キャリア

UXデザイナーのスペシャリストってどうなるんですか?チャッピーに聞かれた「10の質問」から考えてみた

この記事は「Goodpatch Design Advent Calendar 2025」の19日目の記事として執筆しました。25日に向けて他のグッドパッチメンバーの記事も投稿されていくので、ぜひ読んでください!🎄

 

皆さん、こんにちは。グッドパッチでUXデザイナー/デザイントレーニングマネージャーをしている秋野です。

今回のアドベントカレンダーで与えられたテーマは「キャリア」。私なりにキャリアについて考えたとき、UXデザイナーにとってのスペシャリストとはどんな人物で、どうすればそうした存在になれるのか。特に生成AIが急速に進化する今後、私たちはどうあるべきなのか。そんな疑問が頭の中を巡りました。

実は、採用活動に関わる中で、グッドパッチの選考を受ける方々からも、この手の質問をよく受けます。そこで今回は、これらの問いに対する私なりの考えをまとめてみようと思います。ただ、自分の考えをひたすら書き連ねるだけでは読みづらいと思うので、インタビュー形式に。

しかし、この忙しい師走……インタビュアーを見つけることができなかったため(?)、私の相棒であるチャッピーにその役目を託し、10の質問を作ってもらい、この記事を作りました。

ついでに、イメージ画像は娘が書いてくれた似顔絵イラストを生成AIで展開して活用してみたので、生温かい目で読み進めていただけるとうれしいです。

誕生日を祝う夫婦のイラスト

元イラストは高校生の娘氏作画(not 生成AI)

 

Q1. 今、どんな役割を担っていますか?

秋野:
今はトレーニングチーム「hatch」という組織のマネージャーをしています。トレーニーと一緒に案件に入り、ハンズオンでUXデザインのトレーニングをしています。

──トレーニングの中で心掛けていることはありますか?

秋野:
私の考えを押し付けるのではなく、トレーニーがどうしたいのかを引き出しつつ、より良いアウトプットに導けるように心がけています。できているかは分からないですけど(笑)。

Q2. なぜそのスタンスにたどり着いたんですか?

秋野:
押し付けても言うことを聞いてくれないですし(笑)、自分で考えないと、その先失敗しても成功しても、トレーニーの成長の糧にはならないからです。

私も昔からかなり自由にいろんな物事を任せてもらって、失敗もしたけどそれを乗り越えて今があると思っているからかもしれないです。

──どんな失敗があったんですか?

秋野:
事業責任者として任せてもらったサービスを2つクローズさせたことがあります。やらかしてクローズさせたというわけではなく、無理に続けるよりは、きちんとやるべきことを取捨選択してサービスメンバーに次の挑戦をしてほしい、という思いからだったんですが……クローズをメンバーに伝えたときに泣かれたこともありました。

でも、あの時の苦い思い出があるからこそ、「使い続けてもらうために、ビジネスとして継続的に成長する」サービスが何よりユーザーファーストであるという、UXデザイナーとしての最大の学びも得られた良い経験でした。

Q3. 話は戻って、今のhatchトレーニーと印象に残っているエピソードはありますか?

秋野:
とある案件で、トレーニーのアウトプットを見たとき、私は「この方向性では価値が生まれない」と思って率直に伝えたんです。でも、トレーニーは時間をかけて作り直すことに抵抗があったようで「じゃあどうすればいいですか?」と正解を求めてきました。

私の中に“正解”はありません。UXデザインにおいて大切なのは、ユーザーの声やクライアントの思いをインプットに自分なりに考え、自分の言葉で意思決定すること。なので、厳しいかもしれませんが、あえて「それは思考停止では?」と言いました。そこから結構揉めたんですけど(笑)。

でもそのトレーニーはそこで投げ出すことなく、チームやクライアントも巻き込みながら議論を深め、最終的には素晴らしいアイデアにたどり着いたんです。そのスピードと突破力に、純粋に感心しました。

あの瞬間、自分で考える力を手にしたと思うし、私も「この伴走のやり方で良かった」と安心したのが印象に残っています。

Q4. UXデザイナーを目指した原点は?

秋野:
私のキャリアはUIデザイナーから始まりました。でも、言われた通りに作るだけだと、どうしても違和感があったんです。

「このサービス、本当にユーザーは喜んでくれるの?」「現場の課題に答えられている?」そんな疑問をずっと持っていました。

だから、良くないと思った企画や制作依頼に対しては、企画者(当時の上司)にも「こんなの誰も使ってくれませんよ」と率直に伝えることが多かったんです。

すると、いつの間にか「UXといえば秋野」と言われるようになっていました。その会社にはまだ“UXデザイナー”という職能が存在しなかったんですが、自分がそうありたいと思ったので、勝手にUXデザイナーと名乗り始めました。

その後転職した前職では、UXデザイナーと名乗るには恥ずかしいレベルのリサーチしかできていないことに気付かされてUXリサーチを学び倒しました。

前々職でのUIデザイナーの経験、前職でのUXリサーチの専門性が重なって、今はUXデザインのスペシャリストになれているという自負があります。

Q5. グッドパッチに来て良かったと思う瞬間は?

秋野:
グッドパッチに来て良かったと思うのは、プロジェクトの進め方に柔軟性があることです。

ものづくりをしていると、予定していた回数の検証だけでは「これで本当に使ってもらえるの?」と感じる場面が少なくありません。

スケジュールはタイトになることもありますが、必要だと思ったらユーザー検証をもう一度やります。“ユーザーにとって本当に価値があるか”を最優先にできる。その判断を尊重し、実行できる環境があるのは、グッドパッチならではだと思っています。

Q6. UXデザイナーのスペシャリストってどんな人ですか?

秋野:
これは「世の中的なスペシャリスト」と、グッドパッチにおける「スペシャリスト」で定義が大きく変わります。

グッドパッチの「UXデザイナー」って、世の中で一般的に想像されている役割よりも、やっていることも、求められることもはるかに広いんです。正直、ミドルレベルのUXデザイナーですら、世間で言う“スペシャリスト”の要件は軽く満たしていると思っています。

一般的にUIやUXのスペシャリストと言われる人が満たすべき要件って、例えばこのあたりですよね。

  • アプリやWebの使いやすさをユーザー視点で考えられる
  • UIの深い知識を持って、本質的な価値を届けるUI表現を設計できる
  • 表面的な言葉ではなく、ユーザー調査を通して「本質的なニーズ」を掘り起こせる

グッドパッチではさらにその先が求められます。

  • 使いやすさ起点ではなく、ビジネスゴールから最良のユーザー体験を描けること
  • エンジニアリングの知識を持って、実現可能性を理解した上で、MVPを定義できること
  • 多様なステークホルダーを巻き込み、チームの力を最大化させながらプロジェクトを前進させられること
  • プロジェクトの成果をクライアント組織の文化として定着させること

そしてさらに難しいのは、それをさまざまな業界・企業規模・事業フェーズに合わせて発揮し続けることです。個人的には、toCとtoBの体験の考え方は全く別物なので、どちらもできるだけで本当にすごいことだと思っています。

Q7. UXのスペシャリストになるために必要な習慣は?

秋野:
多様な観察とインプットは、UXデザイナーにとってめちゃくちゃ大事だと思っています。

私は普段の生活の中でも「これはいいUX」「これは悪いUX」とつい口にしてしまうんです。対象はデジタルに限らず、世の中すべてが分析対象です。

最近、日本酒のお店で、30種類くらいあるおちょこから好きなものを選ばせてもらえる体験があったんです。たったそれだけなのに、「私のおちょこ」という感覚になって、気付いたら何杯も飲んでいました(笑)。

これってデジタルプロダクトにも応用できて、「普段選択できないものに対して選択肢を与えると、そのサービスに愛着が生まれる」ということなんですよね。Netflixのサムネイルがユーザーごとにパーソナライズされるのも同じ構図だと思います。

そしてもうひとつ大切なのが、“思い描く力”=妄想力です。何かを見たときに、「この先どうなるんだろう」「こうなったら面白いな」と想像するクセをつけること。

そうすると、何かを思い描く力が鍛えられて、言語化力が上がるんです。これは何がいいかというと、生成AIにインプットするプロンプトの精度が圧倒的に上がることです。生成AIは具体化のプロなので、そもそも頭の中にイメージを描けていなければ生まれるものはよくなりません。

Q8. 世界的にUXデザイナーの需要が減ったらしいですが、どう思いますか?

秋野:
ちょっと懐かしい話題ですね(笑)。まず「UXデザイナーの需要が減った」という表現は大きなミスリードだと感じています。実際には、以前ブーム的に扱われていた「UXデザイン」「デザイン思考」といった言葉のバズが落ち着いただけで、その本質的な価値はむしろ上がり続けています。

今は、“ユーザーを起点にサービスやプロダクトの方向性を考える”という思考そのものが特定の職種だけのものではなく、どの職能でも当たり前に求められる時代になっています。

私はUXデザイナーを名乗り始めた頃から、「みんなでやろうUXデザイン」という標語(?)を大切にしてきました。UXデザイナーだけがUXを考えるのではなく、UIデザイナー、エンジニア、マーケター、データアナリスト……多様な視点が集まって、初めて本当に価値のある体験が作れるんです。

サービスを成功させる上で、この姿勢こそが一番重要だと思っています。

なので、私としてはこの状況を悲観するどころか、むしろ自分の標語が世の中の当たり前になったことがうれしいという感覚です。

Q9. 生成AI時代に、UXのスペシャリストって何が求められると思いますか?

秋野:
生成AIにできるのは、人間が頭に思い描いたものを具現化することだと思っています。もちろんふわっとした状態から会話を重ねていくことはできますが、ふわっとしていても、人間の中にイメージや思想がないと、生成AIはそれっぽいものしか形にできません。

大事なのは、自分の頭で「こういうものをつくりたい」と描き、他者に伝えられること。UXデザイナーはユーザーのゴールという、ユーザー自身も気付いてない理想を具体化する必要があります。何を解決したいのか、誰にどんな未来を提供したいのか──その“芯”を描けるのは、結局、人間の力だと思っています。

生成AIは、そのイメージを最短でレンダリングしてくれる最強のパートナーだと捉えています。人間が思想を持ち、生成AIがスピードと拡張性を担う。その関係性を築ける人が、これからのUXデザイナーのスペシャリストだと思っています。

あとは、習慣のところでも触れましたが「観察」によるユーザー理解がとても重要になっていくと、UXデザイナー組織の統括マネージャーとよく話しています。効率化できることはなるべく生成AIを活用して効率化して、空けた時間でユーザーの現場に出向き、非言語情報を含めた観察することでしか得られないインサイトを得るというアクションを実行していきたいです。

Q10. 最後に、未来の仲間へメッセージをお願いします!

秋野:
UXデザイナーの統括マネージャーをしていた頃、「グッドパッチのUXの独自性って何ですか?」と内外からよく聞かれました。当時はその答えにすごく悩んでいたのですが、今ならはっきり言えます。

グッドパッチの独自性は、“そこにいる人”で決まります。

会社が独自性を作るのではなく、一人ひとりのデザイナーの思想や行動、その集合体が文化になるんだと思っています。

トレーニングチームのマネージャーとして面接の場に出向くと、「グッドパッチのような環境で学びたい」 とよく言っていただきます。もちろんそれはうれしいのですが、グッドパッチから何かを与えてもらうのではなく、グッドパッチで成長し、仲間と一緒に自らが独自性を作っていき、会社や社会に価値を与える側になってほしいです。なれるかなれないかではなく、「なりたい!」と思うことが一番重要だと思っています。

まだスキルが足りないのでは、と感じていても大丈夫です。「その熱量だけは誰にも負けない」という人と、私は一緒に働きたいですね。ぜひ一度お話ししましょう!

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