デザイナーが考える「組織デザイン」⑥:手を動かし、思いを「かたち」に チームの「分かり合えなさ」を乗り越える、レゴ®シリアスプレイ®の可能性
こんにちは。グッドパッチでデザインストラテジスト兼ワークショップデザイナーとして活動している田中拓也です。
仕事をしている中で「あの人、本当は何を考えてるか分からないな」と感じた経験はありませんか?
「これってどう思う?」と聞くと、「いいと思います」と当たり障りのない返事がくる。会議で「何か意見のある人いますか?」と問いかけても、誰も手を挙げず、沈黙が流れる。穏やかに物事が進んでいるように見えても、終わった後に「やっぱりあの進め方、納得いかないな」「結局、誰も本音を言ってないよね」といったモヤモヤが交わされる……。
お互いの思いや考えを理解するために、会議や会話をしているはずなのに。言葉を交わせば交わすほど、互いの認識のズレや、言葉だけでは埋められない“分かり合えなさ”を痛感する場面も少なくありません。ちゃんと伝えたつもりなのに、なぜ伝わらないのだろう──その感覚、その違和感こそが、次の問いへと私たちを導くのかもしれません。
今回の記事では、そんな根深い「分かり合えなさ」に正面から向き合い、レゴ®シリアスプレイ®というワークショップの手法を通じて、組織やチームの対話をいかに変えていけるか、その可能性をご紹介します。
目次
レゴ®シリアスプレイ®とは?「手で考える」が生み出す新たな対話
レゴ®シリアスプレイ®(LSP)は、レゴブロックという「手で触れる具体的なモノ」を使って、普段は言葉にしにくい思考や感情、アイデア、関係性などを「見える化」し、それについて対話を進めるワークショップの手法です。個人の思考を深め、チームの対話を促進し、問題解決や創造性向上を目指すという目的に相性がいいと考えています。
LSPの基本的なプロセスは、以下の5つ。非常にシンプルです。
- 問いを立てる
まずは、ワークの目的に合わせてファシリテーターが問いを投げかけます。
(例:今、あなたがこのチームに感じていることをモデルで表してください - 自分の想いを組み立てる
Don’t think, feel──参加者は頭で考えすぎてはダメ。とにかく手を動かしながらレゴ®ブロックでモデルを作ります。 - 作品のストーリーを語る
モデルができたら、参加者は自分が作ったモデルが何を意味するのか、なぜその形や色を選んだのか、その背景にあるストーリーを語ります。 - 問いと対話
他の参加者やファシリテーターは、モデルに対して「この突起は何を意味しますか?」「このブロック間の距離にはどんな意図が?」といった質問を投げかけ、対話を深めます。 - 内省する
モデルを作り、語り、問いかけられるプロセスを通じて、自分自身の考えや感情、価値観についての気付きや内省が促されます。

レゴ®シリアスプレイ®のプロセス
お題に沿って何かを作り、その理由を説明する。端的に言ってしまえば、それだけのことかもしれませんが、皆さんは大人になってからレゴブロックを触りましたか?実際にやってみると分かるのですが、新鮮な気持ちで取り組めると思います。
また、このプロセスで重要なのは、レゴで作った物理的なモデルが「語りの起点」となることです。仮にテーマが抽象的な概念だとしても、目の前に具体的な「かたち」として存在するため、参加者は共通の土台の上で対話が行えます。
また、質問は「あなた(個人)」ではなく「あなたの作ったモデル(作品)」に向けられるため、心理的な安全性が保たれやすく、本音での対話が促進されやすくなります。360度あらゆる角度からモデルを眺めたり、物理的に位置関係を変えてみたりすることで、新たな視点や気付きが生まれることもLSPのユニークな点です。
LSPが導く、メンバーの「違う」が「分かる」に変わる瞬間
LSPでは、同じ問いから生まれた多様なモデルとストーリーを共有することで、「違い」が「理解」へと変わっていくプロセスを体験できます。
あるチームで「チームの理想の未来像」というテーマでLSPを行ったとします。ある人は高層ビルのような一枚岩のモデル(強固な一体感)を作り、ある人は連結した小さな家々(個性を尊重した連携)を並べ、またある人は複雑に絡み合ったブロック(混沌とした協働)を理想として語るかもしれません。同じ問いでも、アウトプットは全く異なるはず。そこに優劣はなく、それぞれのモデルが一人ひとりにとっての理想の意味を表現しています。
最初は「全然違うね」と、その差に驚くこともあるでしょう。LSPではこの多様性こそが豊かさであると考えます。
それぞれのモデルが生まれた背景、価値観、願いを共有し、モデルを介して対話を深めるうちに、作った人が「なぜそう考えたのか」が見えてきます。重要なのは、作ったモデルや語られる言葉の「意味」や「メタファー」に着目することです。人が使う言葉や表現には、その人自身の経験や価値観、アイデンティティに根ざした背景やストーリーが必ず存在します。
他者の考えに触れるうちに、違いは対立すべきものではなく、チームの持つ多様性や豊かさとして受け止められるようになります。これは、表面的な言葉のやり取りだけではなかなか到達できない、深いレベルでの相互理解です。
こうした学びを得るためにも、ファシリテーターも参加者も、その背景にあるものへの好奇心を持って対話を進めることがカギとなります。時には、うまく説明できない「ざらつき」や違和感を覚えることもあるかもしれません。しかし、そのざらつきこそが深い内省や相互理解へとつながる重要なシグナルなのです。
LSPでは、一つひとつのモデルを分析して終わりではありません、個人のモデルを繋ぎ合わせたり、共有のモデルを一緒に作ったりすることで、チーム全体のダイナミクスや関係性を可視化することも可能です。ある人のアクションが他の人にどう影響するか(例:繋がったモデルの一部を動かすと他も動く)といった、相互依存関係を体験的に理解することもできます。
チームの合意形成に必要なのは正解探しではなく、「意味」を紡ぎ出す力
人によって異なるモデルが出てくるということは、「正解がない」ということを同時に示しています。「問いに対して『正解』を出す」のではなく、「自分なりの意味を立ち上げる」ことに価値を置いているのが、LSPの面白さです。
組織やチームで議論をしていると、つい「最適解」を探しにいってしまうことがあります。効率良く、誰もが納得する答えを出したい。けれど現実には、誰かの違和感を置き去りにしたまま話が進んでしまう。そんな場面も少なくありません。
例えば、LSPで「今のチームの課題を表現してください」という問いを出したとします。そこに「これが正しい答えです」と言える人は誰もいないでしょう。むしろ、その問いに対して一人ひとりが自分なりに意味を感じ、レゴでモデルを組み立ててその理由を語る。このプロセスこそが「意味を紡ぎ出す力」を引き出す、LSPの本質なのです。
与えられた問いに対して、自分の経験や立場、価値観を基に意味を編み出していく。思考の内側にあった「言葉にならないモヤモヤ」が、手を動かすことで形になり、語りながら他者と共有されていく。その瞬間に生まれる「自分の考えが、自分の手を通して立ち上がった」という実感は、とても自分らしくリアルで、同時にチームにとっても価値のあるものです。
さらに、対話の中で他の人のLEGO作品や言葉に触れることで、自分が組み立てた意味が揺さぶられることがあります。「え、それはどういうこと?」と聞かれて、「あれ、自分はなぜそう思ったんだっけ?」と立ち止まる。こうした「意味を作り直す」プロセスもLSPでは自然と起こっていきます。
意味を紡ぎ出す、作り直す、というと難しく聞こえるかもしれませんが、「自分の解釈を持って意見や考えを述べる・練り直す」くらいに捉えると分かりやすいと思います。先ほど触れたように、議論を進めていると各々の意思よりも「正解っぽい何か・正しそうな何か」に向かって収束していってしまうことは少なくありません。LSPの一連のプロセスである、意味を立ち上げ、他者と交わし、揺らぎながら再構成していくプロセスは、チームに次のような変化をもたらすでしょう。
- 表面的な「正しさ」ではなく、一人ひとりの納得感や感情に根ざした合意形成ができる
- 他者の価値観に触れながら、多様な視点がチームの資源として生かされる
- 伝えにくかった違和感や葛藤が、未来をつくるためのヒントになる
LSPは「答えを出す場」ではなく、「問いの中に“意味”を見出し、それを育てていく場」と考えても良いでしょう。答えのない問いに向き合いながら、意味を編み出し、時に書き換えていく。その過程で、人と人との間に信頼が生まれ、チームの未来が少しずつ形を作り出していくのです。
「正解」や「上手に」の呪いから脱し、「分かり合えなさ」から組織を見直そう
レゴ®シリアスプレイ®(LSP)を終えた参加者からは「これまでちゃんと話そうとして空回りしていたけれど、レゴを使うと自然とちゃんと聞こうと思えた」という声を聞くことがあります。
レゴ®シリアスプレイ®(LSP)は、表現(モデル構築)、対話(ストーリーテリング)、内省(意味の発見)を循環させることで、コミュニケーションの質を変えます。「うまく伝える」ことよりも、「相手の世界を感じる」「違いの中に留まる」「好奇心を持って問いかける」姿勢が重要です。組織に必要なのは、全員が同じであることではなく、「違ってもいい」と思える心理的な安全性と、現状に甘んじることなく「問い続けられる」文化ではないでしょうか。
レゴ®シリアスプレイ®(LSP)は、組織開発における「万能薬」ではありませんが、心理的安全性や「問い」を武器にするチームを作りたいならば、強力な触媒となるでしょう。
言葉だけでは到達できない深層心理や暗黙知を「かたち」にし、遊び(Play)の要素を取り入れながらも本気で(Seriously)対話し、未来を共創していく。それは組織やチームが「分かり合えなさ」を乗り越え、新たな可能性へと向かうための、具体的でパワフルな一歩となるはずです。