Goodpatchのメンバーが今、読者の皆さんにオススメしたい本を紹介する「読書週間2023」。本日が最後の記事となります。

読書が不得意。そう宣言する山根が思わず手に取ってしまった3冊の本。出会い方も動機もそれぞれですが、読書ってそれくらい気軽なものでいいじゃない──そう思わせてくれるエッセイです。ぜひどうぞ。

読書が「不得意」。その個人的3大理由

告白します。私は読書が「不得意」です(タイトルにある通り)。

一方でマンガを読むのは得意というか大好きです。日が沈もうが登ろうが、いくらでも読めてしまうほど。そんな私が、最近“必要に迫られてないにもかかわらず”手に取った3冊をハードルの低い順に紹介しようと思います。

……と、その前に少しだけ、自分が読書が不得意と書いた理由について説明させてください。大きく分けて3つあります。

  • 読むのが遅い
  • 集中力が長く持たない/眠くなる
  • 「しなきゃいけないもの」という誤解

私は頭の中で音読するようなペースでないと内容が入ってこないので、自ずと読むペースはゆっくりになります。そうすると、本を読みきるために時間がかかるのですが、集中力が長く続く方でもありません。本を読んでいると、だんだんと眠くなってリタイアしてしまうのです(僕以外にも、そういう人がたくさんいると信じています)。

また、最近は読書といえば、もっぱらビジネス書や参考書など、明確な目的があって手に取る本が多かったこともあり、目的のために「読まなくちゃ」と思いつつ、でもなかなか読み進められないという現実に、苦手意識が芽生えていました。

「しなきゃいけないもの」という誤解が解けた1冊──『ラムラム王』

ラムラム王

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著者:武井武雄
読み始めやすさ:★★★★★
読み終わりやすさ:★★

展示会でふと出会った一冊

この本との出会いは、知人に紹介された「本の芸術家・武井武雄展」でした。武井武雄は生涯をかけて魂を震わせる児童書を目指し、書籍の出版(印刷・表現技巧など含む)にこだわり抜いた本の芸術家です。

その武井武雄の後半生のサインは「RRR(=Roi Ram Ram)」、つまり『ラムラム王』でした。そんな自身のサインに使うほどの作品とは、一体どんなものなのかと展示会場で購入に至りました。最近は、仕事のための参考書をAmazonでしか注文していなかった僕にとって、久しぶりに本を手に取ってレジに運ぶ体験でした。

カオスで奇想天外な物語

昔から絵本が(は)好きだった僕は、ある程度児童書に耐性があると思っていましたが、ところがどっこい。この『ラムラム王』という作品の奇想天外さには驚かされました。いきなり変身の技を覚えたり、豆みたいなサイズのおじさんが登場したり……そこにはロジックも前提説明も全くないのです!

そのカオスさに驚くと同時に、いかに自分が「当たり前」や「かくあるべき」に縛られているかに気付かされました。われわれの仕事において、前提を疑うことやアイデアを“飛躍させる”ことは、物事の本質に迫ったり、前例のない最適解を導く上で必要な要素であるだけに、一児童書にとても大事なことを教わった気分です。

読みやすい章構成

『ラムラム王』は児童書らしく、文字が大きく挿絵もありますし、8つの短編集のような構成なので、一つの物語を読み切るハードルはとても低いです。テンポよく話が展開していくので、マンガなら読める! というそこのあなたにもぴったりかもしれません。

「長い文章を読むのが苦手」という割に、1冊目から長い解説をしてしまいました。すみません。どんどん紹介していきましょう。

遅く読む、それもいいなと思える1冊──『歩きながらはじまること―西尾勝彦詩集』

歩きながらはじまること―西尾勝彦詩集

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著者:西尾勝彦
読み始めやすさ:★★★★★
読み終わりやすさ:★

この本との出会いは旅の寄り道

必要に迫られなくても移動時間に本(ラムラム王)を手にするようになりかけていたころ、京都を訪れる機会が。そこで店の雰囲気に吸い寄せられるように立ち寄った雑貨屋兼カフェで、店内の空気に半ば流される形で置いてある本を物色してました。

こういうときは大抵、数冊の本のタイトルだけ読んで店を後にするもので、このときも全ての本を棚に戻し、店の出口へつま先を向けていたのですが、「どうしても今買っておかないと、今後この本に巡り会えないかも」という気持ちになって、一冊の本を購入しました。それが『歩きながらはじまること―西尾勝彦詩集』です。

懐かしく、心地の良い言葉をあじわう

「詩集」というジャンルの本を読むのは、これが初めて。西尾勝彦さんは京都に生まれ、現在は奈良にお住まいのようで、この本にも京都や奈良の街が度々登場します。

私自身、学生時代を京都で過ごしたこともあり、文字からでも西尾さんの見ている景色が懐かしくまぶたに浮かびます。あたたかい陽だまりや、少し冷たい路地裏の空気などに触れながら、お気に入りの表現を見つけては、目を閉じて情景を思い浮かべる──。何とも贅沢な過ごし方を見つけてしまいました。

全部読み終わってしまうのはもったいない、あとに取っておこう。そんなふうに思えた一冊でした。

あえて言及するまでもないですが、詩集なのでどこから読み始めてもいいし、詩の単位はすぐに読み切れるのでいつ読み終わってもいい。手軽に詩の世界に浸れます。

“チームで体験をつくること”の解像度を上げる1冊──『演技と演出』

演技と演出

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著者:平田オリザ
読み始めやすさ:★★★
読み終わりやすさ:★★★★

この本との出会いは、社内の小さな勉強会。文章の書き方を教わる中で「『演技と演出』で平田オリザ先生も言ってるように……」という解説を聞くやいなやAmazonでポチッ。気づいたら中古の本を購入していました。(少しは読書に対する苦手意識が克服されてそうです)

観る人の脳内を中心に、コンテキストを擦り合わせる

この本は演出家である平田オリザさんが、“演出家”や“俳優(の演技)”が何たるかを、自身のワークショップの進行に沿って解説していく本です。私は演出や演技に関わっているわけではないですが、“体験を作る職業”としての学びがたくさん散りばめられていました。

読み始めて最初にハッとさせられるのは、「キャッチボールの演技」と「ボールを使った実際のキャッチボール」の違いについて体験するワークショップのシーン。ここでのポイントは、思っている以上に“想像”と“実際”が異なるということ。そしてそれゆえに、個人個人が思い描く“想像”がバラバラである。ということです。

演技を通して、観客にリアルなキャッチボールをイメージさせるには、まず自分が実際にキャッチボールするとき、どのような体の使い方をしているのかをしっかり把握すること。そして、それをキャッチボールの演技をしている2人の間で擦り合わせること。この2つが欠かせないと解説されていました。

デザインのプロセスでも、仮説や想像だけで突き進むのではなく、一次情報をしっかりと把握して、実現したいことを言語化してチーム内で擦り合わせる。その工程がないと、大抵はキャッチボールよりも複雑な“ユーザー体験”を実現することは不可能なのだな、と改めて考えさせられました。

上記はほんの一例ですが、その他にもたくさんのコミュニケーションや体験作りのヒントを、演技と演出という具体例の上で学びとることができる一冊です。読みやすさの観点では、本自体もコンパクトで持ち歩きやすいですし、読み手に向けて「演出」されている本なので、こんな私でも失速することなく読み進められました。

ちょっと「読書の秋」してみようかしら

さて、読書が不得意な私が思わず読んでしまった3冊を紹介してきました。

「読書の秋」と言われても、これまで全く本に手が伸びなかった私ですが、読まなくていい本から手をつけ始めると、予想してなかった心の動きや学びに出会えてとても充実した気持ちになれました。

もし、今回紹介した本の中で気になるものがあったなら、秋晴れの空の下でさらりとページをめくってみてください。