生成AIの登場によって、デザインの在り方は大きく変わりつつあります。そんな時代に「デザイナー育成はどのように取り組むべきか、そもそも本当に必要なのか?」という問いが生まれるのは、自然な流れかもしれません。

グッドパッチのデザイナートレーニングチーム「hatch」では、この問いに対し、現場での実践を通してさまざまな取り組みを試しています。

2025年10月に開催されたデザインカンファレンス「Designship 2025」では、hatchのマネージャー・UXトレーナーである秋野が登壇し、デザイナー育成をテーマに、これからの時代に必要なスキルや、若手が無理なく成長できる仕組みを、誕生背景や現場の声を交えて紹介しました。

当日のセッションの様子

当日のセッションの様子

本記事では、秋野の講演内容を基に、hatchが描く新しいデザイナー育成のカタチをダイジェストでお伝えします。当日のプレゼン資料はこちらをご覧ください。

デザインへの熱意を軸にキャリアチェンジ──デザイナートレーニングチーム「hatch」

デザインの未来を考える上で、1つ問いかけたいことがあります。

「これからの時代、デザイナー育成は本当に必要でしょうか?」

生成AIが瞬時に多様なコンテンツを生み出せるようになった今、アシスタント的なデザイン業務をAIに任せるのは、もはや当然の選択肢となりつつあります。その結果、多くの企業やシニアデザイナーが、この問いへの答えを模索し始めています。

私たちデザイナートレーニングチーム「hatch」には、この問いに対する1つの答えがあります。2025年3月、グッドパッチはデザイナートレーニングチーム「hatch」を立ち上げました

これまでの採用では、短期間のオンボーディングを経て、すぐにクライアントワークで活躍できるような、いわゆる「即戦力」となるデザイナーを中心に迎えてきました。一方、hatchは、デザインへの熱意を持ちながらも実務経験が浅い人に実践の機会を提供し、トレーニングを通じて自走できる力を育むチームです。

グッドパッチの未来を担い、社会に新しい価値を生み出すデザイナーへと成長していくことを目指しています。

チーム立ち上げの背景と育成の課題

このチームを立ち上げた理由は、大きく2つあります。

まずは私自身のキャリアです。大学や専門学校で学んだ経験も、実務経験もない状態からデザイナーを目指し、先輩の指導と試行錯誤を重ねて成長してきました。

最初はデザインツールすらまともに扱えませんでしたが、努力を重ねて成果を出し、デザインの力で貢献できるようになりました。その経験を通じて、「自分がしてもらったことを次の世代に返したい」という思いが生まれました。

もう一つは、採用活動を通じて出会った多くの人たちの存在です。

グッドパッチでUXデザイナーのマネージャーとして採用に関わる中で、強い熱意を持ちながらも、実務経験という壁に阻まれている人たちにたくさん出会ってきました。デザイナーを志す人にとって、この実務経験の壁を越えるのは決して簡単ではありません。デザイナーの育成は決して簡単ではないからです。

私がデザイナーとして歩み始めたころは、「先輩の背中を見て学ぶ」ことが育成のほとんどでした。スキルも感性も肌で覚えるしかなく、ようやく形にできたと思ったデザインがすべてやり直されていた──そんな経験も珍しくありません。

多忙な現場では、ていねいに言語化して教えることが難しく、グッドパッチでも現場と育成の両立に悩む声は少なくありませんでした。それでも、デザイナー育成はこれからの時代にこそ必要だと私は思います。

AIの進化で「見た目が整ったデザイン」は誰でも作れるようになりましたが、人の心を動かし、事業を成長へ導くには本質的な「デザイナー力」が欠かせません。

もし「AIがやってくれるから」と育成をやめてしまえば、この力を持つデザイナーはいなくなってしまいます。それはデザインの未来にとって、本当に良いことでしょうか?

私たちは、グッドパッチがこれからも成果を出し続けるために、育成に本気で取り組むことを決めました。なぜなら、組織の成長を支えるのは、本質的なデザイナー力を持つ人を一人でも多く育てることだと信じているからです。

成果を出すプロセスを自分で回す──この力は、ツールのスキルだけでなく、デザインに向き合う姿勢やマインドセットによって支えられています。

本記事では、その「本質的なデザイナー力」とそれを育むためにhatchがどのようなトレーニングを行っているのかを、具体的なエピソードとともに紹介します。

デザイナーにとって必要な力とは

1. 課題を再定義し、本質的な問題を見抜く力

まずは、与えられた課題をそのまま解こうとするのではなく、「何が本当に価値のある成果なのか?」を見極めること。成果目標を設定し、バックキャスティングで考えながら、アウトプットに必要な要素を定義し、アウトカムを生み出す力です。

当たり前のように聞こえますが、目の前の課題にすぐ飛びつくのではなく、一歩引いた視点で“本質的な成果”を見据えられているでしょうか? 成果を生むアウトプットとは何か──言語化できているでしょうか?

2. こだわるべきポイントを見定め、妥協せず品質を高める力

デザインの良し悪しを判断するには、「誰にとって」「どんな文脈で」良いのかを捉える視点が欠かせません。

細部へのこだわりは重要ですが、限られた時間の中でどこにどう時間をかけるかを見極め、磨くべきポイントに集中できているか。この判断力こそが、プロのデザイナーを支える力です。

3. ユーザーだけでなく、事業を成長させるデザインを組み上げる力

デザインは「ユーザーにとって良い」だけでは完結しません。事業の成長に寄与する構造を描き、その中で最適な答えを探る思考が求められます。

答えが見えにくい「知恵の輪」のような状況でも、突破口を見つけた瞬間の「これだ!」という感覚を信じ、デザインと向き合い続ける姿勢が大切です。

4. ステークホルダーと信頼を築き、合意を導く力

最後は「あの人になら任せたい」と思われる関係性を築けているかというポイントです。ビジネス視点で語る上司やクライアントを前に、「なぜその人たちはその視点を重視しているのか?」を理解し、彼らの見ている景色を想像できているでしょうか?

ユーザーの声と同じように、その背景にある“本当に目指したい状態”を自分の言葉で語る力。それが、信頼を生み出すデザイナーの基盤です。

hatchでは、こうした問いを日々投げかけながら、メンバー一人ひとりが自ら考え、磨き続けるためのトレーニングを行っています。

hatchで実践しているトレーニングとは

次に、hatchのトレーニング設計の4つのポイントをご紹介します。

hatchでは、日々の問いかけを通して「自走できるデザイナー」を育てるために、独自のトレーニングを行っています。ここでは、その4つのポイントをご紹介します。

1. 失敗を経験する

最初に大切にしているのは、「失敗を経験すること」です。

hatchのデザイナーはクライアントワークで一人前として活躍することを目指しますが、実際の案件では大きな失敗をしにくい環境にあります。そこで、模擬案件を通じて本番さながらの状況で手と頭を動かし、自分の力を試してもらいます。

テーマは与えられますが、重要なのはその裏に潜む本質的な課題を見抜けるかどうか。限られた時間の中でどう動くか、エンドユーザー以外のステークホルダーの視点を持てているか、クライアントの信頼を得るためにどんなアクションを取るか。実践とフィードバックを繰り返す中で身につけていきます。

例えば、あるトレーニーはキックオフに向けてクライアントへのヒアリングリストを一生懸命作成しましたが、質問の多くは調べれば分かることばかりでした。

この経験から「クライアントが自分たちに割いてくれる時間をどう使うか」を学び、次の案件では準備段階から大きく改善。結果、デビュー案件で「トレーニーであることを感じさせないパフォーマンス」と評価されました。

この「失敗を成功に変える経験」こそが大事だと考えています。失敗と成功の差を自ら体験し、なぜそうなったのかを理解することで、次にどうすれば良いかを自分の力で導けるようになります。

2. 学びを循環させるOJT

現代の育成方法として一般的になりつつあるOJTですが、まだまだ多くの課題があります。1対1の関係だけでは、教える側も教わる側も成長に限界が生まれやすく、相性の問題によっては、せっかくの才能が伸び悩んでしまうこともあります。

また、すべてのトレーナーが高い指導技術を持っているわけではありません。トレーニーの個性や課題に合わせて柔軟に教えられる人は、多くないというのが現実です。

そこでhatchでは、1人の感覚や経験に依存しないOJTの仕組みを取り入れています。共通の観点を設定し、どのトレーナーが見ても同じ基準でフィードバックできる状態をつくります。これにより、属人的な評価を防ぎ、複数人が一貫性のある指導を行うことが可能になります。

また、トレーニーには学びを自分の中だけに留めず、必ず言語化して共有してもらいます。言語化することで理解が深まると同時に、他のトレーニーにも新しい学びの機会が生まれます。

実際、身近なトレーニーの成長体験は、「自分もできるはずだ」という強い原動力になることが多く、時にトレーナーからの言葉よりも効果的です。

この「共有の文化」は、トレーナー側にも波及します。他のトレーナーのフィードバック内容から新たな視点を得ることも多く、学びが連鎖していきます。結果として、個人の経験に依存しない学びの循環が組織全体に根づき、文化として定着していくのです。

3. 現在地と強化ポイントの認識を合わせる

成長のためには、自分の現在地を正しく把握することが欠かせません。これはトレーナーだけでなく、トレーニー自身が主体的に認識することが重要です。

hatchでは、オリジナルのスキルマップを活用し、月に1回セルフチェックとトレーナーチェックを実施しています。その結果を基に、現在地と認識のズレを可視化し、特に強化すべきネクストアクションを明確にします。

「次に何を目指し、どう頑張るのか」を具体的に定めることで、成長に向けた意識と行動を集中させることができます。

実際の振り返りでは、「インタビューがうまくなったか?」という大まかな問いではなく、より細かな視点で確認します。例えば、設計ができているかだけでなく、実査で深掘りができているか、分析結果を一人で導けるようになっているかなど、スキルを細分化して一つずつ積み重ねていきます。

現在地の認識をトレーナーとトレーニー双方ですり合わせ、「何をできたら成長したといえるのか」を定期的に確認することが大切です。短いサイクルで振り返り、次のアクションを決めることで、成長のリズムを途切れさせません。

半年に一度の評価では、成長実感も半年に一度しか得られません。だからこそ、hatchでは小さな振り返りを積み重ね、成長を“実感しながら進む”仕組みを大切にしています。

4. 強化ポイントを集中的に鍛える

強化すべきポイントが見えたら、あとは実践あるのみです。実務では、限られた期間の中でどうしても「できること」と「まだできないこと」が生まれます。

そこでhatchでは、「ここは伸ばすべきかも?」と見極めたポイントに対して、短期間でのドリル形式の特訓を行います。実践とフィードバックを繰り返しながら、着実に「できる」を増やしていくのです。

例えばUIドリルでは、「0から情報設計を行う」課題に取り組みます。日常の業務では頻繁に起こるタスクではありませんが、この思考プロセスがデザインの基礎となり、あらゆる場面で応用できます。

トレーニーたちは、隙間時間を活用して手と頭を動かし、模範解答と解説を何度も往復しながら、自分の考えを具体的な形に落とし込む練習を重ねています。

どんなスキルでも、最初はうまくできないのが当たり前。しかし、特にテクニカルなスキルは繰り返すことで確実に精度を高めることができる領域です。

そのために大切なのは、待ちの時間を作らず、常に手を動かし続けられる環境を整えること。この仕組みこそが、hatchのトレーニングを支える大きなポイントになっています。

hatchの目指す未来

最後に、なぜ私たちがここまで「育成」に本気で取り組んでいるのかをお話ししたいと思います。

hatchは、私が「デザイナー育成をやりたい」と強い思いを持って立ち上げを提案し、実現したチームです。一方で、組織としても幅広いドメインやスキルを持つ即戦力デザイナーの採用に課題を感じていました。

つまり、「やりたい人」と「やるべき状況」が偶然にも重なった──そんなレアなタイミングから生まれたチームです。

グッドパッチのミッションは、「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」。
私たちは、デザインの力を証明したい。そのために必要なのは、単に優秀な人を採用することではなく、“本質的なデザイナー力”を持つ人を増やしていくことです。

まずはグッドパッチの中で。そして、いつか社会全体に。

hatchで生まれた育成プログラムが成果を上げたら、どの会社でもデザイナーが育つ環境をつくれるようにしたい。

「デザインの本質的な力に気づき、それを形にできる人」が、一人でも多く羽ばたけるように。そんな未来をつくるために、私たちはhatchはこれからもデザイナー育成に向き合っていきます。

後日談・登壇時の様子

登壇当日、hatchチーム一同は会場で秋野の発表を見守りました。

Goodpatchメンバーも運営スタッフやブース担当として会場入りし、登壇の瞬間には全員で応援の熱を送っていました。また、秋野は登壇前に他デザイナーのセッションを聴講し、登壇へのエネルギーをチャージしていたようです。

Designship 2025 では、多彩な分野で活躍するデザイナーたちが集い、会場は熱気と刺激に包まれました。グッドパッチとして届けた「デザインへの想い」が、少しでも参加者の心に響いていたらうれしく思います。

当日の控室での様子

当日の控室での様子

デザイントレーニングチームのUIデザイナーを積極採用中!


私たちは現在のスキルよりも、これまでの挑戦・取り組み・これからの成長、そして期待と覚悟を大切にしたいと考えています。「hatch」はそのための入り口です。現在UIデザイナーを積極採用中です。まずは一度カジュアルにお話ししませんか?
ポートフォリオ不要・オンラインでの実施なので、ぜひお気軽にお申し込みください。皆さんとお会いできることを、一同楽しみにしています。
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