仕事をしていて、同僚の発言に違和感を覚えたり、意見が合わずに衝突したりといった経験は誰しもあると思います。

プロジェクトの中盤、チームの進行に少し陰りが見え始めていたころのことです。僕はあるタスクをメンバーに依頼したのですが、その対応に違和感を覚えました。その理由を聞くと、返ってきた答えは僕の想定と全くもの。いやいや、どう考えてもこっち正しいでしょ──。

と言いかけたときに気付きました。「正しい」と思い込んでいたのは、自分の方だったかもしれない、と。

相手の意図や背景に関心を持たず、ただ「自分の方が正しい」と断定しようとしていた。コミュニケーションをしているようでしていない、単なる“評価”や“矯正”の押し付けになっていたというわけです。

チーム内などで起こる衝突を乗り越えるにはどうすればいいのか? 今回の記事では、こうした意見の違いなどに端を発する「対立」に焦点を当て、その解決策を考えていきたいと思います。

チーム内で起こる対立「3つのタイプ」 注意すべきは、人間関係のねじれへの発展

本題に入る前に「対立」そのものについて、少し説明をしようと思います。仕事における対立(コンフリクト)は、大きく次の3種類に分けられると言われています。


タスクコンフリクト

課題や目的に対する考え方や進め方の違いから生じる衝突

例:「この仕様にすべき」「いや、こっちの方がユーザーに刺さる」

プロセスコンフリクト

仕事の割り当て方や役割、進め方、リソース配分といった「どうやって進めるか」に関する衝突

例:「なぜ自分ばかりが担当なのか?」「その進め方は非効率だ」

リレーションシップコンフリクト

個人間の感情的な摩擦や誤解、人間関係に起因する衝突・対立

例:「あの人の態度が気に入らない」「もう一緒にやりたくない」


記事冒頭で挙げた例は、タスクの対応に関するすれ違い、つまり「プロセスコンフリクト」に当たるものでしょう。事前に「なぜそうしたいのか」「何を大切にしているのか」という対話が足りていなかったからこそ起きたすれ違いだったのだと思います。

一般的に、タスクコンフリクトやプロセスコンフリクトは、適切に扱えばパフォーマンスの向上につながるとする研究(Jehn, 1995)もあります。しかし注意したいのは、これらも信頼関係がない場面では、すぐにリレーションシップコンフリクトに転じる可能性があるということです。

「この案件、進め方に問題あるよね」という発言が、いつの間にか「◯◯さんが悪い」という印象になってしまうこと、ありませんか? 本来ならば、課題や目標は誰か一人の責任に帰属するものではなく、「チームで向き合うべき問い」として外在化されるべきもの。無意識のうちに問題の所在がすり替わってしまうのです。

冒頭の例でも、一歩こじれたらリレーションシップコンフリクトになっていたかもしれません。関係性の準備が整っていない状態で、結果だけを合わせようすると思わぬ落とし穴が待っています。

とはいえ、どのコンフリクトも扱い方次第で力にも破壊にもなるのは事実。そのカギを握るのは、土台としての「関係性」と「対話の質」にあると言えるでしょう。

デザイナーが場に持ち込める「問い」と「姿勢」

ここで大切になってくるのが、この連載でも紹介している「ファシリテーション」です。リレーションシップコンフリクトを生まないためにも、「こと」と「人」の切り分けは非常に重要。

問題を「こと」として扱うことで、相手を否定せずに、建設的な対話を生み出すことができます。例えば、次のような問いを投げることで、場の空気は少しずつ変わるはずです。

「この判断、何を前提にしてる?」
「今の意見、大切にしていることって何だろう?」
「この違いは、目指している理想のズレかもしれない」

ファシリテーションは、進行やルール作りだけでなく、「その場の意味や目的にまなざしを向ける」態度でもあります。これはデザイナーが得意とするところでしょう。なぜなら、彼らが日常的にやっている「意味の探索」こそが、ファシリテーターとしての姿勢につながるからです。

また、システムコーチング®の観点では、問題が起きたときに「関係性そのものに起きていること」へまなざしを向ける姿勢が重視されます。誰かの資質や意図ではなく、チーム全体で生まれている“ズレ”そのものに着目することが大切なのです。

「ランク」が生み出す、目に見えない障壁

ここまで幾度となく「対話が大事」だとお話ししていますが、簡単に対話が成立するわけではありません。関係性を複雑にし、対話を難しくする要因として「ランク(Rank)」の影響があります。ランクとは、地位や年齢、役職などの「目に見えない優位性や力」を指します。

  • 社会的ランク:年齢、役職、地位、経済状況などによって与えられるパワー
  • 心理的ランク:自分自身への理解や自己肯定感からくる影響力
  • スピリチュアルランク:大きな目的や意味とのつながりからくる安心感や信念
  • 文脈的ランク:特定の状況下でのみ発生する優位性(例:その場の知識や文脈に詳しい)

ランクの説明

マネージャーを例に挙げて考えてみましょう。マネージャーはメンバーに比べて「社会的ランク」が高い存在といえます。特定の分野に詳しい人は「◯◯担当」というような役割が与えられているかもしれません。

このようにランクというのは本来、役割に伴って生まれるものですが、相手に対して無自覚にその力を振るってしまうケースも多く、相手に「押しつけられた」と感じさせたり、対話を萎縮させたりすることがあります。

だからこそファシリテーターは、その場の空気や関係性を見ながら、ランクによる影響をメタ認知し、必要に応じて場を整える必要があります。

  • 参加者同士の心理的安全を担保するルールを設けること
  • 意見を出しづらい人の声をすくい上げる工夫をすること
  • ランクの高い人自身が、その力をどう使っているかを内省すること

これらの工夫によって、目に見えない力のバランスを整え、フラットで開かれた対話の場をつくることができるのです。

「違うまま」でも話せるようになるために、目に見えない設計を大事にする

意見が違うとき、つい「どちらが正しいか」で語ろうとしてしまいがちです。しかし、違いの背景には立場や経験、価値観が存在しています。だからこそ、意見を伝える前にその背景を共有することが大切です。

「私はこういう経験があって、こう考えている。でもこのやり方は違うと思う」

こんなふうに、“ワンクッション”置いてから意見を述べることで、相手の価値観を否定せずに対話ができます。また、話が長くなりがちな人への対処も重要なスキルです。強引にさえぎると、信頼を損なう恐れがあります。そんなときは、ファシリテーターが一度、相手の話を要約し、

「つまり、こういうことですね。それを踏まえて……」

とていねいにつなぐことで、感情を尊重しながら、場を整理できます。“話を奪う”のではなく、“整理して渡す”こと。それが、対話を壊さずに進めるためのコツなのです。

「対話できるチーム」には、明確なルールや肩書きだけでなく、前提の共有や信頼の土台といった目に見えない設計が存在しています。その設計を支えるのは、日常の何気ない問いかけや意見の背景を尊重する姿勢、対話の準備を怠らない心がけです。ファシリテーションとは特別なスキルではなく、関係性にまなざしを向ける態度です。

デザイナーである私たちがその姿勢を持ち込むことは、チームにとって大きな価値となります。違いを力に変えるために、今日も小さな対話から始めていきましょう。

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