「モチベーション」頼りのモノづくりをしないために、手元に置いている3冊
Goodpatchのメンバーが今、読者の皆さんにオススメしたい本を紹介する「読書週間2023」。2日目は、デザイナーを目指す学生向けの就活プラットフォーム「ReDesigner for Student」を運営する田口が登場。彼が今、デザイナーの卵である学生に伝えたいこと、薦めたい本とは?
目次
本の森に分け入る
図書館が好きだ。
図書館という場所はどんな人にも開かれているが、そこには基本的に、活字を読もうとする人が集まっている。レシピ本を眺めながら献立を考える人。るるぶをめくって旅行の計画を立てる人。分厚い専門書を何冊も積んで眠っている人──。
図書館という場所には、本を読み、解き、考え、測り、謀り、何かを為そうとするか、あるいは本を読むということ自体を為そうとする営みが集まっている。
ページをめくるというのは、それなりに労力が要るものだ。本を読むことが比較的好きであろう自分でもそう思う。1文字も頭に入らない日もある。1ページも繰らないまま寝入ってしまうこともある。疲れていると頭の中に靄がかかったようになるし、最近はその頻度も増えた。若いころ時間を持て余していたときのようには、本の世界に没頭できなくなっているのかもしれない。
だからこそ、どうも気力が湧かないとか元気がないとき、図書館のような本の森に分け入ることがある。
資格書棚で長いこと立ち読み。落ち着かない子どもに読み聞かせ。オーディオコーナーで落語……他人の営みを見ているうちに、いつの間にか自分も本をめくったり、頭の中に湧き出すイメージや計画をノートに書きつけていた。
情報のインプットとアウトプットに境界はないのだろう。本を読むにしても、図版を眺めるにしても、常に頭の中でイメージが生成されていく。デザイナーというのは、そこからほんの少し進み、そのイメージを構造にしたり、形にしたりする仕事をする人間のことを指すのではないか。そんなことを考えながら、今度作らねばならないクリエイティブについて考え始めたりする。
デザイナーの卵たちに伝えたい、「モチベーション」との付き合い方
話は変わって、僕はグッドパッチの中で、これからデザイナーになるべく就職活動をする学生たちを支援する事業部に所属している。まだ「デザイナー」という肩書きを社会的には得ていない若者たちが、就職活動においてぶつかる壁のひとつは、“つくる理由”が不明瞭になってしまうことだ。
かつてプリミティブな気持ちで描いていた線が、いつからか「それは誰にどんなふうに見えるのか」「どんなことに役に立つのか」という問いに徹底的に晒されるようになる。
そこから先に進むと、彼らはモチベーションを失うこともある。将来を考えて就活することはもちろん、つくること自体へのモチベーションまで。そんな悲劇的な話もない。
個人的に、モチベーションというのは「モノを自らの手で作り上げていくにあたっての一要素でしかない」と思っている。なくてもよい、とは決して言わないが、いささかそいつをもてはやしすぎていないか、と思うのだ。
極端な例ではあるが、目の前で財布を落とす子どもを見かけたら、それを拾って追いかけるなり、大声で呼びかけるなりする人がほとんどだろう。要は、手を動かし始めるきっかけは何も湧き上がるモチベーションだけでなく、目の前に何かを突きつけられたり、一定の習慣として生活に組み込むことで生まれることもあるのではないか、ということである。
だから、図書館というわけだ。その場所が自分を突き動かすエネルギーをくれるから。環境が自分を突き動かしてくれるから。本というのは、読まずとも何かのエネルギーを発しているオブジェクトだと思っている。割と本気で。
とはいえ、いつも図書館にいられるわけではないので、そばに置いている本がある。少々長くなったが、自分にとって「何だかつくる気持ちが湧いてくる3冊」を紹介したい。
『食べたくなる本』
2人目、3人目の双子が生まれてから料理をするようになった。存外楽しい。逆にデザインの作業をやっているとき、ツールが包丁や皿に思えるようなことがあったりする。つくるときの考え方が、料理をするようになって少し変わった。
日々の料理を通してつくり、そして自分で食べることによって得られる気付きは多い。そして、店料理の創意工夫や美味しさが一層高まる。生活や世界の見え方が変わり、つくるエネルギーが湧いてくる。映画研究者・評論家の三浦哲哉が著した『食べたくなる本』は、批評家にしか書けない料理・食エッセイであり、気付かされることが多々ある。
『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』
デザイナーには、テキストを書くことにまで秀でた人が多いと思う。つくり、苦しみ、楽しみながら仕事をした人のテキストから学べることは多い。その中でも、個人的な好みで鈴木一誌のエッセイ集を挙げたい。
つくることと生活が融け合っている様子が、「ただの文章(編集後記より引用)」で綴られており、辛いときに適当にめくって読む。編集の群淳一郎さんが添えた編集後記も、室賀清徳さんによるブックデザインもしみじみと美しい。
『ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作』
電子工作ユニット「ギャル電」による電子工作入門書。
ギャル電は別のところで「ドンキで深夜3時にArduinoが買えるのがテクノロジーの民主化」「ちゃんとした知識と技術はマジリスペクトだけど、今週末のクラブでギャル全員を光らす、とりまLEDを光らせたいってのがうちらのスタンス」などの発言をしており、本当に痺れる。
この書籍は「モノづくり」というもののあり方が凝り固まってしまっている自分に気付かされるだけではなく、励まされ、軽やかな気持ちになる。
とりまつないで光ればいいじゃん? それくらいでつくり始めたものが、自分や誰かの心を強く動かしうる。考え、手を動かしてつくるという行為が、互いの日々に根差しますように。