さん:
まさに「かゆいところに手が届く」サイト設計で、これまで抱えていた課題がいくつも解消されました。

──リリース後、まだ間もないので効果測定の最中かもしれませんが、サイトリニューアルの効果が具体的に出ていれば教えていただけますか。
KURAND 吉江さん:
私自身がクランドを使っていても機能や商品がサイト内のどこにあるのか迷いがちで、メルマガやLINEの文面でもリンク先に迷うことが多かったのですが、ページが整理されたことで商品訴求がしやすくなりました。チームメンバーも「これもできるようになった!」「こんなことしたら楽しそうだよね」と、次々と企画が浮かぶようになっています。
リピーターも増えて、サイトリニューアル後は年4回以上購入する方の数が過去最高になりました。先ほどお話に挙がった「酒ガチャ福袋 2026」のランディングページのおかげもあり、年末商戦のリピーターは前年比で20%増加しています。
KURAND 河端さん:
2025年12月の売上は前年比120%で推移しています。また繁忙期でユニークユーザーが増えたにも関わらず、問い合わせ件数は例年の6割程度にまで減りました。それまで寄せられていた、サイトの使い方や送料についてのお問い合わせが減少し、CS担当者がとても楽になったと聞いています。
──サイトが使いやすくなったことで問い合わせ件数が減るという効果は、目に見えて分かりやすいですね。
仮説の検証プロセスやユーザー心理の深掘り手法を、今後の運営に生かしていく
──今回グッドパッチとリニューアルプロジェクトを進めたことで、グッドパッチやデザイン会社の印象が変わったエピソードなどあれば教えてください。
KURAND 吉江さん:
皆さんが「検証」という言葉をたびたび使っていたのが印象的でした。KURANDではアイデアをすぐ実装して試してみることが多いのですが、「事前に検証して、裏付けを取ってから実装する」という手法はとても学びになりました。
あとは、ユーザーインタビューの時間設定や意見の掘り下げ方はぜひ真似したいと思いました。ポジティブ、ネガティブ、中立と意見をそれぞれ色分けして整理する手法は視覚的にも分かりやすくて、仕事の進め方も設計されていると感じました。
KURAND 河端さん:
「これがカッコイイから」という感情論ではなく、皆さんがデザインやUXの意図を論理的に説明してくれたので、改善理由を理解しやすかったです。今回のリニューアルプロジェクトにはデザイン、エンジニア、顧客UXと各チームのリーダーも参加したので、ユーザー目線で改修を進めることができました。チームメンバー間での共通認識が図れたことで、マーケティングもしやすくなったと思います。
Goodpatch 生島:
リニューアル後の結果が気になっていたのですが、ユーザーの方の反応や社内での効果を聞くことができてうれしいです。良い体験をユーザーに提供できたと自信が付きました。
Goodpatch 山下:
クランドの商品パッケージやバナーのデザインのクオリティの高さは強みだと感じたので、シンプルなUIでビジュアルが引き立つデザインを心掛けたのですが、成果が数値にも反映されていて良かったです。
──プロジェクト後も自走できる体制を作ることがグッドパッチの目標でもあるので、こうした感想をいただけるとうれしいです。最後に今後のKURANDの展望について教えてください。
KURAND 河端さん:
まずはご指摘いただいた顧客体験や価値を伸ばすことに注力していきますが、将来的にはクランドのアプリを作りたいと考えています。その際はまたグッドパッチとご一緒できたらうれしいですね。
また、今は酒類中心のラインナップですが、将来的には 嗜好品領域などのEC市場ニーズの高いカテゴリーを拡充していくことも検討しています。酒類以外のカテゴリーが充実すれば、今のECサイトとは異なる設計が必要だと思うので、未来を見据えた大幅なアップデートも考えていきたいです。
